近郊都市トリスタ、帝都には及ばないが都市と呼ばれるだけの人口、物流、活気がある。
トリスタがなぜ都市と呼ばれるほどの発展を遂げたか、それは誰の口にも一口では説明出来ないだろうが、誰もが知っている理由が一つだけある。
トールズ士官学院。
栄えある帝国の中でも由緒名高い士官学院で、獅子戦役を終結させたかのドライケルス大帝が創設したと云われている。
名門の学院がある故に、各地から学生達が集まり、益々の活気と発展に繋がるのだろう。
そんなトリスタの駅前にある、喫茶店の一角で紅茶を飲んでいる少女が居た。
時計は朝の七時半、朝早くから活動を始めて紅茶など飲んでいる所を見ると、彼女も学生なのだろうか。
周りに居る学生らしき人物達を見ると彼女と似た服を着ている事から、彼女もまた学生だと予想出来る。
彼女が時計を見るともうじき八時を示す所だった。
そろそろか・・・と呟き、彼女は席を立って会計を済ませて店を出た。
赤い服を着た少女はなだらかな坂を見渡すと、その先・・・トールズ士官学院に向かって歩き出した。
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士官学院に数多く存在する教室、その内の一室である一年Ⅶ組。
彼らは今年になって新しく発足されたクラスで、他のクラスとは一風違った授業が行われている。
普通の授業はもちろん、戦術殻と呼ばれる人形を使った実戦訓練や数ヶ月に一度ある、特別実習と呼ばれる課外実習。
制服も平民は緑、貴族は白と色分けされているが、彼らは赤。
これだけでも十分、彼らが普通のクラスでは無いという事がわかる。
その教室に、Ⅶ組担任であるサラが入室していく。
「委員長、号令」
「起立、礼、着席」
「今日は皆にお知らせがあるわ」
「お知らせ?」
「ウチのクラスに編入生が来るわよ」
「え!?」
「編入生!?」
クラス中が騒然となる中で、リィンだけは落ち着いていた。
彼には何となく、誰だかわかっているようだ。
「入ってらっしゃい」
シーンと静まり返る中、一人の少女が入室する。
その少女を見たクラスの過半数が、驚きの声をあげた。
「ルディ(さん)!?」
「あはは・・・・・・」
「その、よろしくお願いします」
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「なるほど、君がそうなのか」
「話は色々と聞き及んでいる。
ガイウス・ウォーゼルだ」
「ルディ・マオです。
よろしくお願いします」
まだ会った事が無かったガイウスと自己紹介を終えて、Ⅶ組のみんなに囲まれる。
「新しい仲間が増えるのは嬉しいが、一体どう言う事なんだ?」
「サラさんから勧誘されたんです」
「勧誘?」
「ウチのクラスに入って青春を謳歌しないかって」
「せ、青春って・・・」
「流石に直ぐには決められませんでしたけど、こうして入学する事になりました」
「うむ、切磋琢磨できる仲間が増えるのは嬉しいぞ」
「君には助けてもらった恩がある、いつでも頼ってくれ」
こうして一通り話しを終えると、みんなそれぞれの部活に向かい、教室には私とリィンだけになった。
「ようこそルディさん、これからはよろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
「みんなビックリしていましたね」
「サラさんが事前に言っておかないからですよ・・・」
「なんでみんなに本当の事言わなかったんですか?教官の勧誘は断ったんですよね?」
「・・・あんな恥ずかしい事、言えるわけ無いじゃないですか・・・」
「へ?」
「何でもありません。ところで、リィンさん」
「もう同じクラスの一員なんですから、他の人と同じ接し方でお願いします」
「ああ、すみません・・・。そうさせてもらうよ」
「ルディはもう入る部活とか決めてあるのか?」
「特に決めていないですね」
「なら俺と同じく放課後は暇だな」
「ということは、この後暇なんですか?」
「ああ、特に予定もないしな」
「なら、色々と案内してくれますか?」
「まだ着たばっかりで、学院の事はよく知らないんです」
「わかった、俺で良ければ案内するよ」
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私とリィンはまず校舎を一通り回る事にして、とりあえずグラウンドに来ていた。
「来る時も遠目から見ましたけど、間近で見るともっと大きいですね」
「ここで活動している部活は、ラクロス部と馬術部だな」
「ラクロス部はアリサ、馬術部にはユーシスが所属してる」
「アリサさんは意外ですけど、ユーシスさんはなるほどって感じです」
「はは、確かに」
その後はギムナジウムと呼ばれている建物に入り、中を見学させてもらう。
「この中では水泳部、フェンシング部が活動してたはずだ」
「ラウラは水泳部だったはずだから、今行けば泳いでる姿が見れるかも知れない」
「少し見学させてもらいに行きましょう」
「普段、剣を握っているイメージしかないので、興味があります」
扉を開けるとそこは大きな室内プールとなっていて、水泳部のメンバーが居る。
