自宅で寝てても経験値ゲット! ~転生商人が世界最強になってムカつく勇者をぶっ飛ばしたら世界の深淵に触れてしまった件~ 作:月城 友麻
店に戻ると鍵が開いていた。
何だろうと思ってそっと中をのぞき込むと……、カーテンも開けず暗い中、誰かが椅子に静かに座っている。
目を凝らして見ると……、ドロシーだ。
俺は一つ大きく吸って、明るい調子で声をかけながら入っていった。
「あれ? ドロシーどうしたの? 今日はお店開けないよ」
ドロシーは俺の方をチラッと見ると、
「あ、税金の書類とか……書かないといけないから……」
そう言って立ち上がる。
「税金は急がなくていいよ。無理しないでね」
俺は元気のないドロシーの顔を見ながらいたわる。
だが、ドロシーはうつむいて黙り込んでしまった。
嫌な静けさが広がる。
「何かあった?」
俺はドロシーに近づき、中腰になってドロシーの顔を覗き込む。
ドロシーはそっと俺の袖をつかんだ。
「……。」
「何でも……、言ってごらん」
俺は優しく言う。
「怖いの……」
つぶやくようにか細い声を出すドロシー。
「え? 何が……怖い?」
「一人でいると、昨日の事がブワッて浮かぶの……」
ドロシーはそう言って、ポトッと涙をこぼした。
俺はその涙にいたたまれなくなり、優しくドロシーをハグした。
ふんわりと立ち上る甘く優しいドロシーの香り……。
「大丈夫、もう二度と怖い目になんて絶対
俺はそう言ってぎゅっと抱きしめた。
「うぇぇぇぇ……」
こらえてきた感情があふれ出すドロシー。
俺は優しく銀色の髪をなでる。
さらわれて男たちに囲まれ、服を破られた。その絶望は、推し量るには余りある恐怖体験だっただろう。そう簡単に忘れられるわけなどないのだ。
俺はドロシーが泣き止むまで何度も何度も丁寧に髪をなで、また、ゆっくり背中をさすった。
「うっうっうっ……」
ドロシーの嗚咽の声が静かに暗い店内に響いた。
◇
しばらくして落ち着くと、俺はドロシーをテーブルの所に座らせて、コーヒーを入れた。
店内に香ばしいコーヒーの香りがふわっと広がる。
俺はコーヒーをドロシーに差し出しながら言った。
「ねぇ、今度海にでも行かない?」
「海?」
「そうそう、南の海にでも行って、綺麗な魚たちとたわむれながら泳ごうよ」
俺は微笑みながら優しく提案する。
「海……。私、行った事ないわ……。楽しいの?」
「そりゃぁ最高だよ! 真っ白な砂浜、青く透き通った海、真っ青な空、沢山のカラフルな熱帯魚、居るだけで癒されるよ」
「ふぅん……」
ドロシーはコーヒーを一口すすり、クルクルと巻きながら上がってくる湯気を見ていた。
「どうやって行くの?」
ドロシーが俺を見て聞く。
「それは任せて、ドロシーは水着だけ用意しておいて」
「水着? 何それ?」
ドロシーはキョトンとする。
そう言えば、この世界で水着は見たことがなかった。そもそも泳ぐ人など誰もいなかったのだ。
「あ、
「え、洗濯する時に濡らすんだから、みな濡れても構わないわよ」
ドロシーは服の心配をしている。
「いや、そうじゃなくて……濡れると布って透けちゃうものがあるから……」
俺は真っ赤になって説明する。
「えっ……? あっ!」
ドロシーも真っ赤になった。
「ちょっと探しておいてね」
「う、うん……」
ドロシーはうつむいて照れながら答えた。
◇
海が楽しみになったのか、ドロシーはひとまず落ち着いたようだった。そして、奥の机で何やら書類を整理しはじめる。
俺は
窓辺の明るい所の棚の上に白い皿をおいて、池の水を一滴たらし、
「いる……」
そこにはたくさんのプランクトンがウヨウヨと動き回っていた。トゲトゲした丸い物や小船の形のもの、イカダの形をした物など、多彩な形のプランクトンがウジャウジャとしており、一つの宇宙を形作っていた。
乳酸菌がいるんだから、それより大きなプランクトンがいる事は想定の範囲内である。やはり、この世界はリアルな世界と考えた方が良さそうだ。こんなプランクトンたちを全部シミュレートし続けるMMORPGなんて、どう考えてもおかしいんだから。
俺はしばらくプランクトンがにぎやかに動き回るのを眺めていた。ピョンピョンと動き回るミジンコは、なかなかユニークな動きをしていて見ていて癒される。こんなのを全部コンピューターでシミュレートする世界なんて、さすがに無理があるなと思った。