戦国時代に憑依TSしたと思ったらトンデモ戦国だったでござるの巻   作:翔々

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第四幕 山越え

 

4-1

 

 

 上杉さんからお手紙ついた♪

 

 藤丸君たら読まずに捨てた♪

 

 仕方がないので大・乱・闘♪

 

 

 

 いや仕方なくねぇよ。

 

 皆様こんにちは、桔梗です。今日も今日とてはぐれ透波の朝がにぎやかに始まりました。即興で歌ったとおり、甲斐から信濃をはさんだ越後国の大名・上杉家から手紙が届いたのは良いものの、藤丸のあんちくしょうが面倒くさがって私にぶん投げやがりました。

 

 頭領がそれでいいと思ってんのか、望月のババァが死んだんだからはぐれ透波の責任者はお前だ、と説教たれたら、うるせぇそんなのやってられっか、しち面倒くさい交渉なんてゴメンだ、とぶーたれる始末。

 

 はい、ルール無用のデスマッチがスタートです。

 

 もうねぇ、長い付き合いだから薄々はわかるんだよ。こいつなりに弱音吐いてるんだなって。大名との交渉なんて大事、よく考えなくたって隠れ里の命運がかかってるぐらいは藤丸にも想像がつく。

 

 まだ十七歳、現代だったら未成年の子供だ。そんな歳で私達全員の未来を背負ってるんだから、ストレスで心を病んでもおかしくない。そこまでいかなくても、藤丸の力で周囲に当たり散らしたら死人が出る。本人にもそれがわかっているから、何の気兼ねなくぶつかっていける私にお鉢が回るのも頷ける。

 

 考えてもみてほしい。あの才蔵がメンタルケアなんかするはずもないし、傍太と楽天丸はケラケラ笑うだけで賽天太もオロオロするばかり、大人勢はどいつもこいつも笑って見てる。かなめ達? 家事が忙しすぎてこっちに構ってくれません。おい黒兵衛、女組に混ざろうとするな。お前は極楽の爺様につきっきりで術を覚えろ。うちは圧倒的に戦力が足りないんだ。

 

 ごはんができましたよー、というかなめの呼ぶ声とともに、私のドロップキックを抱え込んだ藤丸のジャイアントスイングで柱をへし折ったところで、男女混合プロレスマッチは引き分けを迎えた。あったまいってぇ……。

 

 たんこぶの膨らんだ頭を撫でながら食堂に向かっていると、賽天太がちょこちょこと走ってきて、私の横に並んだ。珍しいことがあるもんだ。普段あんまり接触してこないのに。

 

「桔梗のねえちゃん、大丈夫? すごく痛そうだけど」

「こんなの日常茶飯事だよ。もっとヤバいのくらったりするし」

「そ、そう……えっと、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 

 聞こうか聞くまいか、しばらく迷うようにうつむいてから、

 

「あ、あのね。桔梗のねえちゃんは、藤丸のあんちゃんと、いっつもケンカしてるでしょ?」

「今朝ので通算二千回目かな」

「えぇ……そんなにやってるのに、どうして飽きないの?」

 

 どうも、思ったより深刻な質問らしい。

 

「一緒に暮らしてるんだから、仲良くしなくちゃダメだって思うんだよ。ケンカなんて、痛いだけで、ぜんぜん楽しくないもの。だからさ、藤丸のあんちゃんも、桔梗のねえちゃんも、仲良くしてほしいんだよ」

「……おお、もう……!」

 

 なんと優しい言葉だろうか。

 

 この身体に憑依TSしてから十四年。あまりにも殺伐とした日常過ぎて、ひさびさに文明人チックな考えを聞いた気がする。

 

 争いなんてやめて。

 ラブアンドピースが一番。

 みんななかよく。

 

 平穏だ。穏やかだ。血も涙もある。とっくに無くしたはずの思考がここにあった。あったけぇ……あったけぇよ……。

 

 思わず両膝ついて賽天太を抱き締めてしまった。

 

「わっ、ど、どうしたの? 何で泣いてるの?」

「ごめん……なんか、こう、尊い……!」

 

 アカン。自分でいってて不審者だわこれ。一刻も早く離れなければ。でも、両腕から伝わる子供特有のポカポカとしたぬくもりが懐かしく、ああ藤丸も出会った頃に風呂の入り方を教えた時とかこんな感じだったなぁなんて感慨にふけっていたら、

 

「うちの弟にナニしてやがる、馬鹿たれ!」

 

 おひつを抱えた楽天丸に真横から盛大にドロップキックをぶちかまされ、本日二柱目のへし折りを達成した。うん。今のは十割で私が悪かった。

 

 この後、頭の右と左にでかいタンコブをくっつけた私と、爆笑して色々どうでも良くなった藤丸との間で建設的な話し合いが成立し、隠れ里から何人かを連れての会談に臨もうという結論になった。平和に終わるといいね、たぶんダメだけど。

 

 選ばれたメンツは以下の七名。

 

 

 はぐれ透波の頭領、代表として藤丸。

 

 補佐役で私。

 