「ん、ちょうど今泳ぎ終わった所みたいですね」
「タイミングが悪かったみたいだな」
「む? リィンにルディではないか」
「お邪魔させてもらってます」
「今、ルディに頼まれて色々案内している所なんだ」
「そういえばそなたは着たばかりだったな、ゆっくり見て回ると良い」
「はい、ラウラさんも部活頑張ってくださいね」
ギムナジウムを後にして、次は園芸部の活動場所である花壇に向かう。
「ここが園芸部が活動してる花壇・・・って見れば判るか」
「ふふ、みんな幸せそうに花の世話をしてますね」
「見てるこっちも、心が満たされるような気がするな」
「園芸部にはフィーが・・・」
「・・・ふむ、居ませんね」
「ごめんなさい~今日はフィーちゃん来ていないんです~」
頭に帽子を被った女の人が、私達に気付いて対応をしてくれる。どうやらフィーは来ていないらしい。
「エーデル先輩、それはどういう・・・?」
「あの子は猫みたいな子なので、たまに来ない日があるんです~」
「猫は好きです」
「そういう話じゃないからな・・・?」
「少し探してみます」
案内は一旦、中断してフィーを探すことになった。猫っぽいとあのフワフワした人に言わせる程に自由な彼女を、ちょっと見てみたい。
「どこに居るんだろう・・・」
「ちょっと探ってみます」
私は目を瞑って、精神を集中させる。すると周りの気を明確に感じ取れるようになった。
「んー・・・・・・」
「何をするんだ?」
「フィーさんの気を探ってます」
「・・・・・・ん、近いですね」
彼女が居るであろう場所に行くと、中庭らしき場所にたどり着いた。
彼女はベンチの上で安らかな寝息を立てて眠っていた。
「なるほど、猫ですね」
「確かに猫だな・・・。フィー、起きろ!」
「んん・・・?」
「ふぁ・・・・・・おはよ」
「おはようじゃないだろ・・・。
駄目じゃないか、部活に行かなきゃ」
「ん、じゃあ今から行く」
そう言って彼女は園芸部の花壇の方へ歩いていった。
「ホントに自由ですね」
「そこがフィーの良いところでもあるんだけどな」
中庭を後にして、今度は別館の方に来ていた。
「別館もあるなんて広いですね~」
「最初は俺も迷うんじゃないかと思ったけど、直ぐに慣れたよ」
「ここには色々な部活があって、写真部・オカルト部・チェス部あたりがあったはずだ」
「お、オカルト・・・ですか?」
「一度覗いて見た事があるけど、よくわからなかった・・・」
「確かチェス部にはマキアスが所属していたな」
「ボードゲームとか好きそうでしたからね」
「ああ、特にチェスはかなり強いらしい。中には部活の他にも生徒会室があって、トワ会長達が忙しなくしているよ」
「そんなに忙しそうにしているんですか?」
「人手が足りないらしくて、一部の仕事をオレが依頼という形で引き受けている位だからな・・・」
「それでも頑張ってやりくりしているってことは、相当やり手ですね」
「あの人はすごいと思うよ。生徒からの要望、行事の下準備、その他の事も全て生徒会で処理してるからな」
「凄い人なんですね・・・」
別館の説明を終えて、リィンとルディは旧校舎の方へ向かう。
「こっちには確か旧校舎があるんでしたよね」
「一応案内しようと思ったんだが、もう知ってるのか?」
「この前、サラさんに連れてこられて適性試験とやらに付合わされました」
「実戦でちゃんと戦術リンクが繋がるかどうかのテストらしいです」
「そんなことがあったのか・・・」
「奥の広間にたどり着いたら2次試験と言われて、サラさんと戦う羽目に・・・」
「ああ、その・・・おつかれさま」
「でもここに入るのはあまりオススメできない」
「・・・どういうことですか?」
「この建物、元は地下にそんな広間はなかったんだ」
「・・・!?」
「この旧校舎は謎が多すぎる・・・本当に元校舎なのかと疑うくらいに」
二人がその場を立ち去ると、黒いネコが物陰から現れる。ネコはジッと唯一人、ルディを見つめていた。
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「今日はありがとうございました」
「はは、ちゃんと案内できたか不安だけどな」
「ええ、リィンさんのおかげで大体分かりました」
「それを聞いて安心したよ・・・」
気づかないうちにかなり時間が経っていたらしく、辺りはもう夕暮れだった。
ルディはリィンと寮の前で別れた後、部屋に戻って久しぶりに日記をつけることにした。
6月3日
私は今日から正式にⅦ組の仲間になった。
仕官学院はその名の通り仕官を育成・教育していく場所で、正直もっと息苦しい場所と思っていたけれど、その実態は全く正反対だった。
Ⅶ組の人達が特別なだけかもしれないけれど、少なくとも彼らからそういう表情や雰囲気は感じられなかった。
あとでサラさんに聞いて分かった事だけれど、特化クラスⅦ組というのは今年から出来たクラスで、元々この学院には平民と貴族という大まかなクラス分けしかなかったらしい。
何故クラスが突然作られたのか・・・特化クラスというのは何なのか・・・そういった疑問はあるけれど、今は深く考えずにこのクラスと雰囲気に馴染めるように頑張ってみようと思う。
Rudy Mao