博麗の呪縛   作:こーくへぃ

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06:聖徳王・豊聡耳神子

 睨み合う2人、神社は爆発物を前に鋭い緊張感で包まれていた。

 

「さぁ、いつでもかかってきたまえ」

 

 太子が軽く挑発するような仕草で指を前に突き出して小さく動かす。しかし、橙は挑発に乗る気はさらさらないようで、霊力を纏いながら低い体勢を維持している。

 

(なるほどね、あくまで冷せ______)

 

 次の瞬間、ネコ科の脚力、飛行能力、霊力による加速を経て凄まじい瞬発力を発揮した橙の爪がコンマ以下の時で喉元に急速接近した。が、太子はそれ以上の反応速度と瞬発力で橙の腕を掴んだ。

 

「弾幕ごっこ……にしては随分と過激じゃないかい?」

 

 数十年ぶりに幻想郷に帰ってきた萃香は、明らかに以前と弾幕ごっこの動きや雰囲気が変わってることに対して違和感を抱いていた。それに対してあうんが説明する。

 

「考案者の霊夢さんがいなくなってから少しずつエスカレートしていって……今じゃちょっと怪我したりする程です。でもあれほどバチバチにやってるのは珍しいですよ」

 

「まぁ、一応殺し合いに発展しない為のゲームとしての役割はギリギリ果たしているのよ」

 

「くっ……離せッ!!」

 

 必死に腕を振り解こうともがくがびくともしないようで、橙だけが体力を消耗してゆく。

 

「おそらく君は私の小柄な体を見て接近戦なら勝機があるとでも踏んだのだろう?」

 

「ああっ!!」

 

 余裕そうな笑みを崩さない太子だが、橙の反応を見ると腕に凄まじい圧力がかかっているようだ。悶え苦しむ相手に追い討ちをかけるように太子は首を掴んだ。

 

「私はかつてとある山の神との力比べに勝った事もある。

 さて……哀れな子猫よ、君は八雲の名を授かる程度には強いし、それは私も認めよう。だが、相手が悪かったな」

 

 小柄な体から金色のオーラが溢れ出し、まるで炎のように揺れ動く。

 

「我は聖徳王、天資英邁の仙人。化け猫風情が瞬発力くらいは勝てると思ったのだろうが、驕るな。

 所詮は使役される式神。(タオ)を進み真理を追求する我に傷一つ負わせられると思うな。

今から行われるのは“躾”だ。赦しは請わなくても良い、それで止めるつもりはない」

 

 そういうと太子はグッタリしている橙を上へと放り投げ、掌をそちらへ向ける。金色の光が太子の手に収束してゆく。

 

「ちょ……やばっ……!」

 

 霊羽達が危険を感じ、止めようと走りだす……が、次の瞬間それは放たれ、その煌めきはグッタリとした橙の体を飲み込んでいった。

 

「この手応えは……おや、これはこれは……」

 

 太子が尺で口元を隠しながら笑う。閃光が消え、そこに立っていた(厳密には浮いていた)のはグッタリとした橙を抱えた八雲藍とその主人、八雲紫であった。

 

「ごきげんよう豊聡耳神子、うちの式の式がお世話になったようね」

 

「ごきげんよう紫女史、躾が足りないのではないかな?

 いや、その役目は飼い主の君の方か藍。相変わらず美しいな、傾国の美女よ。この際、私の部下にならいかな?毎日可愛がってあげるぞ?」

 

 ギリッ……と歯を軋ませ、明確な敵意を向ける藍。彼女がここまで感情を露わにするのは珍しく、博麗の巫女として幾度か会っている霊羽も初めて見た光景である。

 

「藍、落ち着きなさい。あくまでこれは弾幕ごっこ、彼女に罪はないないわ」

 

「うむ、為政者としてルールを守るのは重要だからね」

 

「……2人とも口元隠してて何かシュールですね」

 

 空気を読まないあうんに霊羽が“コラッ”っと軽く引っ叩いた。

 

「とりあえず橙は連れて帰るわね。躾は私達の仕事であって、貴女のやる事じゃないわ?他人の所有物に手を出すのは古来から罪のはずだけどね」

 

「はっはっはっ、昔から悪ガキには他所様からも躾を貰うものだよ。まぁ、私は幼き頃から人を律する側だったがね」

 

幻想郷(ここ)においては貴女は律される側よ。勘違いしすぎると痛い目見るわ」

 

「それは弁えている。だが律するのは君たちではないだろう?」

 

「あとついでに警告しておくわ、豊聡耳神子よ。あの邪仙から目を離さない事ね」

 

「青娥の事?目を離そうが離さまいが彼女を縛るのは無理。自由と言う言葉が人になった様な存在だからね」

 

「あぁ、それと霊羽」

 

「は、はいっ!?」

 

 突然こちらに話しかけられたため、つい声が裏返ってしまった。

 そんな私を見て八雲紫は一瞬だけ懐かしそうで、慈愛に満ちた表情になった。

 

「貴女のことはちゃんと見てるわ。貴女はずっとその調子でいなさい。

 では、みなさんごきげんよう」

 

 そういうと3人は隙間の中に消えていった。それを確認した豊聡耳神子は思いっきり伸びをした後、首の骨を鳴らした。

 

「ふん、まるで母親だな。それにしても……ふぅ、久しぶりの弾幕ごっこは疲れるなぁ……それじゃ私も帰らせてもらうよ」

 

「はぁ、貴女何しにきたのよ……」

 

「とりあえずは挨拶だけさ、また来るよ」

 

(とりあえず一つの目的は果たせたしね)

 

 神子は体を浮かせ、空へと飛んでいった。

 こっちもこっちで無駄に疲れた霊羽は深いため息をつき、しゃがみ込んで頬杖をつく。

 

(それにしても……この間の変な集まりに、今回の橙……というか紫達とあのミミズクの雰囲気……)

 

「……はぁ、なんだか難しいことばかりでお腹すいちゃった。巫女ってこんなに大変なのねぇ。あうん、ご飯の準備をお願い」

 

「あ、はい!今すぐ取り掛かりまーす!」

 

 いつの間にか空には雲がかかり、雨が降り始めていた。少しずつ増えてゆく雨の量と今の幻想郷が重なる。幻想郷は……あまりいい方向へと進んでいない気がする。

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