剣鬼血戦 作:コロッコロにしてやんよ
生得術式、並びに呪力こそが貴ばれる呪術師界隈。
強力な術式を。膨大な呪力を。その為に、血と血を、家と家を掛け合わせていくことも厭わない。
だが、やはりどんな世界にも変わり者というのは存在するのが世の常というもの。
貴ばれるのは、呪力でも術式でもなく、圧倒的なまでのフィジカル。
文字通りの死ぬほどの鍛錬と、命を投げ捨てるような打ち合いという名の死合を経て強者のみが生き残っていく気狂いの家柄。
そんな家が残ってきたのはなぜか。
答えは簡単、純粋に強いからだ。権力という架空の武器が通用しない、圧倒的なまでの暴力というものを有していたからだ。
彼らの前では、呪術師の家柄などそこらの雑草にも劣る代物でしかない。そして、仮に彼らを侮辱するような事になれば生きている事すらも後悔するような目に遭う。
家の名は、山田。呪術師の家系でありながら、極めるのは剣術という変わり者たちの巣窟。そして周囲からは魔窟と呼ばれる鬼の家。
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剣の重さは、命の重さ。容易く奪える物であるからこそ、見極めろ。
剣術一家兼呪術師の家系である山田の家で最初に教えられる教えがコレだった。
彼らにとって命というものは、等しく剣を振るえば奪える物でしかない。そこに強弱は関係無く、剣を抜けば等しく殺す。それが山田の流儀。
だからこそ、軽々しく剣を抜かない事もまた、彼らの流儀である。
故に、抜く場においてはたとえ相手が
「殺すぞ、ジジイ」
「殺ってみろ、小僧」
山奥に存在する広い庭のある寝殿造りの日本家屋。手入れが行き届いているのか、歴史を感じさせながらも汚さなどは無いこの屋敷こそ、山田の本家。
呪術師家系でありながらも、剣術一家としても一部界隈では有名であり頭のねじが外れた生粋のキチガイ者たちが集う場所。
この庭で今日、世代交代ともなるであろう立ち合いが行われようとしていた。
庭のほぼ中央、五メートルほどの間隔を開けて相対するのは少年と老人。
片や、十五歳中学三年生。片や、七十八歳現当主。関係性は、祖父と孫であり同時に師と弟子でもある。
二人の手には、それぞれ一振りの真剣が携えられていた。
呪いを宿した武器、呪具ではない。呪具ではないが、腕のいい鍛冶師の鍛え上げた美術刀ではなく、実戦刀である。
その切れ味は、肉を容易く切り裂き、技を持って骨を断つ。
睨み合う両者を遠巻きに囲う様にして眺めるのは、この山田の家に己の限界以上の力を求めてやって来たキチガイ達だ。
誰も、この立ち合いを止めることは無い。仮に止めようと動けば、まず先にその愚か者がこの場に骸を晒す事になるだろうからだ。
何より、この尋常ではない立ち合いはこの家の常。どちらが死んでも己の鍛錬に支障はない為、寧ろ見て盗むために皆が皆、その目を皿のようにして一挙手一投足を見逃さない様にしていた。
果たして、この立ち合いに審判などは居ない。そして、開始の合図も、勿論無い。
「―――――死ねヤァ!」
仕掛けたのは、少年。前に倒れ込むように重力の加速も用いた前への突進、両腕を胸の前で交差し足元を狙って横一閃。
「温いわァッ!」
だが、その一閃は空を切る。
老体とは思えない跳躍を持って空を跳ぶ老人は、真剣の柄を両の手で握り真っ向唐竹割りと言わんばかりに大上段から振り落とす。
少年はこの一刀を前に突っ込んだ勢いを殺すことなくさらに前へと突っ込んで跳び上がった老人の足元を潜り抜けるようにして回避。地を滑りながら振り返りつつすぐさま真剣を持ち直して、下から上へと垂直の切り上げを放っていた。
交差する、上下の斬撃。だが、どちらもが空を切った。
何と空中に居た老人は、切り上げを察知した時点で右足を振り上げ空の中で前転する様にして前へと逃れていたのだから。
着地すると同時に、老人は体を捻るようにしながら反転。その捻りの勢いを殺すことなく左から右へと時計回りに横薙ぎする斬撃へと変換。
対して少年は、敢えて前へと突っ込んでいた。
動作というものは、出始めというのは大抵その威力は最低値だ。威力は、右肩上がりに加速していく。
故に、出鼻を潰した。自分から見て、右から左へと流れていく斬撃の軌道に、レールのように切っ先を空へ向けた己の刀を盾にして空へと流したのだ。
見事、彼は死の一閃を潜り抜けた。だが、近づぎる間合いは十全に刀を振るうには、不十分。
だがしかし、彼の家は剣術一家ではあるが同時に戦闘一家でもある。命懸けの戦闘に置いて、刀が振るえないから、等という情けない理由で戦闘行為を収める事などありえない。
