戦国時代に憑依TSしたと思ったらトンデモ戦国だったでござるの巻   作:翔々

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幕間・壱 四凶

 

幕1-1

 

 

 中国では“四”の数字にあてはめられた存在が多い。最もポピュラーなのが玄武・白虎・朱雀・青龍の『四神』、次いで麒麟・鳳凰・霊亀・応龍の『四龍』。これらを善性とするなら、『四凶』は悪性の代表格ともいうべき悪神達である。

 

 『春秋左氏伝』にいわく。

 

 文公18年(紀元前609年)の段において、古代中国における聖人・瞬帝の功績として、四凶と恐れられる妖魔を中原の四方に追いやったと綴られている。この四凶とされるのが、以下の四つ。

 

 渾沌(こんとん)

 窮奇(きゅうき)

 饕餮(とうてつ)

 檮杌(とうこつ)

 

 渾沌(こんとん)は犬の姿をしていると伝わる。だが、その実態はあやふやで、犬であって犬ではなく、では何かといわれても答えられない、実体なきものであるという。人間の悪徳を好み、善良を忌み嫌う。およそ物事の道理や筋道を受け入れず、もし強要されれば両目・両鼻穴・両耳・口から血を流して息絶えるという、意味すらも定かではない存在である。

 

 窮奇(きゅうき)は翼の生えた虎であり、風神の一柱とされる。カマイタチとも同一視されるが、その性質は極めて悪心に満ちており、喧嘩する者の正しい側を食べてしまい、間違っている側に恵みをくれてやるのだという。

 

 饕餮(とうてつ)は羊の身体に人の顔を持つ、人面犬ならぬ人面羊である。饕餮の『饕』は財産をむさぼり、『餮』は食物をむさぼるという意味を持つ。かつて黄帝を苦しめた戦神・蚩尤の頭部であるとも伝えらえる。

 

 檮杌(とうこつ)は人の頭を持った虎である。いかなる時も戦う事だけを求め続け、荒野にあっても力尽きるまで暴れ狂う。世の中が乱れていれば戦いは無くならないと信じ、そうであれと願う荒神の性質を持つ。

 

 本来なら、どれも人に災いを為すとして遠ざけられる存在である。なぜ大陸から海を越えて日ノ本の国に伝わったのかはわからない。しかし、未来を予見した望月千代女が、たとえ危険であってもその加護を受けなければならぬと判断した結果、武田の若殿に白羽の矢が立ったのだろう。

 

「桔梗様の記憶が確かなら、いまの桔梗様は渾沌と窮奇、ふたつの悪神の加護を受けている事になります。身体の変容もそのためでしょう……もし、他ふたつの悪神も日ノ本の国にあるとしたら、いずれ遭遇する定めにあるのかもしれません。私の水晶にも、そこまでは映りませんでした」

 

 

 

 

 ……という話を、三日間ぐーすか眠っていた自分を看病してくれたナースのかなめちゃんから教えられました。おはようございます、桔梗です。

 

 朝おきたらビックリだよ。今までにないくらい爽快な気分で目が覚めて、池の水面に映る自分を見たら、人差し指ぐらいの真っ赤なツノが二本生えてんの。黒かった髪まで真っ白だし。あと、体格もすこし良くなった。サラシを巻く回数が増えたのはめんどいが、まぁしゃーない。

 

 だってめっちゃ格好良いんだもんこの姿。

 

 もうね、TSだの渾沌の加護だの、よくわからないものの当事者になって以来、自分はバケモノみたいなもんだって諦めがついちゃったんだよ。しょっちゅう腹の中でナニカがもぞもぞしたり、ひっどい体調になったりしたし。これが悪化したり、末期になったら神話生物じみた異形になるんじゃないかって、そっちの方が不安だった。

 

 うん、まったくの杞憂だったのかもしれない。男なのか女なのか、自分でもはっきりしなかった容姿が、明らかに女のものになった。ペッタンコだった胸も膨らんだし、動く時の筋肉や骨にしなやかさが加わった。鬼みたいな外見になったおかげか、力強さも変わらないどころか倍以上、全力ならもっと出力が上かもしれない。

 

 おまけに凄いんだぜこのツノ、和紙どころか猪肉の骨までスパスパ切れるし、刃物みたいに刃こぼれしない。バッファローマンのような頭突きが必殺技になる日は近いかもしれない。

 

「―――――」

 

 さんさんと降り注ぐ日光を浴びながら、深呼吸をひとつ。丹田に気を集中させてから、全身に循環させていく。サイクルにかかる速度も、駆けめぐる総量も、何もかもが増している。

