黒の軌跡   作:八狐

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彼女の答え

夜の八時。もう結構良い時間で、大抵の人は寝ていることだと思う。

 

私も普段の生活であれば既に寝ている時間だった。

 

それなのに・・・。

 

「・・・・・・何故、私はバーに来ているんでしょうか?」

 

「良いじゃない、あんたも飲む?」

 

「未成年にお酒を飲ませようとしないで下さい・・・」

 

「それより、何か私に用があるから呼んだのでは?」

 

「たまにはワインも良いわね♪」

 

(人の話を聞け、この酒飲み・・・!)

 

「あんたも何か飲みなさいよ~」

 

「あ、でもお酒は駄目よ」

 

「特に何か飲みに来たわけでもないです」

 

「え~? じゃあ何のために来たのよ?」

 

「あなたが呼んだんですよね・・・?」

 

「冗談よ、ちゃんと覚えてるわ」

 

「少し込み入った話になるから、何か飲みながら話しましょう」

 

 

「それで、込み入った話というのは?」

 

「まずは今回の件、また手伝ってくれたみたいで助かったわ」

 

「成り行きですから、お礼は結構です」

 

店側から出されたコーヒーで冷たくなった手を温めながら、店主に砂糖とミルクを頼む。

 

「あら、ブラックは飲めないの?」

 

「飲めなくは無いですけど、好きじゃないです」

 

「へぇ・・・歳相応な所もあるじゃない」

 

正直ブラックは好きじゃない。普通のコーヒーならたまに飲む事もあると言えばある。一度ブラックを飲んでみた事はあるけど、それっきり自分からコーヒーをブラックで飲むと言う事は無くなった。理由は聞かないで欲しい。

 

「話が逸れたわ」

 

「私のクラス・・・Ⅶ組が特別実習と称して各地に遠出しているのは知ってるわね?」

 

「はい、今回もその一環ですよね」

 

「何でわざわざそんな事をすると思う?」

 

「ふむ・・・・・・社会見学?」

 

「半分正解ってとこね」

 

「もう半分はなんですか?」

 

「あの子達の成長のために必要だから。よ」

 

「成長ですか・・・なるほど、それなら遊撃士紛いの活動をしているのも納得です」

 

「紛いって・・・せめて遊撃士っぽい、とか言ってくれる?」

 

「どっちでも変わりませんよ」

 

「でも確かに遊撃士のような活動は、彼らのような人間には良い刺激になるでしょうね」

 

「その活動が私と何か関係が?」

 

「あの子達の成長のために実習を組んでるのに、あんたちょっとちょっかい出しすぎ。

 って話よ」

 

「そう言う話なら、私はもう彼らに近づきませんよ」

 

「そこまでは言ってないわよ、手助けを控えてくれれば良いわ」

 

「元々、Ⅶ組の人達とここまで仲良くなる予定ではありませんでしたから」

 

「明るそうな感じなのに、人付き合い苦手なの?」

 

「人付き合いは疲れますから・・・・・・今の状況みたいに」

 

「あらら、これは痛い所を突かれたわね」

 

「はぁ~・・・・・・教官っていうのは、サラさんみたいな人ばかりなんですか?」

 

「そんな事ないわよ?」

 

「不真面目な教官や、ちょっと他の人とはずれた教官にお淑やかな教官・・・。

 真面目な教官も居るわね、私は嫌いだけど」

 

「理事がすごいので、教官の方も凄いのかと思えば意外と普通ですね・・・」

 

「あー・・・あの人と比べちゃ駄目よ」

 

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

「どこへ行こうというのだ?」

 

「なぁ!?」

 

「くっ・・・追いつかれたか!」

 

「ふん、ご苦労な事だな」

 

「だが貴様らには冤罪の人間を追うよりも、他にやるべき事があるのではないか?」

 

「ユ、ユーシス様は黙っていて頂きたい」

 

「栄えある士官学院の学生でありながら、罪人の脱走を手助けするとは」

 

「貴様ら・・・ユーシス様以外、無事に帰れると思うな!」

 

「彼は数に入れないんですね」

 

「縦社会ってやつだね」

 

「うるさいぞ貴様ら!」

 

追いついてきた領邦軍が武器を構え、こちらも武器を構える。

 

その場は一触即発の雰囲気となり、どちらが手を出しても戦闘が始まるだろう。

 

だがその空気に反して、戦闘は起きなかった・・・突然に現れた人物達の登場によって。

 

 

「はーい、そこまで」

 

 

パンパン、という手拍子の音が響き、その方向から彼らの教官、サラが現れたのだ。

 

「貴様は・・・何をしにきた!?」

 

「何って、私は彼らの教官だもの」

 

「なんだと・・・・・・まぁいい、残念だが貴様がこいつらに出来る事はもう無い」

 

「今から捕まる、罪人達にする事などな!」

 

 

「では、私ならどうだ?」

 

 

サラの後にその場に現れた男は、美しい金髪の髪を肩から垂らし、貴族風の服を着こなしている。

 

「ル、ルーファス様!?」

 

「こんな場所で何をやっている?」

 

「そ、それはこの罪人共を追いかけて・・・」

 

「そんなことより、何故ルーファス様がこのような場所に!?」

 

「私はね、士官学院の理事をさせて貰っているのだよ」

 

「な、なんですとぉ!?」

 

「罪人と言ったな? それはもしや、そこにいる学院生ではないだろう?」

 

「いえ、その・・・」

 

「答えろ、彼らは罪人なのか?」

 

「・・・・・・はい、正確にはそこの緑髪の者ですが・・・」

 

「罪状は?」

 

「と、砦への侵入罪です」

 

「それは事実かね?」

 

「そんなわけが無いでしょう!

