黒の軌跡   作:八狐

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黒と白の戯れ

「・・・・・・」

 

「えーっとこれでもない・・・これも違う」

 

部屋に隅で壁に寄りかかり、私は彼女の作業が終わるのを待っていた。

 

今のところ部屋に近づいてくる気配は無いものの、こんな都合の良い状況が何時までも続くとは思えない。

 

彼女にはもう少し急いでもらいたいところだ。

 

「人が近づいてくる気配は無いけど、長居すると危ないですよ」

 

「大丈夫でしょ、君が居るし」

 

「むしろ私が居ると危ないです」

 

「ちょっと・・・本当に襲い掛からないでよ?」

 

彼女は此方を警戒するようにチラチラと見ながら、書類とにらめっこをしている。

 

「・・・・・・ん、これだね」

 

「ガーちゃん、おねがい」

 

先ほどまで書類の山を漁っていたかと思えば、今度は見つけた書類を白い物体に見せている。

 

「暗記でもさせるんですか?」

 

「この子はアガートラムって言って、色々と助けてくれるんだ」

 

「私はガーちゃんって呼んでるよ」

 

「なるほど・・・その子に覚えさせれば、書類を持ち帰る必要もない」

 

「そ、だから確実に確かな情報を持ち帰れるってわけ」

 

彼女が従えているアガートラムは、彼女の意思で自由に消したり、出したりできるようだ。

 

必要な情報を覚えさせて、帰るまで消しておけば、重要情報を盗まれた事すら気づかないだろう。

 

あるべき場所に書類を戻し、すばやく脱出すれば・・・という条件付きだが。

 

「うん、もう終わりかな」

 

「さっさと移動しましょう、同じ場所に長く留まるのは

見つけてくれと言っているようなものです」

 

付近に人の気配は無いが念のため、ゆっくりとドアを開ける。

 

「・・・よし」

 

「ちょっと警戒しすぎじゃないかなぁ・・・」

 

「用心しすぎて困る事はないです。

 そちらの仕事は、もう終わりですか?」

 

「うん、私の仕事は終わり!」

 

「なら、今度は私に付き合ってください」

 

「持ちつ持たれつってやつだね、いいよ」

 

「格納庫の場所とか知りません?」

 

「わかるけど・・・何しに行くの?」

 

「中身を見たいです」

 

「中身って・・・何か欲しい物でもあるの?」

 

「誰が戦車や、装甲車を欲しがるって言うんですか」

 

「ふーん・・・ま、いいや。格納庫はこっちだよ!」

 

先ほどのように、私が先行する彼女を追いかける図になる。

 

道がわからないから付いていくしか無いのだが、前を走られると何かヘマをしそうで、どうにも落ち着かなかった。

 

 

彼女の案内で、格納庫に向けて真っ直ぐ突き進む。

 

私はただ黙って付いて行っているだけだが、確実に近づいているという確信があった。

 

先ほどの部屋にたどり着くまでの警戒度が違う。今進んでいる通路はこの先に余程大事な物があるのか、兵士の数と警備装置の数が段違いだ。

 

「ストップ」

 

「・・・また?」

 

「通路の先に三人居る」

 

「ありゃ・・・どうする?」

 

「制圧します、私は奥の二人」

 

「私が手前のやつだね、オッケー!」

 

通路の陰から飛び出して、まず私から見て手前の兵士の首に、小太刀の峰で一撃を叩き込み昏倒させる。

 

目の前の仲間が突然たおれた事に動揺したのか、私を見ても対応出来ずにいた。

 

「遅い」

 

もう一人も今倒した兵士と同様に、峰を使い一撃で昏倒させる。

 

そして、私より少し遅れて飛び出した彼女が、アガートラムを出して最後の一人を殴り飛ばした。

 

「隠密戦闘もこなしますか・・・やりますね」

 

「伊達に諜報員しているワケじゃないってね」

 

見回りを倒して、奥へ奥へと進んでいく。

 

しばらく進んでいくとT時の通路になっていて、道が二つある場所に出る。

 

「ここは右だね」

 

そう言って右に走っていこうとする彼女の手を掴んで、私はそれをやめさせる。

 

「どうしたのさ?」

 

「・・・微かに気配がある」

 

通路からこっそりと先を盗み見ると、そこには此方をじっと見ている兵士がいた。

 

「・・・動きそうも無いですね」

 

「てことは、こっちは駄目か」

 

「こっちが近道だったんだけどな」

 

反対の通路も窺ってみると、しっかりと兵士が配置されていた。見つからずに通り抜けるのはまず無理だろう。

 

「・・・ところで、何時まで僕の手握ってるのさ」

 

「僕と手繋ぎたいの?」

 

「・・・・・・何があっても絶対に手を離さないで」

 

「へ?」

 

説明を求められる前に、私は月光蝶を使い気配だけでなく、姿すらも完全に消す。

 

その時、手を掴んでいた彼女も一緒に見えなくなった。

 

