黒の軌跡   作:八狐

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遭遇する黒と白

何時もどおりの朝を迎えて、欠伸をひとつする。

 

いつもと違うところは、少し高い宿に止まっている所だろうか。

 

部屋を見渡せば手入れされた家具に、寝転んでいるだけで眠りに誘われるようなベッド。

 

これより高い部屋は通信でルームサービスを受けられるという。

 

そんなサービスは必要なかったので、私は普通の部屋に泊まった。

 

普段着に着替え、軽い朝食を食べてホテルを出ると昨日とはまた違った、静かな町に出た。

 

朝・昼・夜でその町の顔は変わる。

 

ケルディックは騒がしかったが、どうやら朝のバリアハートは静かな町らしい。

 

しばらくは静かな時間を楽しませてもらおう、最近私は喋りすぎている気がするし。

 

 

駅前の通りまで来ると、少しだけ騒がしくなる。駅前は人が集まりやすいということだろう。

 

ベンチに座って、人の通りを何気なく眺める。

 

スーツを着てアタッシュケースを運ぶ男、古風な服を着た女、散歩する老人。

 

変な男爵の言葉に同意するわけではないけど、人は見ていて退屈じゃない。

 

あのアタッシュケースの中身は? あの女性は貴族? あの老人はどこに向かっている?

 

そんな事を考える。 下らないけど、やってみると中々楽しい。

 

こんな下らないことが楽しいと言える、つまりそれだけ普段は退屈しているという裏返しでもある。

 

私が退屈しのぎに出来る事なんて、たかが知れている。

 

自由になってからは景色を見たり、人の動きを見たりなど出来る事も増えた。

 

代わりに普段していた鍛錬や遊びが出来なくなってしまった。

 

暗殺者の家系という性質上、鍛錬や動きは人前で披露するのは無理。

 

人の居ないところでやる? それも不可能。 町の外、それも外れでやらなければあっという間に見つかる。

 

遊びもそう、私は子供らしい遊びなど知らないから、小さい頃から姉さんとよく鍛錬と称した遊びをした。

 

その内容は木から木へ飛び移ってする追いかけっこだったり、どれだけ速く木の頂上まで近づけるかとか。

 

このように子供らしくない子供時代を送っていたが故に、私は子供らしい遊びを知らない。

 

これも街中でやるのは論外、森でもそんな異常な動きをする少女をみたら噂になる為、外れに行かなければいけない。

 

そんな町の外、それも外れの方まで行かなければ出来ない暇つぶしなど、誰がするというのだろう。

 

こんな現状だから私は人通りを見て、あれこれ想像するか、町を観光をするくらいしか出来ないのだ。

 

今の所はそれで楽しめているから良いが。

 

ぼーっと眺めていると、見慣れない赤い服を着たグループが駅から出てきた。

 

知らない顔が多いが、一人だけ見知った顔があったのでどんな集まりかは直ぐにわかった。

 

以前ケルディックで出会った、リィン・シュヴァルツァーと名乗る青年。

 

彼が居るということはつまり他のメンバーも同じ仲間ということだろう。

 

昨日の男爵の言うとおり、女神様はいらない導きを私に与えてくださったらしい。

 

友好的な彼のことだ、私を見つけたら声を掛けるに決まっている。

 

今はなんとなく・・・誰とも話をしたくない。私はベンチから立ち上がってそっと、その場から立ち去った。

 

 

 

 

 

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男爵にⅦ組の面々、あまり会いたくない人が追加され、いよいよ町を歩き回るのは難しくなった。

 

今日は町の外を歩き回ろうか。

 

確か東にオーロックスという砦があったはず。 その砦を見に行こう。

 

私は東口から街道に沿って、砦に向かった。

 

 

砦に付く頃には、少し夕焼けが顔を出していた。

 

外見はかの有名なガレリア要塞には劣るが、それでも十分すぎるほど立派な砦という感想だ。

 

しかし、この場所には似つかわしくない物が先ほどから目の端に映る。

 

まるで戦争でも始めるのかという数の戦車が運び込まれている。

 

運びこまれた数は、私が眺めている間だけでも軽く10は超えていた。

 

いくら主要な都市が近いからといって、警備の強化という理由にはあまりにも過剰な火力。

 

一体彼らはこの地で、何を始めるつもりなのか・・・。

 

少なからず興味を覚えた私は、中の様子を見てみたくなった。

 

久々に黒い服を身にまとい、フードを深く被ると、私という一人の人間の気配は、完全に消え失せる。

 

私は一気に外壁を駆け上がると、兵士達の間を駆け抜ける。

 

完全に気配を消した者に気づける人間は、そういない。

 

彼ら兵士達は私に気付けない、傍を通り過ぎてもただ風が通り抜けたように感じるだけ。

 

私は警備がうろうろとしている間を、悠々と通り抜けて侵入させてもらった。

 

しかし、中の警備がかなり厳しく思うように動き回れない。

 

砦とはいえ、これほどまで警備を厳しくする必要があるのだろうか。

 

だが、その厳しさが私の興味を更に大きくさせる。

 

などと考えていると私の居る場所まで、警備の足が伸びてきた。

 

私は物陰に隠れ、その警備をやり過ごすと背後に回り・・・。

 

いつかのように首に針を刺して、意識を奪った。

 

物言わぬ人形のようにぐったりとした兵士を隠れていた物陰に隠すと、再び姿を消して歩みを進めた。

 

 

 

 

 

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侵入してから数十分が過ぎた頃だろうか、警備の足音ではない物が聞えた事が何度かあった。

 

それが何なのかはわからないが、気配の感じからして人間ではあるようだ。

 

なるべく鉢合わせはしたくないのだが、そうも言っていられないらしい。

 