 占い師としての力がめっちゃ頼れるかなめ。

 

 里の外に慣れさせるため、才蔵と傍太。

 

 新しい人形用の素材を越後で仕入れたいという、楽天丸と賽天太。

 

 

 最年長が才蔵の二十一歳なので、全体的に若いメンバーの選出である。まず、はぐれ透波が世間に知られたことで、今後は敵地での戦いも考えられる以上、若年世代に外の世界を学ばせる必要があるため。次に、伊賀忍軍が攻めてきたのもあって、里の守りを固めなければ安心できない。岩鉄達の大人組なら、その点は抜かりなくやってくれるだろう。

 

 なお、ついてきたがった風子に黒兵衛の監視役を頼んだら、即座に居残り組を選択した。あんにゃろう、仲間に加わった経緯がアレ過ぎて、里から追いかけてきても不思議ではない。友達がストーカー被害にあうかもとか心配だよね、うん。まだ実害は無いけど。

 

 はてさて、道中も着いてからも、何が起こるのやら。

 

 

 

 

 

 

 

4-2

 

 

 藤丸が中二病に憑かれた。

 

 

 

 

 

 

 

4-3

 

 

 違った、これだと誤解がある。正確には、中二病みたいな存在の加護を得た、らしい。

 

 順を追って説明すると、隠れ里を出発して越後へと向かった私達は、通り道である信濃との国境にあたる山奥にて、やたらめったらに強いボスが率いる野犬の群れと遭遇した。

 

 人外の領域に片足どころか両足をズブズブに突っ込んだ忍者にとって、野犬なんぞいくら群れようと烏合の衆、手こずる事はない……のだが、この野犬達ときたら、軍隊並に統率されていたのである。そこらの下忍ならひとたまりもなく嚙み殺されるだろう。ただの野犬がどうしてこうなったのか。原因は、彼らのリーダーである雪のように白い犬、鳶丸(とびまる)にある。

 

 この鳶丸、元はどこかの忍者が徹底的に仕込んだ忍犬だった。本人(犬)の知恵がずば抜けて発達しており、犬なのに忍び文字を理解していたため、自身の過去を地面に書き綴ったほどである。任務に失敗して捨てられてから現在のボスに成り上がるまで、それこそコミックで十八巻分ぐらい描けそうな波乱万丈の犬生を送ってきた、恐るべきワンコなのだった。

 

 なお、(あや)という名前の奥さんがいる。犬でさえパートナーがいるのに私達は……ウゴゴ!

 

 かなめ以外、特に最前線で戦う私や藤丸、才蔵がこっぴどくやられた。犬のくせにとか舐めてかかる余裕すらない。それでもどうにかスタミナ切れに追い込んでから、藤丸の峰打ちでもって勝利をもぎ取ることに成功。

 

 抵抗する力を失った鳶丸に、俺達について来ないかと藤丸が冗談半分で誘ったところ、嫁さんともどもワオーンと吠えてから、

 

「従」

 

 の一字を書いてみせたのだった。めっちゃプライド高そうなのによく懐いたなと思ったが、藤丸も天然記念物レベルの気難しがり屋なので似た者主従である。会うべくして会ったわけだ。

 

 

 

 

 ここから冒頭に繋がる。

 

 犬二匹を仲間に加えたものの疲労困憊、ひとまず休憩しようといったところで、鳶丸が俺について来いとばかりに藤丸を誘い、獣道を走り出したのである。なんだどうした、と追いかけようとする私を止めたのは、占い師のかなめだった。

 

「お待ちください、桔梗様。ふたりの行く先に光明が見えます」

「こうみょう? 良い事があるって意味?」

「はい。ですが、それには藤丸様、ただひとりしか立ち会えないとも」

「あいつだけ、ねぇ」

 

 

 ひと気のない山奥。

 獣道。

 自分だけ。

 

 

 ……何だろうか。この、喉に小骨が刺さったような、もどかしい気持ちは。

 

 かなめがいうのだから、悪い事ではないのだろう。けれど、かつて自分が遭遇したロケーションといい、そこから今日にいたるまでの運命といい、藤丸にも何かが起こってしまうのではないか、という胸騒ぎがする。まさかあいつまでTSする可能性はあり得ないにせよ。

 

 人ならざるナニカの加護を得る。

 

 それは、常人の身には持て余す力を手に入れるのに等しい。

 

 私なんかがその最たる例だろう。渾沌の加護を得てから十四年。この歳月は、そっくりそのまま力のコントロールに費やしてきた、修業期間のようなものだ。否、正しくは、力がもたらす万能感に酔い痴れて、獣のように自分の思うがままに暴れたいという欲求を制御するための精神修養というべきか。

 

 瓦一枚割ることもできず、リンゴを握りつぶす力さえなく、喧嘩をするのも自信が無かった凡人。それがどういうわけか、殴れば地面を陥没させ、リンゴどころか頭蓋骨すら粉砕し、超人達との殺し合いも生き残れるようになった。あまりの変化に自分の常識がくらくらする。そんな状況で、さらに考えてしまうのだ。

 

 マダヤレル。

 サラニツヨク。

 モットクラエ。

 

 自分が弱ければ、先日の伊賀の上忍達のような強者に殺される。それは避けたい。だから強くなる。けれど、自分の心の奥底から聞こえる声に呑まれたが最後、どうなってしまうかわからない。それが怖い。

 

 どれだけ強くなればいい?

