黒の軌跡   作:八狐

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目撃

酒場も閉まり、虫の音しか聞えない時間になると、いつものようにルディは私服に着替えて外へと繰り出す。

しかし、今日は虫たち以外に活動している者が居るようだった。

 

(・・・何かを振っている音?)

 

音の出所を探すように歩いていると、少し広い場所に出る。

そこには剣を素振りしている少女が居た。今日の昼ごろに見た士官学院のⅦ組と名乗るメンバーに含まれていた少女だ。

一心不乱に剣を振る少女からは、とても力強い物を感じる。ルディは普段夜に誰かと会うようなことが会っても、基本は関わらない、関わろうとも思わない。

しかし、今夜のルディは何かがいつもと違ったのか、素振りをする少女に近づき、話しかけていた。

 

「こんばんは、士官学院Ⅶ組の方・・・ですよね?」

 

「む・・・確かにそうだが、そなたは確か酒場の・・・」

 

「はい、酒場で働かせてもらっているルディと言います・・・臨時ですけれど」

 

「わたしはラウラ・S・アルゼイドと言う。して、私に何用だろうか?」

 

「用・・・と言うほどのことではないのですが」

 

「ふむ・・・?」

 

「少し気になる事があって、つい話しかけてしまいました」

 

「気になる事?わたしは素振りをしていただけだが・・・」

 

「その素振りの最中のあなたの様子が気になったんです。

 素振りをしているあなたはとても力強い印象を受けました

 しかし、あなたが纏う気は何故・・・悲しそうにしているのです?」

 

「!!!」

 

「私も、東方で武術を師事していた身です。

 少し観察すれば発散される気でわかりますよ」

 

「そう・・・か、自分でも気づかぬうちにそんなことになっているとは」

 

「・・・あまり武というものに寄り過ぎない方がいいかと思います」

 

「それは一体どういう・・・?」

 

「悩みや考え事を打ち消すように、鍛錬に励むのはよくない。

 ・・・ということです。それでは、伸びる物も伸びません」

 

「む・・・確かに一理あるかもしれぬ」

 

「明日も実習があるんですよね?もう、戻った方がいいと思います」

 

「そうだな・・・そなたの助言、心に刻んでおこう」

 

「ふふ・・・お役に立てたのなら幸いです」

 

ラウラが宿酒場の方に去っていくのを見送り、再び世界は静寂に包まれた。

 

 

「見ず知らずの他人を心配するなんて、柄でもないですね・・・」

 

ルディの頭にある少女の姿が浮かび上がる。その少女は、暗闇の中で座り込み、虚空を見ていた。

 

 

「・・・詮無きこと・・・か」

 

 

彼女の独り言は夜に溶け、夜鳴きする虫たちだけが、聴いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウラと別れ、気分もいつもの散策に戻り始めていた頃。ルディが大市の近くを通りがかった時だ。

 

「・・・し・・・・・・・・・てくれ」

 

(こんな時間に大市から声・・・?)

 

大市の様子を物陰に隠れ伺うと、そこには自然公園の管理員たちがいた。

 

(管理員が一体何をやって・・・おや?)

 

管理員達は数人で重そうな箱をいくつも持ち出していた。それも(一部の例外を除いて)人が全く出歩かないような夜更けに・・・。

 

(これはこれは・・・面白そうな場面に立ち会ってしまったみたい)

 

「この辺にしとくか、これ以上を運ぶのは骨だ」

 

管理員たちは持ち出した箱を、音を立てないよう静かに運び出した。

 

(フフ・・・今夜はいつもより退屈はしなそう)

 

ルディも気配を消して、そっと彼らの跡をつけはじめた。

 

 

「よし、こっからは簡単だ。魔獣に気をつけて運ぶだけだからな」

 

「それも簡単じゃねーけどな」

 

「っと、おい。あそこの酔っ払いどうする?」

 

「あ?どうもしねーよ。酔っ払ってんだろ?

 俺らの事なんか覚えてるわけねーだろ」

 

「ヘッ、確かに」

 

「んじゃパパっと運んじまって、一杯やろうぜ」

 

管理員たちは道端で酔っ払っている男の側を通り過ぎ、西ケルディック街道へと向かう。

そのすぐ後にルディも西ケルディック街道へと進む。

酔っ払いの男を視界の端に入れて、彼女は一人、溜息を吐いた。

 

(なんて杜撰な・・・私なら、あの男の意識を刈り取ってから前を通るか

そもそもこんな正面から街道に出ないで、建物の上から街道に降りるかな)

 

ルディはその男の前を通らず、音も無く男の背後に回ると、男の点穴を軽く突く。

 

「ひゅ!?」

 

男は声にならない声だけを残し、意識を手放した。

 

(さて、此処からは街道。夜の私から逃れられると思わないでくださいな)

 

ルディが一歩二歩と進みだす。すると彼女は、まるで最初からそこに居なかったかのように消えてしまった。

 

 

彼女が消えたあたりから、小さな足音が聴こえてくる。その足音は街道へ向かっていた。

 

 

「はっー!ようやく運び終えたぜ!」

 

「おつかれさーん!」

 

「まずは一仕事・・・次の仕事は大市の騒ぎ次第だ」

 

(大市の騒ぎ・・・か。今日の夕方の騒動と

彼らの動きは何か関係があるのかな?)

 

(持ち去った荷の中身は・・・装飾品にチーズやナッツなどの食品。見たところ普通か)

 

ルディは持ち出された物の確認や、盗人たちの武装も確認していく。普通なら堂々とそんなことをすれば一瞬でバレてしまうが、常人は今の彼女に気づく事すらできない。

姿無き人間など、誰が気づけると言うのか。彼らはそんなことをされているとも気づかずに談笑していた。

 

「にしても領邦軍のやつらも、すげえ事させてくるよな」

 

「商人二人の荷物を奪って、大市で問題を起させろってな」

 

「そんな簡単な事で大金もらえるんだから、チョロいよな」

 

 

(なるほどなるほど・・・州が絡んでいるのなら、領邦軍も絡んでいるのが道理だよね)

 

 

 

(中々面白い情報も手に入ったし、朝にでも鉄道憲兵隊に連絡しておきましょう。

私が、今片付けても良いけれど・・・後始末が面倒です)

 

ルディは音も無く立ち去り、ケルディックの宿へと戻って行く。

 

 

そして次の日事件が発覚し、大市は大騒ぎになった。

 




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