朝日が昇り始め、うっすらとあたりが明るくなったノルド高原。ストーンサークルのような建造物がたつ高台で、赤い服をきた少女は昨晩の襲撃について考えていた。
(襲撃の規模がどれほど小さくとも、襲われれば襲撃。)
(でも、それにしたって、昨夜の襲撃はあまりにも規模が小さすぎる。)
彼女が考えている通り、夜間に襲撃を受けたにも関わらず、建物が少しばかり爆破された程度で、実質被害はほぼ0だ。襲撃をするにしてもこれでは被害が少なすぎるだろう。彼女はなにか違和感を感じていた。
(・・・共和国の仕業と考えるのが妥当です。)
(が、だとすれば大きな問題が残ってしまう・・・。)
(共和国の基地から昇っていた煙。共和国側も襲われていたと見て良いはず。)
(つまり、帝国側とほぼ同時に襲撃された・・・?)
そう、彼女が感じている違和感。それはほぼ同時刻に両国の基地ないし、建物が襲われたという事。帝国側からすれば、共和国の仕業と考え、共和国側からしたら帝国の襲撃と考える。まだそういった空気はないが、じきにあたりを軍用機が飛び始めるだろう。
(帝国と共和国・・・どちらが襲撃を実行してもデメリットばかり・・・。)
(ならば、コレを実行した人物はどちらの国にも属さない者でしょうか?)
「ねーねー!」
(猟兵に暗殺者・・・はたまた軍の離反者なのか・・・。)
(どちらかの国に何か、良くない思いを持っている人物なのは間違いないですね。)
「ねーったら!」
「・・・あーもう!何ですか、人が考え事をしている時・・・に・・・?」
「あ、良かった反応してくれた!あのさ、この辺で怪しい・・・?」
『あー!?』
いつの間にか後ろに居た人物を見て、ルディが驚きのあまり口を手で覆う。そして後ろに居た人物には指を差されて驚かれる。彼女の後ろに居たのは変わった人形兵器を操る、いつぞやの少女だった。
「久しぶりだねー!」
「そうですね、約一ヶ月ぶりです。」
「その服、最近になってから設立されたっていう、特化クラスの服でしょ?」
「ええ、そこそこ楽しくやらせてもらってます。」
「ということは、今Ⅶ組が来てるんだね!」
「彼らはまだ、ノルドの集落で寝ている時間ですね。」
「まだ薄暗いからね、かく言う僕もまだ眠いよ・・・。」
「安らかに眠らせてあげましょうか?」
「大丈夫、もう目が覚めたから!だから武器をしまって!?」
「残念です・・・。」
「こっちは堪ったもんじゃないよもう・・・。そういえば、昨日監視塔が襲われたのは知ってる?」
「ええ、というかその場に居ましたし。」
「え・・・?じゃあ、君が犯人?」
「怪しさの欠片もない私がですか?」
「僕から見ても、クレアから見ても、レクターから見ても、怪しさしかないんだけど・・・。」
「酷い言われ様です・・・。レクターという人は知りませんけど」
「ねぇ、襲われた時の話、詳しく教えてよ!」
「はぁ・・・構いませんが。」
自分が塔に居た理由、襲撃されたおおよその時間、その時に共和国基地も煙が上がっていた事。彼女は知っている限りを話す。煙の件は別に隠しても良かったが、仮にもルディの目の前にいるのは領邦軍の砦に単身で乗り込むような少女。自分が話さなくてもいずれはその違和感にたどり着くだろう。ならば後でなぜ話さなかった?と疑われるよりは、大人しく話しておいたほうが面倒がない。
「共和国の基地からも煙が上がっていたって、つまり同時に襲われたって事?」
「可能性の話です。煙を見ただけ。」
「つまり、車両の整備に失敗したか、料理に失敗して爆発したかも分からないのですよ。」
「それとも、共和国側が襲われていると見せかけたか・・・だね。」
「ノルド高原で戦争をして共和国に何かいい事があるんでしょうか?」
「さぁね~。君は共和国出身でしょ?何か知らないの?」
「耳が早いですね。確かに共和国出身ですけど、特にそういった情報は入ってないかな。」