 僕は仲間とずっと行動していた!」

 

「それは俺達も証明できます!」

 

「証人が大勢いるわけだが、そちらは誰が、何を以って証明できる?」

 

「ぐっ・・・・・・し、しかしそいつは帝都知事の息子で・・・」

 

「だから革新派と通じていると?」

 

「貴様・・・・・・これ以上、私の顔に泥を塗るつもりか?」

 

「その詭弁しか出ぬ口を閉じ、さっさと持ち場に戻るが良い!」

 

「は、はっ! 撤収!」

 

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

「さすがはアルバレアという威厳でした」

 

「一応、ユーシスもアルバレアなんだけどねぇ」

 

サラは酒を飲み、私はコーヒーを飲んでいる。こういう構図を傍から見た人は、きっと似ていない母と子供の夜遊び等と想像を膨らませるかもしれない。

 

身体が温まってきたから、また冷える前に部屋に返して欲しい所だ。

 

「そろそろ良い時間になって来たし、二つ目の話をして終わりましょうか」

 

「実はね、あんたに提案があるのよ」

 

「・・・なんですか?」

 

「士官学院に入ってみない?」

 

コーヒーを飲もうと口元に持っていくも、器の中身が減ることは無く、私はカップをそのままカウンターに置いた。

サラの方を見ると、グラスに入っていた酒は全て飲み干されていて、彼女の関心は完全に私に移っているようだ。

 

「・・・・・・私を手元に置いておきたいという事ですか?」

 

「実はⅦ組に支給されるオーブメントが余っててね。

 それで、もしスカウトするならあんたが良いかなって思ったのよ」

 

「別に優秀な人材を手元に置いておきたいとか、そう言う話じゃないから

 断ってもらっても良いわ」

 

「一応聞きたいんですけど、どうして私なんですか?」

 

「んー・・・そうねぇ」

 

「何となく、あんたがさみしそうに見えたからかな」

 

「さみしそう・・・?」

 

「私の教え子に、あんたと似たような雰囲気の子が居るのよ」

 

「そのせいかもしれない」

 

「雰囲気が似ている、ですか・・・」

 

「どこから見ても普通の子供なのに、内側はひどく荒れてる・・・。

 それをあんたからも感じたのよね」

 

「・・・私は外見も中身も同じ、普通ですよ」

 

「普通にしては色々と逸脱しているわよ?」

 

「少なくともその歳で既に、分け身を体得しているのは尋常じゃない」

 

「・・・・・・ふぅ、おいそれと分け身を使う物じゃないですね」

 

「それが判っているなら、私が何なのか気づきそうですが・・・?」

 

「まぁね、とりあえずあんたが普通ではない・・・ってとこまでしか判らないけど」

 

「それなのに私をスカウトすると言うんですか?」

 

「だからこそよ」

 

「Ⅶ組のメンバーは大なり小なり、みんな問題を抱えてる」

 

「Ⅶ組はその問題と、どう向き合っていくかを考えられる場所でもあるの」

 

「・・・・・・あんたも小さくない問題、抱えてるんじゃないの?」

 

スッとこちらに差し出された手が退けられると、オーブメントが置かれていた。

 

既に結構なアルコールを摂取しているハズなのに、彼女の目は真剣そのもので、酒が入った人間特有の締まらない雰囲気を全く感じさせない。

 

「・・・・・・・・・」

 

私はそのオーブメントに手を置いて、出された時と同じように隣に返す。

 

「あらら、フラれちゃったわ」

 

「元々、スカウトできるとも思っていなかったでしょう?」

 

「まぁね、いかにも一人が好きって感じだもん、あんた」

 

私は残っていたコーヒーを飲み干し、懐から硬貨を何枚か出してカウンターに置くと、席を立った。

 

「コレくらい奢ってあげるのに」

 

「何となく、借りを作るみたいで嫌なんですよ」

 

「子供のくせに生意気ねぇ・・・。

 ・・・・・・いつでも待ってるわよ」

 

店を出て、誰も居ない通りをただ黙って歩く。

 

夜の帳が下りた世界、照らしてくれるのは街灯の光と月だけ。

 

私は夜にしか生きられない、私に明るい世界は似合わない。

 

 

通りに響くのは足音と虫の声、月だけが彼女の事を知っていた。

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