ウチは龍驤   作:瑞彩

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ファースト・レイド

「意外ですね」

 

「何や先生。つか普通に話し掛けてくるんですね」

 

「いえ、艦娘って言うと、戦ってばっかりなイメージでした」

 

「アホ言うたらアカンよ。ウチらが兵器やらって、何の訓練もせんと戦地に飛び込んだら、死体の山に変わるだけやで」

 

「何事にも準備が必要、ですか」

 

「そう言うこっちゃ。そんで戦争の準備なんちゅうのは、成果なんぞ本来出ない方がええねん」

 

「けど、遂に来てしまったんや。艦娘が、その存在理由を示す時がな」

 

正式な通達の後、鳳翔を四航戦に迎え、訓練は益々活気を帯びていった。特にウチらは、手探りだった部分を補い合えたんで、練度がメキメキと上がったわ。

 

「新妻空母、仮想演習で長門を負かしたらしいクマ」

 

「何やねんその渾名」

 

「睦月型がそう呼んでる。言い得て妙なネーミングだクマ」

 

「エロいっぴょん」

 

「エロいにゃしぃ」

 

「解るわぁ」

 

何てしょうもない会話をしつつも、鎮守府内の熱量みたいなモンは確実に上がっとった。もしかしたら、皆、何かを感じ取ってたんかもしれんな。

 

七月の中頃だったわ。季節にしちゃあ涼しい夜で、手空きの連中と食堂で駄弁っとると、放送で呼び出しが掛かったんや。

 

「敵が動き出した、始まるぞ」

 

会議室に集まったウチらへ、司令が短く通達した。

 

愛嬌のある顔が、この日は青白くなっとったわ。

 

空軍の偵察機が寄越した情報は、軍や国の御偉いさんを奮発させんのに充分なもんやった。

 

太平洋、そんで深海共の初進攻。二つの戦争で奪われた硫黄島に敵が集結しとるっちゅうんやから、まぁムリも無いんやけど。

 

ホンマは色んな段階を踏んで決められる様な物事も、電話一本でハイOK!戦時下の、洪水みたいな速度で流れてく時勢っちゅうのは、決断だけで動いとった気がするわ。

 

まぁ、つまるトコロ、ウチらは家族への挨拶もままならず、ドッグでワタワタと装備を整えたっちゅう訳や。

 

「龍驤さん、大丈夫ですよ。敵に空母は確認出来ていませんし」

 

「二人が艦載機飛ばす前に、俺達が片付けてやりますよ」

 

こん時のウチは初出撃と艦隊指揮のプレッシャーで緊張しまくっててなぁ、鳳翔や天龍が声を掛けてくれてたんや。

 

そんな中でな、三日月と弥生が近付いて来て、

 

「私たちがお守りします。いのちに変えて」

 

何て言うんや。顔真っ青にして。

 

そら駆逐や巡洋は、空母の護衛も大切な仕事なんやど、さ。

 

おかしな話やん、こんなチビ共がドンパチやるなん、ホンマに。夜になると寂しくて、ママ、ママって泣くような連中やで?

 

こん時のコトを、二人の顔を、ウチは一生忘れられんわ。

 

『最終命令が来た』

 

気の利いた返しも出来んと、ただ、ワケも無く出そうになる涙を我慢しながら、チビ共の頭を撫でつけとると、おっちゃんからの無線が届いた。

 

『悪いが見ての通りだ。だが、君達は強い。その為に作り、訓練し、それに耐え抜いた精鋭だからだ』

 

おっちゃんの、いや、司令官の、普段からは想像もつかん固い声が、

 

『この国から、海から、世界から深海供を叩き出せ』

 

兵士を煽る強い言葉が、

 

『制限無しだ。存分に暴れて来い・・・第二艦隊出撃ッ!!』

 

つくづく実感させたわ。

 

戦争に行くんやなって。

 

「全艦、抜錨ォ!!」

 

飛びきりの大声で、ウチは号令を掛けた。ビビりな自分を吹き飛ばすために。

 

僚艦の答礼と、仲間達の激励に背中を押され、第二艦隊は闇夜の海に乗り出した。

 

時刻はフタヒトマルマル。史上初の、艦娘による反抗作戦が、遂に始まったんや。

 

[硫黄島奪還作戦・第二艦隊編成]

 

■第四航空戦隊

龍驤、鳳翔、三日月、文月

 

■第三戦隊

球磨、多摩、大井

 

■第五戦隊

古鷹、加古、睦月、如月

 

■第一水雷戦隊

天龍、龍田、弥生、卯月

 

前進原速。短く無線を走らせたウチは、ポツンポツンと光り放つ海岸線を横目に見とった。

 

昔はぎょうさん人が住んどって、エライ賑やかやったって話を司令から聞いとったんやけど、そん時は消えかけのローソクみたいで、寂しいもんやったわ。

 