「な、なに今の?」

 

「先に進めばわかります」

 

手を掴んだまま通路を右に進み、堂々と通路の真ん中を歩く。

 

「ちょっと・・・これ絶対バレてるって・・・!」

 

「見えていなければ問題ありません」

 

「見えていなければって、まさか・・・」

 

「しっ・・・・・・口を噤んで」

 

兵士はこちらをじっと見据え、動かない。

 

ゆっくりと音を立てずに歩き、たった今・・・・・・兵士の前を通過した。

 

「もう大丈夫でしょう」

 

「プハッ! ・・・はぁ、苦しかった」

 

「息も止めろなんて言ってませんよ・・・」

 

「そ、それで? 今のは・・・」

 

「あなたも知っている通り、姿を隠す技」

 

「やっぱりね、いいなー私にも教えてよ」

 

「良いですよ」

 

「その代わり、片道切符を買ってもらうけど」

 

「やっぱり遠慮しとくよ・・・・・・」

 

 

 

 

 

_____________________________________________________

 

 

 

 

 

 

奥へ進んでいくと、大きな鉄の扉が目の前に現れた。

 

「ここ?」

 

「うん、ここが格納庫だよ」

 

巨大な鉄の扉は押しても引いてもビクともせず、壁際に設けられた機械端末で電子制御されているようだ。

 

さすがに私でも、これほど大きな鉄の塊をどうにかする術は持っていない。

 

「・・・無駄足ですか」

 

「ロック解除して進むのは無理だね」

 

たかが扉一枚に邪魔をされて、お目当ての戦車が見れずに退散するのは惜しいが・・・。

 

もしかすると、扉を発破するなり兵士から解除方を聞き出すなりすれば、開けられるかもしれない。

 

だが、どちらの方法も今の状況には、あまり向いていない。

 

まず、発破は大きな音が伴い、後者は時間が掛かるため、あまり時間を掛けすぎると自分達の存在がばれてしまうだろう。

 

倒した兵士達は消したのではなく、物陰に隠して一時的に見えなくしただけなのだから。

 

仕方ないが、ここは大人しく脱出するべきだろう。

 

帰りも彼女の面倒を見るのかと思うと、あまり乗り気では無いけど。

 

「・・・ん? 何故その子を出してるんですか?」

 

隣にいる彼女がアガートラムを出し、構えを取っている。

 

「なぜって・・・この扉をどうにかする為だよ?」

 

「どうにかする?」

 

「・・・・・・まさか!?」

 

「ガーちゃん、ハンマー!」

 

アガートラムが変形し、巨大なハンマーへと姿を変える。

 

「ドッカーン!」

 

それを彼女は軽々と持ち、突破が不可能に思われた巨大な扉を、一発で吹き飛ばした。

 

無論、耳鳴りが残る程の大きな音を出して。

 

開いた道を前にして、私は呆然と立ち尽くし、開いた口をしばらく閉じる事が出来なかった。

 

「開いたよ!」

 

「・・・・・・確かに開いてますね」

 

「すごいでしょ!」

 

「素晴らしいと思いますよ」

 

「あなたが出してくれた騒音が」

 

「まー良いじゃん、どうせ遅かれ早かれバレたんだし」

 

「よし、縛り上げて領邦軍に突き出そう」

 

「・・・・・・ちょっと、まさか本当にやらないよね・・・?」

 

無言で懐からロープを取り出し、ゆっくりと彼女へと近づいていく。

 

「な、なんでロープ持ってるの?」

 

「何故だと思います?」

 

 

「ほんとに縛ることないじゃん!?」

 

「しばらくそこで反省しなさい」

 

「しかも放置!?」

 

問題児を手持ちのロープで、海老反りに縛って放置する。でも一応、本格的にやばくなったら助けるつもりだ。

 

さて、折角開けてくれたのだから中を拝見しなければ損だろう。

 

格納庫の中に足を踏み入れると、そこには美しくも恐ろしい光景が広がっていた。

 

「なんですか、この戦車の数は・・・」

 

右を見ても整列、左を見ても戦車の整列。整然と並ぶその光景は美しく、だが同時に恐ろしくもあった。

 

「貴族派と革新派の対立が、それほど強くなってるってことでしょ」

 

「貴族は、戦争でも起こすつもりですか?」

 

「このまま行けば、そうなるだろうね」

 

これほどの火力があれば街ひとつ程度なら、抵抗すらさせずに制圧させられるだろう。

 

「・・・ところでさ、何か僕に言う事はないわけ?」

 

「この世界とお別れする準備が出来たんですか?」

 

「そっちの話じゃないってば!」

 

「それより、早く出ましょう」

 

「長居は無用です」

 

「なら、来た道を戻らないとね」

 

「その道はもう使えません」

 

私はフードを被り直し、声帯を男のものに変えて入り口のほうに向き直る。

 

 

「見つけたぞ、侵入者共め!」

 

 

「既に道が塞がれている」

 

「みたいだね」

 

