ウチは龍驤   作:瑞彩

4 / 14
おまじない空母

さて、こうして龍驤になったウチは、工厰内に作られた粗末な部屋から、鎮守府に新設された艦娘寮に居を移して、正規の兵隊として歩み始めたワケや。

 

所属も無事決まったわ。大淀っちゅう、寮の取締役がおって、ソイツに言われて指令部に出頭してみたら、なんと飴親父が待っとった。

 

何やら大層な服を着てなぁ。しっかり海将の顔付きしとったわ。つるっパゲなのに。

…まぁ、かっこ良かったけどさ。

 

「おっちゃんどないしたん?今日はビシッと決めとるやん」

 

「そりゃあ、俺はココで将官やっとるからなぁ。前に言わんかったか?」

 

「ウソか思っとった」

 

「んな訳有るかい。まぁ、一昨日やぁっと通達が来たんやけどな。…気を付け」

 

「俺は呉で空母艦娘打撃部隊、第四航空戦隊の指揮を執る事になった。詳細は追って連絡するが、旗艦はお前だ。良く励んでくれ。以上」

 

「はいっ!!…あの」

 

「何や」

 

「ちょい前に来とった兄ちゃんはどないしたん?ほら、あの、イケメンな感じの」

 

ソイツは舞鶴から来た新任士官で、もしかしたら艦娘部隊の提督になるんやないかとウチらは噂しとった。

 

「ありゃ前線司令官や。俺が直接海に行けんからな。戦闘指揮やら何やらは彼がやる事になる」

 

「へぇ。へへへ。まじかぁ」

 

「…悪かったなぁ飴玉オヤジで」

 

「いえいえ滅相も御座いません事よウフフ」

 

「ったく生意気言いよる。行ってええぞ」

 

「はいっ」

 

「龍驤。宜しく頼む」

 

「アイアイサぁ」

 

なぁんて我ながらキザなやり取りしといて、実は戦隊言うてもウチ一人、何もかんもが暗中模索っちゅうのを聞いて噴飯するコトになるんやけどね。

 

そんな“お飾り”旗艦、のウチにとって最大の試練、それは何と言っても飛行隊の使い方やった。

 

「え~と、龍驤さんの適正はまぁまぁなので、直ぐ飛ばせるようになると思いますよ?」

 

スカートにエグいスリットの入ったピンク色の姉ちゃんが笑いながら言いよったんで、軽い気持ちでやってみたんは良いけどまぁムズい。

 

簡単に言うたら、妖精を降ろした形代に、戦闘機のイメージを送り込みながら、デカイ霊符の上を走らせんねん。

 

成功すりゃあ札に“門”が現出して、そこを通った形代は戦闘機に実体化、そのまま空にテイクオフって訳や。

 

ホンマはもうちょい難しい話なんやけど、説明し出すと終わらんから堪忍な。

 

エ?妖精って何やって?…妖精は妖精よ。知りすぎたらキミ、大変な事になるで。…まぁウチもよぉ分からんけど。

 

兵隊は銃が使えても、それ本体や弾薬の作り方までは知らんやろ?そう言うこっちゃ。

 

とにかく、コイツは難儀やった。慣れない戦闘艤装で海面プカプカしながら足んないオツムであれこれするもんやから、ゲェゲェやるのも珍しくなかったわ。

 

「風向き…速度…よっしゃ頼むで!」

 

気合い一閃。九六式がプロペラを唸らせながら飛翔して、ぐんぐん高度を取り、墜落しよった。いや、させたやな。

 

《これでぇ29・・・30回目だよぉ》

 

《回収向かいます!》

 

《文月、三日月、ホンマにごめんな~》

 

特に発艦が苦手やったウチは、休日返上で訓練しとった。現状一杯しかおらん陰陽型が珍しいのか、手空きの防海艦や駆逐艦が、良く見に来とったわ。

 

「おまじない空母、全然上手くならないっぴょん」

 

「召され~そうらえ~って誰がオカルト女や!!」

 

「乗り突っ込みにゃしぃ」

 

初期の紙製触媒は、出撃前に祈祷が必要やったせいで、ウチには全然おもろくない渾名が付いてもうた。

 

まぁこん時、ウチには仲間っちゅうか、誰かと“組む”ってコトが出来ひんかったから、こうして同じ艦娘と絡むのは、素直に嬉しかったわ。

 

「アカン、ちょっち休憩」

 

離陸回数が3ケタまで行くと、体は平気でも頭がガンガン痛み出して、綺麗なベッドの事しか考えられんようなる。

 

「お疲れ様です!ラムネ飲みますか?」

 

「三人で飲もうよ~」

 

んで、駆逐艦に介抱してもらうっちゅうのが日課やったんやから、ホンマ情けないもんやで。

 

「あーサンキュ。喉からっからやってん」

 

生身なら死んでまう程、汗をかいた状態で流し込む、キンキンに冷えたラムネの旨さは、ウチの言葉じゃ語り切れないもんやったな。

 

何より、誰かと一緒にってのがエエねん。一人ぼっちの人生なんて、つまらんもんやろ?

