戦国時代に憑依TSしたと思ったらトンデモ戦国だったでござるの巻 作:翔々
0-8.
ミストスニーキング・サイゾー、レーンゴック・フジマールと二年連続で大型新人が加入したはぐれ透波だが、それから数年は静かなものだった。私のいえたセリフじゃないが、このふたりは規格外過ぎる。こんなのがポコジャガ生まれてたら戦国時代なんてとっくに終焉してるわい。
ファーストコンタクトから血と汗と涙と鼻水の乱れ飛ぶ死闘で始まった私と才蔵、藤丸の三人だが、心配されたほど悪い関係ではない……と、思う。毎回ふたりが喧嘩腰になるたびに残った誰かがクッションになる。行き着くところまでいったら命の取り合いだと全員わかっているので、無意識に避けているのかもしれない。めっちゃ危ういバランスで成り立った関係性だが、個人的には嫌いじゃない。
人里から遠く離れた山中の集落。世俗の苦しみからも、娯楽からも切り離された環境で、ただひたすらに忍の術を磨く日々。どうしても山では手に入らないものがあるときだけ、世間を知る面々が山を下りて調達してくる。
十歳になったあたりから、私もその一員になった。別に誰かの指示があったわけではない。いい加減、里での生活を改善してやろうかという気になったので、必要なものがちょこちょこ出てくるようになったのだ。
忍者だとバレないよう、一般人に化けて人里を見て回る。なんだかんだでこれも修行の一環である。
化粧、良し。
服装、良し。
筋肉、無し。
参る―――我が心は成人男性。しかして十歳の童女にあらねばならぬ。すなわちこれ、TS男児の心意気なり。いざ、人々の営みの場へ――――!
「はぁっ、はぁっ、はぁっ! お、お嬢ちゃん、どこから来たの?」
「町は初めて? お、おにいちゃんが案内してあげよう。怖くないよ」
「こ、こ、こっちに来なさい! いいよ、来いよ! さぁ!」
「「「来いよぉ!!」」」
「変態しかいねぇ」
この時代を甘く見ていた(全敗)。
長いこと山奥に籠もったせいで常識が疎くなっていたが、ここは戦国である。たとえ人里だろうと治安は悪い。いたいけな少女がうろついていたら不審者に襲われて当然、文句はいえないのだ。逆にいえば、返り討ちにしてもお縄にかかる心配は無いので武力行使も問題ない。全員の急所を沈黙させてから縛り上げ、路上に転がしておく。ビクンビクン震えてんじゃないよ。
しかし……しかし、ねぇ。
岩鉄達は完全に娘を見る目だし、藤丸も才蔵も歳の近い男友達みたいな腐れ縁でしかないから、想像したこともなかったが。
そこまで可愛いのか? 自分じゃわからんな。
後日、藤丸と才蔵に聞いてみたところ、鼻で笑われました。せやろな。
0-9.
修行の日々は続く。一般人には危険極まりない荒行も、忍者の身ならあっさりとこなせる。一年目には一メートルしか越せなかった垂直飛びは、いつしか一本杉のてっぺんにまで到達した。崖から突き落とされてもケガ一つ負わず、ロッククライミングで戻ることができる。
才蔵はその名の通り、霧に隠れての隠形術を会得した。姿を消し、音もなく忍び寄ってからの斬撃は私でさえ探知できない。斬るというアクションでやっと反応するのが限界だった。
藤丸は強い。ひたすらに強い。忍者として特別な術が使えるわけではなく、全てが高水準なのだ。体術は岩鉄・塀五郎に並び、剣術は才蔵と互角、木火金土水の術は極楽のボケが治るほどに上達が早い。他の忍軍ならいっぱしの上忍か、頭領になっても不思議ではないと望月のババァからお墨付きが出た。
だからどうなる?
私達は強い。間違いなく強い。どこに行っても十人前の忍者働きが果たせる。他の忍軍と同様に、信玄のクソオヤジの命を受けて他国に侵入することだってできる。情報をスッパ抜いても良し。武将を暗殺するも良し。けして損はさせない。それだけの実力がついたはずだ。
なのに、何の指示も出されない。「ただただ腕を磨け」の一点張りである。何に使うのかも知らず、忍者としての技量を高め続ける毎日。死の危険と隣り合わせな修行も、日常になってしまえば単調極まりない。
私達は、何のためにいるんだろう?
どうしようもなく飽きた十年目。私は一度だけ、隠れ里に内緒で甲斐を出た。日用品の買い出しを理由に宿を取り、泊まったふりをして町を抜けたのだ。
一日に百里を走る身なら、どんな険しい山だって踏破できる。あっという間に国境から国境へとひた走り、たどり着いたのは岐阜の国。もはやうっすらとしか覚えていないが、ここには後の天下人がいるのだと、それだけは明確に記憶していた。
忍軍が支配する日本。
それでも、彼なら違うのではないか?
かの英雄なら、逆に忍軍を従えて、天下を我が物にするのでは?
