組織の幹部という少女の姿は、いつもの白黒少女そのものであった。
「魔理沙……!?」
「いえ、魔理沙さんではありません」
「……じゃあ他に誰だって言うんだよ、他人の空似とでも言うのかい?」
「それが他人というわけでもないんです。彼女は霧雨
「へぇ、それにしても似てるね……で、なんでまた魔理沙の親戚なんかが……」
「こ、これ以上はヒミツです!腐ってもジャーナリストですからね!それに貴女なら自分でも調べられるでしょう?」
「チェッ……まぁ、ここまで教えてもらったし一応礼は言っとくよ。暇潰しのネタも増えたしね」
* * * * * * * * * *
その後しばらく詮索して回ったものの、やはり伊達にこの幻想郷で反妖怪団体をやっていないようで尻尾すら掴めず萃香はうなだれていた。
気がつけば当たりは黄昏が里を包み始めている。しかし提灯の煌めきや鯢呑亭などの点々と一部の店の光しかなかった数十年前とは違うようで、人里は明るい昼から明るい夜へと変貌していく。
「飲み屋が増えてるのは良いんだけど、なんだか落ち着かないね……」
とりあえず酒を飲もうと店へ向かうことにした。今回は行きつけだった鯢呑亭をあえて選ばず、里の外れにある小さな屋台に決めた。
その屋台からは蒲焼の香ばしい匂いが放たれていて、一日中霧雨理奈に着いて調べ回った空腹の萃香を惹きつけるのには十分であった。
暖簾を潜ろうと手を伸ばすと、中から何やら懐かしい声が聞こえてきた。
「だからぁ〜ヒック、永遠亭は私が支えてるんだってばぁ〜ヒック」
「鈴仙ちゃんいつもこき使われてるじゃ〜?ヒック」
「うっさいわねぇ……縁の下の力持ちってやつよぉ?ヒック、あんたこそ大食いおばけに振り回されてるじゃないヒック」
「ゆ、幽々子さまはヒック、私がいないとダメなんだからしょうがないじゃないヒック」
「ちょっとお客さん達飲み過ぎですよ?毎回ここで潰れられても困るんですよぉ……ん?あ!いらっしゃい……って、あら!お久しぶりですね!」
夜雀がらこちらに気づき話しかけると共に白い頭と紫の頭が同時に振り向いた。
片方は白玉楼の庭師こと魂魄妖夢である。半霊である妖夢は人間より歳をとるスピードがかなり遅いものの、やはり数十年の時が経つとすこしだけ雰囲気が変わり少女という括りから半歩だけ進んでいるような見た目(人間で言う17歳ほど)にまで成長している。
もう片方は鈴仙・優曇華院・イナバ。見た目は以前とほとんど変わってないみたいである。
「うわ、懐かしの小鬼だぁ!あんたどこに行ってたの?」
「鬼ぃ〜?ふふん、このイーグルラヴィのエースだったこの私が退治してあげましょうかねぇ!」
ゲラゲラと笑いながら萃香の肩をバシバシと叩く2人にミスティアは青ざめている。
「ふ、2人とも酔いが覚めたら血の気引きますよ……」
「大丈夫だよ店主さん。見てな、よく酒を飲む鬼はこんな術も使えるのよ」
萃香が指をパチンッと鳴らすと、数秒後馬鹿騒ぎしていた馬鹿2人の動きが止まった。
「な、何したんですか?」
「なーに、簡単な事だよ。酔いを覚ましてあげただけ」
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俯く馬鹿2人。酒に呑まれている間に何をしていたのかははっきり覚えているようで、青ざめ肩を縮こまらせている。
「……あ、あはは。お、お酒って怖いですね……あはは」
「おいウサギ」
「は、はい!ななななんでしょうか?」
「私いまちょーっと調べ物しててさぁ、あんた日頃から薬関連で人里歩き回ってんだしちょっとばかり情報とかくれないかい?」
「そ、そんな事なら!え、えへへ……」
「そんなに畏まらなくてもいいんだよ?いーぐるらゔぃ?のエース様には頭が上がらないからねぇ」
「あ、あははは!そ、それでどのような情報を?」
「霧雨理奈ってのは知ってるだろう?」
「えと、確か霧雨商店の子ですよね?あの魔理沙さんそっくりの」
「そうそう、その子についてなんだけどさ反妖怪組織に入っててしかも幹部って聞いたんだけどさ、その辺のこと詳しく教えて欲しいんだよね」
「うーむ、私もあくまでお得意様の一つであって詳しくはないのですが……彼女がそのような組織に属しているのは魔理沙さんと関係があるってのは聞いたことありますね」
「魔理沙と?」
「はい、それにそう言う組織に所属しているだけのことはあって妖怪に強く憎んでるらしいです」
「まぁ、そりゃそうだろね。妖夢の方はなんか知ってる事とか変わった事とかない?特に博麗霊夢のことが聞きたい」
先程の醜態を反省してチビチビと水を飲んでいた妖夢が肩をビクリと振るわせて恐る恐るこちらを見る。
「変わったことといえば……最近、青娥さんがうちによくやってくるんですよ」
「青娥って……あぁ、あの邪仙か」
(そういえばこないだミミズクと紫の会話でもなんか言ってたな)
「幽々子様の元へ足蹴に通って何か話してるみたい……というか青娥さんが何やら交渉?しようとして毎回幽々子様が断ってるみたいですけど」
「なるほどねぇ、紫が言ってた事を機にするならこれも重要な情報かもだね」
注文した少し高めの酒のグイッと飲み干し、萃香は席をたった。
「邪魔して悪かったね。はい、これお代ね。お釣りはこのバカたちの分に当てな」
「わ、すごい太っ腹ですねぇ。まいど!またお越しください!」
にこやかな笑顔の店主と苦笑いでペコペコと頭を下げてる2人を尻目に萃香はフワリと浮き上がる。
(霧雨理奈に霍青娥……穏やかじゃないのは確かだ)