場所を移動して、私達は宿酒場に来ていた。
「それで、どうします?」
「もちろん、マキアスを助けます」
「相応の準備が要りますね」
「多分、砦に連れて行かれたと思う」
「あの砦は一度見た事がありますけど、警備が厳重です」
「正面からはまず無理だね」
「手薄な所から侵入するのはどうでしょうか?」
「まわりは分厚い壁、正しく城砦です・・・」
「無理だな・・・」
全員で作戦を考えるが、まったく妙案と呼べるような物は浮かばない。
「煙幕でかく乱する?」
「そんな事をしたら、フィーちゃんが危ないです」
「というか、なんでそんな物もってるんだ・・・」
「乙女の嗜み」
「た、嗜みって・・・」
「私も持ってますよ、煙幕」
「何であなたも持ってるんですか・・・」
「乙女の嗜みです」
「・・・・・・もしかして委員長も持ってるのか?」
「持ってません!」
という具合に案は出るが、決定的な物は出ない。四人で唸って、必死に考えていると・・・何気ない会話が聞こえてきた。
「そういやマスター、地下水路の様子は最近どうだい?」
「最近はまったく手付かずな様だ」
「お陰で魔獣が湧き放題さ」
「確か・・・領邦軍がすぐに見回りに行ける様に、砦に繋がってたよな?」
「その通り、だが今では魔獣の楽園だ」
「また近いうち君に、依頼が行くかもしれないな」
「ははは、その時は喜んで引き受けるさ」
そう言って、男はバーを出て行った。
「・・・みんな、今の聞いたか?」
「はい」
「はっきりと」
「地下水路を探そう、そこからならきっとバレずに行ける!」
目標を固めた私達は、二手に分かれて入り口を探し始めた。
リィン&私、エマ&フィーという組み合わせだ。
「それで、どこを探します?」
「委員長達は中央広場を探すみたいだ、俺達は駅前通りを探してみよう」
手当たり次第に聞き込みをしていき、ようやく地下水路の入り口を見つける事に成功した。
彼がもう片方の組に連絡したので、もうじき合流できるだろう。
「・・・こうして一緒に行動するのは、ケルディック以来ですね」
「あの時はルディさんが居てくれて、本当に助かりました」
「私が居なくてもあなた達ならきっと、似たような結果に終わったでしょう」
「私はただ少しだけ手助けをしてあげただけ」
「その少しの手助けに・・・俺達は助けられました」
「・・・今回もあの時ほど助けられるかは、わかりません」
「でも、私なりにお手伝いはさせていただきます」
そんな他愛無い話をしていると二人が合流してきた。
「ここが入り口みたいだ」
「ん、でも鍵が掛かってるね」
「街中なのに武器で堂々と壊すわけにも行かない」
「何とかして開ける方法は・・・」
できる事なら私も、鍵開けのような技はなるべく使いたくない。
でもこのメンバーで開錠できるのは多分私だけだ。
仕方ない、と渋々私が動こうと思ったら、意外な人物が動いた。
「委員長・・・鍵開けなんか出来るのか?」
「昔、おばあちゃんの家で本を読んだので・・・多分」
本を読んだくらいで出来るようになるなら、この世界は裏家業の人間ばかりになるだろう。
そもそも本なんて本当にあるのだろうか?
半信半疑で彼女の仕事を見守っていると、金属が地面に落ちたような音が響く。
信じがたい事に彼女は見事、開錠に成功してみせたのだ。
・・・・・・余程その本の解説がわかりやすかったらしい。
「何とか出来たみたいです」
「ナイス」
「すごいな委員長」
「いい仕事です」
「さあ、急ごう!」
地下水路に突入すると中は薄暗く、魔獣も徘徊しているようだ。
「・・・・・・そういえばルディさん」
「なんですか?」
「今思い出したんですけど、あなたも鍵開け出来ましたよね」
「・・・・・・過ぎたことはもう良いじゃないですか」
後ろの方でエマさんがガックリと肩を落としている。何か不味い事でもあったのだろうか?