「そっか~。何か良い情報でもあればよかったんだけど。」
「まぁいいや!ありがとねー!」
「ストップ。わざわざ現地に来たくらいだから、これから犯人探しするんでしょう?」
「私も連れて行ってくださいな。」
「いいけど、なんで?」
「
影のある笑顔を浮かべたルディ。その笑顔は周囲の空気を凍らせ、少女の首を縦に振らせるには十分な威圧感だった。
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「それであそこに砲弾が飛んできたわけだね。」
「その通り。その場には兵士が二人いたはずなので、信用できなければ彼らに聞いてください。」
「いいよ、見つかるとめんどくさいし。着弾地点的にも砲弾はあっちの方向から来たと見て間違いないね。」
「ええ、確かにそっち方向からでした。」
「じゃあ行ってみよっか!ガーちゃん!」
監視塔の外から着弾痕を見て、即座に砲撃方向を割り出した彼女はアガートラムに乗って、砲撃をしたであろう場所を探し出す。ルディもその並外れた身体能力で地形を無視するように進む。しばらく進むと目立たない高台に迫撃砲が置かれているのを発見した。
「うわー・・・明らかに不自然な物が置かれてるね。」
「使ってそのまま。しかも隠す努力すらしていない。・・・明らかに素人ですね。」
「メーカーはラインフォルト。ってことは帝国側で準備されたんだね。」
「見た所あまり手入れがされてませんね、昨日の今日で用意されたものではないでしょう。」
「ということは、もう使われていない旧式ってとこかな。」
「砲の下に生えた草。僅かですが、焦げたあとが見られます。火薬を使うタイプかな。」
「旧式の迫撃砲、火薬を使う兵器・・・ねぇ。」
「ひとつだけ・・・当てはまりそうな職がありましたね?」
「でも、それにしてはやってる事がセコイなぁ~。」
「たぶん、はぐれ者の集まりでしょうね。」
「何となく犯人像が見えてきた気がするね。」
「後は居場所を見つけて仕留めるだけです。」
「じゃあ探しに行こう!手分けして探したほうが早いかな?」
「それなんですが・・・。昨晩からずっと南高原を探していますけど、それらしい場所がなかったんです。」
「夜に探したんでしょ?ちゃんと見えてたの?」
「私は夜目が効くように訓練しているので、昼間同然のように見えますよ?」
「夜に目が見えないと仕事に支障が出るとか?」
「さて、何の事やらわかりませんね。」
「ふーん。ま、いいや。じゃあ北側を手分けして探そう!」
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手分けして北側を探すことにした二人は、北高原の右側と左側に分かれて探すことになった。白い少女は左を担当し、ルディは右を担当することになり、白い少女はアガートラムに乗って、隅々まで探索していた。
「といっても、北側はほぼ隠れる場所なんて無いんだけどね。」
ノルド高原の北は南高原と違って起伏が少ないため、隠れられるような高台も穴も、全くといって良いほど存在しない。そのため彼女は湖、ラクリマ湖畔へと向かっていた。湖畔には一人の老人が別荘を立てて余生を過ごしている以外は、何の特徴もない。しいて特徴を挙げるなら釣りスポットとして有名という点だろうか。しかし、それは一般人にとっての特徴。彼女のような情報収集を主な任務としている者にとっては、やや注目すべき特徴がある。
「たしかラインフォルトの元会長がいるんだっけ。」
「あのおじいちゃんを人質に取って、隠れてるとかじゃないと良いけど。」
そう。その余生を過ごしている老人というのが、RFグループの総括、その元会長なのだ。といっても世間ではあまり知られておらず、知る人ぞ知る情報だが。当然彼女もそれは知っていたので、まずラクリマ湖畔に向かう事にしたのだ。
