ウチは龍驤   作:瑞彩

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台湾沖海戦

ブリーフィング、航路、砲雷、20mm対深棲弾、各種通信装置確認・妖精機媒体の再確認。

その他要目、チェック、チェック、チェック。

 

攻撃開始を急ぐ派遣艦隊は、田﨑2佐曰く過去最速で準備を終えたらしいが、そんなもん誰も気にしとらんかった。必要なのは抜錨の命令だけやった。

 

「しまいのために」こう言ったのは如月だったか。

するとみんなが応えたよ。姉妹のために。

 

思えばこの言葉は、戦場のあちらこちらで使われる様になっとったわ。

突撃ん時、それを防御する時。

敵を殺す時、敵に殺される時。

生還した仲間を抱き締めた時、仲間の入った棺桶を抱き締めた時。

 

ある意味願いとか、祈りだったんかもしれんな。

正にピッタリな言葉だったと思うわ。こん時の、自ら敵を探すため、台湾の海を突き進むウチら第二艦隊にはさ。

 

港を離れ、部隊を展開させたウチは小さく、誰にも聞こえんようにもう一度呟いたんを覚えとる。

姉妹のために…ドブネズミをぶち殺すチャンスを我等に…ってな。

今じゃ台湾沖海戦なんて名前が付いとるこの戦いは、静な、けれど明確な殺意を持って始まったんや。

 

[台湾沖海戦・第二艦隊編成]

 

■第四航空戦隊

龍驤(旗)、鳳翔、三日月、文月

 

■第三戦隊

古鷹(戦闘隊長)、大井、青葉

 

■第五戦隊

加古(戦闘隊長)、衣笠、弥生、卯月

 

■第一水雷戦隊

天龍(戦闘隊長)、龍田、睦月、如月

 

本来なら大井が三戦の隊長やんのが妥当なんやけど、本人が「私は完全に“受け”なので。古鷹さんとかどうですか?あの人なら私も安心して戦えます」

なんて言いよるから古鷹が隊を率いる事になったんが、ちょうど日本から出た翌日の話やったわ。

 

当の本人も最初っこそビビっとったが、大井の推薦と教えてやったらすんなり聞き入れて、スイスイ部隊を動かしとったわ。シンパシーが何とか言って。

 

まぁ重要なのは戦えるかどうかで、そこに関しては何の心配もしとらんかった。その戦いぶりは良ぉ知っとるし。

 

それは加古もそうやし、天龍達や駆逐隊なんぞ言わずもがな。せやから作戦通り、ウチや鳳翔は安心して接敵予想海域の手前、洋上警戒線で妖精航空機を偵察に向かわせられたんや。アイツらになら前衛を任せられる、奇襲上等かかってこいってな。

 

『こちら鳳翔より龍驤。所属航空部隊、予定高度まで到達。第一、第二小隊、共に敵影発見できず。送れ』

 

『了解。こっちの妖精機小隊も発見できず、範囲を伸ばすで。水上戦闘部隊は間隔を広げつつ微速のまま前進。偶発戦闘に注意!送れ』

 

『鳳翔了解』

 

『五戦了解っ』

 

『一水戦了解!』

 

『三戦了解です』

 

『接敵後は各隊自由に戦闘開始。だが無理したらあかんで!興奮して孤立せんよう注意せよ。以上』

 

無線を切ったウチは、改めて自分の飛ばした妖精機小隊に意識を入れた。これは妖精航空機をより精密に動かすための方式でな、特に偵察飛行で良く使っとったんやけど、どう言ったらええんか…妖精の視界を借りて、それを同時に見ながら情報をコントロールできるんやけど、解る?

 

頭の中に何個もテレビがあって、それを全部まとめて見る感覚なんやけど…ま、中々難儀な方法って事や。最大30機近くの空飛ぶ“目”から集まった情報を、小娘1人が処理しとったんやからさ。よぉやっとったと思うよ。

 

いざ戦闘となれば射撃も機動も全部妖精任せになるんやけど……楽チンやって?んな事あるかい!アイツら海外じゃやれフェアリーだのピクシーだの呼ばれとるが、敵への憎悪をそのまんま機械で形にした様なもんなんや。

それと直接精神で繋がるってのはな、そりゃおっそろしい負担なんやで?特に撃破された時なんぞ、頭にドでかい釘でも打ち込まれたんかってくらい痛なるし、何かこう、自分が殺された気分になって大変やったんや。

軽空のウチでさえこんなんやから、赤城ら主力級の空母艦娘は半端なかった思うよ。運用する妖精機の規模が桁違いやからな…大したもんやで、ホンマに。

 