「結果的に入れたんだから、問題ない」
「その通りです」
(・・・・・・そろそろあっちの方も進展があるかな)
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私は再びオーロックス砦に侵入していた。緑髪のマキアスという青年を助けるために来たのだ。
連れて行かれた理由がなんであれ、原因の一部を私が作ってしまったのだから。
今回は着替えていない。見つかると不味い事になるため、月光蝶を発動し私という存在を希薄にする。
「始めますか」
前と同じ要領で、外壁を跳躍で飛び越え侵入し、緑髪の彼を探す。
彼ら兵士は前はもちろん、左と右も見て歩哨している。
それでも私を見つけられない、見る事ができない。
この状態の私は誰にも見つける事はできない、それが出来るのは余程の猛者だろう。
目の前で私が手を振っても気づく事はない。
それにしても、これだけ兵士が居るのだから何か情報を漏らしても良いはずだ。
無理矢理に吐かせても良いが、それだと後が面倒なので最後の手段にしたい。
「聞いたか? さっきレーグニッツ帝都知事の息子を捕まえたそうだ」
(ん、良さそうな会話・・・)
「ああ、聞いたよ」
「これで奴らに一泡吹かせられるな」
「革新派のやつらも大人しくなるに違いない」
(ああもう、早く捕まってる場所を言ってください・・・)
「それで肝心なそいつはどこに居るんだ?」
「いまごろ地下牢で助けてーって泣いてるだろうよ」
「面白そうだな、後で見に行くか」
(地下牢・・・急ごう!)
兵士の間を通り抜け、監視の目を騙し、砦中を探し回った。
そしてようやく・・・その入り口である階段を見つけた。
(此処に緑髪の彼がいるわけですね)
降りていくと見張りの兵士などが居ない。良いタイミングで降りられたのか、それとも最初から放置されていたのかわからないが、このチャンスを逃さない手はない。
月光蝶を解いてから、緑髪の彼の前に歩み出る。
「君は・・・!」
「助けに来ました」
「ありがとう・・・でも鍵が掛かっている」
「鍵なんて必要ありません」
そういって牢の扉の前にしゃがんで、針金を差し込む。
少しカチャカチャと弄ると、カチャンという錠が外れる音と共に、軋む音を出しながら扉が開いた。
「ぴ、ピッキング!?」
「さ、急いで脱出しましょう」
月光蝶を使えば来た道を戻っても、脱走が発覚する危険はあまりないだろう。
「いいですか? 静かに、素早くです」
「わ、わかった・・・・・・」
彼の手を掴もうとした時、奥の方から小さな爆発音が聞こえてきた。
「・・・・・・静かにと言った傍から爆発物ですか」
「爆発物? 何の話だ?」
どうやら彼には聴こえなかったらしい。余程小さな音だったのかもしれない。
地下牢か
ここのどこかにマキアスさんが・・・。
「この声は・・・!」
「お迎えが来たみたいですね」
奥から聞こえていた声が段々近くなり、ついに声の主たちが姿をあらわした。
「マキアス!」
「ふん、無事だったようだな」
「君の方こそな」
「・・・・・・ルディが二人居る」
「そういえば・・・」
リィンが後ろを振り返ると、【もう一人の私】がにっこりと笑って手を振る。
彼が此方を見ると、私もにっこりと笑って手を振る。
「・・・・・・二人いる!?」
「あの・・・・・・静かにしなきゃいけない状況だってこと、わかってます?」
なんだ・・・?
なんで話声が・・・・・・。
パチリと指を鳴らしてもう一人の私・・・分け身を消すと招かれざる客人に向き直った。
「な、なんでこいつらがここに・・・!?」
「それにあなたはユーシス様!?」
此処で手間取られて脱出できなくても困る、彼らには悪いけど私が片付けさせてもらおう。
私は口笛をひとつ吹いて兵士の注意をこちらに向けさせると、クラフトを使った。
「!?」
「はぁ!」
小太刀を居合いの容量で抜き放ち、振り抜くと、そこには白刃の白い軌跡が作り出した月輪が出来ていた。
「があ!?」
「ぐふ・・・何、が・・・?」
「す、すごい・・・」
「今の内に脱出するぞ!」
「ああ、今なら引き離せる!」
────────────────────────────────────────────
グオオオオオオオオオオオオ───・・・・・・
地下水路を少し進んだあたりで魔獣の鳴き声が響き渡った。
「なんだ今のは・・・!?」
「地下牢の方から・・・鳴き声?」
「たぶん、軍用に訓練された獣だと思う」
