黒の軌跡   作:八狐

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美談

いつごろから呼ばれ始めたのか、バリアハートは翡翠の公都と呼ばれている。

町の名前に翡翠などと大そうな文字をつけるとは、どんな町なんだと思うだろうが・・・。

 

今、私の前にはその名に恥じない、美しい町並みが広がっていた。

 

(翡翠の公都・・・。

その名に偽りは無いみたい)

 

折角だから少し町を散策していこう、ホテルにチェックインするのは多少遅くなっても構わない。

 

時間はまだ昼近く・・・たまにはゆっくりと行こう。

 

持たせてもらったお弁当もあることだし。

 

 

 

 

 

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面倒な人に捕まってしまった。

 

買う気もなしに、宝石店に入ったのが運の尽きだった。

 

「こんな所でまた会えるとは、これも女神の導きだろうか?」

 

そう・・・列車で生まれてしまった奇妙な縁・・・その縁が今、私を困らせている。

 

「女神様はとても意地悪なようですね

 私は、あなたとは会いたくありませんでしたよ」

 

「美しい者は、美しいものが集う場所に惹かれるのだろう」

 

「またそうやって私を口説くつもりですか?」

 

「そんなつもりはないが、美しいものを見るとついね」

 

「美しい美しいと言いますけど。

 私はまだ、あなたのお名前も知りません」

 

「これは失礼した」

 

「わたしはブルブラン男爵という」

 

「え、男爵・・・?」

 

「うむ、その通り。

 ところで、私はまだ君の名前を聞いていないが・・・」

 

「失礼、私はルディといいます」

 

「まさか、あなたのような人が男爵とは思いませんでしたよ」

 

「何があるかわからないからこそ、人生は面白いのだ」

 

男爵はガラス越しに宝石をじっと見つめている。

 

私も何が楽しいのかわからずに、ガラスに閉じ込められた宝石たちを見ていた。

 

「君は宝石をどう考えている?」

 

「キレイだと思います」

 

「どうしようもなくキレイで、ひたすらに光彩を放ち続ける」

 

「いつか、自分が・・・輝けなくなるまで」

 

「そんな物と考えます」

 

「おもしろい、実におもしろい考えだ」

 

「確かに君の言うとおり、いつかは失う輝きだろう」

 

「だがそんな刹那的な輝きを見せているからこそ

 人を惹きつけてやまないのだ」

 

「永遠の輝きなどありはしない」

 

「人もまた同じだ」

 

「同じ? どこがですか?」

 

「人と宝石が同じなのではない」

 

「生き方が似ているのだ。

 その輝き尽きるまで、どれだけ美しく生きられるか

 そんな生き様がね」

 

「どうだろうか、君は今美しく生きているかね?」

 

「どうでしょう、私はわかりませんね。

 あなたの言う美しさというモノがわかりませんから」

 

「・・・少しばかり、話し過ぎてしまいましたね」

 

「私はこれで失礼します、男爵」

 

私は宝石店から足早に出ると、広場のような場所に向かった。

 

 

「人の美しさがわからないか」

 

「皮肉なものだ。

 彼女自身も、輝くその日を待つ原石だというのに」

 

彼もまた宝石店から退店し、ただ静かに翡翠の町へと消えた。

 

 

 

 

 

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広場のような場所にあったベンチに座り、一息つく。

 

今日は厄日だ、何故あんな疲れる人と二度も鉢合わせなければいけないのだろう。

 

列車で会った時はいきなり人のことを美しいなどと口走り、二度目に宝石店で会った時は意味深なことばを投げかけてくる。

 

もし自分を宝石に例えるなら、黒ずんで唯の石ころになった宝石だと思う。

 

光らなくなった石にどうやって美しく生きろというのだろうか。

 

美しい生き方なんて私は知らないし、知る必要もない。

 

そんな生き方をしている人もまったく心当たりは・・・。

 

ある記憶が私の中によみがえってきた。

 

ケルディックで出会った彼ら、リィン達だ。

 

・・・・・・もしかしたら美しい生き方というのは、彼らの様な事を言うのかもしれない。

 

だとしたら私にそれを実践しろというのは、無理な話だ。

 

陰で生きてきた私には、誰かを照らすような生き方など出来はしないのだから。

 

彼らのような人達と一緒に居ると、私は眩しくて目を瞑ってしまうだろう。

 

自嘲気味に笑って、バスケットの中身を取り出して一口食べた。

 

「ん・・・おいしい」

 

 

バリアハート一日目 終了

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