まぁそれはええわ。とにかく敵を補足せんと話しにならんから、方々に妖精機を飛ばしとったんやけど見えるは波間と岩礁ばっかりでな。焦ったで。

だが戦闘は必ず発生する。その確信だけはあったよ。地図に塗られた赤いマーカー…飛行体を示す矢印はバブヤンの島々を、Cruiser・Destroyerとルビが振られた◯印はさらに広く、ぐるっとルソン島から大陸沿岸まで書き込まれとったからな。

 

そしてその時は、ウチが考えとったよりも早く来た。偵察を始めてしばらく、現地時刻ヒトロクを回ったくらい。一旦部隊を集結させよ思ってな、九六式をバブヤン手前から戻そうとした瞬間やった。雲の切れ目に黒い影、鳥とも友軍機とも違う、明らかに“人の側”を逸脱した異形を確かに、ウチは見た。

 

『龍驤会敵!数5低空ここで殺す!!』

 

短く通信。これで鳳翔辺りが位置を測定してくれるはずや。意識の片隅で三日月の顔が強張るのが分かったが、まずは攻勢の先手を掴むのが重要や!ウチは意識を鋭く集中、計6機の九六式を敵の群へ突っ込ませた!!

 

開放型キャノピーから入り込む海風も、急降下で押し付けられる身体の軋みも、エイみたいなクソッタレの背中が照準機に収まった興奮も、全部がウチ自身、生々しく感じられる。艦娘やっとって良かったなって本気で思える、最高の瞬間やったわ。

 

ガガガァっと一斉射!!主翼に備え付けられた機銃が唸りを上げて、7.7ミリ対深海凄弾を雨あられと敵に浴びせた!反復攻撃なんぞ必要無しや。初撃で連中はごみ屑になったからなぁ。さぁ次はどこや!!

と、やる気を出しとったらウチの“本体”が無線で呼び出されとるもんやから、慌てて意識を戻したんや。この通信タイムラグはちと厄介な課題だったんやけど、解決までは零戦五二式の登場を待たなあかんかったが…それは後々やな。ともかく、耳元がやかましいから急いで返答したんやけど『あなたが無茶をしてどうするんですか!』って鳳翔に怒られてもうたわ。とほほ。

 

『スマン戦闘しとったこっちは無傷や!皆は!?』

 

『こちら鳳翔!大陸付近で敵航空部隊と会敵、それを殲滅しました。損害は軽微ですが弾薬補給のため妖精機を帰艦させています!』

 

『了解!水上部隊は』

 

どうなっとる?その質問が喉を通り過ぎる前に、欲しい情報を寄越したんは三日月やった。

 

「三戦四戦共にカミギン島付近で敵水上部隊と交戦を開始しました!総数は約10、未確認大型種の目撃報告も来ています。水雷戦隊は四戦の援護に向かいました!飛行型は確認出来ず!」

 

「了解っ。なんや三日月、艦隊参謀みたいやん」 

 

「ご、ごめんなさい…出過ぎた事をしてしまいました」 

 

「あほ、褒めとんねん!」

 

三日月の頭をくしゃくしゃっと撫でながらウチは考えた。思ったよりも空は驚異やない。水上部隊も現状では数で勝っとる。だが敵の動きが想定よりも早いし、何よりデカイ奴がどうにも嫌な感じがしよる。

  どうせ探索撃破なんやから、大っぴらに戦闘が始まった今みたいな状況なら、やる事は一つや。

 

『龍驤より鳳翔、九六式を何機か回したるから自分はそんまま上を抑えとってくれ!ウチは加古達の支援に行くから、もしもん時は指揮の引き継ぎ頼む!』

 

『鳳翔了解!……御武運を』

 

『……自分の心配せぇ。また後でな』

 

通信終わり。手早く新品の符で艦戦を呼び込み、発艦。目標は世界で一番信頼できる軽空母。白い機体が高度を上げるのを見届けて、ウチはそれに背を向けた。さぁネズミ狩りの時間や!

 

「付いてこ来い参謀!こっからは時間勝負や!」

 

「はい!どこまでも御一緒します!」

 

ハンドキャノンを構え直した三日月を引き連れ、ウチは最大船速で夕刻の海を突き進んだ。天龍達が戦っとる海域までは、妖精機ならば大した距離やないが、いざ討ち漏らそうモンなら夜戦での殴り合いになるんは確実やから、そん時のために少しでも戦場に寄っときたかったんや。ウチはともかく、三日月の火力を腐らす訳にもいかんしな。

 

そしてこの動きは第二艦隊を救う事になるんやけど、これは完全に想定外の事態やった。

 

「停止してくださいっ。…岩場に影1つ、人型…座り込んでますね、初めて見るタイプです」

 

カミギンへ向かう途中、ウチらは何とも奇妙なドブネズミを発見したんや。最初は何モンや思ってこっそり近付いたんやが、何やら頭に魚のバケモンを乗っけた青白いのが岩礁に腰掛けとった。挙げ句ウチらにも気付かんとぼんやり空を見上げとるもんやから、何やコイツと思ったわ。

 

ただ、見逃すって判断だけはあり得へんし、かと言って砲を使えば音で敵を呼び込むかもしれん。せやから、ナイフでいったんや。原速でゆっくり後ろから、息をするのも慎重に、慎重に近付いて、ウチは奴に飛び掛かった!

