どうやらアルコールは完全に抜けてしまっているらしく、大した力なんぞ使わんでも開くであろう扉を前に、ウチは久々の緊張感を味わっとった。
元艦娘による公演活動。普段なら撥ね付けるモンやが、こん時は何故か二つ返事了解してもうたからサァ大変、喉が乾いて仕方がない。戦争に行くよりはマシやろう…なんて、全く、この間抜けさは永遠に治らんようや。
「やっぱり失敗やった。くそう逃げたい」
そんなウチの気持ちも知らず、マイクからお願いしますと声が響く。あーもう後は野となれ、や!
深呼吸一つ。錆の浮いた金属製の扉をギィと開けると、まばらな拍手が出迎える。
見回す限り、ざっと三十人程の生徒達。
戦後のベビーラッシュもこんな田舎じゃ関係無いか。なんて考えとると、もうソコは壇上やった。
「今日は私達にとって、とても大切な人に来ていただきました。あの戦争で…」
横を見ると、無闇にデカイ背丈と乳が目立つ黒髪の女が、何やら物知り顔で話とる。
気楽なもんやで、馴れ馴れしい口調でペラペラと。こちとら素人やぞ。お願いですからハードル上げんといて…ん?どっかで聞いた声やな。
しかし、考え無しに来てもうた手前、何を話して良いやら検討も付かへん。やっぱ原稿くらい準備してくるんやったなあぁ、ブルーになって来よった。
「…ましょう。さて、このお姉さんの名前が分かる人は手を上げてください」
おー、結構上がるもんやな。…え?ウチが指名すんの!?イヤ、マイク押し付けんなって!
「えっと、あ~、キミ」
「浜風!!」
「惜しい!でも、浜風さんは駆逐艦なんです。それに、もっと、こう、胸の辺りが…」
よう言うたな我ェ!!
「あの、先生が答えてエエんですか」
「あ、ごめんなさい!私ったらつい…ではヒントをお願いします」
「んー、空母やな。はいキミ」
「赤城!!」
「全然違います!赤城さんはもっと美人で、格好良くて、皆の手本になる様な女性です」
一体何やねんコイツ…。
「そやな…ほぼ最初の空母や。ほら、型紙をピゅ~飛ばす」
うわ、挙手少な。ウチって向けの艦娘なん?体型か?この体型がアカンのか?
「はい!そこの君!」
先生元気やなぁ。
「…龍驤さん?」
「正解です。ね?龍驤さん」
「イヤ、何で先生がウチより嬉しそうなん」
変わった人やなホンマ。
え?始めて下さい?こんな空気で話すんか。まぁ、変なドキドキは収まりよったけど。ただの体験談やで?そんなオモロイもんでも…。
あぁ!話さしてもらいます!だからマイク押し付けんのやめぇや!!
「えっと、今日はウチなんかの話を聞きに集まってくれて、ホンマありがとう」
「正直、この手の話ってのはもっと立派なモンがやった方がええと思とる。司令官やら提督やら」
「せやけど、生徒の皆さんや、先生方に機会を貰えたんで、いっちょお喋りしてみよ思ってここに来ました」
「お喋りっちゅうのは艦娘の事で、ウチは彼女達の事をもっと知って欲しいなと思っとります。スーパーヒーローや伝説の兵士!みたいな内容にはならんから…そこは謝っときます。ごめんなさい」
「あ、結構長なる思うから、おしっことか気にせず行ってな?休憩あるの?そう?」
「では、改めて。元海上自衛軍呉鎮守府所属、第二艦隊第四航空戦隊旗艦」
「ウチは龍驤。空母艦娘やった」