戦国時代に憑依TSしたと思ったらトンデモ戦国だったでござるの巻   作:翔々

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第五幕 謀

 

 

5-1

 

 

 越後の大名・上杉家。

 

 数々の合戦に勝利してきた当主を“軍神”と畏れる大名は多い。毘沙門天を信仰し、甲冑の上に法衣をまとって出陣するなど、信心深い面を持つ。武田家とは何度も争い、川中島での決戦は都でも評判になったという。そんな上杉家もまた、独自の忍軍を抱える戦国大名であった。

 

 その名を軒猿衆(のきざるしゅう)

 

 険しい地形を苦もなく駆け回り、猿のように素早い身のこなしを常人の目でとらえる事は不可能。山岳戦において真価を発揮し、拳大の石による礫は人体を容易に破壊せしめる。武田家お抱えの透波忍軍とは、信濃の支配権争いで数えきれない程の死闘を繰り広げたという。

 

 それほどの忍軍を抱える戦国大名・上杉家と、日の本随一の評判に恥じない伊賀忍軍を真っ向から打ち破ったはぐれ透波の頭領・煉釖藤丸との交渉は、当の藤丸達が意外なほど穏やかな空気で進められていった。

 

「信玄とは長年争ったが、敵ながらに見事な漢であった。その信玄が手ずから育て上げ、かの透波・伊賀を破ったほどの忍軍であれば、相応の敬意を表するに値しよう」

 

 今回両者が結んだのは、相互不可侵条約である。

 

・はぐれ透波は今後、独自に、ないし他勢力の依頼でもって、上杉家を害さない。

・上杉家もまた、はぐれ透波のいかなる行動も妨害しない。

 

 武田家が衰退する現在、上杉家としては当然ながら信濃を狙うし、隙があれば甲斐にも侵攻する。この際、はぐれ透波の領域には手出ししないという誓文まで、当主の直筆でもって書き上げたのである。大盤振る舞いといってよかった。

 

 国盗り合戦にいっさい興味のないはぐれ透波からすれば、戦との関わり合いを避けられる、願ったり叶ったりな申し出である。かくして両者の不可侵条約がその場で結ばれ、はぐれ透波の一行は用意された宿にて歓待を受けるのであった。

 

 

 

 

5-2

 

 

 皆様こんばんは。前回の不穏な空気から一転、宴の席からお送りする桔梗です。

 

 交渉を済ませた後、自分と渾沌についてのイザコザを改めて藤丸に説明した。未来からの憑依うんぬんは理解できないと思ったので伏せておき、望月のババァによって渾沌の儀を施された武田の若殿が姫になり、死んだ者としてはぐれ透波に放り込まれたと。

 

 一度は聞いた話なので、藤丸もすぐに思い出したのだろう。懐かしそうに頷きながら最後まで聞き終わると、

 

「別に気にするこたぁねぇだろ」

 

 あっけらかんとのたまった。

 

 いや待て、箸しか持ったことのないような男を女に変えた上に、忍者相手でも戦えるようにする力だぞ? 十分にヤバくないか? といったら、ギャハハと笑いながら、

 

「俺は今のお前しか知らねぇんだから、その前が何だろうと関係ねぇよ。渾沌の加護だろうがバケモンの力だろうが、それもひっくるめて桔梗じゃねぇか。妙な事で悩みやがって、お前らしくもねぇ」

 

 そう言い切った藤丸が、照れ隠しに私の肩を思いっきり叩いてから、みんなの待つ宿へと導くように歩いていった。

 

 ……ヤバい。ちょっとドキッときたかもしれない。

 

 

 

 

 さて、えー……うん。まだ妙な気分だけど、それはともかく。

 

 気を取り直して、大名家が本腰を入れて用意した、本日のお宿。

 

 ごらんください、百人ぐらいが詰められそうな大広間にズラリと並べられた海の幸。手を伸ばしても海には届かない、甲斐の山奥で暮らす私達には縁がないだろうと上杉家が用意してくださったのは、心づくしの日本海料理。

 

 もうねぇ、嬉しい。

 

 隅々まで行き届いた気遣いが、たまらなく嬉しい。なんて太っ腹だろう、忍び相手にここまで贅沢な料理を振る舞うってさ。貴族とか大金持ちになったみたいな気分。私達の普段食べてるメシがどれだけ貧しいかって思い知らされるね。

 

 こんなの食べさせてくれる当主様サイコー! やっぱ信玄ってクソオヤジだわ! 今度歴史ゲームプレイしたら上杉で全国統一します!

