仮面少女と奇妙な男
5月27日
Ⅶ組のみんなと協力して、解決した盗難事件。あれから一ヶ月が経った。
解決した次の日から憲兵隊の人間が町に駐屯することになり、一部の住民たちの間では領邦軍が黙っているわけがない。と、いつ問題が起きるか心配する人間も居たみたい。
だけど現実にはそうならず、むしろ普段動かない領邦軍が積極的に動くようになり、町でよく見回りをしている姿が見かけられるようになった。
どうやら憲兵隊の方は、本当に問題が起きた時のみ動くらしい。
両軍で問題を起こしたりして、住民を不安がらせない配慮なのだろうか?
一先ず、この町の平穏はしばらく守られることと思う。
あまり長続きはしなそうだけど。
Rudy Mao
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私は昨日はじめて書いた日記を閉じ、壊れ物でも触るようにそっとカバンに仕舞う。
姉さんから渡されてずっと持っていたけど、中を開いてペンを走らせたのは昨日が初めてだった。
故郷の共和国を離れるその日に、なかば無理矢理押し付けられた、ありがたくも迷惑な荷物。
旅先で記憶に残った物や、思い出に残った物・・・それらを決して忘れないように・・・と。
『もしルディにとって、大切な思い出ができたら・・・ソレに書いてみて』
『きっといつか・・・・・・』
『その思い出があなたの道を照らしてくれるから』
・・・・・・まさか本当に書くことになるとは思わなかったけどね。
さ、そろそろ駅に行って列車を待つとしようか。
私は下に降りて、思ったよりも長くなってしまった滞在を終わらせるため、チェックアウトの手続きをした。
「もう行っちまうのかい? 寂しくなるねぇ」
「折角、一緒にお仕事する人が増えたかと思ったのに・・・」
「お二人とも、短い間でしたがお世話になりました」
「ほら、これ持っておいきよ」
マゴットさんから、ランチバスケットを押し付けるように渡されてしまった。
中々の大きさがあるバスケットだ。
「中身はサンドイッチさ、ちょっと色つけて沢山作っといたよ」
「私も作るのお手伝いしたんですよ!」
「あ、あはは・・・ありがとうございます」
沢山・・・ということはこのバスケット一杯に入っているって事なんだろうか?
正直に言うと、一人で食べきれる量じゃ無いと思う・・・。
「ルディさんっていつも、朝抜いているじゃないですか」
「だから何時でもお腹が減ったら食べられるようにって作ったのさ」
「すみません、朝が弱いもので・・・。
これはありがたくいただかせて貰いますね」
多分食べきれないと思うけど・・・。
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少しの荷物とランチバスケットを持って、駅のホームに佇んでいると間も無く列車が到着すると言うアナウンスが鳴り、列車が駅に到着した。
静かそうな車両を探して、てきとうな席の窓際に座る
こうして窓から見える景色を、静かに見るが好き。
私の数少ない楽しみのひとつで、私が列車に乗る時に一番楽しみにしている事だ。
列車が動き始め、窓の景色が動き出すと、どんどんそのスピードは上がっていく。
こうしてまた私の一人旅が始まった。
筈だったんだけど。
「相席して構わないかな?」
「・・・・・・どうぞ」
変わった雰囲気をした男が相席を希望してきた。
変わっているのは雰囲気だけではなく、この男は奇妙な気を纏っていた。
貴族のような雰囲気でありながら、そこまで主張が激しいわけではない。
ただの一般人を装った気を纏いながらも、どこか気取った印象を相手に与える気。
貴族の印象と気が合致しているように思えるが、そういうものではない。
例えるならそう・・・。
芝居がかった男、それが私が感じたイメージだった。
「失礼ながら、バリアハートにはどのような用事で行かれるのかな?」
わたしのイメージはどうやら当たっていたらしい。
雰囲気がそうならば、口調も芝居がかっていた。
なら、私も変えるとしよう。 大丈夫、仮面なら幾らでもありますわ。
「単なる旅行ですわ、そちらは?」
「おや、奇遇だ」
「と、言いますと?」
「実は私も旅行なのだ」
「美しいものを探す旅行・・・といったところだ」
「芸術鑑賞の旅、というわけですのね」
「私の言う美しいものというのは、何も物だけに留まらない」
「人間にも僅かながら、美しい人間がいるのだ」
「美しい人間ですか。
わたくしにプロポーズでもされている様に見えますわ」
「いや、すまない。
なにぶん美しい者を見たら、賞賛せずには居られない性分でね」
「まぁ、お上手ですね」
「時に、君は仮面という物をどう考える?」
「ただ顔に着けて、顔を隠すものではないのですか?」
「例えば、常に仮面を着けて生活している人物がいるとしよう」
「仮面とは、人間の顔を象ったもので、一つ一つに人格がある」
「確かに色々な顔があります」
「着けた人間は、その仮面にあった自分を演じ、仮面の人物になりきる」
「一日、二日ならばなんら問題は無いが、毎日それを続けていると・・・」
「仮面が自分の顔になってしまうのだ」
「・・・恐ろしいお話ですわ」
「怖がらせてしまったかな?」
「いえいえ、とても興味深いお話でした」
「楽しんでいただけたのならよかった」
「もし、君の知り合いにそんな人物がいるならば、この話をしてあげると良い」
「ええ、そうしますわ」
芝居がかった所作で、頭を下げると男は別な車両に去っていった。
「・・・・・・・・・」
私は自分の顔に手をやり、なぞって見る。
当然、仮面など着けていないので、まったく意味の無い行動だ。
仮面が自分の顔になる・・・あの話は恐らく、私の事を言っていたのだろう。
そういえば、私が自分以外の顔を着けたのはいつからだったか?
「・・・・・・思い出せないほど、昔・・・か」
誰に言うわけでもなく、ポツリと呟く。
『ご乗車ありがとうございます、まもなくバリアハートに到着です』
さて、今日はどの