黒の軌跡   作:八狐

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咆哮する敵意

リィン達と合流したルディは、自ら彼らを先導していた。

彼女が案内している道は見事に魔獣のテリトリーの合間の縫うような道で、リィン達は魔獣と鉢合わせることも無く、最深部へ到達していた。

 

「いかにも魔獣が居ます。

 って感じな場所なのに、一度も会わなかったね」

 

「そういう道を選んだんじゃないかしら?

 ほら、そういう事が出来そうな人がいるし」

 

「私はただ、知っている道を進んだだけ。

 そこに魔獣が居るか否かは、単なる運です」

 

「ならば、そなたの運に感謝しなければな」

 

「ああ。

 それに・・・どうやら追いついたらしい」

 

広まった場所に出ると、そこには大量の箱と一緒に、公園の管理員達がいた。

 

「へへ・・・それなりに稼げたな」

 

「これでも町の連中が陳情を取り下げなけりゃ、もうちょい稼げるな」

 

「欲張るのも良いが、程々にしとけよ?

 コレとは別に、報酬がちゃんとあるんだからな」

 

「しっかし、あいつら何者なんだろうな?

 領邦軍の兵士にも顔が利いてるみてえだし」

 

「さてな・・・何を考えているのか

 さっぱり判らん男だったからな」

 

「まぁいい・・・いつでもここを離れられる準備を・・・・・・」

 

「・・・甘いな」

 

「なに・・・!?」

 

犯人達の前に姿をあらわし、各自の武器を取り出し構える。

ただし、たった一人を除いて。

ルディは先ほどリィン達と隠れていた場所に留まっていた。今、彼らの前に管理員は四人しか居ない。

しかし、ルディの知る限り管理員は『六人』なのだ。

 

(士官候補生とただの盗人。

数が同じなら彼らが遅れを取る理由がない)

 

(問題は見当たらない二人がどう動くか・・・。

まぁ、私の方で片付けておけば問題ないか)

 

じっと身を潜め、ルディはリィン達の戦況を見守る。戦いは彼女の予想した通り、Ⅶ組有利で進んでいた。このまま行けば、あっという間に決着がつくだろう。

 

無論、ルディの方も。

 

「くぁ~・・・ねみぃ・・・」

 

「見回りなんかいらねーと思うんだがなあ・・・」

 

眠そうな二人組の管理員が、覚束ない足取りで歩いてくる。

ルディは既に先ほどまで隠れていた場所とは、別の場所へ移動して二人を見下ろしている。

 

(見回りご苦労様です)

 

二人の間に、まるで枯れ葉が落ちるように、ふわりと降り立つと手に持っていた針を、首の点穴に刺す。

男達は糸の切れた操り人形のように地面へ倒れこみ、陸揚げされた魚の様に、身体を痙攣させていた。

 

「おやすみなさい」

 

魚はそのうちピクリとも動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

_______________________________________________________________________

 

 

 

 

 

「く、くそ・・・・・・何て強さだ」

 

「こんなの聞いてねえぞ!」

 

「さぁ、今回の事件について。

 洗いざらい話してもらうぞ!」

 

「くっ・・・・・・あの二人は何やってんだ!?」

 

「二人だと?

 まだ他にも居たか・・・」

 

「・・・・・・そういえば、ルディさんは?」

 

「呼びました?」

 

「うわぁ!?

 び、びっくりした・・・後ろから急に現れないでください!」

 

「そんなことを言われましても・・・」

 

「ひとつ聞きたいのだが・・・。

 そなたが引きずっている偽管理員はどうしたのだ?」

 

ルディの手には先ほど仕留めた、偽の管理員が掴まれていて、後ろには引きずってきた後があった。

 

「ああ、これですか。

 先程そこで見つけたので、仕留めておきました」

 

「仕留め!?」

 

「念のため聞きますが・・・。

 死んでません・・・よね?」

 

「気絶させただけですよ」

 

「知らない人が見たら、絶対死んでると思うよね・・・。

 だって白目むいて、すごい泡吹いてるもん・・・」

 

「いずれにせよ、これで万策尽きたな」

 

「ぐうう・・・」

 

犯人たちも等々あきらめたのか脱力し、全員俯いている。

ようやく事件が解決し、リィン達Ⅶ組の特別実習も終わりを告げた。

その場に居た誰もがそう確信した時・・・。

 

 

 

不可思議な笛の音色が辺り一面に響き渡った。

 

その音色が聴こえなくなると、地鳴りが起きた。

一回だけではなく、二回、三回と断続的に続き、その間隔は段々に狭まっていった。

 

まるで、巨大な何かがこちらに走り寄ってくるかの様に・・・。

 

「く・・・!?