 

 さー、みんな揃ったところで食べようぜ! いっただきまーす!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「藤丸、このメシ毒入ってるぜ」

「マジかよあのクソ坊主、いっちょシメに行くか」

 

 知 っ て た 。

 

 

 

 

 

5-3

 

 

 はい、宿に詰めてた監視役のお侍さんを全員ぶちのめし、ガッチガチに固めた屋敷を真っ向から突破した藤丸に身ぐるみはがされて逆さ吊りにされた殿様が白状したところ、こんな魂胆だったそうです。

 

 そもそも上杉家にとって武田家は不倶戴天の敵であり、関東甲信越の支配を妨げてきた、目の上のタンコブであった。それを率いる信玄にいたっては恨み骨髄に達するほど憎み切っており、好敵手などと思った事は一度もない。死んだと聞いた時は狂喜乱舞し、涙を流しながら手を叩いて喜んだそうな。

 

 運が良い事は重なるもので、信玄病死の混乱のどさくさで歩き巫女は壊滅し、透波忍軍も武田家から離反。独立勢力になるかと思われた透波忍軍も、聞いた事のないぽっと出のはぐれ透波とかいう忍軍に敗北し、頭領である加藤段蔵が行方をくらませて壊滅した。

 

 この戦果に多少は手こずる相手かと警戒したが、先の伊賀忍軍との戦で少なからぬ損害を受けたであろう、今この時に誘いをかければ乗ってくると判断。のこのこやってきた獲物を甘い言葉でなだめすかし、どうせ守るつもりのない要求だからと全部応じて、人生最後の晩餐を愉しめとばかりに歓待してやったと。

 

 へー。

 ふーん。

 ほーん。

 

「……考えが甘すぎやしねぇか? 忍者相手に毒が通用するわけねぇだろうが」

 

 さすがに呆れた藤丸のツッコミに、ふんどし一丁のひきつった顔で精いっぱいの虚勢を張ろうとする、哀れな殿様がいた。

 

「ふんっ、貴様らにはもったいない席であったわ! 忍者風情では一生味わうことのできん珍味、涙を流してたいらげておれば良かったものを! 覚えておれよ、この辱めの恨み、必ずや返してくれるからな!!」

「次があると思ってる時点で甘ぇんだよ」

「ま、待て、やめっ……!」

 

 大木のてっぺんの枝に結ばれたふんどしが切られ、小指よりもしぼんだ息子が露わになる。今日もまた戦国大名のひとりが、はしためのように泣きながらボッシュートとなった。

 

 見損ないました! 上杉家のファンやめます! 姉小路家で引きこもりプレイするわ!!

 

 

 

 

 ……あのさぁ。

 

 虚しい。

 

 どうしようもなく悲しい。

 

 戦国時代にそこまでの知識は無いし、ゲームやマンガで贔屓になった覚えもない。けれど、けれども、だ。

 

 四年前に見物しに行った織田某といい、この殿様といい、どうしてこうも小物なのだろう。自分のおぼろげな記憶に、かすかでも残っている英雄やヒーローへの憧憬を、土足で汚されているような不快感が凄い。

 

 つくづく思う。この戦国時代は、どうしようもないニセモノだと。箱と駒だけ用意した、まったくの別物。忍者というトンデモ存在がすべてを凌駕するという大前提のために、他のすべてがヒエラルキーの下へと位置付けられてしまったような、間違い過ぎた歴史のIF。

 

 私の知る歴史上の偉人達が、こんなにも情けない、生き恥をさらすような存在であるはずがない。こんなものが現実であってたまるか。断じて認めない、こいつらは紛い物だ。たまたま同じ名前と地位を与えられただけの、似ても似つかない劣化コピーなのだ。

 

 お願いだから、そうであってほしい。

 

 ―――でなければ、私はどこまで幻滅すればいいのだろう。

 

 

 

 

「ったく、せいせいしたぜ。俺達を騙すなんて舐めた真似しやがってよ」

「藤丸」

「なんだよ、殺す事はなかったって説教か? なら聞かねぇからな」

「藤丸」

 

 普段の私からは聞く事のない、感情の失せた声を耳にしてか。あの藤丸が、常にない顔つきで私の顔を見た。

 