 

《龍驤さんお疲れ様です。おら二人とも飯行くんだろ?龍田が待ちくたびれちまう》

 

なぁんて思っとると、共用無線で天龍が話しかけてきよった。

 

コイツはちと口が悪い、けど面倒見が良いもんやから、しょっちゅう駆逐共にまとわり付かれとったわ。

 

「あう、天龍ちゃんと約束してたの忘れてたぁ」

 

と、文月が口に手を当てる。

 

アイツの名誉の為に言っとくが、決して舐められとったワケや無いで?いや、ホンマに。

 

「でも、えとあの、お手伝いが…」

 

ハイハイ、解放するっちゅーの。

 

「二人ともアリガトさん。行ってエエで、美味しいもん食べてき」

 

あないな顔されたら引き止められんわ。全く。

 

文月はぶんぶん手を振りながら、三日月はペコペコ頭を下げながら。港へ消えていく二人を見送ったウチは、正直訓練どころの気分や無くなっとった。

 

だってそうやろ?自分でトンボ釣りしながら発着艦なぞ手間が掛かってしゃーないからな!

 

「またぼっちかい。だいたい何で天龍のヤツ敬語使うねん、ウチがおっかない女みたいになるやんけ。あーあヤメヤメ」

 

こうなるとウチはもうダメで“厚底”以外の装備をカバンに仕舞い込み、海面に寝転がった。

主機さえ付けとりゃ艦娘は沈まんからな。ま、死んだら文字通り轟沈するんやけど。何なら制服も髪も濡れよるケド。

 

「こんなで空母なんぞに、なれるんやろか」

 

ちょびっとだけ泣きそうにしとると、遠くから何や音が聞こえてきよった。

 

「…ペラの音?陸の方からやな」

 

思わず身体を起こしたウチは、腹から来る衝撃をそのまま口走った!

 

「速い!!」

 

ブオンと唸りを上げ頭上を通過した銀色のそれは、真っ青な空を切り裂きながらグワっと上昇し、鋭く円を描くと彼方へ消えていった。

 

「なんやアレ、サイズは精霊航空機やが、どエライ速度やったな」

 

さっきまでの落ち込みは何処へやら。ウチの頭は興奮で元気を取り戻しとったわ。

 

単純やー思うかも知れんが、やっぱり気になるやん。艦娘なんやし。

 

「正体暴いたるわ」

 

息巻いたウチは、大急ぎで霊符を引っ張り出しながら、やれ九六式やとスピードが足りんだの、なら高度を取って上から追い掛け回すかだの、しょーもないコトを考えとった。

すると、今度は声がウチの耳に届いて来たんや。ま、ほとんど頭に入っとらんかったケド。

 

「すーみーませーん・・・!」

 

「っしゃぁ飛ばすで・・・あぁもう髪ベッタベタやん腹立つ~!って自業自得か」

 

「あの、すみません」

 

「あっちに飛んでったから、東に流してぇ」

 

「あの!!」

 

「ひゃん!!」

 

海上で突然呼び掛けられるってのはホンマに驚くんやで?変な声の一つも出るちゅーねん。

 

「え誰、ダレ?」

 

「ごめんなさい!今こちらに妖精航空機が来ませんでしたか!?」

 

「い、今追跡しようとしてたところや、ちょ、近い近い!!」

 

時代劇の若女将みたいな格好した艦娘が、かぶり付きで質問してきよった。泡でも吹きそうな狼狽えぶりやったね。

 

「ああどうしましょう、大切な試作機なのに・・・妖精さぁん!戻って来て下さーい!

