後戸の国、隠岐奈の支配する世界。椅子に座る隠岐奈は酒を片手にどうしたものかと思考を巡らせていた。そこへ部下である少女達、爾子田里乃と丁礼田舞がふよふよと飛んできた。
「お師匠様〜、言われた通りあの小鬼を逃しましたよ〜」
「ご苦労……しかしまぁ、まさか藍が先手を打ってくるとはな。
それにしても造形神か……ククッ、代償は高くつくだろうな」
「そんなにやばいんですか?たしかにあの黄色いの、私たちが干渉してもうんともすんともならなかったけど」
「お前達が干渉できるのは生命力と精神力、あの黄色いのはそのどちらも持ち合わせていない。なのでお前達の能力じゃ何の影響もないのだ」
「げー!そんなの相手にしなきゃいけないんですかー!やだなぁー!」
「直接ぶつけるなんてしないさ。なにより私でさえあの造形神に正面から勝つのは骨が折れる事だ」
くつくつと不敵に笑いながら一口酒を口に含む。“骨が折れる”と表現したが、これは謙遜ではなく見栄であった。本気を出した埴安神を正面から迎え撃てる者などは幻想郷にほぼいない。“
「お師匠様、何か策はあるんですか?」
「それを今考えてるのだ」
* * * * * * * * * *
酸素のない死の領域、生物への呪いのない純粋な空間。虹龍洞の最奥に位置するそこに1人の少女が横たわっていた。赤い服に虹色の勾玉、頭にひかる鉱石が特徴の少女、玉造魅須丸である。
ふと彼女はパチリと目を開いて起き上がり、ググッと体を伸ばした。
「
ここで採れる鉱石の名は龍珠、陰陽玉の原材料となるほどの力を持つものである。それを手に入れようとする者は度々現れ、その都度に魅須丸が追い払っているのだ。ふわりと浮き上がり、入り口の方へと向かって飛び立つ。ぞわぞわとした気配の根源へと辿り着き、それと邂逅した。
「これは……なんともおぞましい」
「…………」
それは何も答えず、ただひたすらにこちらを見つめている。
「貴方の正しい名なんて呼びたくありません。そうですね……“
「…………」
ただ沈黙し、感情のこもってない顔のまま白者はふわりと浮き上がる。ふと、魅須丸は何かに気づいたようだ。
「そうか、龍珠……何に使っているのかと思えばそういう事か」
つぶやきに返答するかの様に白き者から光弾が放たれるが、魅須丸はそれをかわし自らも宙に浮く。さらに何か祝詞のような物を呟いた瞬間、空間に霊力が満たされた。
「博麗の結界……ではないですがそれの原型に近い物です。この空間は限りなく私に支配され、全てが私の味方をします。ほら、このように」
パチン、と魅須丸が指を鳴らすと死角となる虚空から光弾が生まれ、撃ち落とさんと白き物へと襲いかかった。
「………!!」
体勢を崩しながらもギリギリで避け、肩近くの肌を掠めて通り過ぎて行く。
「今のは挨拶のような物です。ほら、これが本命ですよ」
「…………!」
視界を埋め尽くすほどの光弾、不可避の攻撃である。
「あなたのためのプラネタリウムです。さぁ、あなたも星になりなさい」
しかし、静寂が訪れる。無数にあった光弾は全て闇に溶け消え失せた。
「なっ……!?これは……結界を反転させたのかっ!?これは、あなたたちへの切り札の一つのはずなのに……!?」
気が向けば無数の光弾。先程と同じ光景だが、1つ違うのはその対象。降り注ぐ光の滝は2人の姿をかき消した。
「…………」
白者は積もった岩に背を向け、立ち去ろうとしたその刹那、岩の隙間から光が漏れ爆発した。
土煙がはれてゆき、そこに佇む少女の姿が見えてくる。衣服はボロボロ、はだけて露わになっている白き肌は滴る赤をより強調していた。
魅須丸は何も言わずに空に一を描くように指を動かす。その瞬間、白き者は激痛を感じた。チラリと視線を右下に落とすと、腕がなくぼたぼたと血が溢れている。
「ハァ……ハァ……切り札を用意するのは……ハァ……無駄な努力でした。やっぱり自分の能力が一番いい……」
「…………」
白き者は無言で懐からお札を数枚取り出し、腕の断面に押し当てた。ギチギチと音を立てている事からものすごい圧力が加えられていることがわかる。数秒後、左手を離すと赤く染まったお札による止血が完了したようでもう流れ出てはいなかった。
「!!」
ダンっ!と地面を蹴り上げ白者は跳んだ。その直後、背後から何かが質量あるものが飛んできて地面を打ちつけた。
それは“陰陽玉”、魅須丸の力であり、役割であり、武器である。さらに地面に大穴を穿った陰陽玉から閃光が放たれる。左手を使いそれを弾いた瞬間、今度は鈍い痛みが脇腹を貫いた。
「ぐッ……!げばァッ……!」
魅須丸のつま先がめり込み、明らかに尋常ではない程の血を吐く。白い姿が魅須丸以上に赤を強調している。
「初めて血と共に吐いた声がそれですか?
……痛み自体は普通に感じてるんですね、動じないだけで……あ、流石にここまでやると気持ちの悪い無表情はできないんですね」
四つん這いでうずくまる白き者の顎に爪先を引っ掛けて上を向かせる。
「幻想郷の賢者として、玉造として、神として……その鬱憤を晴らす相手としてあなたは実に都合がいい」
* * * * * * * * * *
血に塗れたまま、ぺたりと玉造魅須丸は座り込んだ。
「ふぅ……ひさびさのストレス発散になりましたね」
「ひどい格好だな」
チラリと音源へ目線を向けるとそこには同じ賢者の摩多羅隠岐奈が立っていた。
「見てたんですか?」
「最初からね」
「……まさかあれをけしかけたのも」
「あれは私じゃないよ。本来行使する権限を持ってるのは紫、今の状況から見て藍だな」
「私を襲った理由は?」
「自分でわかってるだろう。あれの動力は龍珠、お前がいる限り簡単には手に入らないからってことだ」
「はぁ……どいつもこいつも争い争い、そんなに上に立ちたいのですか?」
「みな“幻想郷を愛してる”。それだけ、それだけが事実、愛し方が違うんだ」
「霊羽はその為の道具、依代……“贄”ですか?」
「霊羽の価値は存在する事だ。あいつがいる事で現状争わないで済んでいる。まぁ、綱渡りのようなバランスであることには変わらないがね」
「……笑えますね、お互い睨み合って刺すか刺さないかの駆け引きをしている現状を“争わないで済んでいる”ですか。ひどい冗談です」
「冷戦というやつだ。外のそれは最後まで争うことなく終了したのさ」
「ふん、代理戦争をやってるところまで同じですね。それはそうと八雲は袿姫を引き込んだようだけど?」
「それに関しては予想外だが想定範囲内、今からその修正に入るよ」
「私は」
帰ろうと扉へ向けて足をかけていた隠岐奈はチラリと魅須丸の方へと目を向ける。こちらを見つめる彼女の目には怒り、憎しみ、悲しみがこもっており、静かに感情の炎が燃えていた。
「貴女を絶対に許さない。貴女のせいで霊夢は……」
隠岐奈の背中は言葉を最後までに聞かず、そして何も言わず後戸へと吸い込まれていった。
1人残された魅須丸はごろんと転がり、戦いの余波で崩れ、ヒビの入った天井を見てつぶやく.
「せめて、せてて霊羽だけは_______」
裸足ってことは肉弾戦が強いってことだ(謎理論)
魅須丸様に踏まれたい