「お前、交渉の場でいったよな? はぐれ透波は大名の国盗り合戦に興味がない、やるなら勝手にやってろって」

「あん? そうだよ。楽天丸と才蔵の野郎は不満そうだったけどな」

 

 力に固執する才蔵と、貧しかった過去にコンプレックスを持つ楽天丸。このふたりは、自身が忍者=強者であることに昔から誇りを持っている。甲斐の山奥に閉じ込められていなければ、嬉々として忍者の力を思う存分にふるっただろう。

 

 世間の争いにこれっぽっちも興味を持たない藤丸が頭領だから従っているが、ふたりの不満が日に日に溜まっているのは私でもわかる。この不和は、近い内に必ずや爆発するだろう。

 

 おそらくは、最悪のタイミングでもって。

 

「おい。まさか、お前まであいつらの肩を持とうってのか?」

「いいや、逆だね」

 

 良い機会だった。私は弟分に、否、はぐれ透波の頭領に対して、はっきりと宣言する。

 

「藤丸。私は、お前に賛成する」

「……理由は?」

「これ以上、こいつらと関わりたくない」

 

 もうたくさんだ。

 

 もうこりごりだ。

 

 私が知っている名前のニセモノ達に勝手な期待をして、勝手に幻滅して、やりきれない気持ちになるのは、いい加減に疲れてしまった。それもこれも、私がこの世界の異物だからだ。

 

 チートじみた力を与えられたなら、聞きかじった武将の家に仕えるなり、独力で成り上がって家を興すなりして、自分から歴史に介入するなんて夢を見るだろう。現代にいた頃の私にだって、そんなIFを想像する遊び心はあったさ。でも、

 

 ここは駄目だ。

 

 ここでは嫌だ。

 

 この世界の歴史の出来事に介入なんて、頼まれたって御免こうむる。もう二度と、大名だの権力者だのといった存在に関わってたまるか。天下統一? 勝手にするがいい。織田も豊臣も徳川も、私の知らないところで好きなだけ争ってくれ。私が巻き込まれないところで、存分に。

 

「ようやくわかったんだ。私は、平和に生きたい。大名の都合だの、忍者の争いだの、そんなしがらみのない生活がしたいんだよ、はぐれ透波のみんなとさ。才蔵が聞いたら、絶対馬鹿にするだろうけど。でも、それが私の目標なんだ。夢なんだよ」

 

 これが嘘いつわりのない、私の本心。手に余り過ぎる力を持たされた、小心者には不釣り合いな、叶うべくもない大望。それでも、願うくらいはいいだろう? いいたい事もいえないこんな世の中じゃ、さ。

 

「ふぅん」

 

 私の言葉を聞いた藤丸が、鼻をひとつ鳴らしてから、ニヤリと笑ってみせた。

 

「いいんじゃねぇの? お前がそうしたいんだったらよ」

「本当にそう思う?」

「あのな、俺だって忍者なんか今すぐやめてぇよ。でも、こいつらや他の忍軍がちょっかいかけてくるんなら、全員ぶちのめさなきゃならねぇ。でなきゃ、いつまでたっても安心できねぇんだからな。つくづくままならねぇ世の中だ」

 

 けど、と続けて。

 

「ちったぁ安心したぜ、桔梗。お前が真っ先に賛成してくれてよ。誰も俺の意見についてこねぇんじゃねぇかって気もしてたんでな。それならそれで構わねぇって腹くくってたんだが、この分なら他の奴も頷くだろ」

 

 ……正直、驚いた。あの気難しがり屋の、無鉄砲な、人の話なんか聞かずに突っ走っていた藤丸が、そこまで考えていたなんて。突然はぐれ透波の頭領の座につけられてから数週間、この少年なりに行く末を案じていたのだろう。

 

 目をぱちくりさせる私に、藤丸が盛大なあくびをかましてから、ゴキリと首を鳴らした。

 

「ま、今日のところは帰ろうや。陣屋はあらかた燃やしてやったが、よその兵隊が駆けつけてくる頃だしな。交渉なんて慣れねぇ仕事して疲れちまったぜ」

「……そうするか。みんなも待ってる、国境までひとっ走りして休もう」

 

 

 

 

 かなめ達と合流したところで、まともに聞き取れない高音の叫び声が響き渡った。

 

「きゃ~~~~~~~~~っきゃきゃきゃきゃ!!!!」

「うわっ! なんだよ、猿でも出たのか!?」

 