 みんな、下がれ!」

 

次の瞬間、木々を薙ぎ倒しながら巨大な魔獣が現れ、自分達がたった今退いた場所に着地した。

 

「なんなのよ、こいつ!?」

 

「管理員が言っていたヌシ・・・。

 間違いなくこやつだろうな」

 

「ど、どうするの!?」

 

「彼らを見捨てるわけにもいかない」

 

「全力で撃退するぞ!」

 

「私も微力ながら、力になります」

 

魔獣はその巨体を惜しげもなく使って、こちらを威嚇し、怒りに狂った咆哮をあげた。

 

 

「四の型、紅葉切り・・・!」

 

「もらったわ!」

 

リィンが魔獣の脚とすれ違う様に切り抜けると、魔獣の脚に幾多の剣閃が奔り、巨体の体勢を見事に崩す。そこにアリサが追撃とばかりに、鋭い矢をその巨体に見舞う。

 

しかし、魔獣はさらに怒りを込めて雄叫びをあげ、こちらに底なしの敵意を向ける。

 

「ダメ・・・まるっきり効いてる気がしない!」

 

次はこちらの番とばかりに、魔獣はその辺の倒木を掴み、破壊的な怪力で、棍棒と化した倒木を叩きつけて来た。

 

「させない!」

 

振り下ろされた木に向けて、ルディが暗器を投げつけると、暗器が爆発を起こして木の一部を吹き飛ばした。

攻撃は空振りに終わり、魔獣が大きな隙を晒す。

待っていたと言わんばかりに、エリオットが溜めていたアーツを開放し、それと同時にラウラも動き、側面に回りこむ。

 

「ハイドロカノン!」

 

「砕け散れ!」

 

エリオットのアーツが発動し、鉄砲水のような勢いで水が魔獣に叩きつけられ、間髪いれずにラウラの渾身の一撃が魔獣に直撃する。

魔獣は巨大な体を支えきれずに、後ろに倒れ、沈黙したかに見えた・・・。

 

しかし、何でも無かったかのように再びその巨体を起こし、こちらを睨みつけた。

 

「手を抜いたつもりは微塵も無かったのだがな・・・」

 

「水じゃダメなのかな・・・」

 

「冷やしてダメなら、焼いてみますか?」

 

「そんな適当な事言ってる場合じゃ・・・」

 

「火・・・・・・か」

 

「何か思いついたの?」

 

「ああ。

 みんな、悪いけど時間を稼いでくれないか?」

 

「秘策があるようだな・・・承知した!」

 

リィンを除いた四人が、彼の前に陣取り、リィンは太刀を構え精神統一を始める。

それに気づいてか、それとも野生の勘なのか、魔獣の動きはより一層凶暴さを増し、その豪腕が一切の容赦なく彼らに振るわれる。

 

「少しは落ち着きなさい・・・よ!」

 

アリサの矢が数度にわたって撃ち込まれるが、敵も慣れてきたらしく、微動だにもせず動き続ける。

 

「ここまで反応されないと、少しへこむわね・・・」

 

「ねぇ、アリサ。

 確か実習中に炎の矢みたいなの使ってなかった?」

 

「確かに使えるけど・・・。

 まさか、彼女の冗談を真に受けたの?」

 

「冗談でも、試す価値はあると思うんだ」

 

「・・・余計に凶暴化しても知らないからね」

 

「そ、その時はその時ということで・・・」

 

後衛の二人がそんな作戦を立てているとも知らず、前衛の二人は魔獣の攻撃を必死に凌いでいた。

 

「このままではジリ貧です・・・」

 

「さすがはヌシといった所か」

 

「このまま状況を維持・・・しかありませんね」

 

「うむ・・・。

 後衛二人に攻撃がいくのは不味い」

 

「そしてリィンさんは大技の準備で動けない」

 

「彼の言う秘策・・・。

 内容は聞いていませんが、大丈夫なんでしょうか」

 

「信じるしかあるまい」

 

「・・・・・・・・・。

 何故、そんな簡単に信じることが出来るんですか?」

 

「そうだな・・・仲間。

 という理由だけでは足りぬか?」

 

「私は皆を信じ、今ここに立っている」

 

「無論、そなたの事もな」

 

「・・・随分と簡単に信用されたものですね。

 なら、信用された分くらいは活躍してみせましょう」

 

そういってルディは駆け出すと、魔獣も近づけさせまいと重い一撃を繰り出す。

しかし、彼女は避けずにそのまま前進する。

それを見たラウラが急いで助けに向かったが、間に合わない。

 

「避けろ!」

 

ラウラの叫びも虚しく、彼女は魔獣の一撃によって・・・・・・タダではすまないどころか、その場から消え失せた。

まるで、初めから存在していなかったように。

 

「消えた・・・!?」

 

ラウラが驚くのは当然、攻撃した魔獣すらもわけがわからない・・・といった状態になっている。

そして消えた彼女は・・・。

 

「ふふ、背中がお留守ですよ?」

 