その謎の人物がこちらに向かってきている、それも真っ直ぐに。

 

感づかれたか、はたまたコッチに目的の何かがあるのかは判断が難しい。

 

見つかると面倒だ、速やかにに仕留めさせてもらおう。

 

念のため月光蝶を使い、身を隠して機会を窺う。

 

そしてとうとう、その謎の人物が姿をあらわした。

 

 

「あれ? こっちにも居ない」

 

 

その正体は子供だった。

 

水色の髪をしていて、白く特徴的なスーツを着ている。

 

そこまでなら普通・・・いや、十分普通ではないが、少女の傍らには白い物体が浮いていた。

 

「うーん・・・どこに居るんだろう」

 

「ガーちゃんわかる?」

 

予想以上に面倒なヤツが来たらしい・・・こういうのはさっさと沈めるに限る。

 

私は姿を隠したまま、その少女の首に目掛けて峰打ちを繰り出す。

 

しかし、それは金属音と共に防がれてしまう。

 

傍らに浮いていた白い物体が、少女を庇ったのだ。

 

「! ガーちゃん!」

 

白い物体はこちらに真っ直ぐ腕を突き出してくる。

 

私はその攻撃を避けた後、月光蝶を解いた。

 

「いきなり攻撃してくるなんて、ご挨拶だね」

 

「良い相棒が居るな」

 

「ふふーん、でしょ?」

 

「見た目に似合わず、潜入の心得もある様だ」

 

「む・・・・・・見た目に関して言えば、君にも言えると思うんだけど?」

 

「なに・・・?」

 

「・・・・・・フード、脱げてるよ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

「不覚です・・・まさかこんなチビッ子に顔を見られるとは・・・」

 

「君も高いとは言えないレベルだと思うんだけど」

 

「否定はしません」

 

「それで、僕に顔見られちゃったけどどうするの?」

 

「別にどうもしませんよ、特に取れる対応もありませんし」

 

「ほら、そういうのってよく口封じに殺したりするじゃん」

 

そういう彼女の顔は好奇心に満ちていて、年頃の活発な少女という印象を持たせる。

 

「そうして欲しいんですか・・・・・・?」

 

私は雰囲気を一変させると、一瞬で距離を詰めて彼女の首に小太刀を突きつけ、いつでも刺し貫き、刎ねられる状態にする。

 

彼女の顔はみるみる変わっていき、先ほどまで絶え間なく言葉を紡いでいた口を閉ざした。

 

「私としても、そっちの方が手っ取り早くて助かります」

 

殺気を出して、彼女が今まさに殺されそうになっているという状況を更にリアルにしてやる。

 

「ほら、あなたが今言った場面ですよ?」

 

でも彼女は青ざめた顔だけはしない。 それだけではなく、先ほどの彼女からは想像できない、気迫を込めた視線をこちらに向けてきた。

 

「・・・・・・殺さないの?」

 

「・・・・・・今の私を見て困惑は見せても、恐怖は見せない」

 

「それどころか、抵抗の意志さえ見せる・・・・・・」

 

大抵の人間は明確な殺意を向けて、武器を突きつけてやれば恐怖し、怯え、何も出来なくなってしまう。

 

彼女のような小さな子供だったら尚更だ。

 

だというのに彼女は強い意志を持ち、その恐怖を跳ね除けてみせた。

 

「ふふ・・・・・・見た目で判断してはいけないとは、よく言ったものです」

 

私が武器を仕舞って、彼女から離れると、よほど緊張していたのか盛大に息を吐いた。

 

「い、生きた心地がしなかったよー・・・・・・」

 

「普通ホントに殺そうとする?」

 

「別にそんなつもりは無かったんですけどね」

 

「ヤル気満々だったように見えたんだけどなー」

 

何のことやら、と肩を竦めて私はその場を去ろうと歩き出した。彼女との話で大分時間を取られてしまった。

 

元々これほど長く砦に居座るつもりも無かったので、当初の目的を果たしに行くのだ。

 

「ちょっと待って、君の目的はなんなの?」

 

「目的を聞かれて、親切に答えると思いますか?」

 

「確かにそうだけどさ、目的が同じだったりしたら協力できるじゃん」

 

「・・・・・・はい?」

 

「だーかーらー、協力!」

 

「何となくだけど、君とは協力できそうな気がするんだよね」

 

彼女は真っ直ぐな目で私を見ている。この瞳を私は知っている・・・ケルディックでも見たあの人の眼だ。

 

まるで私の全てを見透かし、私の嘘を見抜く・・・そんな眼。

 

この眼の前ではいくら嘘で塗り固めても、全て見抜かれてしまうだろう。

 

「・・・・・・私は、この地で何がおきようとしているのか・・・。

 それを見極めに来ただけです」

 

「僕の任務と似てるね、協力できそう!」

 

目的を話した事を好意的に取ったのか、彼女は嬉しそうに飛び跳ねている。

 

その姿は、とてもさっき此方を見ていた人物と同一とは思えない。

 

「構いませんけど、それはリスクを承知で言ってるんですよね?」

 

「リスク?」

 

「あなたは私の顔を見ている。

 私にはあなたの口を封じる理由がある」

 

「あ・・・・・・」

 

「いつ、後ろから襲われても対処できるって事ですよね?」

 

「そ、そういうのはちょっと勘弁して欲しいかなー・・・・・・なんて」

 

彼女がそう返してきたので、私はなるべく悪い顔を意識してニヤリと笑って返す。

 

「うぅ、生きて帰れないかも・・・」

 

一人悲しそうに呟いて、白の少女は歩き出す。

 

それを追うようにして私も歩く。

 

 

この地で何が起ころうとしているのか、その一端を知るために。

 

 

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