黒の軌跡   作:八狐

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大変お待たせしました(´・ω・`)




帝国に潜む闇

Ⅶ組は月とミリアムの二人が行う特別実技試験のような物にみごと合格し、ミリアムの先導で封鎖された採石場にたどり着いた。周囲は放置された石柱や、大きな岩が無造作に転がっていて長らく人の手が入っていないことが窺える。

 

 

ミリアム「ここだよ!」

 

ガイウス「ここは石切り場だな。」

 

リィン「石切り場?」

 

ガイウス「ああ。その昔、ここでは良質な石が取れたが、今では採石など行われていない。」

 

ガイウス「伝承で悪しき精霊(ジン)と呼ばれる存在が現れたからだ。」

 

エマ「悪しき精霊・・・ですか?」

 

ガイウス「そうだ。そして二度とやつが現れないよう、この石切り場に封印された。そう言い伝えられている。」

 

アリサ「もう遺跡じゃないそれ・・・。」

 

ユーシス「そして今、その遺跡に入ろうとしているというわけか。」

 

ルディ「中の犯人達が少し心配になってきますね・・・。」

 

ミリアム「生かして捕まえないと証拠になんないもんねー・・・。」

 

リィン「そういえば・・・、月が見当たらないな。」

 

アリサ「先に行っているという話だったわね。」

 

ミリアム「犯人を捕まえるために別行動を取るんだってさ。」

 

ユーシス「ふん、我々に面倒なことを押し付けて逃げたのではないか?」

 

ルディ「あ、あはは・・・流石にそれは・・・。」

 

ミリアム「そうそう、それは無いね。」

 

ミリアム「あの子は見た目こそ怪しいけど、やることはやってくれるよ。」

 

ユーシス「・・・ふん、だといいがな。」

 

リィン「二人は仲間なのか?」

 

ミリアム「仲間っていうか・・・うーん、仲間なのかなぁ?」

 

アリサ「なんでそこで言い淀んでるのよ・・・。」

 

ミリアム「だって良くわかんないんだもん・・・。」

 

 

二人の関係を聞かれて、答えに困っているミリアム。それを見て困惑する者、呆れかえる者。ルディは・・・。

 

 

(仲間・・・ね。たしかに仲間って言えるような関係でもない。)

 

(でも仲間じゃないって断言できるような関係でもない・・・。)

 

ルディ「・・・変な感じ。」

 

 

何一つ接点が無い二人の隠密。二人の間には本人達も気づかないほど、しかし確かに小さな線が生まれ始めていた。

 

 

 

 

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同時刻、月は高所からその様子を眺めていた。

 

 

(すまないが、私は別にやることがあるのでね・・・。)

 

(アレ(ミリアム)が居ればとくに苦戦する事もあるまい。)

 

 

彼らが突入したのを確認すると行動を開始、犯人達の逃走経路に使われそうな場所がないか調べていく。

 

 

(使われるとすれば恐らく・・・。)

 

 

石切り場の裏手に空いている洞穴。月はここから直に進入し、犯人達を発見したのだ。だが自らの目で確認したわけではなく、壁越しに犯人らしき人物達の会話を聞いただけで、その洞穴は行き止まりだったのだ。

 

 

(声が聞えてくるという事は、あまり分厚くはないのだろうが・・・。)

 

 

壁の厚さを調べるようにコツコツと手で叩いていた月だったが、何かに気づいたのか同じ壁の別々な箇所を叩きくらべ始める。

 

 

(この壁、ダミーか・・・!)

 

 

月が壁についている土塊を取り除いていくと、人工的な壁が現れた。今度は壁の強度を調べるかのようにトントン、とノックするかのように慎重に叩く。

 

 

(・・・叩き割るなどは無理だが、少量の爆薬で吹き飛ばすなどは可能だろうな。)

 

(行き止まりに偽装された人工の壁。他に人が通れそうな幅の穴などもなかった。)

 

(十中八九、ここから脱出をしてくるはずだ。ならば私はこちら側で待機し、確実に仕留めさせてもらうとしよう。)

 

 

 

 

 

 

 

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石切り場・最奥部

 

 

 

「ぐっ・・・なんだこのガキ共・・・!?」

 

「信じられん強さだ・・・!」

 

 

突入からわずか十数分で最深部までたどり着き、今回の事件を起こした犯人である猟兵たちを素早く制圧した。電撃作戦のような素早い作戦行動などしたことがないⅦ組のメンバーだが、彼らは素早い行動を心がけたわけでもなく、一人一人が恐ろしく強いわけでもない。ARCUSによる連携で敵を圧倒、制圧したのだ。

 

猟兵とは連携による攻撃、待ち伏せやトラップによる搦め手を得意とするが、連携とは通常、目で見てから動くのに対し、ARCUSによる連携は目で確認するより数瞬はやく動く。連携の精度で負けるならば搦め手で相手のペースを乱せばいいが、今回の猟兵はどうやらそこまで思い至らなかったのか、それとも帰り道に自分たちでトラップを解除する面倒を嫌ったのか・・・定かではないが、この猟兵たちが一流とは程遠い【猟兵くずれ】というのは間違いないだろう。