 

 竜巻のような熱量のうねりに身を任せながら、猛禽類の爪と化した右手を、宙空に向かって突き出す。音速の壁を越えた際に生じる、

 

 パンッ、

 

 と風船の割れるような音が周囲にこだました。

 

(届いた)

 

 あの時は防がれた、吽毘羅の喉首を深々とえぐるイメージがはっきりと見えた。盾になった阿毘羅の強肩をも貫くだろう。いまの私なら、間違いなくできる。成長させてくれたお礼をたっぷりと返してやろう。

 

 風魔忍軍が私に何をしたのか、しっかりと覚えている。よってたかってリンチを仕掛け、弱ったところを怪しいセミナーの勧誘みたいな手法で洗脳し、挙句の果てには抵抗できない相手のまたぐらに得体のしれないナニカを突っ込んでくる、どうしようもない連中だった。

 

 自分達の言い分もあるだろうし、直接やり合った身だから、ああ酷い目にあったんだろうなってのはわかる。だからって、私まで道連れにしようとするのは違うだろう。何を勝手に人の事を愛されたい系女子の一員にしてるんだ。あんなのは善意のおすそ分けなんてもんじゃない、エゴの押し付け以下だ。軒猿衆のクレイジー・シスターズとやってる事が変わらないじゃないか。

 

 やたらと小太郎ラブを主張してくる凸凹コンビだったが、常識的に考えて、これだけやられて興味を持つわけがない。そんなに私が欲しいなら、直接自分で来ればよかったんだ。それをしないで自分の女達にやらせるハーレム根性が気にいらないったらない。

 

 とりあえず、次に風魔の連中がちょっかいかけて来る時に備えて、うちの女性陣には私がどんな目に遭ったかを全部話しておこう。あいつら絶対あの手口で仲間増やしてるだろうし。私がかなめ達を守護らねばならぬ。

 

 ……さて、ずいぶんと休んでしまったので、いい加減に藤丸達のところへ顔を出しに行く必要がある。元はといえば、あいつが無茶な遠征を実行した結果が里の襲撃なわけで、まーた殴り合いになるんだろうなって気はするが……これも必要経費みたいなもんである。致し方なし。

 

「ねぇ蘭、あいつ今どこ?」

「藤丸様ですか? 朝の会議中だと思いますが……ええと、ちょっと揉めてるかも……ああ、行ってしまった……」

 

 巫女の修行堂からトコトコ歩いて、中央の屋敷へ。勝手知ったる玄関を上がり、里の全員が詰められる広間の障子をスパーンと開ける。

 

 おはよう! 朝九時だけど何してるんだい?

 

「あぁ!? 誰も入ってくるなっつっただろ、う、が……」

「……桔梗、か。外見は変わったが、悪霊に乗っ取られたわけではなさそうだな」

「ヒューッ! かっけぇじゃん!」

 

 ……藤丸、才蔵、楽天丸が取っ組み合いの大喧嘩をしてるんですが。君達、マジで何してんの?

 

 

 

 

幕1-2

 

 

 「そういや朝食がまだだった」とかのたまう才蔵と楽天丸を叩き出し、そっぽを向いている藤丸からケンカの経緯について根気強く聞き出したら、あーやっぱり……と納得するものだった。

 

 もともとこの三人、水と油並に仲が悪い。藤丸と才蔵はかれこれ十年も続く腐れ縁なのにこれっぽっちもソリが合わないし、楽天丸も里に来るまで世間で人一倍苦労してきた経験から、世間知らずのふたりを小馬鹿に思っている。それがわからないほど鈍感でもないため、年がら年中小競り合いが無くならないし、大人組や私、賽天太が仲介するのはしょっちゅうである。

 

 そこに来て、今回。里をすっからかんにしての伊賀大遠征を実行した直後に風魔忍軍の襲撃を受け、あやうく自分達の帰る家と古参の私を失いかける、痛恨の大チョンボを藤丸がやらかしてしまった。

 

 この責任について才蔵と楽天丸からネチネチと皮肉をもらい続け、当初はギリギリ我慢が利いていたものの、やがて結ぶ紐自体がない藤丸の堪忍袋の緒が吹っ飛び、屋敷をひっくり返すほどの乱闘騒ぎになったというわけである。

 

 正直、大失態の被害者である私からすればいくらでも文句があったのだが、藤丸本人から事情を聞き終わった時には、思わず笑ってしまった。面白く無さそうに口をひん曲げた藤丸の顔までおかしく見えるから、自分でも不思議だ。

 