 

「いや聞こえんやろ。何があったんや?落ち着いて話してみぃ」

 

「それが・・・」

 

何でも、受け取ったばかりの艦戦を飛ばしてみたは良いが中々のじゃじゃ馬で、誘導を切って暴れ出したんで、急いで追い掛けて来た。ちゅー話やったわ。

 

「ほーん。いや大事やんけ!損失したら拳骨や済まんで。他の艦戦は!?」

 

「それが、発動機の機嫌が悪くて」

 

「しゃーない、何とかウチの九六式で誘導してみるわ。手伝ってくれや」

 

「はいっ。宜しくお願いします」

 

「ウチは龍驤。そっちは?」

 

「斉藤・・・いえ、鳳翔。空母艦娘の鳳翔と言います」

 

これが何とも間抜けで、須沌狂な、ウチらの出会いやった。

 

「んだらウチが艦載機で“ヤツ”と間接通信するさかい。鳳翔さんは機影が見え次第誘導を取り戻してくれ!」

 

こいつは迷子になった妖精機を助ける方法の一つやった。

 

そもそも妖精機っちゅうのは、式たる精霊と使用者の艦娘、二つの意識が上手い事混ざって初めて飛び回れるんや。

 

ケド、初期型の機体は念動通信機器の作りが甘くてな、艦娘側の意思が届かんかったり、弾かれたりする不具合が良ぉ起こった。

 

この“片想い”を復旧させる手段が、間接通信やった。コントロール下にある妖精機をアンカーにして暴れ馬を持ち主の近くまで捕捉・誘導してやんねん。

 

後は持ち主が改めて意思を伝えて、めでたく両想いになってハイ終了。

 

ナニ?解りにくい言われてもなぁ、こうとしか説明できへんわ。簡単に言うたら、こん時ウチは鳳翔と試作機の仲人を務めたっちゅー訳や。

 

ただ、一つデカイ問題があった。

 

「行っけぇ!!・・・ぐぁぁまたダメや」

 

ウチの発艦下手や。5回連続で海に落っことした辺りで、ついに鳳翔がウチを怒鳴り付けた!

 

「龍驤さん!駄目ですよそんな乱暴に艦載機を扱っては。だいたい何ですかその姿勢は腕も腰も曲がってるリリースが早すぎる集中を切らないそれから」

 

この発憤ぶりやもん。ウチはコメツキムシみたいにハイハイ頭を振るしか無かったわ。

 

ま、この指導が功を奏して、龍驤印の九六式は無事試作機を持ち主んトコに連れ帰る事が出来たんやけどね。

 

傑作なのはこの後やった。いよいよ機影が見えて、着艦行程に入ったんやけど、鳳翔の奴急に黙んねん。まぁ集中しとるんやろなーくらいに考えとったんやけど、いざ甲板艤装に試作機が入り込む瞬間、

 

「きゃっ」

 

って声が聞こえてん。マジ子犬かなんか居るか思たもん。海上やのに。

 

見てみたらな、震えてんの、鳳翔が。んでその横を、試作機が蚊みたいな速度で横切ってたんや。

 

「な、なに?どしたん」

 

「えっとですね、あの、私実は、艦載機の押さえ込みが少々苦手と言いますか・・・」

 

「ほーん。まぁ誰かて得意不得意あるもんな、ゆっくりやったらエエやん」

 

「はいっ」

 

良い顔やったでー?成功させたるっちゅう確信に満ちた瞳、凛とした佇まい、これぞ大和撫子や。

 

「…何回失敗しとんねん!!」

 

5回目辺りでウチの堪忍袋が決壊したわ。あんだけ捲し立てといてコレかい!ってなるやん、こんなもん。

 

「エエか?着陸いうんはビビったらアカン。キチッと進入角調整したら、後はドーンと構えとったら丸く収まんねん。そう、腕伸ばして、速度合わせて・・・目ぇ反らすなぁ!!」

 

ウチ適切な”指導”のお陰で、無事試作機は御帰還と相成った。何回ミスったかって?秘密や秘密、鳳翔が可哀想やもん。

 

帰りは、二人で色んなコトをお喋りしたんや

 

身体はヘトヘトやったけど、話のネタは全然無くならんかったわ。

 

夕日に照された海面がキラキラしとって綺麗でなぁ、普段ならそんなん思わんのに。きっと、楽しかったんやろな、誰かと居るのが。

 

全くとんだ一日やったわ。ま、今となっては、大切な笑い話の一つやけど。

 

ちなみに、基地に着いたウチらは大目玉を喰らってなぁ。二人で夜通し廊下に立たされたんや。全く、昭和かっちゅーの!

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。