その日の夜、導力車が激突した騒ぎを解決したⅦ組へのお礼と歓迎も兼ねて長老の家で夕食をご馳走してもらうことになった。キジ肉の串焼き、香草とにがトマトのスープ、玉ねぎとポテトのサラダ、トマトリゾット、などの豪華な料理がⅦ組の前に出てきて、一日の半分をノルド高原の広い大地を駆け巡って、疲労した彼らにはあまりにも魅力的すぎたのか、手を止めるものは誰一人としていない。いつしかテーブルの上から皿が片付けられ、ハーブティーだけが残った。
その後、彼らは思い思いに過ごしていた。会話するもの、夜風を浴びに行くもの、そして散歩に出歩くもの。
ルディは食事はそこそこにハーブティーを飲んだ後、散歩に出た。仲間には近場に居ると言って出てきたが、当然その辺をうろついて終わるような彼女ではない。今日はどの辺を散策しようかと歩きながら考える彼女。その顔は悪戯好きな少女の顔だった。
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彼女が立っているのは監視塔の前、もちろん堂々と立っているわけではなく岩陰に隠れている。前回は見つかってしまったが、今回は誰にも見つからずに侵入し、昼間の兵士に一泡吹かせるのが目的だ。ルディがいつものように月光蝶を発動させ、その体を透明へと変えると、ゆっくりと歩き出した。
(前回は、はしゃぎすぎて見つかってしまったけど、今度はそうは行かないです。)
歩哨する兵士の脇を通り、例の兵士を探す。まずは食堂に行くが、兵士が二人ほど休憩しているだけで目的の人物は居ない。この施設は休憩所と食堂が同じ場所にあるので、他に探す場所といえば見張り台しかないだろう。見張り台の入り口は兵士によって見張られている。登るとしたら外側からだ。幸いでっぱりと呼べるようなモノが多数見られるので、暗器は使わなくても良いだろう。ルディは音もなく塔を上り始めた。
「ふあ~・・・。眠いぜ・・・。」
登っている最中に眠そうな兵士の独り言が聞えてくる。その声は間違いなく昨夜、そして昼間見た彼だ。
(こんな腑抜けきった兵士に不覚を取るとは・・・私もまだまだです。)
様子を窺っていると、聞いた事のない声が聞えてくる。腑抜けたザッツを咎めるような発言が見られることから、軍が腑抜けているわけではなく、ザッツが特別やる気がないだけのようだ。
「こんな辺境で戦争なんか起こるわけねぇって。」
「慢心するなといつも言っているだろう?」
「へーい。じゃ、もう休憩に入らせてもらうぜ。」
「まったく・・・。ああ、いいぞ。」
(交代の時間・・・。もう少し早く来れば簡単に仕事できたわけですか。)
彼女にとっては遊びであり、その遊びであまり本気を出すのも面倒だと、内心でため息を吐いて、もう帰ろうかと思い下りようとした時、異変は起きた。
「お、おい・・・!共和国の基地、煙上がってるぞ!?」
「軍が動いたのか!?」
「馬鹿な・・・そんな連絡は受けてない!」
(確かに火が見える・・・。でもわざわざこの地で戦争を始める理由は・・・?)
上の二人が慌てている中、ルディが考えていると突如として見張り台が大きく揺れる。
「うおお!?」
「て、敵襲か!?」
(チッ!)
爆発音が当たりに響き渡り、建物が大きく揺れたせいでルディは吹き飛ばされた。しかし、落ちてたまるかと彼女はカギ爪のフックが先についている縄を投擲し、建物に引っ掛けて何とか体勢を立て直した。
(誰だか知らないが無茶をする・・・!)
そして今度はハッキリと、何かが落ちてくる音を聞いた。
「お、おいおいおい!?」
「ああ、女神よ・・・!」
(このままだとこちらまで被害を被るか・・・仕方ないですね・・・!)
彼女は上に駆け上がり、音の発生源を見つけると、暗器を投げつけて砲弾を強制的に爆発させる。その後の追撃を警戒してさらに暗器を取り出して構えている。
「お、お嬢ちゃん!?」
「き、君は仕官学院の・・・!」
「話は後で!今は襲撃への対処を!」
「!そ、そうだ、ザッツは連絡を!」
「任せろ!」
ロアンが見張りを引き受け、ザッツは襲撃の知らせをする。ザッツが見張り台に取り付けられた無線で施設内に連絡している中、ロアンとルディの二人で闇の中に目を凝らす。
「敵はどこだ・・・?」
「少なくとも周辺には居ないようですね。」
「よし、連絡した!もうじきここは厳戒態勢が引かれる!」
「ではここの守りはお任せします。」
「君はどうするんだ?」
「私は襲撃の犯人を捜してみます。」
「あ、おい!待つんだ!」
ルディは静止の声を無視して見張り台から飛び降りて、壁を蹴り一気に最大スピードまで加速する。その様子を上から見ていたザッツとロアンは唖然とした表情でその光景を見ているのだった。
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─帝国の某所─
通路にコツコツという硬質なブーツの音が響く。その足取りは規則正しく、一分の迷いも無い。しばらく歩いていると、突然その規則正しく響いていた靴音は鳴り止む。その人物の靴音のみが支配していた空間が静寂に包まれるその様子は、まるでそこの空間だけが凍りついてしまっているようだ。少し遅れて軽めの足音が聞え始め、空間の氷結が溶け始めると、そこに現れたのは白いスーツに身を包んだ少女だった。
「ただいまクレアー!」
「おかえりなさい、ミリアムちゃん。」
「調査の方はどうでしたか?」
「うん、やっぱりクレアの読み通りだったよ。」
「ケルディックの事件はそいつらがやった可能性が高いね。」
「そうですか・・・。」
「これからオジサンに報告?」
「ええ、今から閣下の所にお伺いしようと思っていました。」
「じゃあ一緒にいこ!」
「ふふ、わかりました。」
歩き出したミリアムを追う様に少し遅れて歩き出すクレア。しかしその目は鋭く、いまだ姿現さぬ敵へと向けられていた。