傭兵の戦場   作:舌百

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『AVENGER』後篇

「なるほどな。ついて来い。いいもの見せてやる。」

店主はそう言って、店の奥、暖簾の先に消えていった。

暖簾を手で抑えながら店の奥を覗くと、そこはシャッターが閉じられたガレージだった。

クレーンのついたトラックが一台あるだけの簡素なガレージ。

だが、そのガレージのシャッターはトラックが通るためには大きすぎる印象を受けた。

店主はその部屋の角、シャッターの側に立って、「おい、こっちだ。」と手招きしていた。

店主のそばに行くと、そこの床だけが他と違うことに気づいた。

周りはコンクリートなのに、そこだけ錆びた分厚い鉄板が置かれていたのだ。

「これは?」

「まあ見てろ。」

店主がそう言ってその板をフン!とどかすと、そこの下には地面がところどころ、剥き出しになっている梯子のついたコンクリートの穴が広がっていた。

「ここの下だ。落ちねぇように気をつけろよ。結構深いからな。」

そしてカンカンと音を立てながら降りていく店主に続いていく。

降りている途中で下を進んでいる彼に色々と尋ねる。

「この先になにが?」

「ついてからのお楽しみだ。」

「ご家族は?」

「あの野郎にやられた。家も丸ごとだ。仕事もクビになった。」

「元のお仕事は?」

「機械技師と建築をやってた。この穴は建築の応用で1人で掘った。」

 

しばらく無言が続く。

10m?20m?よくはわからないがそのくらいを下った時、店主が口を開く。

「ついたぞ。ゆっくり降りてこい。」

その後、数段梯子を降りた時地面に足がつく感触がある。

そしてゆっくりと梯子から手を離す。

降りて反対を向いた先には、コンクリートで補強された、裸電球が頭スレスレの位置に

吊るされている通路があった。そんなに距離はなく、少し先に錆びた鉄のドアが見える。

先に店主が入ったのか、少し開いていて、中から光が漏れ出している。

 

そこの扉を開けた時、広いコンクリートの部屋の真ん中に立って何かを眺めていた店主がこちらに向き直り、話し始めた。

「てめぇの目を見た時に確信した。こいつは俺と同じ、白鳥を堕としたいバカ野郎なんだってな。目の中に隠しきれない復讐者が顔を出してるんだ。お前はウトガルドを求めてここにきたんだろ?違うか?」

その問い対して、無言で店主の目を見つめる。

「まぁ、俺も復讐がしたいバカなんだ。そのためにこのガレージも作ったし、そのほかにも色々作った。だが、気づいた時にはもう遅かった。俺はとっくのとうに戦える体じゃなくなってることに気づかなかったんだ。だから、作った()()()をなんとかできないかと悩んでいたんだ。そんな時に、テメェが来た。なんたる僥倖だって思った。諦めた俺の復讐が叶うかもしれないってな。そこで一つ聞きたい。お前は俺の復讐のための捨て駒になってくれるか?」

この問いはおそらく、彼なりの他者への依頼、お願いなのだろう。

「もちろんです。最も、捨て駒になるつもりはありませんけどね。」

そう、軽口を叩く。

それを聞いた彼は、玉砕覚悟だっただろと呟いて手をこちらに差し出した。

「ドランだ。」

その手を握り、「北木です。」そう挨拶を交わした。

 

「さて、挨拶も済んだことだしコイツのお披露目と行こうか。」

そう言ってくいくいと親指を向けた先には布が被せられた大きな何かがあった。それは先ほど店主、ドランが眺めていたものだ。

「コイツが!この機体こそが!てめぇと俺の復讐の一矢!刮目しな!機体名はそう、復讐者(アヴェンジャー)だ!」

彼が布に手をかけ、一気にそれを引いた時、うちに隠されていた漆黒の機体が顕になった。

その機体は一眼見るだけでツギハギということがわかるものだった。配線は剥き出し、増加装甲を溶接したとわかる不自然なつなぎ目。そしてそこの中でも一際目を引いたのが、右腕だった場所に取り付けられた超大型の杭だった。機体の黒と対照的に白く塗装されたそれは、硬質金属で作られた一般的な工業用大型杭を短くして、射出装置のようなものにくっつけただけの簡易的なものだ。

