ウチは龍驤   作:瑞彩

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歓喜・暗鬼・紙吹雪

「私、知ってますよこの言葉。号外でばら蒔かれたんですよね~“自衛軍奮戦!勲章求むの声が暁に轟く!!”これって龍驤さんだったんですね」

 

ウゲ、知っとったんか先生。つか、コイツ幾つなんや。かれこれ二十年近く前の話やぞ。親辺りから聞いたんか?

 

「こん時は最高に恥ずかしかったわ。勢いで言った事やったし、こう、昔の日記を読み返す気分」

 

んなもん書いた事ないけどな。

 

「黒歴史ってやつですね」

 

「先生、ウチのコト嫌いやろ」

 

「大好きですよ?」

 

「あっそ」

 

よぉ口の回る女やな。悪い気はせぇへんが。ケド、あら嬉しいワなんて言わへんで?乗せるのは好きやが、乗せられるのは大嫌いなんや、ウチは。

 

「あの、龍驤さん」

 

ハイハイ何や?お、学ランって事は中等部の生徒か。中々の美男子やな、愛宕辺りがおったら煩さそうや。

 

「ええで。答えられる範囲やけど」

 

「ありがとうございます。確かこの時、日本海上自衛軍鎮守府は、呉の他に三ヶ所ありましたよね?」

 

「横須賀、佐世保、舞鶴。対深海の拠点や」

 

「硫黄島奪還作戦時、これら所属の艦娘…じゃなくて、ええと」

 

「気にせんでええよ。艦娘が差別用語や思っとんのは政府と人権屋だけや」

 

「ハイ。他の鎮守府に所属していた艦娘は、増援に来なかったのですか?定時連絡が途絶えたら、普通心配になると思うんですが」

 

あれか。ま、知っとる奴も居るらしいし、これくらいなら話せるやろ。

 

「これはな、海上補給を受けた時に聞いたんやけど・・・」

 

島への航空偵察を繰返し、空取ったんを確信したウチら第二艦隊は、今や遅しと艦娘母艦を待っとった。

 

こいつは緒戦で生き残った通常艦艇を改装して、入渠施設やら何やらを取っ付けた代物で、移動基地みたいなもんやな。

 

ただ深海供に対してはマトモな防衛能力を持たんから、艦娘の護衛が必要なんやけど、いざウチらの前に現れた時は、無けなしのイージス艦を引き連れておったから、ギョッとしたんを覚えとるわ。

 

ほんで疲れた足引きずって、重い眠たい言いながら乗り込んで、ようやっと一息付いとると、ウチに呼び出しが掛かったんや。

 

「第二艦隊は補給を受けた後、待機、待機だ」

 

出頭した会議室に悩ましい声を響かせたのは、何と水雷隊のイケメン指揮官やった。

 

「島に攻め込まんでええんですか?」

 

「状況が変わったんだ。それを知らせるために僕が直接、前線に来たのさ」

 

戦意に収まりの付かんウチは、澄ました顔で攻撃停止と抜かす青年将校を、砲弾にくくり付けて撃発してやりたい気分やったが、何とか愛想笑いを浮かべて耳を傾け聞いた話しは、背中をじっとりと濡らす汗を冷たくするのに、充分な内容やった。

 

「君達が暴れている真っ最中、択捉島付近に敵部隊が大量発生した。政府はあらゆる手段を使ってロシア極東部隊と連絡を試みたが、敵の電波妨害によって遮断された。通常部隊の出撃準備中、深海棲艦に南下の動きがみられた。首相が各鎮守府にGOサインを出した」

 

「嘘やろ!?ウチらも早く行かな!!」

 

「落ち着いて。…結果のみで言ったら、何も起こらなかった。艦隊が海域に到着した時点で、深海供は姿をくらましたんだ。空自による偵察も行われたが反応は無し。連中が居た痕跡さえ確認出来なかった」

 

「んな訳が」

 

「僕もそう思った。けど事実だ。発見出来たのは鋭意撤退中のロシア通常艦隊。こちらはレーダー照射と数発の砲弾を浴びたが、損害は無し。御礼に数十基の砲口を披露した。極東艦隊は全速で海域から離脱した」

 

「ならええんやけど。しかし、不気味な話ですね」

 

「全く。情報部は作戦行動じゃないかと喚いているが、どうだろうな」

 

解らん事が多すぎる。と溜め息を溢す指揮官に、ウチは声を出さずに笑ったが、内心はたまったもんや無かった。

 

今までは、津波の様に押し寄せて、食い散らかすしかせんかった敵に、決して見落としちゃならん変化が有るんやないのか?

 

もし、敵が集中発生しとったら、第二艦隊は勝つ事が出来たんか?もし、ウチらが抜かれとったら、主力を択捉に取られた本土は一体どうなったんや?

 

たったの二十匹で、米海軍第七艦隊を撃滅した、あの怪物共が、港に殺到しよったら?