さっと口を塞いで2回、3回と刃先を突き込む、まだ生きとる、さっさとくたばれ!念じながらもう1回。2回。ぶつり、と何かを断ち切り、やっと手応えが無くなってから、そいつを手放した。

 

ドサッだか、ドチャッだか音発てて、崩れ落ちたドブネズミ。鼻やら口やらから青い血ぃ吹いとるそいつの顔は何だか驚いてる様な眠たい様な、おかしな顔やったわ。何やら最後に何か言うとった気もしたが、こん時は「バケモンが生意気に喋りよるな」としか思わんかった。

 

「あの、龍驤さん。そろそろ」

 

「あ?ああ悪い、よし、行くで」

 

チラとウチを見た三日月の顔がちょっと引いとったんは忘れられんわ。いや確かにエグい殺し方したけどさ!ちょと傷ついたわ、ちょとだけ。

 

目前のアクシデントを手早く“処理”し、ポンポンと見え始めた戦火へ向けて、今回の作戦に向けて配備された新型の九七式艦攻を飛ばしたんやが驚いたで。こっちの水上部隊が総出でやり合うとんのもそうやったが、そこら中に浮かぶ敵の残骸は報告よりも遥かに多かったんや、空から確認しただけでも30近くは死んどったと思うわ。

   

だが何より良くなかったんはな、新型のドブネズミが、敵重巡やらを背中に置いて火線の真ん前で立ち塞がっとった事や。まるで戦艦艦娘みたいなナリしとんのもアカンかったな、あれじゃまるで、そのまんま“ヒト”と殺し合いしとるのと同じやった。

 

実際、あの水雷戦隊に何時もの気迫が感じられんかったしな。そんだけ連戦しとったんかは分からんかったが、どうにも動きにキレが無い、まるで後ろを気にする様な、変な戦い方しとるんやもん頭抱えるで、全く。

 

くそ、こんな時に球磨が居らんとは!

 

ウチが舌打ちしたのと、敵の主砲が加古達に向けられたんはほとんど一緒のタイミングやった。バン!なんてもんやない、まるで落雷みたいな砲声、直後に馬鹿デカい水柱が上がったんを見た時は血の気が引いたで。しかも無線は電波妨害で使えんから無事の確認も出来んかったし。

 

早く、早くこいつを始末せんとマズイ!焦りで爆発しそうになる感情を抑えながら、ウチは九七式の高度を下げた。

  グングンと迫る艦娘モドキ。彼我の距離はおおよそ50。不思議なもんで、何十回何百回と訓練したその動きは、心とは裏腹に、完璧なタイミングやった。先頭3機、投下。スイと進む九一式航空魚雷が敵影に飲み込まれた瞬間、ソイツはおっそろしい顔でウチを睨んっどった気がしたわ。

 

左舷に2本の魚雷が直撃し、炎に包まれながら断末魔も上げずにドブネズミがズブズブと沈んでいった。撃破の興奮より、まず安心したのが一番やったよ。初撃で潰せたお陰で被害を食い止められたって。いや違う!加古達はどうなった!?

 

『おい皆無事か!?もう無線回復しとるよな?おい!!』

 

『さすがの衣笠さんも死ぬかと思ったわ…』

 

『加古さんの命令が遅かったらまとめて海の藻屑ぴょん』

 

『龍驤さん助かりました!一生付いて行きますよ本気で』

 

五戦からの無線を皮切りに、他の連中からもどんどん生存報告が来て、ウチは心底ホッとしたよ……。加古曰くどうやら弾切れが近かったみたいでな?かなりギリギリだったらしいねん。ホンマ間に合って良かったで。しかし何であんなノロノロした戦い方してたんや?

  何て考え出すとイライラしてきてな、天龍に問い質そうとしたんやけど、それは三日月の悲鳴で遮られた。

 

「龍驤さん敵が!!」

 

敵が?なんやって?ウチは視線を巡らせた。そしたらな、動いとったんよ、雷撃食らって体半分近く吹き飛んで、海に沈んどったモドキ野郎の、砲身がピッタリとこっちに向いたんや。

 

ピカッと白い光が見えた。確か「え?」とか、アホな声出した気がするわ。後は何も見えんし何も聞こえん。ウチの記憶はここで、完全に途切れたんや。

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