思ったよりもすらすら言葉が出る。これは本日最大の収穫やな。
職員室の端っこに、ちょんと作られた喫煙所でここまでの事を反芻。結論、喋り出せば何とかなる。
記憶のフラッシュバック、視界散乱、バカみたいにキツい吐き気、今の所どれも出ていない。
お陰で煙草が上手に吸える。
アンヨじょーず、アンヨがじょーずってな。
「あ?」
何で火が着かんのや。くっそ滅茶苦茶手が震える!こりゃアカンわ!
「はいっ。どうぞ」
「すんません」
お、サンキュー!おいおいオイル・ライターかい。先生もやりよるなぁ。
たっぷり煙を吸い込み、吐き出す。相変わらず完全に、徹頭徹尾美味しくない。だが手の震えが治まるんやから、止めたくても止められん。
艦娘やった時は一回もやらんかったのに。おかしなもんや。
「今時教員がこんなもん吸うんやね。ちょっと意外ですわ」
「私は吸いませんよ。ライターは、まぁお土産みたいな物なんです」
「へぇ?お土産…って先生やないですか!」
「はい、先生ですよっ。木ノ下、うん?龍驤さん?」
顔を拝むと、黒目がちな瞳に疑問を浮かべた、無駄に背と乳がでかい女が真横に立っとる。
何やコイツ全く気配感じんかったわ。
「いやまぁどっちでも」
「そうですか?では龍驤さんで」
「はぁ。つか、せんせ、近い」
「そうですか?狭いので仕方ないですね!」
「いやそうやない!何で煙草吸わんのにおんねん!当たる!デカいのが当たる!」
「女同士なんだから気にしなくて良いじゃないですかぁ」
あほ!気にするわ!
「めっちゃ見られてますから!おたくの同僚に、スッゴい怪訝な顔で…え?何か一人ニコニコしとる、こっわ!なんかめっちゃエエ匂いする…と、とにかく離れぇ!」
「もうっ。仕方ないですね。あ、喉乾きません?ジュース飲みます?はいどうぞ」
「せんせ。あんた変わりもん言われるやろ」
ま、飲むんやけど。…お、コーラやん。流通再開しとったんやな。
「言われます。普通の人間は教員なんてやれないのに、変な話ですよね」
「それ自分で言う?ホンマ変わっとるわ。ウチみたいな帰還兵にも、あんま驚かへんし」
グルリと見回す。目を背けるモン、何か言いたそうなモン、何やらひそひそ話しとるモン、にっこにこのモン。まぁこれが普通の反応や。いや一人おかしいヤツがおるが。
「親類を亡くした方も沢山居ますからね。驚く、と言うか、感情の納め所が、まだ分からないんだと思います」
「戦争を思い出すん?」
「はっきりと言えば、はい。政府は戦災復興の終了宣言を出しましたが、いまだ心は戦争の直中に居て、苦しんでいる人は数え切れないと思います」
「ふうん…。先生はどうなん?エラい優しいからさ」
「私ですか?どうなんでしょうね。でも、多分。……幼馴染が艦娘だったので」
「…そっか」
「そうなんです」
「妹さんは…何でもないわ」
恐らく駆逐か潜水か。あの年齢で見ればその辺やろな。どこの部隊やろ…いや、止めとこ。
知っとっても知らんでも、ロクな事にならんわ。
ってアカン、会話が!気まずっ!
「龍驤さんは、どうなんですか?」
「ウチ?何の話ですか?」
「戦争の話です。まだ、続いていますか?」
「さぁ、どうやろね。兵隊やったし、行かんかった人と比べたら、色んなもん見聞きしとるから、どうしたって忘れようにも、忘れられんもんがあるわ」
どうなんや?龍驤。のんべんたらり生きとるお前の、戦争はもう終わったのか?
「よぉ、分からん」
嘘つけ。卑怯もんが。意気地無しが。
「そうですか。そう、ですよね」
「せやな」
ちょ、いつまで一緒に…しゃあない。
「センセ、そのライター」
「…っていけない!時間、休憩終わっちゃいますよ!あーおやつ食べ損ねたぁ!」
「いやいやそんな場合やないでしょ!つか先生ヤニ臭!これアカンとちゃいますか?あーもう全然煙草吸えんかったし!最悪や!」
「そんな事より急がないと!龍驤さん、ほら!ダッシュ!躍進距離二百!!」
「えええあと、あと一本!あと一本だけぇ!!」