何にも楽しくない休暇が終わったら、またまた訓練漬けの日々やった。それが軍隊やし当然なんやけど。
鳳翔とよぉ二人でヒイヒイ言っとったわ。
特に空母同士の模擬戦闘訓練は苦手やったなぁ。駆逐連中や漁師のおっちゃん達が見物に来るのはエエんやけど、その内司令官やら参謀本部のお偉いさんまで来るようになってサ?
嫌やったわぁ緊張するもん。
《空戦技能訓練開始ィ!……鳳翔!艦攻を出すなぁ!……龍驤!これは白兵訓練とちゃうぞ!……おいそこの漁船!何をやっとるかぁ!!》
えらいすんませーんてな。
こんなんでも毎日毎日やっとったら、その内上手になって行くんやから、いや努力は大事ねウンウン。
ただこんな凪みたいな日常は、全て深海のドブネズミ共を殲滅するための日常でもあったんや。
「最近実弾演習増えてますね。おいお前ら胸触るなって!卯月!おい!そこは本当に駄目だろう!睦月、ち、ちょっと!」
その日も何時もみたいに食堂で食っちゃべり、何時もみたいに天龍が駆逐艦団子になっとった。
「せやなぁ。機銃弾どころか砲弾まで前の倍近く使いよるから書きもんが増えて大変や。小説家やあるまいし。ほいほい駆逐艦!その辺にしとき」
「景気良く撃てるのは良いんですけど、火薬の臭いが取れなくて。これじゃあ加古から嫌われちゃう…ところで鳳翔さんの食べ方、ゆっくりで可愛いですよね」
「へ?古鷹さん?何ですか?」
「気にしないでゆっくり食べて下さいね~。古鷹ちゃん、加古ちゃんは一緒じゃないの?」
「龍田さんに演習でぼろ負けしたのが悔しかったみたいでふて寝してます」
「龍田は強いからな!ふふん」
何で天龍が偉そうやねん。なぁんて突っ込もうとしとったら人影二つ。
「おっすにゃー」
「相変わらず喧しい連中クマ」
二艦の切れ者姉妹。呉鎮守府のアニマルズがバカでかいボストンバッグを肩に引っ掛けやってきたんや。
「お疲れさん。なに食う?ま、煮物定食くらいしか残っとらんけどな」
「あぁご飯はいらないにゃ。ちょっと挨拶に来たにゃあ」
「お、俺達なんかシバかれる様な事しました?」
「そっちの挨拶じゃないクマ。やる時は後ろから静にやるもんだ」
「その冗談か本気か解らんの怖すぎるからやめぇや。どないしたん?」
「…球磨達はちょっと北方に行ってくるクマ。詳しくは言えないけど。まぁそう言う事で一応ね」
「変わりに新人が入るから、しっかり可愛がってやってにゃ」
なんてあっさり言いよる。まぁ兵隊やし、命令即実行なんて日常茶飯事やけどさァ?…寂しかったわ。同期の戦友な訳やし。
「そうですか…せめて送別会でもやれたら良いんですけどね」
鳳翔が暗い顔しよるから、皆もちょっとしんみりしちゃったよ。ケド、当の二人はケロリとしたもんで。
「いやいやそんなの気にしないで良いにゃ」
「そうだクマ。球磨達は艦娘。戦地で戦ってこそ。ただの配置替えで大袈裟過ぎるクマ」
「にゃあ。そんじゃあ行くにゃ。大井と北上に宜しく」
「解りました!二人共死なないでくださいね」
「古鷹ぁ縁起でも無い事言うなクマ。そっちも頑張れクマ~」
手をヒラヒラ振って、二人はさっさと行ってしまった。
ヘリコプター初めて乗るクマ。
スーパー61にゃ。メーディ!
バカな事言うな!
ニャア!球磨が殴ったにゃ!
なんてアホな会話も一緒に、通路の奥に消えてってわ。
この二人は北方海域でとんでもない事件に巻き込まれるんやが、まぁそれは置いとくわ。確かそん時の話、本になってたはずやから、気が向いたら読んでみたらええよ。
ほんでまぁ、やれあの艦娘がどこぞの整備士と出来てるだの、やれ大井の北上を見る目付きがヤバイだのやっとったら、ある日、イケメンの指揮官から集合が掛けられた。
ニューフェイスがやってきたんや。
「皆、御苦労。知っている者もいると思うが、新人だ。配属先は追って通達。水打か雷戦になるから特に宜しくやるように。二人とも、自己紹介を」
「青葉型重巡洋艦娘、一番艦、青葉です!いやぁまさか呉の二艦に配属とは…これは頑張って撮らなきゃいけませんね!」
言うが否やフラッシュを焚くもんやから騒然としたわ。ブンヤだ!パパラッチだ!地雷を踏んだらサヨウナラ…いや物騒過ぎやろ。
まぁその場で大淀にカメラ取り上げられとったけど。
因みにこの青葉っちゅうのは休みやろうが守府やろうが前線やろうがお構い無しに写真撮っとってな。よぉウザがられとったが、皆それに助けられる事になるんは後の話や。
「ちょっと青葉、何か私がいたたまれないじゃない!こほん。同二番、衣笠です!国の海を守るため、努力邁進したいと思います!」
「ふつーぴょん」
「普通にゃし」
「普通ねぇ」
「普通だな」
「三日月は、普通が一番だと考えます!」
「アタシゃ眠くなってきたよ」
あァこりゃやってもうた。この癖が強い二戦でさぞ苦労するやろう。ウチがそう思った矢先、この普通ザ衣笠が突然、一人の艦娘に歩き寄った。
「皆さん酷い!…ん?くれあちゃん?」
「は?んむう、その名前は…捨てたよ。フフフ。アタシは加古ってんだ」
「イヤイヤ何言ってるの!私だよ、学校で同じクラスだった。塚本美沙希!」
「ああん?あー!ミサ!お前どうしたんだよ、疎開したんじゃ?つか痩せたなぁ!」
どうやら感動の再開らしく、きゃいきゃいやり出した。普通は止めるんやで?加古が言っとった名前を捨てるっちゅうのは冗談やなく、ウチらみたいな小娘が、個と命を捨てて、敵を殺すためには重要な事やったんや。
まぁでも、いざとなると難しいもんでもあったわ。
泣いとるんだもん、二人とも。
だがあんまり長引かせる訳にも行かんから、指揮官が割って行きよった。
「…同窓会は後に。集まってもらった理由はこれだけじゃ無いんだ…くれあ…ぷくく…」
これには全員笑ったわ。ちょい可哀想やけど。…本人も最後はヘラヘラしとったしヨシって事にしたってや。だって、くれあやで?
ちなみに一人だけ、にこーっとしたまんま切れ散らかした球磨みたいな雰囲気出しとったコがおった。古鷹ってやつなんやけど。え?わかる?スゴいな君ら。
一通り和やかになった所で大淀が咳一つ。指揮官が真面目な顔になり、会議室の証明を落としたんや。そんでプロジェクターに写されたもんを見た瞬間に、二艦の面子はみぃんな兵士の顔付きに戻った。
次の戦いが始まるんや。次の、戦争が。