カレンさんとイチャつきたいおはなし。   作:鹿頭

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カレンさんモノ増えろ…増えろ…
書いて思うんですけどマジで人気ないのか…?
認めん、認めんよそんな結末。私は断じて認めんよ


三話

 何かと騒がしい日常を送っている級友は相変わらずで何よりだと思った。

 

 本日も、こんな中途半端な時期に来た転校生だか留学生と知り合いだったらしく、一悶着を起こしていた。

 

 隣の席の友人様はダメダメな感じが未だ続いている…どころか。

 なんか『モウドウデモイイワー』モードに突入している。

 なんでも、好きなアイドル的なサムシングに何かあったらしい。

 

 詳しくは分からないがご愁傷様である、と思い心の中で合掌をしている。

 

 しかしだな、『こんな世界の方が間違っている』的な事をぶつぶつと呟くのは不健全だろう。

 

 アニメや漫画でも見てなさい。そこには理想郷があるぞ。夢見るだけなら自由だからな。腐海に沈むと戻れなくなるが。

 

 え、その夢が打ち砕かれた?なんかごめん。 

 

 その言葉を聞いた友人は、こちらを白い目で見つつ溜息を吐いて。「本当、夢がないわ」と、呆れるように呟いていた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 ───放課後。

 自転車で爆走している級友を横目に一人歩いて帰る。

 いつもいつも大変だと思う。

 その上後輩の面倒まで見ているとは、本当、忙しない奴。最近は輪をかけて忙しく見える。

 

 でもまぁ、南極行くよりはマシだろうとは思うが。

 

 

「そういう忙しさとは無縁で良かった……」

 

「そうね」

 

「うおっ!?」

 

 いつの間にか隣で歩いていたカレン。

 いきなり現れたので、声を上げて驚いてしまった。

 

「カレン…さん、またサボりですか」

 

「サボってません。これも仕事です」

 

「えぇ……」

 

 表情を変える事なく妄言を吐き散らすカレンに眉を顰める。

 本当、不真面目の代表格みたいな人だと思う。

 と言うより、どうしてこうも容易く抜け出せるのだろうかと言う点が、とても気になった。

 

「それにしても良いところに来ました。これも何かの導きです」

 

「………なんなんですか、今日は一体」

 

 この手のやり口には最早手慣れた物。

 またもや厄介事を運んでくれたのだろう。

 

「荷物を運んで貰おうかしら、と思いまして」

 

「えぇ……」

 

 今日も今日とて肉体労働系。つまりは直球の面倒事らしい。

 

「どうせこの後、惰眠を貪るだけでしょう、貴方」

 

「いや、勉強が……」

 

「ほら、早く着いてきなさい」

 

「えぇ……」

 

 無視しようにも気が引ける小市民根性が災いして、結局ついていく事になった。

 すわ何処にいくのだろうかと思いながら着いて行くのは附属校。要は彼女の勤務先だった。

 

「あーハイハイ成る程ね」

 

 目の前に並べられているのはよくわからない有象無象の器具やら書類が乱雑にダンボール箱の中に入っていた。

 

「めんど──私では持てませんので。これが何処へ運ぶかのリスト。では、お願いします」

 

「全く仕方ないなぁ……」

 

 妄言は聞かなかった事にして、荷物を持ち上げる。

 

「よいしょ──いや重っ」

 

 荷物が見た目以上に重く、油断をした。

 転ぶまでとは行かなかったが、バランスが崩れてよろける。

 

「ふふ、無様」

 

「お前さぁ……いいやもう」

 

 ふと、どうしてこんな事をしているのかと冷静になった自分を振り払い、荷物運びをする事にした。

 

 

◆◆◆

 

 

「遅かったですね」

 

「お前本当さぁ……」

 

 渋々荷物を運び終えてカレンのもとへ戻った第一声がこれだ。

 流石に気が滅入る。

 それに遅かったのは不可抗力だ。自称美人女教師に見つかって仕事を倍以上に増やされたからである。

 そういうのは、もっと違う人の役だろうに。災難だった。

 

「さて、お腹が空きました。奢って下さい」

 

「人にタカるな…いや待て、仕事はどうした」

 

「終わりましたので」

 

「終わらせたのはどこの誰ですかねぇ!」

 

 先生…とはとうの昔に扱ってもいないし思ってもいないが。

 いくらなんでも人遣いが荒いを超え、最早下僕が何かにでもなった気分だ。

 

「ええ、そこは感謝していますよ」

 

 だが、彼女の笑みに触れると何処か毒気を抜かれてしまうのがどうもやりにくい。

 

「ですので、食事でも、と」

 

「え、でも奢るのこっちじゃん」

 

「冗談ですよ。私が奢ってあげます」

 

 その言葉に目を見開いて驚く。

 そんな言葉が出たのか、と。

 そんな考えが、この女に存在していたのか、と。当然そんな筈はない。

 

「………メニューは選べるんでしょうね」

 

「え?」

 

「え、じゃねぇよ!?と言うかどこの店!!?」

 

「この間の店ですが……」

 

「麻婆豆腐は食べませんからね」

 

 この間、間違って入ってしまった事のある級友から甘酢あんかけ系で回避出来るとの叡智を得ている。抜かりはない。

 

