戦国時代に憑依TSしたと思ったらトンデモ戦国だったでござるの巻 作:翔々
3-1
加藤段蔵、敗北。この報を聞いて真っ先に動いたのは、三大忍軍でも最強と名高い伊賀忍軍である。偵察や交渉などという甘さではない。頭領・百地三太夫の下した指令は、たった一言に尽きた。
「殲滅せよ」
尋常の沙汰ではない。三太夫はその指示が嘘ではない事を証明するために、上忍三名まで派遣するという徹底ぶりを見せる。本拠地である伊賀の守りを手薄にしてでも、絶対にはぐれ透波を滅ぼせという意思の表れであった。
だが、この頭領の決断に、当の伊賀忍軍の忍者達から困惑の声が少なからず出た。透波忍軍が敗れたからといって、あまりに過剰反応が過ぎやしないか。天下の伊賀忍ともあろう者が甲斐の田舎まで出張るなど、弱い者苛めにしかならない。百地の大将もいよいよ耄碌したか。
頭領の耳に入れば、即刻粛清されるのは間違いない。しかし、この声を洩らすのが、他ならぬ三太夫直々に選ばれた上忍なのだから、遠征軍全体のやる気がない事この上なかった。
「まったく、三太夫のジジイは何を考えてるっしゃあ?」
筋肉に覆われた巨体を歌舞伎役者じみた派手な着物で包む男、上忍・石川五右衛門が、これまで何度繰り返したかわからない愚痴を洩らした。目的地は目の前だというのに呟くあたり、心底不本意なのだろう。
「知れた事。ネズミ一匹にも手を抜かぬのだ、あの御方は」
同僚の不満をいなすのは、肋骨が浮かぶほどに痩せ衰えた上忍・
「ぎゃへへへへ……まあよ。おらぁ、爆弾バコバコ使えりゃあ、相手なんか何だっていいんだけどよ。それにしたって、なぁ?」
ふたりの会話に割って入るのは、最後の上忍・
「わけのわかんねぇトウシロの集まり相手じゃあ、おらたちの出る幕じゃねぇよなぁ」
「……いかにも、な」
頭領に不満を抱くのは、石川五右衛門だけではなかったのである。城戸の声に頷いた楯岡が、刀の柄を一撫でてから嘆息する。
「はぐれ透波などを相手に我らが出張るなど、伊賀の名に泥を塗りかねん。あまりに大人げがない。私も、自分にふさわしい死に場所を選びたいのでな。中忍数名に残りは下忍、これでよかろう」
「そうっしゃあ。こんな連中じゃあ、退屈しのぎにもならんしゃあ。帰えろうぜ。道順に城戸よう」
「そうすっかね、五右衛門」
重い腰を上げて去っていくふたりを追いながら、楯岡道順が誰にいうともなく呟く。
「お前ら、抜かるなよ。ゴロツキの集まりといえど、一応は忍者を名乗る連中だからな。間違いはなかろうが、心してかかれ」
「御意」
上忍を欠いたとて、恐るべきは伊賀忍軍の練度なり。個々の質なら鉢屋衆、透波忍軍など足元にも及ばない強者の群れが、はぐれ透波へと一斉に襲いかかるのだった。
3-2
スタート地点で魔王が軍勢率いて攻め込んでくる奴があるか! どこの勇者の村だよ加減しろ莫迦!!
ヤバかった。今回ばかりは本気でヤバかった。とんでもない寒気で起こされたと思ったら、愛用の足袋の緒がブチッと切れる、里で見かけない黒猫があくびしてる、カラスの群れが逃げるように飛び立つ、と不吉の知らせのオンパレード。今日は大人しくしてるかーと掃除してたら、山の麓からとてつもない殺気が三つ迫ってるのを知覚して、持っていたホウキを握りつぶしてしまった。
「おう、みんな見てみろ。桔梗が焦ってるぜ」
「明日は雨だな」
知らないってことは幸せだなぁお前らはさぁ!
侵入者を知らせる鳴子よりも早く布陣したところで、敵の装束を確認した風子が冷や汗を浮かべて告げる。
「……おい、冗談だろ。なんで伊賀忍軍が来るんだよ!?」
伊賀忍軍。
この国の忍軍すべてを相手取っても勝つとまで噂される、最強の忍び集団。その実戦部隊が、続々と山の奥へと踏み入ってくる。
透波忍軍を蹴散らしたことで、どこかの忍軍が接触を求めてくるのは予想していた。が、いくらなんでもこれは無い。新進気鋭のベンチャー企業に業界最大手が本気で潰しにかかってくるようなものだろう。なんでや、私ら何かしたんか。菓子折り持って挨拶に来ないのが気に入らなかったのか。
ガタガタ震える私の横で、
「また襲撃かよ。暇なもんだぜ、忍者ってのはよ」
「音に聞こえし伊賀の手練れか。腕が鳴るな」
うんざりした様子の藤丸と、ウキウキしてる才蔵が、同じタイミングで刀を抜いていた。こういう時に限って仲が良いね君達。
私と同等か、それ以上の力量のふたりなら、迫り来る殺気の質には当然気付いている。なのに少しも恐れを見せず、真っ向から叩き潰そうと燃えている。あるいは、強者との力比べを心待ちにしている。
バーサーカーってのは凄い人種だと、つくづく思い知らされる。命の奪り合いを心から楽しむ心地なんてのは、いまだに私と縁がない。なんだかんだで戦ってる内にハイテンションになる時もあるのだが、普段の私は貧弱クソ雑魚メンタルである。
いよいよ覚悟を決めかけた時、さっきからビンビン感じていた殺気の元凶が三つとも離れていくのを感知して、盛大に息を吐いた。
「上役が帰ったみたい。残った連中が一気に向かってきてる」
「部下にやらせて自分はサボりかよ! とことん気に入らねぇ連中だな!」
迎え撃たんと突撃する藤丸。その背に続きながら、私は決意する。
あの三人。当世最強の忍者集団において、三本の指に選ばれた上忍達。彼らこそが忍者たるものの強さの極致である。その理由を、身をもって知る事ができた。
私達は、あの強さを超えなきゃいけない。できるだけ早く。でなければ、今度こそ殺しにかかってくる。その猶予はどれだけある?
