ウチは龍驤   作:瑞彩

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アンヨが上手

「さて、ウチは偉い高そうな車に乗せられて、呉工厰に付いた訳やケド」

 

「えぇ?そこはカットですか龍驤さん」

 

「話の腰折らんといてよ先生。・・・実はな、あんま覚えてないねん。父ちゃんの件も有ったし、とにかく緊張しとったんや」

 

ホンマはビビって泣きまくっとったけどな。

 

「なんなら艦娘への転換手術、設備に関してもあんま話せんで。こっちは軍事機密ってヤツやけど」

 

「ぎょーさん書類にサインして、診察してもろて、注射して眠なって起きたら艦娘になっとったわ」

 

「軍も焦ってたんでしょうね、きっと」

 

「何や急にマジな顔して・・・。まァこうして、ウチは生物兵器一年生になったワケや」

 

不思議なもんで、目が覚めると不安や弱気が全部クリアになっとった。いきなり生えとる足にも驚かんし、元気が有り余っとる。今にも飛び回れる気分やったけど、さすがにアカン言われたわ。

 

しゃぁないんで、簡単な運動訓練と基礎学習をやっとったら、ある日ツルッぱげの大男がウチんとこにやって来たんや。

 

「そん身体はどんなもんや?」

 

「おじさん誰?」

 

「俺はこの基地の指揮官や」

 

「・・・私に給料を払ってくれる人」

 

「惜しい。そりゃ俺より上の人間や」

 

「そうなんだ。身体は馴れたよ。早くお父さんに見せたい」

 

「制服授与ん時ばっちり写真撮ったるさかい、父ちゃんに見せたれ。飴食うか?」

 

このオッサンこそ呉鎮の総責任者、佐々木海将その人なんやけど、今思うと恐ろしい態度やな。無知とは恐ろしいもんや。

まぁこの人も、ド偉い立場の割にしょっちゅうウチん所に顔出して、やれ土産だの報奨だの言って飴玉渡しよるんやから、妙な距離感になんのも仕方ないわ。関西弁まで移しよってからに。

 

さて、転換手術が終わって、脳ミソが新しい身体に“馴染む”と艦娘にとって最初の試練が待ち構えとる。

 

水上歩行訓練や!

 

コイツは全身の筋肉どころか転ばんために神経を酷使するもんやから、まぁアホみたいに疲れよる。

 

あの那智が泣き出すレベル。なんて話が上がるほど、この訓練はキツいんや。ほんで、ボロボロになったウチらを更に苦しめたたもんがあってな。

 

「はい!あと10歩頑張ってみましょうね~。いち、に、いち、に」

 

「…あの、鹿島教官。その掛け声何となりませんかね」

 

「なりませんよ?いつまでも訓練をパス出来ない赤ちゃんには、これがピッタリですからね~。はい、あと20歩追加です!」

 

これが最っ高に恥ずかしいねん!サシでやっとるならまだしも、皆が見とる中でもこの調子やで?たまったもんじゃなかったわ。

 

まぁ、お陰様でぶきっちょなウチでもスイスイ進めるようになったんやけど。今でも思い出すと背中に嫌ーな汗かくで、全く。

 

「おい龍田ァ!離すなよ、マジで絶対離すんじゃねーぞ!?」

 

「もう離してるわよぉ」

 

「天龍、腰上げろクマ~」

 

「また転んだっぴょん」

 

…これも地味にキツかった。いや、寂しかった、やな。

 

駆逐や巡洋連中は、すでに部隊単位での勤務が始まっとったから、隣ではいっつもキャイキャイ声が聞こえとるのに、ウチは一人っきり。いっくら初の空母やからって、この辺キチッと考えといてほしかったわ。

 

特に休日ともなれば、それは顕著でなぁ。チビ共は家族の待つ家に、歳上組は・・・ほら、そーいう相手んトコ行くか、姉妹で街に繰り出すワケやん。

 

ウチは足のメンテナンスやら、父ちゃんの住所がまだ決まってないやらで…行くとこ無かったんや。

 

するとな、シーンとなるんや、鎮守府が。しゃあないから資料室こもるか自主練しとると、

 

「良っしゃ、俺とゲームやろか。ドライブとかでもエエで?」

 

なぁんて飴玉オヤジが言ってくる。これは悔しかったわぁ。ウチは援交少女か!って。まぁゲームするんやけど。

 

あ、飯とかは皆で仲良ぉ食っとったで?別にイジメとかや無いからな!?

 

しばらくして、全員が訓練をパスした翌日、教官や技術者が、まだ貰っとらん連中への“艦艇”拝名と制服授与を一緒くたにして簡単な卒業式をしてくれたんや。

 

キッツイ指導のせいで“香取線香”なんて陰口叩かれとった香取教官が泣き出してなぁ。

 

「…改め、りゅ、りゅうりょう、前へっ!」

 

「はいっ!!」

 

ぐずぐずになって呼ぶもんやから何言うとるか解らん上に、貰い泣きするトコロやったわ、全く。

 

天龍がへったくそな歌を披露して、飴オヤジに酔っ払った望月がくそ真面目な謝辞を言い出して、鹿島教官までポロポロ泣いて、みぃんなで写真撮って…ホンマ楽しかったわ。

 

「姦しい事この上ねぇなぁほれもっと詰めんかい!!ほれ駆逐は前、それ以上は後ろや。龍驤はぁ前でええわ」

 

「何でやねん!駆逐空母とちゃうんやぞ!」

 

「おっちゃん可愛く撮ってにゃ」

 

「うぅ~、頭におっぱい乗せないでよぉ」

 

「加古、加古、寝ちゃだめだよ」

 

「北上さん!もっと寄って、もっと!」

 

「三日月、緊張しちゃって置物みたいっぴょん」

 

「動くな動くな。よしバッチリや…ほれ龍驤も照れんと笑え!3・2・1」

 

エライ騒ぎやろ?人によっちゃ、税金の無駄遣いやー何て言うかもしれん。

 

けどな、しゃぁない事やったと思うで。人類救済の決戦兵器、大海を征く鋼の乙女なんて言われとっても、ウチらは何処にでも転がっとる、ただの小娘やったんやから。

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