戦国時代に憑依TSしたと思ったらトンデモ戦国だったでござるの巻 作:翔々
TS初挑戦になります。
日ノ本の国、大名と名乗るもの共の領地略奪紛争により、暗黒の世に突入せり。
この永きに渡る紛争の歴史を戦国と呼ぶ。
大名、戦国の世に終止符を打つ可く、強大なる力に助けを乞う。
その力、忍者という。
忍者、人にして、人にあらず。
忍者、常識をはるかに越え、天空を駆け、大海を渡り、日に百里の道を走るという。
強大な忍軍に取り入りし大名、その力により、多くの領地を我が物とする。
大名、武田信玄、さらなる野望を願い、極秘裏に強大な忍軍を育て上げようともくろむものの、野望半ばにして、人生に幕を引く。
信玄が隠れ里に於いて育てし最強の忍軍、その全貌を現すことなく、存在を闇に葬られる。その名を、はぐれ
(引用元:戦国サイバー藤丸地獄変 オープニングより)
起
あのね、登山してたら雲行きがヤバかったのね。そして、それ知らないで通り雨だと思ってそれなりに洞窟でビバークしてたら、
奥が光ってて
アレッと思って
埋蔵金かなって
ワクワクが入っちゃって
もうウィリーさ。
意味がわからない? 俺もわからないよ。あの時のテンションは何だったんだよ……誰か止めてくれよ……いや誰もいなかったわ、あんな獣道に迷い込む奴は俺しかいねぇわ。
あの光は大判小判でもお宝でもなかった。洞窟の奥には古めかしい、何百年も昔に作られてから放置されたような、ボロボロのほこらみたいなものがポツンとあるだけだった。光はその中に鎮座する、動物を模した石像から出ていたんだ。
真っ暗闇の中で、ろうそくよりも小さな明かりを目指して、俺はずんずん進んでいった。頭のどこかで、熊や猪が潜んでたらヤバいんじゃないか? と不安がよぎるのに、足が勝手に前へ出る。まるでナニカに憑かれたように。
パキ、
パキ、
干からびたよくわからないものを踏み砕きながら、とうとう石像の前にたどり着いた。
それは犬の形をしていた。てっきり神社の狛犬かと思ったが、愛嬌や可愛らしさがまったくない。よくよく見たら、犬ですらなかった。犬に近いナニカ。目があるのに目ではない。鼻があるのに鼻ではない。ぽっかり開いた口は、ただの穴ではないか? 確かなものが何一つない、記憶にもおぼろげにしか残らない、曖昧なもの。
「なんだこれ?」
つい口にした問いに、石像の口らしき穴から、耳障りな声がはっきりと聞こえた。
『渾沌』
「は?」
こんとん。
その四文字を認識した瞬間、俺の視界は暗転した。プツン、と糸が切れたように、膝から崩れ落ちる。山登りで疲れ切った身体は睡魔に抵抗もできず、甘い感覚にとろけきっていく。
こんとん、
こんとん、
こんとん……
最悪な子守歌を聞かされながら、意識が暗闇に塗りつぶされて―――――
―――――気がつくと、そこは戦国時代の甲斐(山梨県)であった。
承
あの渾沌とかいう石像のせいで眠った俺が目を覚ますと、景色はがらりと変わっていた。洞窟でもなければ祠でもない、どこかの寺の本堂のような一室。むくり、と起き上がったところで、俺を見下ろす存在に気付いた。
「気分はいかがかの、若?」
「ひえっ……」
つい変な声が出た俺を責めないでほしい。
しゃがれた声で具合を聞いてきたのは、皺だらけの婆さんだった。ただの婆さんではない。素人目に見ても手の込んだ造りの装束に身を包み、首から原色の勾玉を幾つも下げている。両手首に水晶の数珠を巻き付けた姿は、恐山のイタコとか、何代も続く拝み屋じみた印象を与える。マジモンのオカルトである。にこやかに笑ってるつもりの顔からは、尋常でない威圧感が放たれていた。目覚めにこれを見たら一発で覚醒するわ。
強烈なプレッシャーにあてられて硬直する俺を前に、皺くちゃのお婆は笑みを消すや、まじまじと俺を見つめた。瞳があるのかないのか定かでない、ふたつの眼に映るのは、とびきり可愛らしい子供。着ているのも登山服ではなく、マンガで見るような武士の衣装である。
これが俺?
(夢……いや違うわ、この婆さんリアルだわ。むかし町で説教くらった霊能者の婆さんより怖いわ)
助けて! 夢だと思いたいのに、目の前のオカルチック婆さんが許してくれないの!