 

「へっ、見た目はあれだが性能は悪かねぇぜ?この杭はレールガン方式で射出するからな、射程距離内なら亜音速まで到達する。まあ射程は50mくらいなんだけどな。」

「一つ聞きますが、この機体は何を素体としているのでしょうか…?」

「ん?ああ、あれだよ、Pigeon。近場のペイロード専用のゴミ捨て場から拾ってきたんだ。前面装甲はほとんど剥がれてたし、右手も足もなかったから、その後もそこに通ってパーツを集めたんだよ。足は重装型の輸送ロボットの逆足をくっつけてある。装甲は手当たり次第にそれっぽいの集めたからなぁ硬いところは硬いけど柔らかいところはとんでもなく柔らかい。」

「な、なるほど…」

まともな機体でないのは分かっていたが、そこまでだとは思っていなかったためについ溜息が出そうになる。

「あ、それと。カメラ映像をコックピット内に映すなんて高度なことはできてないから、自分で見て頑張ってくれ。一応簡易的なMASだけはついているから操作に関しては安心しな。」

そう言われてよく見てみるとたしかにコックピットの前部分には格子で覆われた窓がついているのがわかる。

ふざけるなと叫びたかったが、下手をすれば手に入れることすら叶わなかったはずのウトガルドだ、感情をグッと抑え我慢する。

 

「まあどれ、乗ってみろ。外で試運転だ。」

「そう言えば疑問だったのですが、この機体、どうやって上に運ぶのですか?」

「まぁそりゃ見ればわかるさ。乗って待ってな。」そう言ってドランは梯子の方へと向かって行った。

言われた通り、機体の後ろについている開いたままのコックピットに乗り込んだ。レバーをあげると、ガタガタと嫌な音を立てながらコックピットが閉まった。中は異様に狭く、操作は最初期Pigeonの特徴であるペダルレバー式のようだった。

そんなことを考えてしばらくした時、上から光が差していることに気がついた。

何事かと思い、ガラスに張り付いて上を見た時、自分が機体ごと大きく揺れた。

そう天井が開き、床だったものが動き始めたのだ。

そのままぐんぐんと上がり、先程の店の奥のガレージにつく。

目の前には少しドヤ顔気味なドランが立っていた。

 

そこから毎日ガレージの目の前に広がる荒野で操作練習を重ねた。歩行に始まり、耐衝撃訓練なども大量にやった一ヶ月ほどあとに、それは突然やってきた。

 

機体の調整のために、スクラップ場へと赴いていたドランがいきなり部屋に入ってきて、

「おい!あの野郎が見つかったぞ!」

と叫んだのだ。

「場所はここから北西、アラスカ寸前の針葉樹林で工場を破壊したとのことだ!今すぐ出るぞ!機体乗る準備しとけ!」

「あの、そのデータはどこから…」

「書店だよ書店。この辺にあんだ。」

兎にも角にも出撃とのことなので、ガレージにかけてあるパイロットスーツに着替え、機体に乗り込む。

システムオールグリーンの文字が表示されたのを確認してペダルを踏み込み、外に出る。

そして、無線越しにドランが

「おい、このヘリに懸架するからもうちょい前でろ!」

と言ってきた。

そう言われ、上を見るとそこには民間企業用の粗末な輸送用ヘリがあった。それは、手持ち無沙汰のように機体の下から懸架用ワイヤーをぶら下げていた。

そして、言われたとおりに前に出て、とまる。

「よーしいい場所だ。確かこれをこう…だったかな。」

そう言いながら機体の肩のところから、ガチャリと接続した音が鳴った。

 

