博麗の呪縛   作:こーくへぃ

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03:山の巫女

「萃香!!!」

 

 巳の刻半、博麗神社に1人の少女の怒号が響く。それを発した側は博麗霊羽、博麗の巫女である。それを発された側は伊吹萃香、小鬼である。

 

「う〜ん……なんだい霊羽……人がせっかく気持ちよく寝てるのにさぁ?」

 

 目を擦りながら起き上がり、不平を漏らした後に瓢箪を一気飲みする萃香。それをみて更に霊羽の怒りのボルテージは上がってゆく。

 

「あんたがその馬鹿瓢箪を開けっぱなしにするから止めどなく酒が溢れてこんな事になってんのよ!!!」

 

 そう言われて下を見ると、自分が寝ていた縁側が伊吹瓢の酒で水浸しになっている。

 

「ひえー!もったいない!ずぞぞぞぞ!!!」

 

「ぎゃーーー!!!!汚い!!!!!」

 

 勝手に住み着いた住人のせいでより一層騒がしくなった博麗神社、その階段をゆっくり登ってくる者がいた。

 それは階段を上り切ると、開口一番に大声を上げた。

 

「博麗の巫女はいるかーーーー!!!」

 

 突然大声で呼ばれて体が跳ねて硬直してしまう。そちらの方を向くと、青と白を基調にした巫女服、緑でウェーブのかかったボブヘアに蛇と蛙のアクセサリーをつけた少女が立っていた。

 

「えっと……わ、私でーす!」

 

「見ればわかるよー!」

 

 じゃあなんで叫んだんだ?とツッコミそうになったが、とりあえず黙って彼女がこちらへ来るのを待った。……が、彼女は階段の前に立ったまま動かない。仕方なく自分が少女の方へと向かう事にした。近くでよく見ると緑がかった目に整った顔立ちをしていて、とても自信に溢れたような表情をしている。

 

「……あの、なんで動かないの?」

 

 質問を投げかけると、少女は不敵に笑った。

 

「段数が多すぎて足が痛いのよ。先手を打つなんてなかなかやるわね!」

 

 何言ってんだこいつ……と、つい言葉が出そうになった。

 

「こっちまで飛んでくれば良いのでは……というか階段も飛べば良かったんじゃ……」

 

 そういうと、ハッとしたような表情でこちらを見つめてくる。

 

「なんで早く言わないのよ!!!」

 

「は、はぁ!?無茶苦茶よそんなの!!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 なんだかんだでとりあえず中に入って霊羽、萃香、緑色の少女の順でちゃぶ台を囲んでいた。

 沈黙が続いている中、あうんがお茶を淹れてこちらに戻ってきた。

 

「ありがとう、あうん……えっと、貴女もはい」

 

「ん、ありがとう」

 

 それまでただ飲んでいるだけだった萃香が瓢箪から口を離し、緑の少女を見て笑った。

 

「なにか懐かしい雰囲気を感じてたけど、やっぱり山の巫女だったかい」

 

「山の巫女って……妖怪の山の上にある神社の人よね……」

 

「そうよ、私は東風谷神苗(かなえ)。新しい博麗の巫女が決まったと聞いて見に来てやったのよ」

 

「は、はぁ……」

 

 お茶を啜って微妙な雰囲気から逃げようとする霊羽。しかし、相手はお構いなく文字通り“見てくる”。

 霊羽の隣に膝で立ち、全身を見回すように右左右左と動いている。

 

「それにしても……ふぅん……博麗の巫女なだけあって中々の霊力ね。ふぅん……中々いいんじゃない?」

 

「……それはどうも」

 

 神苗は立ち上がると霊羽の対面にまた座った。

 

「なんだか忙しないねぇ」

 

「改めて中々の霊力を持ってるわね?まぁ、これなら認めてあげても良いわよ?」

 

「認めるって何を……?」

 

 神苗はまた立ち上がると腕を組み、偉そうな笑みを浮かべる。

 

「貴女を好敵手(ライバル)によ!!」

 

「………えっと……結構です」

 

「そうそう、結構ですって……えぇ!なんで!?」

 

「えっと……確かに同業者だけど、私は巫女とは言ってもメインの仕事は結界の管理とか異変の解決とかだし……」

 

「え、えっと……でも……えっと……」

 