 

行き掛けに見た、呉の蝋燭みたいな灯火は、完全に跡形も無く、徹底的に破壊されていただろう。

 

部屋を出て、仲間に休息を命じたウチは、飯も食わずにシャワーを浴びた。ベタベタに張り付く汗と、恐怖感を洗い流すためや。

 

戦えない相手やない。今回は、キチンと勝ちを掴めた。けれど、絶対に油断しちゃならん。連中はいつでも、ウチらの息の根を止められる。

 

そんな風に考えとると手が震えてな、みっともないわホンマに。

 

ちなみにな、この戦闘でぶっ殺した人間モドキは、後に戦艦型、巡洋型と名付けられた。一線級の艦娘戦隊と正面から殴り合える、水上打撃部隊だったって訳や。この話を聞いた時は肝が潰れたで。

 

まァ泣こうが喚こうが命令されりゃ突撃するんが兵隊やから、何とか気分に収まりも付いて島の掃討にやって来た陸軍の対地艦娘…機甲歩兵に弱気を見せんと済んだんやけどね。

 

しかし、この機甲歩兵っちゅうのは凄いモンでなぁ。揚陸艦で浜にグワーっと押し掛けて、飛び降りた思ったらアホみたいなスピードで島を駆け回わるんや。

夜まで掛かる言われとった偵察をさっさと終わらせて、バンカー付きの前線基地まで構築しちまうんやから大したもんやで、アレは。

 

せやかて全部を陸にやらせる訳にいかんから、ウチらは荷揚げの手伝いをしとったんや。最初はだまぁって働いとったんやけど、まぁ、軍人とは言え女同士やから、お喋り始まんのは時間の問題やったわ。

 

「自分ら足にキャタピラ履いとんのか、SFやなぁ」

 

「謎の推力で水上スキーする、貴女達の方がよっぽどSFであります!」

 

「んなコト無いやろ。そっちは全身装甲されとるし、アニメか漫画の見た目やで」

 

「お陰で歩く棺桶なんてアダ名で呼ばれてるであります。我々としては、艦娘型の制服が羨ましいでありますよぉ」

 

「ええウチらの?こんなテラッテラの生地、不安なだけやん」

 

「ケド可愛いでありますで…七五三みたいで」

 

「千歳飴でド突き回すぞこら」

 

「結構槍玉に上がったりするでありますよこの話題。職業差別だって」

 

「この御時世に言っとる場合やないやろぉ」

 

「だからこそ、でありますよ。お洒落くらいしたいであります。我々の装甲なんて見た目だけで、海から撃たれたら、きっとパカパカ死んじゃうでありますから」

 

「自分が撃たれる時なんぞ、ウチらがみーんな殺られた後やから、恨みっこ無しやろ」

 

「それは確かに。ならば是非とも海の皆さんには奮戦していただき、我々の出番を減らして欲しいてありますな!」

 

顔を見合わせ、色白の機甲兵とゲラゲラ笑ってから別れを告げ、一通りの作業を終えて、交代の艦娘からへし折られんばかりの抱擁を受けた後、ウチらは母艦にのりこんで帰路に着いた。

皆疲れたんやろね、加古どころか龍田までヨダレだだ漏れ寝とったわ。

 

ウチはと言うと、アホみたいに苦い代用コーヒーで意識を保ちながら報告書と睨めっこや。学が無いとこう言う時にホンマ大変でなァ。いっくら学習ソフトが頭に入っとっても“指揮官らしい文面”何ぞ書けんのやもん。

 

最後の項目にサイン書き終わった頃には、もう呉が見える時間やったわ。

 

「ん~。帰ってきたって感じにゃ」

 

「うーちゃん一皮剥けちゃって、お父さんも見分け付かなくなってたりして!」

 

やたらと元気な鳳翔につれられて、眠うてひいこら上がった甲板は、第二艦隊の面子どころか他の乗組員達まで大勢が顔を出しとった。

 

「俺らくらいの歳は成長著しいからな!女子三日顔を合わさば何とやら・・・だ!」

 

ぎょーさん寝んねしたお陰か、天龍ちゃんはいつにもまして絶好調や。

 

「男子や男子。んな簡単に身長伸びるかっちゅうの。なぁ鳳翔」

 

「はしゃいでしまう気持ちは分かりますよ。勝って、その上生還できるんですから」

 

「そりゃそうやけど。ウチは何よりマトモなベッドにはよ潜り込みたいわ」

 

ほわほわアクビをしながら艦に揺られ、どんどん瞼が重くなって、もういっそ甲板に寝転んでしまおう思ったが、港で飛び込んで来た光景は、ウチから眠気を眠気を一発で吹き飛ばした。

 

そりゃそうや。同じ街とは思えんほど、キラキラと輝く街灯に照らされながら、大勢の人達が出迎えてくれたんや。

 

置いてきた艦娘連中とか整備部隊だけやないで。馴染みの定食屋のおっさんや、サ店のマスター。美人で有名な花屋の姉ちゃんに、近所の学生さん方。

 

呉の人間ぜぇんぶかき集めたみたいな騒ぎやったで。

 

大声出して手を振っとると、指揮官からの通達で、ウチらは再び戦闘用艤装を着込んだんや。せっかくならカッコつけて、お家に帰ろっちゅう訳やな。

 

こん時は恥ずかしかったわァ。音楽隊の演奏と紙吹雪の真っ只中を、先頭切って行進したんやもん。ウチみたいなのがやで?顔から火が出るトコやったで。

 

…しばらく歩いとるとな、警備員の制止を振り切って、女の人が列に駆け込んで来たんや。反射的に高角砲を使うトコやったんやけど、直ぐ、そうしなくて良かったと思ったわ。

 

「ゆみ、良かった、ゆみっ」

 

その人は、三日月の母ちゃんでな。

 

何度も何度も、ホントの名前を呼びながら、三日月を抱き締めたんや。顔や腕を、娘の無事を確かめながら、ぎゅうっと抱き締めとった。

 

最初は困ったみたいにしとったけど、最後には、つられて、三日月も泣いっとた。何かを我慢するみたいに、静かに泣いとったわ。

 

紙吹雪が二人の周りをひらひら舞ってな。綺麗な光景やったよ?芸術っちゅうか。芸術なんて全然分からんけどさ。

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