三年か。
一年か。
あるいは、もっと短いか。
強くなろう。そのためにまず、今日を生きよう。さしあたって、わらわら突っ込んでくる伊賀の忍者を経験値代わりにして。
などと、珍しくシリアスモードで戦っていたのだが。
「じー……」
「あら? あなた、どうして私の事をじっと見つめているんですの?」
一本杉の影から熱い視線をかなめに送る伊賀の下忍。いったい何が起こっているんですかね? さながらクラスのアイドルの背中を見つめる男子生徒的なワンシーン。ここ戦場じゃぜ?
「美しい。信じられぬほどに美しい人だ、あなたは」
「……まぁ」
「ずっと探していたのです。心に思い描いていた女性の貌に、あなたは瓜二つだ。こんなことはあり得ない。だが、本当にそっくりなのだ。自分でも信じられない……これがバテレンのいう奇跡なのか」
「あの?」
おい、何か雲行きが怪しくなってきたぞ。
「どうしてあなたが敵なのだ? ……駄目だ。あなたに刃を向けるなど、断じて許されない。あなたのためなら、鉄の掟も破ってみせる。伊賀を裏切り、あなたを守ってみせよう」
「待ってください。そんな、急にいわれても」
「否!!」
かなめが制止するのも構わず、男は持っていた忍者刀をあらぬ方向にぶん投げる。かなめの背後に忍び寄っていた敵が喉首を貫かれて倒れ伏すよりも早く、ガツンと額を地面に叩きつけた。あ、ちゃっかり足元まで距離詰めてやがる。スライディング土下座かよ。
「決めましたぞ! この
「……どうしたらいいのでしょう。桔梗様、私はなんとお答えしたら?」
私にだって……わからないことぐらい……ある……。
3-3
「―――この、大馬鹿者どもめが」
伊賀忍軍、本拠地にて。神とも仏とも思えぬ、悪鬼羅刹をかたどった木像を背に従える頭領の老忍が、聞く者におぞけを催させる声で叱責した。
百地三太夫。
その肉体は骨と皮である。筋肉も、脂肪も、血液も、水分も、内臓も、およそ人体にあるはずの物量がすっぽりと抜け落ちたような容貌であった。生きながらにしてミイラとなった遺体が、生前と変わらずに動いているのではないか。にごった眼球は何も映すことなく、ただ眼前に控える上忍三名に向けられている。
「侮るなというたろうが。伊賀忍軍がはぐれ透波にしてやられたという話は、すぐに広まろう。余計な手間を増やしおって」
道順、城戸、黙して語らず。いかなる処罰も受ける、と殊勝な態度を貫く。
「ハッ! そんなもん、気にするこたあねぇっしゃあ! 誰も信じやしねぇっしゃあ!」
この男は違った。石川五右衛門。相手が頭領であろうと、自分の意志はけっして曲げぬ。部屋の外にまで伸ばした超長煙管を吹かしながら、細かい事は気にするなといわんばかりにそっぽを向く。
その横顔を凝視する、三太夫の灰色の瞳。
明らかに空気が変わっていた。
「偉い口を叩くようになったではないか、五右衛門。我らが野望、知らぬとはいわせぬ。成就のためには、我らの前に立ちはだかるものは何であろうと始末せねばならんのだ」
「あんな連中、ほっとけばいいしゃあ。わしらの敵じゃあないっしゃあ」
話は終わりだ、と立ち上がる。道順と城戸の間を蹴散らすように、ズン、ズン、と大股に歩いて遠ざかる五右衛門だったが、
「……五右衛門。今の口上、覚えておく……忘れるでないぞ」
最後に掛けられた言葉が、呪いの如く脳裏を離れなかった。
人物紹介
※伊賀の上忍達は次回登場時に
◇黒兵衛
年齢 22歳
身体 5尺6寸(169.7cm)
体重 17貫(63.7kg)
伊賀の下忍だったが、かなめに一目惚れして仲間達を裏切り、はぐれ透波に身を投じる。
仲間になりたての内はモブ同然の強さだが、全キャラ共通の術を覚えさせていくと凄まじい便利屋キャラに成長する。加入時期が早いのもあってほぼすべての術を習得し、しまいには伊賀の秘伝忍法まで身につける、お前は本当に下忍かといいたくなるマルチな才能の持ち主である。困った時はこいつを突っ込ませたらええねんの精神。
かなめ同様、エンディングに謎の多い男でもある。