博麗の呪縛   作:こーくへぃ

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02:元閻魔の警告

 卯の刻。太陽が自らを遮っていた山から顔をだし、黄金色の光が幻想郷中に満ちてゆく。

 元気に飛び起きたあうんが霊羽の寝室の縁側に登って障子に手をかける。カラカラと乾いた音を立てて開くほど部屋へ入り込む朝の日差しの量は多くなり、まだ微睡みから覚めてない霊羽の重いまぶたを強くくすぐった。

 

「霊羽さ〜ん!起こせって言った時間ですよ〜!」

 

「んぅうう……あと10時間だけ……」

 

「も〜、あと10分だけですよ〜って10時間!?」 

 

 朝からしょうもない漫才が繰り広げられているが、起きる起きないの問答は毎朝恒例の日課になっている。最終的にあうんが有無も言わさずに布団を剥ぎ取るまでが一連の流れであった。

 

「という事ではいっ!」

 

「ひぃい……眠いぃ……」

 

「全く、霊夢さんよりしっかり者ですけど寝起きに関しては向こうに軍配が上がりますねぇ……」

 

「え〜、先代の人は早起きだったの〜?」

 

「そうですよ!早寝早起きした上で朝からダラけてましたからね!」

 

「……それ本末転倒って奴じゃない?」

 

〜少女起床中〜

 

 顔を洗い、寝癖だらけの髪を梳かして服を着る。こんな簡単な支度さえも寝起きの霊羽にとってはかなりの重労働であり、これらの工程をこなすのにいつも30分ほど掛かっている。だがその30分の間にあうんが朝食を作ってくれるので霊羽は甘えられるのである。

 

「はい、今日の朝食は今が旬のアジの塩焼きですよ!」

 

「あら、海産魚だなんて豪華ね!」

 

「あの後に橙さんがお詫びとして持ってきてくれたんですよ〜。

……すっごくヨダレを垂らされてましたけど」

 

「まぁ、猫だしね。……それにしても今日は本当に豪華ねぇ……」

 

 ホカホカの白ごはんと漬物に味噌汁、メインにアジの塩焼き。少々塩分過多ではあるが、これほどに完成された朝食は存在しないだろう。

 開いた身を箸で摘み、口に運ぶ。とても脂の乗ったアジは眠気なぞ吹き飛ばして一気に食欲を加速させた。

 

「ん〜!美味しい!幻想郷じゃ海産物なんて高級品なのに役得よね〜!博麗の巫女様々だわ〜」

 

「また海魚を貰ったら次はお刺身なんてどうですか?」

 

「そうしようそうしよう!……って言うかアンタは何でそんなに料理できるのよ」

 

「夜雀が困ってたんですが、助けてあげたら仲良くなって色々と教えて貰えるようになったんですよ〜」

 

「へぇ〜。早く刺身食べたいなぁ、また橙が持ってこないかなぁ」

 

「その時は私も呼んで欲しいねぇ」

 

 つい、悲鳴をあげそうになった。いつの間にか食卓に付いていた小鬼はグビグビと酒を呑んで顔を真っ赤にさせている。相変わらず角が大きい。

 

「な、何の用よ…?」

 

「何の用?………さぁ?私に聞かないで欲しいな」

 

「はぁ?アナタがここに来たんでしょ?」

 

「あぁ、そうだ。何故か来たくなるのさ、先代の時からね。

でも、それが何故なのかなんて私にもわからないんだし、気にしてないんだから聞く必要がないでしょう?」

 

「……ほんと、妖怪ってアナタみたいなのばっかりよね」

 

「逆に人間が細かい事を気にする奴ばっかりなのさ……それにしても今日の瓢箪は調子がいいなぁ」

 

 何というか掴みどころがない。コチラの質問にも霧の様な回答しか返ってこない。というか人の家に勝手に上がり込んでここまでくつろげるのは何故なのだろうか。妖怪はみんなこんな考えなのか?