……どういう事なんだろう。あれか、現代に生きる俺は、あの光のせいで意識だか魂だかが切り離されて、この子供に憑依してしまったのか。若とか呼ばれるくらいだから、結構な家柄なのかもしれない。それにしては怪しげな輩(例:オカルト婆)がそばにいるんだが。宗教がパトロンについた武将の家なのか? 流行り病にかかったのを祈祷してもらってる最中だったんだろうか。
混乱する俺をよそに、婆はニチャア……と音が出そうなぐらい、唇の端が吊り上がった笑みを浮かべた。
「ヒェッヒェッヒェッ! これは失礼! もはや若ではなく姫でしたな!!」
「は?」
「ご自分の股ぐらをごらんなされ」
ぶっちゃけていえば、この時の俺は正気ではなかった。ひたすらに怖い婆さんのいう通りにするのに精いっぱいで、恥ずかしいとかの感情も綺麗さっぱり消え失せていた。
黄ばんだ紐帯をほどいてから、ズボンのかわりに履いていた衣を引っ張る。あ、トランクスどころかふんどしも無い。道理でスースーするわけだ。おかげでマイサンも閉じこもることなくブラブラと……あれぇ?
「ない」
「ヒェッヒェッヒェッ」
「ない! ない!! なぁぁぁぁぁい!!!」
サオもなければタマもない。スッカスカの空間に手を突っ込んでも空を切る。どこにいったんだ俺の息子! あんまり有効活用してやれなかった俺の息子はどこに!? あれか、あの光か、渾沌とかいう石像がもっていったのか!?
愕然とする俺をそっちのけに、ひときわ高く笑う婆が、両手を天高くかかげながらのたまった。
「我が儀法、なれり! 望月のおばばが果たしましたぞ、信玄公!! ヒェ~~~~ッヒェッヒェッ!!」
転
「どうしてこうなった」
ぷらぷらと縁側から両足をばたつかせながら、俺は途方に暮れていた。その身体は就職を控えた成人男性とは到底思えない、いたってミニマムな未就学児童のそれである。屋敷の使用人に聞いたら、なんと5歳。おまけに性別まで変わってしまった。どこにいったのマイサン。
今までに集めた情報から、ここが戦国時代の甲斐だというのはわかった。西暦はわからない。歴史マニアじゃないんだ、年号なんて知っても変換できねぇんだよこっちは。それでも某ゲームの知識のおかげで、武将の名前はなんとなくわかる。
武田信玄。
メジャーもメジャー、戦国時代といったらこの人の名前は欠かせない。『人は城、人は石垣、人は堀』の名言といい、上杉謙信との一騎打ちで有名な川中島の合戦もそうだ。やたらめったらに高いステータスにものを言わせて甲斐・信濃をたいらげ、しまいには駿河の海までゲットする。ただし謀略家であり、結んだ同盟を破ること数知れず。滅ぼした先の姫に子供を産ませるわ、何千という兵の首を切って晒し者にするわ、血なまぐさい逸話も絶えない。だが力はある。
俺の憑依……憑依なのか? 正直よくわからないが、俺という意識が入った肉体は、武田信玄の息子のものだったらしい。名前は不明。生まれつき病弱で、これまでに何度か祈祷をしても甲斐がなかったところ(戦国ジョーク)、あのオカルティック婆が命じられてなんちゃらの儀式を執り行ったそうな。結果はご覧のとおり、昨日までの若様が姫様にクラスチェンジしてしまった。どういうことなの……。
普通に考えたら主君の息子にTSかますとか族滅くらってもおかしくないと思うのだが、なぜかこの婆さんが咎められることはなく、むしろ手柄になって権力が増したらしい。
だがよく考えてほしい。その権力は俺の息子と引き換えに与えられたものだ。つまりは俺のおかげ。俺にも分け前があっていいのでは? むしろ全一、十割で俺の手柄では? よこせよ! 渋谷区大型デパートよこせよ! 無い? 作ればいいだろ金山あるんだから知ってんだぞこっちは!
閑話休題。
何がどうしてこうなったのか俺にはさっぱり理解不能だが、現状わかっているのは、俺の憑依先がそこまで悪いものではないということである。
だって父親が武田信玄だよ? 少なくとも本人が生きている間は滅びないのが確定している。代替わりの勝頼も織田にやられるまでは十分に保たせた。男ならともかく、女になった俺が戦に出ることはない。どこかの家へ嫁に出されるなりするだろう。つまり、わかりやすい命の危険はない。ヤバくなったら身一つで逃げればいいし。
うん、アリじゃね? いけるんじゃね? 男相手に股を開くとか考えたくもないけど、その時はその時でどうにかなるだろ! 大丈夫だって、男は度胸、何でもためしてみるものさ!
よーし! 我、現代知識で無双するぞー! 俺のチート転生TSライフが幕を開けるぜ!! 手始めにミヤイリガイでも根絶させちゃうかー、あっはっは!!
結
廃嫡されました。なんでや!
人物紹介
◇主人公
オリ主。それ以上でも以下でもない。もらった力が強くてもメンタルクソ雑魚なので発揮し切れないタイプ。ノリは良い。元ネタのゲーム知識は皆無。憑依した先のTS前は某逃げるのが上手い坊ちゃん似だった。
◇望月千代女
武田家が抱える諜報機関・歩き巫女の頭領であり、老齢のくのいち。ゲーム本編では第一幕にのみ登場。攻略本の小説の方がよっぽど出番をもらっていた人。
◇武田信玄
甲斐・信濃を治める戦国大名。オリ主の憑依した息子の父親であり、目的のためなら躊躇なく外道になれる男。オリ主が憑いてからは一度も会った事がない。