 予想してなかった返答に狼狽える神苗。目元に僅かに涙が滲んでる気がする。

 ドギマギしてる神苗の後ろから、また別の声が響いた。

 

「もー、素直になりなよ神苗〜」

 

「そうそう、素直に友達が欲しいっていいな?」

 

「神奈子様!ケロちゃん!」

 

「おやおや、まーた懐かしい顔だよ。久しぶりだねぇ、神奈子、諏訪子」

 

 皆が意を向けた先には二柱の神が立っていて、雰囲気からして只者ではないことがわかる。

 神奈子と諏訪子は軽く返事をするように挨拶すると、神苗の横に座った。

 面識がない霊羽はとりあえず新しいお茶を二つ淹れてくる事にした。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 「えっと、どちら様ですか?」

 

 霊羽がそう尋ねると、二柱はにこりと笑って「神苗の保護者です」と答える。

 諏訪子と呼ばれた小さい神様が不意に神苗の肩に手をポンと置いた。

 

「この子はねぇ、こんな風に素直になれない性格だからさぁ……まぁ……まともに友達がいないわけよ……」

 

「は、はぁ……」

 

 続いて神奈子も肩に手を置く

 

「んで、新しく博麗の巫女が就いたと聞いて大喜び、今日の朝飛び出して行ったわけね。だいたい予想ついてたからついて行ったら大当たり、また素直になれなくて断られてるの」

 

「って事で、神苗?霊羽ちゃんになんて言うのかなぁ?」

 

 両肩に手を置かれている神苗は恥ずかしそうに顔を赤くして震えていて、その姿は小動物を連想させる。

 

「ほら神苗〜?言っちゃいなよ〜」

 

「…………さい」

 

「………え、えっと?」

 

「と、友達になって!!!!!……う、うわぁぁぁああん!!!!」

 

 突っ伏して大声で泣き出してしまった。萃香は「マジかこいつ……」とでも言いたげな表情で瓢箪をまた垂直にしている。何が何だかわからないのでとりあえず頭を撫でる事にした。

 

 しばらくすると落ち着いてきたようで泣き喚く声は嗚咽に変わっていた

 

「うぐっ……ひっぐ……ぐすっ……ありがとう……ぐすっ」

 

「神苗ちゃん、友達になりたいなら最初から言ってくれれば良いのに……」

 

「えっ……それじゃ……」

 

「……うん、友達になろう?」

 

「わぁぁ!!神苗についに友達が出来たよ!!!!」

 

「よくやったな神苗ぇえええ!!」

 

 神奈子と諏訪子はまるで世界が救われたかのように歓喜していて、なんだか“親バカ”という表現がとても似合いそうである。

 あうんは寝ているし、萃香は心底どうでもよさそうにこちらに背を向けて寝転がり酒を飲んでいる。

 しばらくすると完全に泣き止んだ神苗が腕を組んで偉そうに立ち上がる。

 

「よし、霊羽!ライバルとしてさっそく人里に遊びに行くわよ!」

 

「ライバルとしてってのがよくわからないけど……まぁ、行こうか」

 

「神奈子様!ケロちゃん!お小遣い頂戴!!」

 

「よしよし、初めての友人記念にたくさんあげよう!」

 

「よしよし神苗……あんたって子は……」

 

 なんだか羨ましい。自分は産まれた時から博麗の巫女候補として育てられ、訓練も受けてきた。だから親の顔なんて知らないし、知ろうともしたことがなかった。親に撫でられたりする感覚を知らない……少しだけ、少しだけ悲しくなる。じわりと目頭に温かいものが染み出してくるのを感じる。

 

「…………ひゃっ!?」

 

 不意に私の頭に何がが優しく触れたような気がした。暖かくて、とても優しい感じ。見回してもあうんは寝てるし、萃香はベロベロ、東風谷組は今も歓喜の渦の中にいる。

 ボトンと何かが上から落ちてきた。上を見上げてもただ天井があるだけでいつもと変わりはない。落ちてきた物は布でできた袋で、中にはお金がたくさん入っていた。

 

「霊羽ちゃん、早く行くわよ!」

 

 いつの間にか神苗が靴を履いて外で待っていて、ふわふわと浮いている。霊羽は袋を懐に仕舞って靴を履くと、人里に向かって飛び立った。




イメージとしては

霊羽:13歳
神苗:12歳
     
この様な感じです。 

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