 垂直にしていた瓢箪を口から離し、大きくプハーッと一息を吐く萃香。その息は非常に酒臭く、嗅いだだけで酔っ払いそうだ。その瓢箪に栓をすると、彼女はコチラの方を向く。

 

「ふぅ、昨日はああ言ったけどさ、私は霊夢やらの事に関して諦めたわけじゃ無いよ」

 

「そんな事私に言われても……先代の事なんて知らないし。新しい巫女が決まるのも何十年ぶり、博麗の巫女がいない期間が長く続いてて面識もないんだしさ」

 

「そりゃそうよねぇ。華扇もそうだったけど管理側の奴らは教えてくれないし、困ったもんだ。……大体華扇もアレだけ長い付き合いで……」

 

 頬杖をついてたまに訪れる仙人の事についてボヤく萃香。その間も酒をどんどん呑んでゆく。人間だったら既に致死量を超えているだろう。

 

「それにしても幻想郷もかなり雰囲気変わったねぇ」

 

「そう?」

 

「そうだよ。昔は人間牧場と言って差し支えなかったのに、今じゃ人間の地位が少し向上してるじゃないか」

 

「まぁ、阿典ちゃんの史書とか読む限りだいぶ変わってるみたいね。けれどその分人間への保護の力も弱まったのよ。

 以前は里の外でも里の人間は襲われることは殆ど無かったけど、今じゃ場所によっては食われたりなんて普通だからね」

 

「へぇ、直接人間を食える様になったのかい?何故そうなったのかは知らないけど、楽しそうね」

 

 萃香ははっはっはと笑いながらまたも瓢箪を垂直にして酒を流し込んだ。

 

「伊吹萃香、また呑んでるのですか」

 

 突如聞こえた覚えのない声。音源の方へと目線を移すと、緑の髪にごく普通の和服の少女と大きな鎌を持った赤い髪の少女が立っていた。

 

「おや……閻魔じゃないか。何だいその格好は?非番かい?」

 

「いえ、今は閻魔じゃありません」

 

 沈黙が流れる。質問した萃香の方を見ると瓢箪を加えたまま硬直していた。数秒後、瓢箪をゆっくりと食卓に置いた。

 

「え?」

 

 ワンテンポ遅れて聞き返す萃香。酔いが冷めたのか先程までフラフラしていた体に背筋がキチンと通っている。

 

「四季様言い方が悪いですよ〜。あくまでもしばらくの間、閻魔として職務につかないってだけでしょう?」

 

「それはそうですが、その期間の間は書類上閻魔ではないので私は事実を言っただけですよ」

 

「相変わらず堅いなぁ……」

 

「そりゃ地蔵ですからね、硬さには自信があります。

 ……それより小町、貴女は何故ここに居るのですか?」

 

「え?あ、それはその……」

 

「また、サボりですか?」

 

 閻魔というのは、死後の世界で極楽、もしくは地獄のどちらかに行く事を決定する権限を持つ存在である。今は違うとてそのオーラは凄まじく威厳を纏い、とてつもない威圧感を放っている。

 

「し、四季様は今閻魔ではないので私を叱る権限は……」

 

「後で説教です」

 

「……はい」

 

 小町は弱々しく返事をすると一瞬でその場から消え去った。

 映姫は軽くため息をつくと、靴を脱いで食卓についた。

 

「緑茶で良いです」

 

「えっ、あ、はい」

 

 映姫の要求に応えるためにあうんは急いで台所へと向かって行った。

 

「……何だか閻魔とは思えないわね」

 

「閻魔じゃありません、今の私は動く地蔵の映姫ちゃんです。やっと引き継ぎが済んだのでここに寄らせていただきました」

 

「そ、そうですか」

 

「本当に何百年ぶりの長い休暇なので、良ければおすすめの甘味処などを教えていただけませんか?」

 

 あうんが台所から急須とお茶の入った湯呑みを運んできて映姫の前に置いた。

 

「あぁ、どうも。……で、おすすめのお店を教えて欲しいのです」

 

「……アンタ、本当にそれだけの為にここに来たのかい?暇人だなぁ」

 

「来たいから来るという理由もクソもない貴女よりマシですよ」

 

 微妙な空気が流れる中、霊羽が質問をする。

 

「えーっと、なんで閻魔を休業なされてるんですか?

