豊聡耳神子との衝突を避け、橙を回収した後マヨヒガに戻ってきた八雲藍はなんとも不服そうな顔をしていた。
「……紫様」
橙を抱えながら主人である紫に藍は声をかけ、それに対し何も言わずに紫は振り向いた。
「豊聡耳神子を放っておいてもよかったのですか?」
「そうね、放っておくべきではないわ」
「だったら!」
「冷静になりなさい“八雲藍”。まだ時期尚早って奴よ
……ただ、幻想郷……私の幻想郷で好きにはさせないわ……絶対に」
その時、紫の背後からパタンと戸が開く音がした。そちらへ振り向くと、長いブロンドヘア、北斗七星が刺繍されている服を着た少女が立っていた。
「隠岐奈、久しぶりね」
「やぁ紫、あいも変わらず元気そうだな。
それにしても……実に、実に無様だな?」
摩多羅隠岐奈はやれやれと言った体制を取り、鼻で笑う。心底馬鹿にしたような表情にはムッと来るようなものがある。
「隠岐奈様!」
「藍、鎮まりなさい」
くつくつと笑い侮辱する隠岐奈に対し、藍は噛み付く様な目つきで食ってかかろうとするも紫がそれを禁めた。
「やけに感情的じゃないか藍。その猫がそんなに大事かい?たかが式じゃないか、また新しく作れば良いだろう?
まぁ、紫に感謝する事だな。私は神だが寛容なわけじゃない、そのまま私に攻撃なんてしてたら橙と同じことになっていた」
この神は実に神らしい神と言える。いくら格下でも不遜な態度であれば必ず罰し容赦などしない、そんな存在である。九尾の狐といえど万物に在りながら万物に在らず、あらゆる物や者から信仰を吸い上げる“天衣無縫に隠された絶対秘神”には叶わない。
「まぁ、あの太子が相手だしょうがないとは思っているよ」
隠岐奈は自らが生成した戸に腰掛ける。
「へぇ、彼女を随分と評価してるのね」
「当たり前だ。飛鳥の頃、あいつは盟友であり、上司であり……ふふっ、色々な仲だったよ」
「……私は貴女と彼女の関係なんて興味がないわね」
「おっと、すまない。太子の凄い所……いや、恐ろしい所はシンプルにその才覚だ。
仙人というのは永い年月を生き、その間も鍛錬を繰り返し、生きれば生きるほど強くなる。だが、太子は飛鳥の人物といえど眠りから覚めたのは最近、奴の体感時間的には数十年だろう」
「……つまりどういう事でしょうか?」
「その数十年だけであいつの師匠である邪仙を、最低でも1000年は下らない時の中鍛錬し続けている奴をすでに追い越している。いや、封印前の尸解仙として眠る前の時点でその片鱗は見せていたな。
……まぁ要するに、アイツに対して時期尚早なんて言葉はない。刻と共に成長し続けている」
「なるほどねぇ、参考にさせてもらうわ。
それにしても……貴女は彼女の事を話す時、いつもイキイキしてるわね」
「当たり前よ。さっきも言ったが、太子は盟友だ。立場は違えど、一度は志を共にした者だ。……勿論、場合によってはアイツであっても全力で排除するのには変わりはない」
「……ほんとかしらね?貴女はなんだかんだで甘いもの。霧雨魔理沙だって……」
「魔理沙はあの計画に必要なものだろう?確かにアイツは気に入っているが、気に入ったからああしたわけじゃない。私から気に入られるほどに、元から才能や運などに恵まれてたんだ」
「ふぅん、まぁ貴女との付き合いは長いし、一応信用しておくわ。」
「まぁ、まだ奴に会うときはでは無いだろう。私は帰るぞ」
そういうと隠岐奈は腰掛けている戸に座ったまま、バックロールエントリーの要領で倒れ込みそのままパタンと戸がしまった。
それを見送った藍は不安そうに紫に話しかける。
「……良かったのですか?」
「彼女の幻想郷への愛は本物よ。ただ違うのはその先、最終的な到達点、そこが私たちとは違う。気をつけなさい、隠岐奈は味方だけどそれがいつまでなのか何て彼女にしか分からないんだから」