「ふん・・・そんな物まで用意しているとはな」
「おい、冗談じゃないぞ・・・!?」
「・・・・・・もう少し急いだ方が良いかも知れません」
何かに追われているという焦燥感で、無意識に走るスピードは上がって行く。
しかしどうやら向こうの方が速い様で、もう微かに足音が聴こえる位まで追いつかれていた。
「このままじゃ不味いぞ・・・追いつかれる!」
「それなら逃げ切るまで、待ってもらいましょう」
私は懐からワイヤーを取り出して通路の両壁に張り巡らせる。
するとすぐ向こうから来た大型の魔獣がワイヤーに引っかかり、此方に来れずに吼えたりワイヤーを噛み千切ろうとしたりしている。
「少しは時間稼ぎが出来そうですね」
「よし、今の内に距離を稼ごう!」
ワイヤーを噛み千切ろうとする魔獣は犬のような姿をしていて、まるでケルディックで見た犬の魔獣を大きくしたような姿をしていた。
違いといえば甲冑を着けているかいないか位だろうか。
ワイヤーに引っかかっている魔獣を一瞥して、リィン達の後を追いかけようとした時だ。
一匹の後ろから、もう一匹が助走をつけてワイヤーに飛び掛ってくる。
助走を得て、勢いをつけた巨体から繰り出される鋭利な爪の一撃は私のワイヤーを易々と断ち切って見せた。
「すごい威力です・・・っね!」
そのままの勢いで私に突っ込んでくる魔獣をサイドステップで避けて、一撃を入れようとするともう一匹がそれを妨害してくる。
そして二匹は私の周りをグルグルと回りだした。
「いつぞやも見ましたね、その動き」
「あなた達にとって、私は獲物ですか」
私の呟きを肯定するようにひと吼えして、飛び掛ってくる。それをみて私は暗器を投げようと構えるが、それを投げる事はなかった。
どこからか銃撃が飛んできて、犬の行動を阻止したのだ。
「大丈夫?」
走り寄ってきたのはⅦ組のメンバーの一人である、フィーという少女だった。
「すこし面倒な事になってますが、大丈夫です」
「たしかに面倒そう」
また私達の周りをグルグルと回りだす二匹。獲物が二匹に増えて内心喜んでいる事だろう。
「他の人は?」
「後から来る、私が先行してきた」
「お人よしですね・・・」
「リーダーっぽいのがお人よしだからね」
魔獣は先ほどからグルグルとまわり、唸って牽制している。
「獲物が二匹に増えたせいか、警戒してるみたいですね」
「こいつら・・・・・・かなり訓練されてる」
「ちょっとキツイかもね」
「逃げても良いですよ?」
「問題ない」
「頼もしいですね」
・
・
・
その頃、四人は全力で走っていた。先行したフィーが既に到着しているだろうが、それでも今の状況はあまり楽観出来るものではなかった。
もと来た道を無言で走り、四人の間には荒い息遣いの音だけが広がっていた。
「まだなのか!?」
「早めに気づいたから、それほど離れていないはずだ!」
「二人とも・・・・・・どうか無事で居て!」
道をふさぐ魔獣を流れるような所作で倒していく四人、リィンは遠距離の敵にも攻撃できる八葉の技を使い、追撃でエマがアーツを紡ぎ一掃する。日頃から仲が険悪だったユーシスとマキアスも、自然とリンクを繋げられていて、マキアスが使う徹甲弾の直撃によって弱りきった魔獣を、走る勢いを乗せたユーシスの刺突が次々に屠って行くという、見事な連携をして見せている。
「魔獣がどんどん増えてるぞ!」
「奥まで行っても、これほどの数の魔獣は居ませんでした」
「魔獣が次々とこちらに向かって来ているな・・・・・・」
「まるで、何かから逃げているようだな」
考えながらも四人は足を止めない。
奥で戦っている仲間と友人が居るのだ。魔獣の様子がおかしいからといって、それが彼らの足を止める理由にはならない。リィンを先頭に文字通り、風を切るように地下水路を駆け抜けていく四人。
「なっ!?」
「チッ!」
「まだこんなに奥に居たのか・・・!」
奥から、通路脇の水路から湧き出してくる魔獣の群れが目の前に出現する。その数はリィン達の二倍である八匹だ。
先頭のリィンも流石に立ち止まり、エマやマキアスも戦闘体勢を取るが、ただ一人、ユーシスだけは足を止めずに前へと走り出て魔獣達の前に姿を一人晒した。
「邪魔をするな!」
「はあ!」
ユーシスがそのまま群れに接近するが、何故か掠りもしないほど手前で突きを放つ。当然、空を切った一撃は何も起こさず、このままではあっという間に魔獣達から袋叩きの洗礼を浴びせられる事だろう。