『あ~、ほらほら、あそこに茶店があるにゃ?その隣に多摩の家があったにゃ』

 

『今じゃ接収されてミサイル陣地だクマ。どうせ役に立たないのに、軍も身勝手なもんだクマ』

 

『日当たりが良いから、居眠りには最高にゃ。だから勘弁してやるにゃ』

 

『姉さん、時々姿を消すと思ったら!』

 

『店長の珈琲は最高だよな。こう、薫りが良いんだよ』

 

『あれ代用品だし。そもお前ブラック飲めないだろ?なぁ古鷹』

 

『確か合成珈琲だって店長が・・・ってダメよ加古!とにかくダメなの』

 

『ふかふか天龍ちゃんは子供舌っぴょん!』

 

『・・・天龍さん・・・泣かないで』

 

『いや泣いてねーよ?弥生、マジで』

 

遠足気分やーなんて思ったやろ。まぁ、深海供の気配も無かったしな。

 

何より、緊張を皆誤魔化したかったんやと思うわ。下手したら、もう帰って来れないんやから。

 

『文月、ふかふかって何や?』

 

『ええとねぇ、天龍ちゃんのおっぱいのコトだよぉ。マシュマロみたいなんだよ~?ねぇ三日月~』

 

『おい!余計な事言うなよ恥ずかしいだろ!』

 

『ええでええで、ウチが許可するわ』

 

『えっと、あの・・・とってもふかふかでした!』

 

後で聞いてみたんやけど、艦娘転換手術の副作用で、あないな身体になったらしいで。ウチの体が成長せんのと同じ理由やな。

 

なに、感想?まぁ、うん。ふかふかやったわ。

 

こうやって何の役にも立たん、心底くだらん無線をしとるとな、つくづく思ったわ。このまま、何もなければええのに。皆で無事に帰って、汗流して飯食って寝ちまえればええのにってな。

 

出撃から数時間。呉の街はいよいよ見えんようなって、水平線にも飽きてきた頃やった。

 

卯月と鹿島の合コン失敗談をしとった多摩が、突然静になったんや。

 

コイツは演習中“何となく”で鳳翔の攻撃隊から逃げ切った事があったもんやから、皆一気に静になったわ。

 

たまぁに居るやろ、変な勘が働く奴。多摩は正にそれやった。

 

『・・・近いんか』

 

『解らんにゃ。けど、嫌な感じ』

 

ウチは迷わず、古鷹と加古に偵察機を使わせた。どうにも安定せん電探は信用出来んし、適当に部隊動かして奇襲されたら洒落にならんやろ?

 

味方を集結させつつ、微速まで進軍速度を落として報告を待っとると、予想よりもかなりの早さで、敵艦発見の知らせが届いて、正直焦ったわ。

 

「ッ!敵、敵です!」

 

「落ち着かんかい古鷹。情報は正確に」

 

「は、はいっ・・・十三時方向、距離約五千、駆逐六、あと、良く解んないのが八です!」

 

「解んないって何や」

 

「艦種不明です!えっと…人?人型、何よこれ!!」

 

偵察機と視覚を共有したせいで、混乱したんやろな。親友の加古でさえ、古鷹を宥めるのに苦労しとったわ。

 

何せ未確認の…人間みたいなナリの生き物が深海供とつるんどる所を見てもうたんやから。

 

挙げ句、悪い事ってのは続くもんで、呉への通常無線も、連中の電波妨害で繋がらんと鳳翔が言い出したもんやから、こん時は焦ったで。

 

「で、どうするんだクマ」

 

嫌味なくらいの冷静さで放たれた戦隊長の質問に、ウチは迷いに迷った。時間にしたら一瞬だったかも知れんし、数分だったかも知れん。

 

どうする?連中を殲滅するか?けど、それをやれば作戦の第一段階…島への払暁強襲計画は、既に御破算や。

 

では、やはり硫黄島を?駄目や。本部との通信を確保出来ん今、連中に突っ込まれようモンなら、防海艦や、残してきた仲間は、完全な奇襲を受ける事になる。

 

しかし、あの深海供が先遣隊やったら、下手に突つけばコッチが挟撃される可能性があるんやないか?

 

「時間がもったいないよ。わたしも“妹”達も覚悟は出来てる。あとは龍驤さんだけ」

 

脳みそを絞り倒しとったウチに、普段からは想像も付かん声色で言い放った睦月の表情は、確かに、兵隊の顔付きやった。

 

それだけやない。他の睦月型や巡洋連中、普段はこっちが心配になるほど優しげな鳳翔まで、ただ静にそん時を、旗艦の命令を待っとった。

 

ウチは、大きく息を吸い込んだ。しょっぱくて、ねっとりとした、気持ちの悪い空気やったわ。

 

「各員、全兵装の安全装置を解除。やるで」

 

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