 いや待て、どうしてあの店前提で───

 

「食べないんですか?」

 

「食べないです」

 

「そうですか……」

 

 悲痛な面持ちでこちらを見つめるカレン。

 物憂げな表情に意気を削がれる。

 

「な、何ですか…?」

 

「いえ、この間の貴方の反応がとても佳かったものでして。是非ともまた見たい……と思ったのですが。残念です」

 

「あーはいはいざんねんでちゅねー」

 

 バカにするように、ワザと戯けてみせる。

 性格が悪いのはもう慣れているから。

 

「そうね。残念。実に残念です」

 

 ふふふ、と不気味に笑うカレンの様子に、漠然とした失敗感を味わった。

 

 

◆◆◆

 

 

「すみません、麻婆豆腐二人分で予約していた者ですが」

 

「アイ、できてるアル」

 

「???????」

 

 まるで意味がわからなかった。

 店に入って着席、そして流れる様に出された麻婆豆腐。

 全てが自分の理解の範疇を超える出来事……だった。

 

「さて。頂きましょう……おや、どうしました? 出荷される前の家畜みたいな顔ですが」

 

「オイ、どうして……麻婆がここに…」

 

 全身から冷や汗が止まらない。

 何故、どうして。

 甘酢あんかけで凌げるなどと文字通り甘い考えをしていた自分を呪う。

 

 全てはこの為。全ては、この瞬間の為にこの女は───

 

「無駄な時間を省きたい、と考えた結果です」

 

「そうじゃない。食べないって───」

 

「はあ。やはり私に食べさせて欲しいのですか? このケダモノ」

 

 そう言い終わるよりも早く、素早くレンゲを手に取り血の海を掬い───

 

「─────!!!??!??!?」

 

「………勘違いしないで下さい。これは、そう。タダの御礼ですから──ふふ」

 

 口の中に、二度と味わいたくない、二度と味わうまいと心に固く誓った筈の衝撃が走る。

 

「はい、あーん」

 

「頼む……止めっむぐっ」

 

 休む間も無く次から次へと襲いくる絶望。  

 

───だが。パンドラの箱然り。希望は最後にこそ残される。

 

「あーん」

 

「待て…辛くない?意外と、辛くない──」

 

 痛いだか辛いだか分からない世界。

 

 全ての感覚が麻痺した、その果てに何かが見えてくる。

 

「もしや──これが、これこそが旨味ッ!」

 

 辿り着いたのだ。

 祈りと祈りと願いの果てに。

 この辛味の地獄に下りてきた、救いの手に───

 

「水です」

 

「ああ、どう───いったぁぁぁ!!!?」

 

 救いの手と思い込んだのは蜘蛛の糸と言う甘い夢。ノアの大洪水の如く旨味は洗い流された元の痛みが舞い戻る──!

 

「あーん」

 

「むぐっ…う、うーん」

 

 最早痛みは脳の許容を越え、意識は自ら眠る事を選んだ───!

 

「……おや。気絶しましたか」

 

 不満げにため息を漏らすカレン。

 伸ばした手をやるせなく自らの口に運んでいく。

 

「……………」

 

 正直言って。麻婆豆腐が取り分けて好物、と言う訳ではない。

 ただ、この店の。

 この料理の()()が。自らの生を実感させると言うだけで。

 

 ───思えば。

 

 目の前に倒れ臥す彼と、初めて会ったのもこの店だ。

 

 彼は監視対象ですらなかった。

 

 魔術側にも、教会にも関わりのないただの一般人。

そんな人が偶々この店に訪れて、こちらを見つめてくるのだから、またぞろタチの悪いナンパか何かだと思ったが。 

 こちらの事を先生、と認識していた辺り、ただの偶然でここに来て、声をかけてきたのだろうとわかった。

 

 そして───この店が初見だと知って、途端に愉しくなった。

 オススメは何かと問うた彼に最高のスパイス(愉悦)を勧めて、予想通りの愉しい反応してくれた彼。

 

 そんな彼に追い討ちをかけるのも楽しいもので。とうとう、こんな風に気を失っていた。

 

 目覚めた時に逆上せず、襲う事もしなかったのは、単にヘタレなだけだろうと思うが。

 

(……それにしても)

 

 どうして自分はこうも彼を気にするのか。 

 

 次に声をかけたのは──純然たる気紛れからだった。

 

 面倒な先輩の所へ向かう足にしてやろうと思ったのは、その後だったけれど。

 

 実際、彼は文句を言いながらも従ってくれた。人物としては好ましい部類に当たるのだろう、彼は。

 献身的と言えば聞こえは良いだろうか。

 

 だとしても、三回目は何故だろう。

 

誰かを弄るも陥れるのもいつも通り愉しいのだが。

こうまで個人に拘る様な事は今まで───

 

「あっ、雨」

 

 地面を叩きつける音に思考が浮上する。

 外は、雨が降っていた。

 当然、傘は一本も無い。

 

 

「………まぁ。別に構いませんか」

 

 食事を終えたカレンは勘定を終えると、物言わぬ彼をとある布で縛り上げ、傘がわりにして歩き出していった。


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