 わからない。

 

 どこまでなら耐えられる? 

 わからない。

 

 どうすれば、自分のままでいられる?

 わからない……。

 

 こんな風に悩むのも、自分の根っこが凡人だからだろう。過ぎた力を持て余す、実に自分らしい弱者の在り方だ。藤丸や才蔵のような生まれつきの強者なら、ただひたすらに強くなろうと歩み続けるに違いない。

 

 だから、たとえ自分のような加護を藤丸が得たとしても、心配するような事態にはならないはずだ。何しろモノが違うのだから。

 

 

 

 

 悩むこと一時間。さすがに遅いな? とみんなが思い始めた頃合いに、向かった道をそのまま藤丸と鳶丸が戻ってきた。

 

「おう。帰ったぜ、皆の衆」

「ワフッ」

 

 そういってぶらつかせる右手には、見覚えのない包帯が巻かれている。その理由はこんな感じ。

 

 鳶丸に導かれるままに獣道を掻き分けて進むこと十分弱、崖の切り立った下の窪みに洞窟があったという。待ての姿勢で待機する鳶丸を残して、藤丸ひとりで探索してみると、奥には名無しの祠が放置されていたのだとか。

 

 このあたりで私の背筋がゾクゾクきていたのだが、誰も気づかなかったと思う。

 

 もう何百年も人の手が加えられなかったのだろう、ボロボロの祭壇の中から、『獅子王』と名乗る謎の声が話しかけてきた。それは類まれな才能を持つ藤丸に興味を持ち、結構な量の血をよこせという。応じれば今後、日の本の国に散らばる自身の配下である『四神』の力を藤丸に分け与えさせると約束する。

 

 強さにこだわる藤丸が二つ返事で了承した途端、右腕をガブリと何かが噛みつき、あまりの痛みに三十分ほど失神。主の異変に気付いた鳶丸に起こされ、よくわからないままに帰ってきたのだそうな。

 

「結局よぉ、力をくれるっつったくせに、本人は何にもよこさねぇでやんの。だいたいなんだ、その四神にしたって、日の本のどこにどいつがいるのも聞かされてねぇんだよ。フラフラしながら獣道を歩く羽目になって、ツイてねぇったらないぜ」

 

 話を聞き終えた一同から、

 

「不用心過ぎる」

「お前いつか騙されるぞ」

「知らない人の話に乗っちゃダメだよ」

 

「うるせぇぞてめぇら! 気持ちわりぃ目で見てんじゃねぇ!!」

 

 生暖かい視線で諭された藤丸が逆ギレをかましつつ、今日の寝床を探しに向かうことになった。

 

 うん。どうやら、私の心配は杞憂らしい。『獅子王』とかいう謎の存在は気になるが、その加護は大したものではなかったようだった。藤丸の様子にはまったく変化がない。バケモノになったわけでも、TSしたわけでもない。私の知る藤丸のままだ。

 

 妙な安心感に包まれながら、焚火用の薪を集めに立ちあがる。そんな私に、頭をガシガシ搔きながら藤丸がやってきて、

 

「あのよぉ、桔梗。皆にはいわなかったんだけどな」

「うん、なに?」

 

 

 

 

 

「獅子王の奴が『渾沌』に気をつけろとか抜かしてやがったんだが、お前たしかガキの時分にそんな話をしてなかったっけか? もうすっかり忘れちまっててよ、全然覚えてねぇんだが」

 

 

 不穏な種をバラ巻いてんじゃないよ謎の存在さん。

 

 





人物紹介


◇鳶丸
 年齢  5歳


 信濃と越後の境、越後寄りの山奥で野犬を率いる元忍犬。下手な忍者より強く、ゲーム的には弱点が少ないのでプレイヤーを大いに苦しめる。具体的には第一幕の手探り状態レベルで苦戦する相手。少人数縛りプレイとかやっていたら地獄を見る。

 独自の忍術『砕牙』を習得しており、雷・炎・風・分身の四種攻撃が可能。味方になっても弱点が少ないままなので、最終戦まで連れていける強キャラの一角。最も幸せなエンディングを迎えるパパである。



◇綾
 年齢  3歳


 鳶丸とは違って忍犬ではなく、一般人に捨てられた元飼い犬。鳶丸に守られて夫婦になり、ゲーム中で子供を授かる。エンディングでは鳶丸と子犬ともども幸せな未来を掴み取る肝っ玉母ちゃん。

 ただの犬なので『砕牙』は習得できず、汎用の犬忍術止まり。ステータスも並。



◇獅子王


 謎の存在。藤丸の血を吸う事で縁を持ち、彼が絶大な力を手にするための布石を打つ。



◇四神


 獅子王に仕える存在。朱雀・玄武・白虎・青龍の四つをもって四神となす。
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