「もしそうだったら面倒だなぁ。間違っておじいちゃんをコロシでもしたら、クレアに怒られちゃうよ・・・。」
隠居しているとは言え、元会長。それもRFの初代会長だ。RF創立から今に至るまで、そしてこれからも帝国の発展に貢献してきた大企業。その初代会長を死なせてしまうのは、帝国の威信を地の底まで落とす事件になりかねない。それだけは絶対に避けなければならないのだ。
「タダでさえ共和国とのにらみ合いが続いてるのに、有名人のおじいちゃんが居るんだもんねぇ。」
「ホントに面倒なところで騒ぎを起こしてくれたもんだよ。」
アガートラムが地面に近づいて彼女はその手から降りると、トントントン。という音を立てて階段をゆっくりと上っていく。扉に耳を当てて、中の音を拾おうとするが、物音ひとつしないのを確認し、念のためアガートラムにも中に反応が無いかを確認する。
「ガーちゃん、中に誰か居る?」
電子音を鳴らしながら彼女の問いに答える。少女は頷いた後、扉を開けようとするが、鍵がかかっているようで扉はビクともしない。しかたなく、扉の金具の部分にアガートラムのレーザーを照射し、焼き切ると扉を手で押して部屋の中に押し倒した。
「分かってたけど、やっぱり誰も居ないね。」
「誰かに荒らされた形跡も無し・・・と。」
「うーん、鍵も掛かってたし、こっちはハズレみたいだね。」
頬をかきながら、心の中で家主の老人に扉を壊してしまった謝罪をすると、彼女は外に出た。
「あと隠れられそうな所と言えば、あの子が探してる方にある洞窟かな?」
いつものように一人で活動している時ならば直ぐに動くところだが、今回は二人で事件を調査している。彼女は自分と同じかそれ以上に優秀な隠密だ。自分が行かずとも、犯人を見つけ出すだろう。その時は見つけた方が、もう片方に連絡をする手筈になっている。
「お互い名前も知らないのに、良く協力出来るもんだよね。」
お互いに名前を言わないのは当然だろう。二人は世間にあまり顔出しできない、言わば裏家業の人間なのだ。少女は協力してくれている彼女の職業すら分かっていない。一応調べては見たのだが、何の変哲も無い一般家庭に住む少女、ルディ・マオ。という調査結果だったのだ。それでも違うと思うのは、彼女の身体能力が常軌を逸していたこと。そして東方の武術で気と呼ばれる物を使っていたからだ。
「絶対に名のある暗殺者とかだと思うんだけど・・・。」
しかしそんな有名人の中に、【ルディ・マオ】という名前は存在しない。では彼女は何者なのだろうか。まだ少女は彼女の名前しか知らないが、少女には分かっていた。
「たぶん、そこまで悪い人じゃないよね。」
彼女の事を思い出し、どこか自分と似た部分を感じながらも湖を見ていると、ARCUSが着信音を伝える。
「もしもし~?」
『私です。やつらの隠れ家を見つけました。』
「お~やるね!それで、どこだった?」
『北北東に存在する洞窟内に潜伏しているようです。』
「やっぱあそこか~。」
『分かっていた様子ですね?』
「こっちに居なかったから、そっちかなって思ってたんだ。」
「それでどうする?」
『一度合流しましょう。私はやつらに仕返しが出来れば良いですが・・・。』
『あなたはそうも行かないでしょう?』
「良いの?こっちの都合に合わせてもらっちゃっても。」
『ええ。私は趣味で、あなたは仕事。重要な方を優先するのが基本です。』
『オーロックス砦でもそうだったでしょう?』
「そういえばそうだったね。それじゃ、南高原の石の柱がある高台に集合で良い?」
『はい、すぐに向かいます。』
通話を切り、ARCUSを懐に仕舞うと、彼女はアガートラムに乗って空に飛び上がり、集合場所の南高原へ向かう。合流したら自己紹介をしよう。そう心に決めて。
【???とルディの絆がLv2になりました】