「……おい、何で笑ってやがんだ。お前だって、俺に文句のひとつくらいあんじゃねぇのか。俺のせいで死んじまってたかもしれねぇってのに」

「いや、だって」

「なんだよ?」

 

 

「藤丸も我慢できるようになったんだなぁって思ったら、嬉しくなっちゃってさ」

 

 

 あの、これっぽっちも自制という言葉を知らなかった狂犬が。

 

 協調性なんて欠片もなかった一匹狼が。

 

 自分の非を認めて、才蔵や楽天丸からの皮肉もある程度は我慢したという。とてつもない成長である。はじめてのおつかいなんてレベルじゃない、ゼロどころかマイナスがプラスになったような進歩だ。

 

 私の快気祝いも兼ねて赤飯でも炊こうかな、と大真面目に考えていたら、からかわれたと思ったらしい藤丸がわなわなと震え出し、

 

「……バッキャロー!」

 

 大声で叫ぶなり、ドスドス足音を立てて屋敷を出ていってしまった。耳たぶがほんのり赤かったのは、子ども扱いされて本気で怒ったからだろうか。

 

 結構、本気で感心したのに。

 

 

 

 

 その日の午後。

 

 私の回復を待って開かれた、はぐれ透波の今後を決める会議にて、藤丸は改めて打倒・伊賀忍軍を目標に掲げた。ただし、前回の大失敗で痛い目を見た経験から、幾つかの段階を踏んでいこうという建設的な色合いが強いものに変わっている。

 

 透波忍軍・軒猿衆を壊滅させ、伊賀・風魔という三大忍軍のふたつまで敵に回した私達には、あらゆるものが足りない。人員もそうだし、からくりも弾丈ひとりに任せっきりで全員にまで行き渡らず、資材もカツカツのまま。何より、いまもっとも必要としているのが、忍軍についての知識である。

 

 長いこと甲斐の山奥に籠もりっきりだった私達は、あまりにも情報に疎かった。伊賀や風魔にしても、三大忍軍のひとつという触れ込み程度にしか知らない。地獄極楽の爺様にしても、その知識は三十年前からほとんど更新されていないのだ。

 

「いまの日の本の国には、どんな忍軍があるのか?」

 

 『彼を知り、己を知れば、百戦危うからず』という言葉の通りに、情報をアップデートしなくてはならない。それも、隠れ里を守りながらという条件付きで。

 

「藤丸達も一度、上方を見物するのも良い経験でやんす。何といっても日の本の中心、情報も集まるでやしょうから」

「おっ、上方に行くのか!」

 

 助八の提案に乗っかる形で、弾丈が身を乗り出してくる。

 

「だったら雑賀衆のところに忍び込んで、からくりをちょろまかして来てくれよ。あそこは南蛮との取引を牛耳ってるから、最新式のからくりと火薬がたんまりあるはずだ。俺がバラして量産できるように研究してやる」

「雑賀衆……確か紀伊の方だったよな。わぁったぜ、何とかしてやる」

 

 今回のメンバーは六名。リーダーとして藤丸、相談役にかなめ、後は名乗りを上げた才蔵、楽天丸、賽天太、それに私。前回の越後行きから傍太だけ外れたメンツである。病み上がりの桔梗は休んだ方がいい、と止められたのだが、今回ばかりは参加を押し切らせてもらった。

 

 才蔵と楽天丸の様子が、明らかにおかしいからだ。

 

 面倒事を嫌う才蔵に、大雑把な楽天丸。ふたりの性格上、偵察なんて面倒事は嫌がるはず。それが今回に限って、早い者勝ちといわんばかりに名乗り出てきた。何かを企んでいるとしか思えない。

 

 ……うん。まぁ、予想はつくんだけども。

 

「光と闇。相反するふたつが見えます」

 

 水晶に手をかざしたかなめが、藤丸を見つめていった。

 

「こたびの遠征、多くの出会いと、大きな別れが待っているでしょう。しかし、私達が越えるべき試練であるとも出ています。藤丸様、どうか恐れることなく前に進みますように」

「いわれるまでもねぇよ」

 

 両手を叩きつけて、藤丸が立ち上がった。

 

「風魔の邪魔が入っちまったが、俺達のやる事はなにも変わらねぇ。伊賀も甲賀も風魔も、すべての忍軍を叩き潰す、そのための準備ってわけだ。皆の衆、よろしく頼むぜ!」

 

 頭領の号令とともに、一同が続々と屋敷を後にする。私もその群に混じりながら、二本のツノを隠すための衣装を探すのだった。

 

 




今回でストックが尽きたので、更新は不定期になります
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