「運びながらミッションブリーフィングをするぞ。」

空を飛んで少しした後、ドランからの無線が繋がる。

「目標は今崖の下にいるらしい。だから、作戦はこうだ。」

機体内部のHUDにマップが表示される。

「あの野郎が帰投準備をしている崖の真上、落差70mの崖の上から奇襲を仕掛ける。てめぇの機体にゃ俺が大枚はたいて買った対レーダー装甲がくっついてるからな、50mより内側に入らなきゃ基本的には勘づかれない。ただ、このヘリにはそういうのはついてねえから、少し離れたところでてめぇを降ろして、俺はナビしている。まぁ作戦領域までは時間があるからイメージトレーニングしておけ。」

ここで気になったことを聞いてみる。

「そういえばそのヘリはどこから仕入れてきたのですか?」

「あぁこれか?ちょっと借りさせてもらったのさ。ま、無断だが許してくれるだろ。」

「本当ですか?」

「…不安になってきたな。」

 

お互い無言のまましばらくした後、無線が開き

「そろそろ作戦領域だ。覚悟はいいか?」

「もちろんですとも。」

「決戦だ。きぃ抜くなよ。」

「ええ。」

その会話をした後肩のジョイントが離れる音が聞こえる。

そして機体は自由落下に晒された。

 

落とされた場所は針葉樹生い茂る森の中で、マップを見て前進を始める。

「おい、大丈夫か。」

「はい、落下による損傷などもありません。」

「そりゃよかった。あの野郎はこのまま真っ直ぐだ。」

そういわれるまま、木を避けながらまっすぐに進む。

 

性能が低いブースターながら最高速度は時速400キロ程度なので結構快速に思える。

そんなことを考えているうちに、目標地点が近づいてきて、森の景色がひらけた。

目の前には木が生えていない崖が広がっており、下は結構深いように思える。

そんな時ドランから無線が入った。

「この辺の下だ。多分目視できると思うが、どうだ?」

そう言われ、下側を見渡すと、少し離れた木の生えていないところに帰投用のヘリを待っているであろう純白の機体が見えた。

「…見えました。」

「よし、作戦手順は覚えているな?今から作戦開始だ。無事に帰ってこいよ。」

 

それを聞き気合を入れ、深呼吸をして、敵機の真上に行きそして前に向けてブースターを吹かせた。

ブースターと位置エネルギーで着々と加速しているのを感じながら、右手のところにあるレバーを押し込み、レールガンに電気を集中させる。そして敵機に接触する寸前、チャージ完了の文字を見て打ち込むだけ。そう思ったのに、自分の機体は哀れにも吹き飛ばされた。

一瞬何が起こったのか理解できなかった。ゴロゴロと転がる機体の中、生きているのか死んでいるのかすらわからなかった。

 

止まった時、自分の頭から血が流れているのに気づいた。

おそらくは先程吹き飛ばされた時、フロントガラスが割れたのが刺さったのだろう。

ちらっと視界に映った機体の破損状態から見るに、左腕と頭を持っていかれたようだ。

朦朧とする意識の中、ドランからの無線が聞こえるような気がするがそれを無視して、手を伸ばし、右側についているレバーを押し込む。

先程のチャージのせいなのか、オーバーヒートの警告が出ているがお構いなしにチャージする。

機体に付いているエネルギータンクからバチバチと音が鳴り、コックピットの中にも火が噴き出してきた。

 

白の機体はこちらに背を向けている。何か無線でもしているのだろうか。

そして私はチャージ完了の文字を見て、引き金を引いた。

引き金を引いた瞬間、相手はこちらを振り返ったがもはや間に合わず、右手の大杭は相手のコックピットを背面から貫いた。

 

ノイズでほぼ何も聞こえないドランの声が、落ちていく意識の中で頭の中を反響する。

「やって、やったぞ…」

そうとだけ呟いて意識を落とした。




第一章終わりです。アレンは死んだのか、北木は生きているのかは想像にお任せします。
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