兵士達が大勢、壊された扉から入ってくる。その全員が、私達に向けて銃を構えている。

 

「大方、革新派からの差し金で侵入したのだろうが・・・」

 

「この砦に侵入したのが運の尽きだったな」

 

「無事にここから出られると思うなよ!」

 

 

「定番のセリフだな」

 

「何かセリフが、かませっぽいよね」

 

「き、貴様ら・・・」

 

「生きて帰れると思うな!」

 

隊長らしき男が、手を挙げると兵士達が一斉に狙いをつけ始めた。

 

私は自分の獲物を取り、彼女はアガートラムを出し臨戦態勢に入る。

 

「撃て!」

 

彼らの銃が一斉に発砲される。しかし、その弾が私達に届く事はなかった。

 

私は二振りの小太刀で弾を全て叩き落し、彼女に至っては謎の障壁で弾を全て防いでいた。

 

「そんなの痛くも痒くも無いね」

 

「フフ、下手な鉄砲も数を撃てば当たるというぞ?」

 

「う、撃て・・・撃てー!」

 

号令を受け、ひたすらに銃を発砲する兵士達。撃たれた弾を全て叩き落し、あるいは防ぐ私達。

 

「ば、化け物め・・・!」

 

「悪いが、これ以上お前達の的当てには、付き合っていられない」

 

「逃げるぞ」

 

「りょうかーい!」

 

懐から数本、暗器を取り出して兵士達との間に投げる。

 

投げた暗器は兵士達の前で爆発し、爆煙がそのまま視界を阻害する壁となる。

 

「逃げるって言っても、ここにあの扉以外の出入り口はないよ?」

 

「無いなら作れば良いだろう?」

 

「それなら任せといて!」

 

彼女が壁の前で止まり、アガートラムを出す。

 

「ガーちゃん! 思いっきりやっちゃって!」

 

アガートラムの一撃に、ただの石壁が耐えられる筈も無く、ただ一発のパンチで、そこには大穴が作り出されていた。

 

「お見事」

 

二つ目の出入り口から外に飛び出すと、中庭のような場所に出たが、城壁のような高さの壁に再び阻まれてしまった。

 

入るときに登って来たのだから、壁を越えるくらい造作も無い。しかし、今は小さい子供という荷物を抱えている。

 

「さて、どうするか」

 

「壊しちゃう?」

 

「いや、さっきよりも厚い壁だ。

 一発で吹っ飛ばすのは無理だろう」

 

「じゃあ飛び越えよう」

 

「出来るのか?」

 

「ガーちゃんが飛べるから余裕だよ!」

 

なるほど、おかげで私もあっさりと出れそうだ。

 

「見つけたぞ、捕まえろ!」

 

今頃になって追いついた様だが、もう遅い。

 

二人ほぼ同時に飛び上がり、各々の方法で壁を飛び越える。

 

飛び越える際に、追っ手の兵士達に爆発する暗器を投げておく。

 

私が地面に着地するかしないか位で爆発と共に悲鳴が聞こえてきたので、うまい具合に当たってくれたのだろう。

 

中々タフな連中だったから、それでも追いかけてくるかもしれないが。

 

 

 

 

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砦から離れたあともしばらく走り、人気の無いところで止まる。

 

白い彼女もアガートラムを伴って降りてきた。

 

「間一髪だったね」

 

そういう彼女の顔には冷や汗ひとつ無く、むしろ楽しかったという感情が表情から見て取れた。

 

「まったく・・・。

 何処かの誰かのせいで酷い目に遭いました」

 

「もう過ぎた事なんだから、忘れようよ」

 

「・・・・・・お陰で目的が達成できた事は事実ですから、一応感謝します」

 

「そうそう!」

 

そう言って悪びれる様子も無く笑う彼女は、とても潜入など行う人物には見えない。

 

歳相応の普通に生きている少女にしか見えなかった。

 

「ていうか、声戻したんだ?」

 

「バレてしまったあなたの前で変えても、無意味でしょう?」

 

「だから領邦軍の前だと変えてたんだね」

 

「本当なら今この時も、さっきの状態だったんですけどね」

 

「もういいじゃんー、今回は一緒に仕事できて良かったと思うよ」

 

「あなたの仕事は終わりましたけど、私はまだですよ?」

 

武器を鞘から抜き放って、ゆっくりと白い少女に近づいていく。

 

「・・・・・・あー、ちょっと用事思い出したよ」

 

すると彼女は素早くアガートラムに乗り、空に急上昇して行ったかと思うと、あっという間に見えなくなった。

 

「・・・速いですね、もう見えなくなりました」

 

彼女の事はまた今度会った時にでも考えれば良い、そう思って私は町に向かって歩き出した。

 

(何となく・・・・・・あの子とはまた会う気がしますし)

 

 

互いの名前も知らない、二人の少女の共演は一旦幕を閉じる。

 

もし、再び肩を並べる事があるとすれば、それはもう少し先の事になるだろう。

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