そんな期待を胸に秘めた私が、織田家の居城である岐阜城に忍び込み、大広間の屋根裏から見たのは。
上座にどっしりと腰を据えた中年の忍び相手に、下座からペコペコと情けなく土下座する、同じ名前の男の姿だった。
(ああ、やっぱり)
ここは、自分の知る戦国時代ではない。
これまでに何十回、何百回と思い知らされた事実を、私はまざまざと再認識した。この世に英雄などと呼ばれる大名はなく、名君もない。あるのはただ、戦乱の地獄のるつぼをいたずらに掻き混ぜるだけの、無力なやつばらのみ。
諦観と興覚めをもって、私は岐阜を後にした。黙々と来た道を走り、一昼夜で宿に帰って、頼まれた買い出しを済ませる。何食わぬ顔をして里に戻ってきた私を見るなり、岩鉄が妙なものを発見したような表情で、
「お主、何か悟りでも得たか?」
みょうちくりんな事を言い出した。
「いや、なにも」
「ふんぎりがついたようだが」
「……あー、まぁ、うん」
背中のふろしきを下ろしてから、ケケッと笑ってみせる。
「相も変わらず、世の中クソだなってさ」
0-10.
モブすら湧かなくなった我らがはぐれ透波の隠れ里に、久しぶりの新人がやってきた。それも三人。いきなり増えたな? と顔を見合わせる私達の前で、まずは元気良く大声を上げるちみっこがひとり。
「オロチの
その首元には一匹の小さな白蛇が巻き付き、ちろりと赤い舌を覗かせている。見るからに毒持ちのヤバそうな種だが、本人のいう通り、まったく噛まれる様子がない。よほど飼い慣らしているのだろう。
続いて、背中に等身大の木箱を担いだ赤髪の兄弟が前に出る。生意気そうな兄と、その背に隠れるようにおどおどと落ち着かない弟といった感じ。
「
「……に、
聞いてみると、傍太が六歳、楽天丸と賽天太の双子が十歳だという。
ショタだ……。
ここに来て三人のボーイズが加入という事態に、元ロリショタの現十七歳である私は色々と感慨深いものを味わった。現代ならともかく、この時代なら十七歳は立派な大人である。女なら嫁にいってもおかしくない年齢だ。この里で相手なんぞいないが。
私もとうとう大人なんだなぁ、と遠い目をしていると、望月のババァが手招きしている。何の用かと近づいたら、ヒェヒェヒェ、と笑いながら目を細めてきた。
「懐かしいわえ。若が姫になり、桔梗となってこの里に来てから、はや十二年。今では立派なカカァ殿下で切り盛りしておる」
「誰が肝っ玉母さんか。まだ誰も産んでないわ」
「ヒェヒェヒェ! あの腕白小僧だった才蔵も藤丸も、お前にゃ勝てんと口をひん曲げておるわえ。その調子で傍太達もしごいておやり。あやつらにも結構な素質があるからの。さすれば……」
「さすれば?」
言いかけたババァが、むんずと口を抑えた。
「いや、いや、いや。今はいうまい。けして言わぬ。その時が来れば、いかようにでもなるでな」
「もったいぶりやがってこのババァめ」
「ヒェヒェヒェ! ババァで結構!」
妖怪じみた笑い声を上げながら、さっさと帰っていく望月のババァの背は、十二年の歳月を経てずいぶんと小さくなったように見えた。本当に幾つなんだろうな、あの婆さん。
月日は巡る。
春が芽吹き、夏が照らし、秋が暮れて、冬が沈む。
二回繰り返されたとき、私達の隠れ里は激震する。
『武田信玄、死す』
はぐれ透波が表舞台に現れる、運命の瞬間であった。
人物紹介
◇桔梗
自分が女になった事を実感する経験が足りない。里の外に出てようやく自分の容姿を自覚した。外見イメージはFGOの巴さん一臨(やや貧乳)。
◇オロチの傍太
年齢 8歳
身体 5尺2寸(157.6cm)
体重 11貫(41.3kg)
あらゆる蛇と心を通わせる少年忍者。毒耐性が極めて高く、ハブに嚙まれても平然としている。年齢にしては体格に恵まれており、戦場を素早く駆け回る。ただし危なっかしいため、あの藤丸でも傍太のフォローに回ることが多々ある。
ブーメランと蛇を操る忍術の『飛翼蛇法』を習得し、遠距離からの攻撃で無双できる。ゲーム終盤の隠しステージでマップ全体攻撃を習得するため、とりあえず傍太で一発、がプレイの定番になりがち。
伝説の大蛇“ヤマタ”に出会う事が生涯の目標である。
◇傀儡の楽天丸
年齢 12歳
身体 4尺8寸(145.4cm)
体重 11貫(41.3kg)
人形を操る事にかけては天下一。賽天太という双子の弟がいる。引っ込み思案な弟を守るため、兄である楽天丸は攻撃的な態度を取りがちだが、実際にはそう振る舞わなければ自分のアイデンティティを維持できないという、精神的な弱さの持ち主でもある。
大道芸で日銭を稼いで生きてきた苦しい過去を持ち、世の中で生きていく事の難しさ、過酷さを骨の髄まで知り抜いている。世間を知らないはぐれ透波の面々、特に藤丸を甘チャン野郎だと嫌っていて、いつか思い知らせてやりたいと密かに爪を研ぐ。
とっておきの人形との出会いをきっかけに『人形操舵法』を習得する。
◇人形遣賽天太
年齢 12歳
身体 4尺8寸(145.4cm)
体重 12貫(45kg)
人形を作る事にかけては並ぶ者のない技量の持ち主。楽天丸の双子の弟で、穏やかな気性から争い事を嫌い、兄の背に隠れがち。物事を一歩離れた視点から観察する力に秀でており、兄と藤丸の争いをしどろもどろになりながら止める日々を送っている。
忍術『人形糸操』により、自身の操る人形に数々の武装を搭載させる。お茶くみ人形に爆弾を運ばせる、獅子舞から火を吹かせるなど、相手の度肝を抜くものが多い。