仮面少女
少女がケルディックに滞在を決めてから、もう一週間が経った。彼女は滞在期間中、何もしないで町をただ見て回るというのは時間が余りそうなので、町の酒場宿で働かせてもらっていた。
「ルディちゃん、こっちにもその料理くれよ!」
「はーい! マゴットさん、肉じゃがをもう一つお願いします!」
「はいよー!」
彼女の名前は、ルディ・マオ・・・名前の雰囲気からも分かる通り、帝国の住民ではない。
「はい! 肉じゃがです」
「ありがとさん、マゴットさんのコレ美味いんだよなぁ・・・」
「肉じゃがに限らず、あの人の料理はどれも美味しいと思いますよ」
「はは!違いない! ところで、ルディちゃん・・・今度『おーい、ルディちゃん。酒の追加頼むよ!』」
「はーい、ただいま!」
ルディは話していた男との会話を打ち切り、カウンターに酒を取りに向かう。
男の手は彼女の後ろ姿を掴むように差し出されていたが、やがて諦めたのか手を下ろして溜息を吐いた。隣に座っていた男がニヤついた顔で男に椅子ごと近づき、ヒソヒソと話し始める。
「よぉ、【また】か?」
「ちがう!」
「コレでもう何回目だっけか?」
「憶えてない!」
「えーと・・・四日前と二日前と・・・」
「三回だよ!勝手に数えるな!」
「やっぱり憶えてるじゃねえか」
「ちくしょう・・・いつも最後まで言えないぜ」
「そのうち言える日が来るだろうよ、今は酒でも飲んで忘れな・・・」
今日も酒場は平和そのものだった・・・。
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「お疲れ様ルディちゃん、今日はもうあがって良いよ」
「もうお仕事はないんですか?」
「あなたのお陰でね、あとは今日の分の勘定だけさ」
「では、お先に失礼しますね」
半日分の仕事を終えたルディは、酒場宿の自分が借りている部屋に戻ると、ベッドに折りたたんであった普段着に着替えた。
着替えを終えたルディは窓の外に広がる、月明かりが照らしたケルディックを見つめていた。
一頻り眺め終えたのか、彼女はトランクを開けて中から何かを取り出し始める。
取り出されたソレは・・・
夜の帳のように黒い服だった。
彼女はまるで着慣れているかの様に、その黒衣を身に纏い、窓際に立つと再びケルディックを見つめる。
「・・・・・・・・・良い夜ね」
「少し・・・散歩にでも行くとしよう」
先程までマゴットと話していた彼女の雰囲気は跡形も無く消え失せ、何も感じられない声で一人呟き、その音は夜の闇へと飲まれた。
昼の仮面を外し
夜の仮面を身につけ
少女は夜の闇へと消えた。