朝の一番より随分軽く感じる扉を…もう情緒もへったくれもない!一気に開け放ち、壇上へ!と思い動いても、艦娘辞めて、ただのちまっちゃい女になったウチの走る姿は、そりゃ滑稽やったろうね。
うん、最悪や!
生徒さんには笑われるし、先生には「ちょっと龍驤さんが遅刻してしまいましたが、可愛らしい姿が見れたので最高ですね!」とか言われるし!挙げ句全然ウケとらんし!!自分が話しまくったんが原因やろがい!!
はぁぁ、ホンっマ調子狂うわ…。
「えっと、ゴメンなさい、すこーし遅れてしまいました。えっらいお喋りな先生が全く離してくれんかったんで、ウフフ」
さてさて。
「どこまで話したっけ?おーさんきゅさんきゅ。青葉達が来た辺りやな」
「硫黄島を皮切りに、他艦隊の連中も近海の掃討に成功したみたいでな。となれば、次は外へって出向いてって訳や」
「今となっちゃ、やれ侵略戦争だの日帝軍の刷り直しだの騒ぐ連中もおるがアホな話やで、くだらん。ごめん脱線したわ」
「少なくとも、国内に対する深海群の驚異を除いた日本は、次の課題の解決へ舵を切ったんや」
スクリーンに写し出された海図の上に、マウスカーソルを走らせながら、指揮官が重々しく口を開いた。どうやら明るいニュースやないってのは、一発で分かる雰囲気やった。
「本日、自衛軍参謀本部は周辺諸国からの救援に応えるべく、陸海空共同での深海棲敵群殲滅、及び海路解放を最終目的とした軍事作戦の実行を決定した。それに辺り、我々第二艦隊は台湾、フィリピンを経由し、オーストラリアの敵勢力を排除する」
一息に喋り、指揮官は水を一口。ごくって音が嫌に響いたわ。
「作戦名は日豪海路奪還作戦。対外向けにはロードピアッサー。発動は三週間後、変更は無しだ。突貫になるが宜しく頼む。何か質問は?」
進軍経路の選定は?球磨がやっとった戦闘隊長の後任は?長期渡洋訓練は今のまんまで足りんのか?火力は?補給の確保は?敵の拠点は掌握できとんのか?
聞きたい事は山ほどあった。そんで、それは多分ウチだけやなかった。
だが、言わん。言ってしまえば何かが綻んでしまう。そんな気がしたんやと思うわ。
ま、そんな憂鬱みたいなもんは、こっから怒涛の勢いでキツくなる訓練と、両手使っても足らんくなる事務仕事に忙殺されて、気が付いたら忘れとったんやけどね。
航空攻撃訓練、機甲歩兵との強襲揚陸訓練、夜戦訓練に行軍訓練、果ては現地での振る舞い方まで。もう詰め込み詰め込みで大変やった。
青葉と衣笠も、最初っこそ半泣きで、正直使いもんになるんかと不安やったがそこは軍隊、きっちり兵隊に仕上がっとたわ。まぁ要因としては、大井の一言が効いたんやろな。そっから猛訓練しとったもん。
「二人がそんな風では戦えません。なので代わりに駆逐艦を連れていきます。重巡の代替えですので鉄火場の矢面ですが仕方ないですね。遺書を書き直させましょう。貴女方は廃棄してもらって構わないですよ?遺書、必要ないでしょう?」
あんな風に言われたら、なぁ?
まァとにかく、第二艦隊は予定の準備を終え、いよいよ出発って日の夜やった。台湾行きの決まった艦娘は全員休暇が決まったんやけど、ウチはほら、行くとこもなくてさ。
外で一杯引っ掛けて、もう自室に戻ってたんよ。…別に迎えもなかったし。当たり前か。
ほんだら部屋に飴玉親父、司令官が入ってきてな?
「おう龍驤。お前折角休みなのに何しとんねん」
「お疲れ様です海将!軽空母龍驤、うら若き戦友が青春を謳歌するのを手伝うべく、殿として基地警備をしていた所存です!!」
「宜しい!貴様は艦娘の鏡だ!報奨として輸入品のキャンディを支給する。サラミとビールもあるぞ!」
「やった!うれしいっぴょん!」
「いやお前、流石にそれは厳しいわ…」
「ひっど!え、年齢的にはそんな変わらんはず、ウチそんな老け込んどります??」
「迫力だけなら戦艦並みやからな、うはは!」
多分な、この人、色々気付いてたんだと思うわ。今考えるとさ。そりゃ小娘とは言え自分の兵隊なんやからそれなりに、それなりに大事にするのも仕事なんやろうけど、嬉しかったわ。
そっから酒飲んで、ウチが入ったばっかりの頃の話したり、国軍が自衛隊だった頃の話聞いたり、ちょこっと仕事の話をしたり。
楽しかったわぁ。あっという間だったもん。
ほんで、酒も回ってきたしそろそろ寝るかァって時にな、言われたんや。多分海将も酔っぱらってたんやな。
「龍驤、お前死ぬなよ?すっかりままならん世の中やけどな、生きとればええ事もある」
だと。艦娘相手に何をバカなって話やろ?ウチ、笑てもうたもん。「なんやそれ」って。したらな。
「真面目な話や。お前は、艦娘は知らなきゃいかん事は全然知らんくせに、ろくでもない事ばかり上手くなりよる。挙げ句の果てに野垂れ死にでもしてみろ?俺は泣いてしまうぞ」
やて。正直意味分からんかったわ。いずれ誰かしらは戦地でくたばるはずやし、覚悟も出来とったからね。
ただ、こうまで言われたら死ぬのも癪になってきて、生き残ってやるかと思ったんや。
だってそうやろ?誰もツルっぱげ筋肉達磨の泣き顔なんて見たくないやん。罰ゲームでもあるまいし。だから言ってやったんや。
「はっ!深海のドブネズミを皆殺しにし、必ず生還するので、山程報奨を準備しておいて下さい!」
そしたら司令官、一瞬変な表情した気がするんや。酔っぱらっとっただけなのかもしれんが。
まぁ最後には「よきに計らえ」何て偉そうにしとったし、これで心置きなく戦争へ行けるって思ったわ。
腕がなるぜ!へへへ!ってな。