だが予想とは裏腹に彼の剣は水色に光り、突き出した切っ先に紋章が浮かんだかと思うと、紋章が輝きを放ち、敵の足元に更に巨大な紋章が現れる。紋章は出現と共に一瞬で巨大化し、魔獣の群れをすっぽりと覆って閉じ込めてしまった。
そしてユーシスの持つ剣が強く光だし、その輝きを増していく。
ほんの一瞬、1秒にも満たない時間の溜めを終えると、剣の光は一際強くなって薄暗い周囲をその高貴な光で照らし出す。そして彼は必殺の奥義を繰り出した。
「クリスタルセイバー!」
紋章によって作られた結界ごと敵を攻撃するユーシス、その攻撃は綺麗な水色の軌跡を残し、最後に大きく横薙ぎに斬りつけると、結界の内側から光が溢れ出し、決して小さく無い爆発を起こす。
先ほどまで存在していた魔獣は跡形も無く消え、砕け散った結界は小さな破片となって辺りに降り注ぎ、彼らの周囲を淡く照らした。
「さっさと行くぞ」
・
・
・
余裕があるような会話をして見たものの、実際はどう攻めたものか両陣営共に決めかねていて、膠着状態に陥っていた。
二匹が私達の周りを回って様子を見て、さらにその様子を見ている私達も如何したものかと様子を見ている。
「如何ともしがたい状況ですね・・・」
「たまに遭遇する状況だね」
「相手の実力が判ってるから、迂闊に手を出せない」
「経験者は語る、ですか」
「そういうそっちも、経験者でしょ?」
「私は唯の一般旅行者ですよ」
「・・・やれやれ、だね」
先に痺れを切らしたのは犬側だ。二匹はそれぞれが別々の獲物を狙い大きな口で、噛み砕こうと私達に噛み付いてくる。
二人でほぼ同時にバックステップし、噛み付きを避けた後、無防備になった敵に即座に一撃を二人別々に叩き込む。
フィーは一瞬の隙をついて犬の背に飛び乗り、数回斬り付けた後、振り落とされる前に離脱しつつ空中で四発の銃撃を浴びせ、私は二本の小太刀で顔を三回、脇腹を三回、傍を通り抜ける際に一回斬りつけ即座に二匹をワイヤーで雁字搦めにして、暗器を数本突き刺し爆破した。
爆発の余波で埃が辺りを舞い、魔獣の姿を確認する事ができない。私としては今ので終わってくれると面倒が少なくて、とても有難い。
「これで終わってくれると楽なんですけど」
「・・・・・・なんか唸り声がしない?」
「気のせいです、念のためもう二・三本投げておきましょう」
ボォン!ボォン!ボォン! と連続で爆発音が響き渡り、既に埃が十二分に舞っているのに、更に上から降ってくる埃まで追加される。正直、そろそろ喉が痛くなりそうである。
「・・・・・・まだ聴こえますね」
更に投げ込もうと懐から暗器を取り出すが、隣に居るフィーが私の手を掴んでそれを止めてくる。
「これ以上視界が悪くなると、色々とマズイ」
「ふむ・・・そうですね、埃がこれ以上増えると確かに・・・」
投げようとしたソレを懐に仕舞いこみ、確かにこんな状況は不味いと考える。私は舞っている埃を見ながら、明日の喉の調子を心配しているが、彼女はたぶん別な事を心配しているかもしれない。
煙のように舞っていた埃が落ち着きを見せ、二匹の姿が見えてきた。
「・・・・・・もう瀕死だね」
「聴こえていたのは呻き声だった・・・と」
二匹の犬は床に倒れ伏し、呻き声のような鳴き声を上げて体をぶるぶると痙攣させている。
私は懐から出した爆裂する暗器を投げ刺し、爆発させる。フィーはもう片方に近づいて、頭に三発撃ち込みトドメをさした。
私達を追いかけていた二対の追跡者はピクリとも動かなくなり、私とフィーはふぅ、と一息ついた。
「領邦軍の獣・・・こんなものまで用意していたなんて」
「コンビネーションは脅威だったけど、動きが単調だった」
「まだ試験段階なのかもね」
「・・・考えたい事は色々ありますけど、今は逃げましょう」
「一応、追われる身ですからね」
「だね」
あ、居たぞ!
ようやく追いついたか!
「・・・まさか、本当に戻ってくるなんて」
「言ったでしょ、後から来るって」
「二人とも、無事か?」
「ん、問題ない」
「問題なしです」
「追いかけて来てた獣は?」
「片付けました」
「ブイ」
私が平然とした顔で暗に始末したと言って、フィーは勝利したというVサインを指で作って見せた。
「二人に限っては、要らない心配だった様で安心したよ」
「とりあえず今は逃げませんか?」
「今度は遅れずに付いて来い、はぐれると探す手間が増える」
「魔獣は来る時にあらかた片付けた、戻るのは楽だろう」
「よし、行こう!」
「どこへ行こうと言うのだ?」
地下水路に多くの足音と、私達を引き止める声が響いた。