 

 

G「ふむ、何者かの邪魔が入るのは想定内だが・・・まさかこれほど苦戦させられるとは。」

 

リィン「大人しく来てもらうぞ・・・!」

 

G「それは出来ないな。私にはまだやるべき使命が残っている。」

 

 

猟兵を雇い、両国の戦争をこの地で引き起こそうと企んだG-ギデオンと名乗った学者風の男。たよりの猟兵も破れ、自身の力も大したものではないであろうに、未だ余裕を崩さない。なぜか?それはたった今、男が懐から取り出した怪しい笛に理由がある。

 

その笛は怪しい気を放ち、人が忌避するような気運を纏っている。笛の産まれや製作者、詳しい効果などもまだ解明されていない呪物。それはとある者達からアーティファクト・・・そう呼ばれている。当然、そんな呪物がただの笛であるはずがなく、男はその理解不能な破滅の笛に息を吹き込こみ・・・。

 

 

悪魔の旋律を奏でた。

 

 

辺りは恐ろしいほどの静寂に包まれ、何が起きるのか周囲を警戒するⅦ組。音色が響き渡って少ししたころ、それは起こった。

 

カサカサ・・・。という何かが這い寄る音。体の芯から凍りつくような鳴き声。それらの音はどんどん大きくなり、周囲に響く恐怖の音色と化した。いつまでこの地獄が続くのかと、誰もが思った頃・・・その音の主は現れた。

 

 

シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 

 

巨大なクモ。一言で言うならばそれに尽きる。体色は青く、口からのぞく牙からは毒が滴り、目は赤く発光している。クモは眠りを妨げられた怒り、何百年か振りに眠りから覚めた空腹とで凶暴性が増しているようだ。

 

 

ガイウス「まさか・・・悪しき精霊!?」

 

ユーシス「チッ!面倒そうなやつが出たものだ・・・!」

 

 

クモは突然の出来事に頭が真っ白になっている猟兵に近づき、その猟兵をあっさりと丸呑みした。

 

 

「う、うわあああああ!?」

 

「ひいいいいい!」

 

アリサ「そ、そんな・・・。」

 

G「どうやら古代から生き残っている種で、永い眠りから覚めたせいか腹が減っているようだ。」

 

G「存分に最後の晩餐を楽しんでいってくれたまえ。」

 

 

そう言うとギデオンは上に向かってワイヤーを撃ち、そのまま石切り場を離脱していった。

 

 

リィン「くっ、Ⅶ組A班!全力で撃退するぞ!」

 

 

暗い石切り場の中、負けられない戦いが始まった。

 

 

 

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G「今回もあまり良い結果とは言えないが、役目は果たした。」

 

G「あとは合流地点まで逃げ切れば我らの勝利だ。クク・・・。」

 

 

「逃げ切れると本気で思っているのか?」

 

 

G「なに・・・ぐっ!?」

 

 

声に反応し、懐から導力銃を取り出したギデオンに向けて暗器が放たれ、銃を弾き飛ばす。動揺して辺りを警戒するギデオンの前に、何も無い空間から黒装束の人物が現れた。

 

 

月「もう一度聞こう。逃げられると、【本気】で思っているのか?」

 

 

G「な、何者だ・・・誰に雇われている・・・!」

 

 

月「さてな。少なくとも、お前の味方ではないことは明白だ。」

 

 

G「・・・まぁいい、この状況も想定済みだ。」

 

 

ギデオンはオーブメントを取り出し、素早く操作する。操作を終えて数秒もしないうちに周囲のいたるところから小型の機械や大型の機械兵器が現れ、月を取り囲む。

 

 

月「ほう・・・私でも気づかないほど巧妙に隠されていたか。」

 

月「プロの傭兵でもお仲間に居るのか?」

 

 

G「答える必要も知る必要も無い。お前はここで終わりだ。」

 

 

そう言って大岩の側に近づいて、大岩を掴むと勢いよく引っ張る。すると岩に偽装されていた、軍用導力車が姿を現し、ギデオンは飛び乗るように車に乗ってエンジンを掛ける。

 

 

G「では名も知らない黒い者よ、また会おう。」

 

G「生きていたら。の話だが・・・ははは!」

 

 

月「ふふ・・・。まるで悪役の基本のようなセリフだな。」

 

月「気に入った。」

 

 

背の太刀を抜き放ち、手元がブレると機械兵器に背を向けて、車が逃げていった方向に向けて歩き出す。

 

 

月「少しばかり灸を据えてやろう。なに、少しばかり夜が怖くなるだけだ」

 

 

機械兵器が月に攻撃しようと近づき、銃の駆動音が聞え始める。月は手に持っていた太刀を鞘にしまい、走り出す。

 

 

走り出した月の遥か後方で、何かが爆発する音が聞える。そこに月を追いかけようとする物はなかった。

 

 

 

