ウチは龍驤   作:瑞彩

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はじまりの、おわりの

出足の遅い鳳翔と、護衛の文月を待機させた第二艦隊は、教練通り無線を完全封鎖して、敵陣に向け突き進んだ。

 

球磨率いる水打部隊を先導に矢尻型隊形、第四戦速。横っ腹から打撃を叩き込む算段や。

 

やがて浮かび上がる深海供のシルエットに各艦が魚雷を発射。放射状に伸びる計十本の雷跡が、連中の足元に吸い込まれた。

 

爆轟。吹き上がる水柱と鉄片。人間みたいな悲鳴。呆気なく崩壊した敵戦列を見て、ウチは思わずほくそ笑んだ。まだや、これからや。

 

しっかり踏ん張り急制動。とにかくデカイ奴に狙いを定める。交戦間隔はおおよそ二百。艦娘ならば必中距離!

 

腰に付いとる高角砲を、ウチは化けモンの影にぶっ放した!

 

上手い事顔面にでも放り込んだんやろね、ソイツはパッと青い血ィ撒き散らしながら、ゆっくり沈んでった。ターゲット・ダウンってな。いい気分やったわ。

 

この一撃を皮切りに、第二艦隊は深海供を徹底的に打ち据えた。銃弾、榴弾、挙げ句の果てには魚雷の直接投射。どんどんパンパン騒がしいもんやった。

 

特に天龍達ゃ凄かったで?

 

缶を真っ赤にして縦隊で突っ込んだ思たら、正真正銘の殴り合いを始めたんや。そりゃあ懐に飛び込みゃ撃たれるリスクは減るが、なぁ。

 

弥生なんぞ、黙々と錨で敵の頭をカチ割りよる。

 

あんな小っちゃい体に、連中の体液やらなんやら浴びまくるから、髪から何から真っ青になっとったわ。

 

遂には慌てふためく青白いデカ女は駆逐共が羽交い締めにしてな、節約節約言いながら龍田が槍で一突きよ。連中にはどうにも感情があるみたいでな?おっそろしい顔しながら死んでったわ。絶望感ちゅうか、憎悪ちゅうか。

凄まじい光景やったで、ホンマに。

 

接敵からきっかり二十分。数で勝る深海供を、ウチらは一方的に鏖殺した。負傷者無し。完璧な勝利やった。

 

ところがココは最前線。今度は加古の偵察機が敵戦隊を捉えよった。駆逐数匹と、例の人型。

 

「硫黄島からの増援ねぇ。みんな残弾はぁ?」

 

いつもの甘ったるい声で、部下をまとめる龍田の見た目は、すっかり血塗れ煤塗れ。ま、それは各員似た様なもんやったけどね。

 

「ほら卯月、オレの弾使っとけ。水雷隊いけるぜ」

 

「第五戦隊、問題有りません!」

 

「右に同じクマ。・・・迎え撃つか?」

 

居場所がバレとる以上、完全な奇襲はちと厳しい。お天道さんはまだ寝足りん様で、空戦仕掛ける訳にもいかん。勢いは悪くないが、どうにも不安材料が目立ちよる。

 

何や色々と悩みの種は尽きんかったが、一つだけ明白な事柄があった。

 

“今、戦う以外の道は、第二艦隊に残されていない”

 

ウチらは、限界まで戦った。無我夢中やった。思い付く全ての手管を動員したし、弾薬なぞ、底を付く寸前やった。

 

白み始めた空に、鳳翔の飛行隊が雲を引くんを見た時は、安心して腰抜かしそうになったわ。

 

『皆さん怪我は!?え、被害って言うの?文月さんは物知りですね』

 

『座学で言ってたよ~』

 

『わ、私、お昼御飯の後はねむくなってしまいまして…』

 

『鳳翔さん無線無線~!!』

 

『し、失礼しましたッ!』

 

真っ赤な顔を想像して、皆でニヤニヤしとったんやけど、いざ合流した鳳翔は、今にも泣きそうな顔やった。

 

不思議に思って、どないしたんやと聞いたらな、

 

「傷だらけじゃないですか!!」

 

やと。殺し合いしとったんやから当たり前やし、ぶっちゃけ艦娘は簡単に死なへんから、そない心配せんでもええんや。

 

ま、理解しとっても、必ず口に出すのがコイツなんやけどね。

 

無事ですか?遅くなってごめんなさい…ってな。誰も気にせんわ。んなもん。カワイイ奴やで、ホンマに。

 

ちなみに、ウチも鳳翔の気分を直ぐ味わう事になる。それも、嫌と言うほどな。

 

しかし空母艦娘の打撃力っちゅうのは凄まじいもんで、航空機がポンポコ爆弾やら何やらを落っことすから、深海供はろくに反撃も出来んと海の藻屑になるんや。

 

艦娘一人にぶっ殺されるんやから、連中もさぞ悔しかったろなぁ。ま、しゃあなしやな。

 

「人妻空母、クソ強いにゃ」

 

「…今度から鳳翔さんて呼ぶぴょん」

 

「うわ、人型の奴半分に裂けよったで。ゴツいなぁ」

 

「龍驤さん、手伝わなくて良いんスか?」

 

「あかん、忘れとったわ」

 

冗談とちゃうで?そんだけ印象的な光景やったんや。人類が、開戦後初めて優勢に立った瞬間なんやから。断じて、夜戦明けで寝惚けてた訳やないで?

 

鳳翔の部隊と協力しつつ、空から敵を追い立てて2時間くらいか。海がシーンと静になった。何故かは解らんが、きっとそうなんやろなって感覚は有ったケド、念のため古鷹達に硫黄島へ向けて、三回偵察を行わせた。

 

“確認できず!繰り返す、確認できず!”の無線を聞いた時は嬉しかったわぁ。負けん気の強い大井さえちょびっと泣いとったもん。

 

ウチはと言うと内心じゃ、重たい戦闘用艤装を放って寝転びたい気分やったが、そうもいかん。

 

「三日月、呉に繋いでくれ。多分いける筈や」

 

「はい!えっと、どう報告を?」

 

「そうやな。・・・深海棲敵群の排除を完了。洋上の補給と、人数分の勲章を頼む。何てどうや?」

 

きっと機材の前でイラついとる大淀に、こんなジョークは伝わらんだろうし、下手すりゃ司令に大目玉を食らうかもしれん。

 

けど、たまにはエエやろ?一番最初の、恐らくこっから先の物事から見ればちっぽけな、けれど確かな勝利の瞬間くらいは、さ。

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