突然背後に現れたルディに気づかず、隙だらけの背中を晒した魔獣に、気を込めた必殺の一撃を連続で見舞う。

予期せぬ激痛が背中に襲った事により、ルディの存在に気づいた魔獣が腕を振り回し、彼女を振り落とそうと暴れるが、彼女は既に近くから離れ、宙を舞っていた。

ルディが地面に着地するまでの間も、爆裂する暗器を数本投げて、後続のラウラの攻撃チャンスを作る。

 

「はあああああああ・・・!」

 

ラウラもそれを判っていたのか、溜めていた力を自らの奥義に乗せ、隙だらけになった魔獣に一気に叩き込んだ。

 

「奥義、光刃乱舞!」

 

光の刃が魔獣を縦横無尽に切り裂き、最後の横薙ぎの一撃は巨大な魔獣を吹き飛ばす程の威力を持っていた。

 

「まったく・・・そなたは無茶が過ぎるぞ」

 

「心配されなくても、こんな所でやられるつもりは・・・」

 

「私だけでなく、アレも無いみたいです」

 

アレ?とラウラが聞き返そうとした時、背後で何かが動き出す音がした。

完全に撃破したと思っていた魔獣が、ゆらりとその巨体を起こす。

 

「確実に倒せたと思ったのだがな・・・」

 

「今の技を受けて平然と立ち上がりましたね・・・」

 

どうしたものか、と。二人で話していると、後ろから炎を纏った矢が三本、魔獣に向かっていく。

その矢が魔獣に命中すると、音を立てて燃え始めた。

魔獣は呻きながら、地面を転がりまわり、火を消している。

 

「ホントに効いた!?」

 

「意外な弱点だな・・・」

 

「山火事が心配ですね」

 

一名、別な方向で心配事をしているが、アリサの炎の矢が有効であることが証明された。

そこからは終始こちらが攻勢で、魔獣に付け入る隙を与えない。

魔獣が攻撃しようとすれば、矢が飛び、アーツが飛んでいく。それによって出来た隙を逃さず前衛が攻撃するという連携プレーを見せ、有利に立ち回っていた。

しかし、倒すまでには行かない。決定打が今のところ無いのだ。戦いを続け、皆も口には出さないが、かなり消耗していた。

 

「リィン!まだなの!?」

 

「まだだ・・・あと少しで掴めそうなんだ・・・!」

 

「このままじゃ皆やられちゃうよ!?」

 

戦闘メンバーのパフォーマンスが落ちていく中、魔獣は相変わらずその凶暴性と動きを維持している。

 

(まさかヌシがここまでタフとは・・・)

 

(皆も確実に動きが鈍ってきている。

仕方ない、私が分け身でフォローを・・・)

 

「避けろリィン!」

 

「くっ!?」

 

魔獣の投げた大木がまともに動けないリィンに飛んでいく。

ラウラが避けるように声を掛け、アリサは青ざめた顔で手を伸ばしている。

リィンも避けようと、回避動作に移るが間に合いそうも無い。誰もがそう思ったが、そこに助けに入る人影があった。

この場で、そんな早業が出来るのは一人しか居ない。そう・・・彼女だ。

 

「せい!」

 

ルディは自分よりも遥かに大きい大木を正面から受け止め、それを人の居ない方に弾いた。

リィンの無事を認識すると、最初に動き出したのはラウラだった。

 

「我が剣、鉄すらも砕かん!」

 

高く飛び上がり、剣を叩きつけるように斬りつける。

 

「ゴルトスフィア!」

 

エリオットがアーツを放ち。

 

「燃え尽きなさい!」

 

アリサが火矢を放つ。

 

「炎よ・・・我が剣に集え・・・!」

 

そして、リィンが奥義を繰り出した。

 

「斬!」

 

二重の炎に焼かれた魔獣は大きな音を立てながら倒れ、霧散した。

 

「大丈夫ですか!?」

 

撃退に成功すると、真っ先にルディに駆け寄ったのがリィンだった。

 

「大丈夫です、別に何とも・・・」

 

ルディは手を振って、この通り、大丈夫と伝える。

 

「助けていただいてありがとうございます。

 でも・・・ルディさん、手の動きがぎこちないですよ?」

 

「・・・すみません、手が痺れているみたいです」

 

「謝るのはこちらです、俺のせいで・・・」

 

 

「とんでもねえ・・・」

 

「俺達はなんてやつらを相手にしてたんだ・・・」

 

偽管理員達が呟いたことで、ようやく彼らの存在を面々は思い出した。

 

「さて、やつらはどうする?」

 

「そういえば居たわね」

 

「どうしようか・・・」

 

彼らの処遇について話していると、いくつかの足音が近づいてくる。

どこかで聴いた、統率の取れた足音・・・。

 

「そこまでだ」

 

姿を現したのは、青の軍服に身を包んだ領邦軍だった。

 

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