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辺りは日が落ちて暗くなっており、完全に夜の世界となっていた。暗がりの中を僅かな月明かりだけで林の中を進む男は、少し開けた場所に出ると時計を確認し、空を見上げる。

 

 

G「時間通り、流石だな。」

 

 

空から中型の飛行艇が降りてくる様子に安心したような様子で呟くギデオン。着陸した飛行艇の中から彼を迎えたのは、全身黒いスーツに身を包んだ何者かだった。

 

 

G「まさかリーダー直々の出迎えとは・・・。」

 

 

???「危険な作戦を遂行してきた仲間を労うのもまた、リーダーの務めだ。」

 

 

G「嬉しい事を言ってくれる・・・。だがすまない、作戦は失敗だ。」

 

 

???「構わんさ。この作戦を遂行したという事実のみが意味を持つのだからな。」

 

 

G「確かにそうだが、どうも任された仕事はこなさなければ気がすまないのだ。」

 

 

???「ふっ、職業病か?」

 

 

G「よしてくれ・・・。昔の話だ。」

 

 

???「これだけ各地に楔を打ち込んだのだ。いくら氷の処女(アイスメイデン)と言えど、読みきれまい。」

 

 

???「運命の日は近い。」

 

 

G「我らの悲願のために。」

 

 

???「我らの目的のために。」

 

 

「「かの者に裁きの鉄槌を。」」

 

 

 

飛行艇が飛びたち、夜の空へと消えていった。気配が無くなったのを確認すると、林の中から二人の女性が姿を現す。片方はメイド、片方は動きやすい服に身を包み、コートを羽織った女性。

 

 

サラ「こんな所で会うなんて奇遇じゃなぁい?」

 

 

シャロン「ええ、まったくですわ。」

 

 

サラ「ねぇ、もしかしてどこかで会った事ない?」

 

 

シャロン「いいえ、初対面ですわ。」

 

 

サラ「ふーん、あっそ。・・・で、アレあんたの所の飛行艇じゃないの?」

 

 

シャロン「確かにラインフォルト社製の物でしたが調べた所、あのようなものが作られたという記録がありません。」

 

 

サラ「秘密裏に作られたって事ね。」

 

 

シャロン「お恥ずかしながら、社内に彼らを支援する者がいるようです。」

 

 

サラ「そいつらに関してはそっちで何とかできるでしょ。でもいましなくちゃいけない事があるわ。」

 

 

シャロン「お忙しいようですわね、お体にはお気をつけくださいませ。」

 

 

サラ(あんただって気づいているくせに・・・。)

 

 

シャロン(何のことやら存じ上げませんわ♪)

 

 

稲妻のような素早さで銃を抜き撃ちし、気配の方へ向けて攻撃をする。すると林から慌ててもう一人の人物が転がり出てきた。

 

 

月「チッ、荒っぽいあいさつだな。」

 

 

サラ「盗み聞きとは感心しないわねぇ。」

 

 

シャロン「まぁ、まさかもう一人潜んでいただなんて、私気づきませんでしたわ♪」

 

 

サラ「よく言うわよ・・・。それで、あんた何者?」

 

 

月「見ての通り、怪しい者だが?」

 

 

シャロン「確かに、いかにも怪しい服装でございますね。」

 

 

サラ「あんたもあんたで共感してるんじゃないわよ・・・。」

 

サラ「言わないようなら、あんたの体に聞くけど、構わないかしら?」

 

 

月「ふふ・・・まぁ落ち着け、別に事を構えに来たわけじゃない。」

 

月「やつらは個人的に追っていてね、それで追って来たら偶然にもここにお前達が居ただけだ。」

 

 

サラ「それを信じろとでも?」

 

 

月「信じなくても結構だ。だが私も暇ではないのでね、あまり時間もないので今日は失礼しよう。」

 

 

シャロン「まぁそう仰らずに。今夜は冷えます、暖かいお茶でも如何ですか?」

 

 

月「ふふ、それは次回いただくとしよう。」

 

 

この場から離脱しようとする月。だが直ぐに自らの周囲の異常に気づいて動きを止める。

 

 

月「・・・席を立とうとする客を無理矢理に拘束するのは、マナー違反ではないか?」

 

 

シャロン「一口も口をつけずに退席するのは少しばかり・・・いただけませんわ♪」

 

 

月の周囲には目に見えないほど細く、だが鋭利なワイヤーが張り巡らされている。まるで絶対に逃がさないと、そう言っているかのように。

 

 

サラ「ねぇ、やっぱりどこかで会った事無い?」

 

 

シャロン「存じ上げませんわ?」

 

 

サラ「・・・。まぁいいわ、それじゃあ弱い電撃でちょっと四肢の自由を奪わせてもらうわよ。」

 

 

シャロン「では私は、あなた様のヴェールを脱がせて差し上げますわ。」

 

 

黒い笑顔を浮かべる二人が、拘束された月にゆっくりと近づいてくる。

 

 

月「や・・・やめ・・・」

 

 

 

いやあああああああああああ!?

 

 

 

ノルドの夜空に、少女の悲鳴が響き渡った。


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