振り抜かれるのは、左のボディアッパー。侮るなかれ、その破壊力は肋を砕いて、内臓を潰す。
「―――――良い拳を振るうようになったではないか」
「さっさとくたばれ、ジジイ」
少年の拳は、皴があれども強靭な右掌に止められていた。薄く煙が上がっている。
掴まれる前に彼は拳を引くと、その勢いのまま後方へ跳んだ。
刀を肩に担ぎ上げるようにして構え、血管が浮かび上がるほどに柄が軋む程に力を籠める。
山田の剣は、純粋なまでの剛剣だ。膂力を持って、人を切り、大樹を切り、岩を切り、鉄を切り、鋼を切る。
尋常ではない鍛錬の末に到達する極致。
一方、老人もまたこの人外魔窟の家を八十に届きそうな年月生きてきた、正に怪物。目の前の少年が勝負を掛けに来ている事は、誰に言われるまでも無く理解していた。
故に、こちらもまた全力全開。袴の着物姿であったのを、上を脱ぎ捨て袴一丁に。
外気に晒される肉体は幾筋もの刀傷の刻まれた歳など一つも感じさせない隆々とした肉体。その体が一回り大きくなったのではないかと感じられるほどに力が籠められ、熱を持った筋肉が湯気を上げる。
彼らの体は、常にトップギアにすんなりとは入れるように訓練されている。いや、改造されていると言った方が正しいか。
人間の体には、リミッターが存在している。これは、単純に自壊などを防ぐためだ。
山田家は、このリミッターを破壊している。そして、自壊しない為に尋常ではない鍛錬を積み上げて、人の身でありながらさながら鬼のような力を得るまでがワンセット。
勿論、その領域に全員が全員至る訳では無い。命を落とす者も珍しくはない。因みに、周りの山には肉食性のクマなどがうろついていると記しておこう。
そうして始まる、人外魔境の剣技。
互いは互いに、剣をかみ合わせる鍔迫り合いには持ち込まない。
如何に腕利きの鍛冶師が鍛え上げた鋼であろうとも、刀身というのは繊細なものだ。刃で噛み合えば刃が欠けるし、切れ込みも刻まれる。そこに、彼らの剛力が上乗せされれば無駄に刀を消耗するだけだ。
だからこそ、先程の少年のように受け流すことも早々無い。剛剣を主としながらも、同時に回避もまた主眼に置いた立ち回りこそが彼らの強みだ。
回避は紙一重。仮に当たるにしても薄皮一枚に限定する徹底した動き。それでも躱しきれなかった刃に互いの体は血を流していく。
「くっはははははッ!!!楽しいぞ、小僧ーッ!!!」
「とっととくたばれ、妖怪ジジイがッ!!!」
地面を血で汚しながら、二人は互いを否定するように、一方で尊重するように切り刻み合う。
永遠に続きそうな戦いは、しかし人間という生物故に唐突に打ち切られるようにして終わるのが常。
老人の斬撃が、少年の左肩から腕を添うようにして縦に切り裂いた。が、少年は止まらない。
右手で鍔元を握り、左手は反対側から柄頭を抑え込むように添えられる。
その切っ先は、一瞬の隙を逃すことなく老人の胴体、その中央へと吸い込まれるようにして宙を突き進み貫いた。
「……ゴフッ!………抜かったわ……」
「はぁーッ…………はぁーッ………!」
「くくっ………時は移ろう、か……誰か、
心臓を刺し貫かれたとは思えない老人の言葉。門弟たちも動揺あれども、直ぐに一人が一振りの刀を持って二人の元へと駆け寄ってくる。
受け取った老人は、未だに肩で息をする孫であり、弟子である少年へとその刀を鞘入りのままに突き出した。
「知っておろう、小僧。この刀こそ、我らの家に伝わる妖刀、朱桜。代々当主のみが抜き、振るう事を許される刀だ。今より、貴様の物となる」
「………おう」
息を整えて受け取った刀。
種別は、太刀。朱色の鞘には疎らだが何枚もの護符が張られており、鍔は五角の黒鉄に流水と桜雨の意匠。柄紐は、呪布を細く裂いたものを巻き付けられていた。
鯉口を切り、外気に刃を露出させればその刀身は乱刃の刃紋に薄紅色の刀身を持ち見たものを飲みこむような怪しさがあった。
「最後の仕事だ、小僧」
「分かってんよ」
答えながら、少年は妖刀を引き抜いた。
両手でその柄を握れば、老人は満足そうにうなずき彼に背を向けて跪坐の姿勢となる。
振り上げられる妖刀。その薄紅色の刀身は、一切の躊躇なく晒された首筋へと振り下ろされていた。
転がる白髪の頭部。項垂れるように力の抜けた首の無い体。
「………」
ただ一度、血払いをするように刀を振るい鞘へと納める。そして、顔を上げた。
「今日から俺が、この山田の家の当主を務める。文句のある奴は、掛かって来い」
静かに宣言する彼に対して、門下生の反応は地面である事も厭わず膝をつき、深々と頭を下げるというものだった。
こうして、山田家38代目当主、山田
そして、時は流れて、春。出会いの季節がやって来る。