 ……あ、ちなみに甘味処なら兎達が経営してる“団子屋清鈴堂”がオススメです」

 

「ほぅ、団子ですか、大好物です。

 単純に数百年間働き続けてましたから、その分の休暇を頂いたというシンプルな理由です」

 

「は、はぁ……」

 

 映姫はズズズ…っとお茶を啜る。

 

「あ、そうそう2人とも」

 

「「何ですか?/何だい?」」

 

「博麗霊夢について、これ以上深入りするのは辞めておきなさい」

 

 突然の警告にキョトンとする2人。萃香が頬杖をつき、笑みを浮かべて口を開く。

 

「……へぇ、どうして?」

 

「単純にメリットが無いからですよ。先程の貴方達の会話を聞いてましたが、内容から察するに管理側の人物に尋ねたりしてるのでしょう?」

 

「まぁ、その通りだけど」

 

「その時の相手の反応が答えです。ただ自らの好奇心を満たす為だけに強大な彼女達を刺激する必要性は皆無です」

 

 湯呑みを置き、萃香に軽く挑発するかの様に同じ様に頬杖をつく映姫。鬼と地蔵の雰囲気がなんとなくピリピリしているのは感じ取れる。

 

「博麗の巫女に関するものは幻想郷存続の要。彼女らは幻想郷を守る為ならば、たとえ貴女との仲でも容赦はしないでしょう」

 

「へっ、私は鬼さ。それでもやるのが私だ。それにしても閻魔という席に居ないアンタはそこそこ嫌な性格をしてるね」

 

「……とりあえず、私は清鈴堂とやらに行くのでここでお暇させて頂きます。

 もし、まだ深入りする気なのであればそれ相応の覚悟を持って望みなさい。あ、お茶はご馳走様でした、とても美味しかったですよ」

 

 映姫はあうんの頭を軽く撫でると、外に出てふわりと浮き上がった。

 

「忠告、そして警告はしました。後は貴女達次第です」

 

「ご親切にどうも。アンタの言う通り好きにさせてもらうよ」

 

 映姫はペコリと頭を下がるとそのまま人里の方へと飛び立つ。しばらく飛ぶと、小町が待っていた。

 

「映姫様は優しいですね。わざわざ忠告する為に寄るなんて」

 

「何を言ってるのですか?私は甘味処を知りたかったから寄っただけですよ、あの話のことはたまたまです」

 

「その事について話してる所に、その件に深く関わっている貴女がたまたま寄っただなんて都合が良すぎますよ。

 そもそも映姫様が今みたいに閻魔から外される事になったのも、その事が原因じゃないですか」

 

「……地蔵の役割は基本的に救うことです。地獄に落ちるような者ですらね」

 

「そんなもんですかね?……というかただの休暇だなんて閻魔が嘘ついていいんですか?」

 

「今の私はただの地蔵です。そもそも嘘には良い嘘と悪い嘘があります。相手を陥れる嘘でもなければ到底黒とは言えません。私が白といえば白なのです」

 

「今は白黒つける立場ではないのでは?」

 

「……うるさいですね。

 あ、人里が見えてきましたよ。早速清鈴堂に行ってみましょう」

 

「おや、私もいいんですか?」

 

「私は閻魔ではないので貴女を仕事に戻らせる権限はないのです。団子くらいご馳走しますよ」

 

「お、映姫様ったら太っ腹〜」

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