 傍太がブーメランを取り出しながら警戒する眼前に、一匹の獣じみたシルエットが現れた。木陰に隠された姿が、月光によって照らし出された時、その場にいたほとんどの面々が眉をひそめる。

 

「やった! やった! やっちまったねぇーーーー! 上杉のお殿様を! あちきたちの上司を!! きゃきゃきゃきゃきゃ、バカだ! バカだ! 大バカどもがきやがった!!! 」

 

 それは猿女だった。ただし、愛嬌も可愛らしさもない。人の肉体を猿にモーフィングさせればこうなるだろうと思わせる、醜悪極まりない容姿。迫害を受けてそうなったのか、それとも最初から歪んでいたのか。身振り手振りのひとつひとつが内心の醜さをあらわすように、見る者に苛立ちを募らせる。

 

 キ、

 キキッ、

 

 おどける道化の背後に、続々と奇妙な声を洩らす影が結集する。その姿は、どれも先頭に立つ道化とそっくりな猿―――否。よりアンバランスで、ちぐはぐな印象を与える、人工物のような造形をしていた。

 

「なぁーーーーにが、はぐれ透波だ! なぁーーーーにが、伊賀忍軍を倒しただ! ちゃんちゃらおかしいよ、ただの脳無しどもじゃないか! あんたたちの首なんて、この軒猿衆の志摩葵(しまあおい)様が、いっぴき残らず喰ってやる!!」

 

 軒猿衆。上杉家の抱える忍軍、およそ百名。それらが猿叫とともに、いっせいに私達へと襲いかかるのだった。

 

 

 

 

5-4

 

 

 多い、多い、多い! 多すぎるわぁ!!

 

 ひとりひとりの質は悪い。これが忍者かと疑いたくなるような練度の低さだ。仮に伊賀忍軍の下忍に換算したら、軒猿衆は五人揃えてやっと伊賀の一人分に届くかどうかだろう。透波だったら三人ぐらいと見た。

 

 だが、質を量でカバーするとばかりに、次から次へと湧いてくるのだ。こちらが近接戦を狙えば、その手は食わないと距離を取って、ひっきりなしに礫を投げてくる。それを傍太が撃ち落とし、楽天丸と賽天太の操る自動人形を盾にゴリ押しする。鳶丸と綾も貴重な戦力である。

 

 とにもかくにも、包囲されるのが一番マズい。傷を癒やせても本人は戦えないかなめを中心に、前面と左右に敵の狙いを絞らせる。背後に回ろうとするたびに位置取りを修正し、少しでもこちらにマシな環境を維持し続けるのだ。

 

 いたずらに軒猿衆の骸が転がっていく中で、私達の注意が散漫になった隙を突き、姿をくらませていた志摩葵の叫びが頭上から響く。

 

「うまそうな首、もらっちまうよぉ!!」

「まずっ……!」

 

 部下達の命を惜しげもなく散らせながら、志摩葵は私達の弱みを的確に攻めた。唯一の回復役であるかなめを狙い、樹上からたっぷりと遠心力をつけて飛来する。誰も庇いに行けない。葵の邪魔をさせまいと、目の前の軒猿衆がしがみついて離れない。

 

 このままでは、かなめが惨たらしく殺される。

 

 そんな光景を想像した瞬間、落下する葵の顔面に、真横から一条の光が炸裂した。

 

「うぎゃあーーーっ!!!」

 

 右頬にざっくりと飛刀の刺さった葵がバランスを崩し、かなめのすぐそばで盛大にバウンドして地面を転げまわる。頭領の醜態に軒猿衆達も混乱し、連携が千々に乱れたことで、私達は即座にかなめを囲んだ。

 

 この乱戦の最中、誰が短刀を投げたのか?

 

「やっと見つけたぞ、志摩葵! 姉さんの恨みをここで晴らす!」

 

 戦場を移す内に、いつの間にかもうひとり参戦していたらしい。凛とした声の女武芸者が、両手の人差し指と中指で一本ずつ飛刀を構えながら、志摩葵を憎悪の瞳で睨みつけていた。

 

 

 

 

5-5

 

 

 五体満足に残った軒猿衆はほとんどいない。頬にぱっくり開いた穴を歪ませる志摩葵が、びいびい泣きわめきながら、藤丸に向かって挑発するように尻を叩いてみせる。

 

「痛い、痛いよ、いたいんだよぉ! よくもあちきをやりやがったな! あちきをいじめると、お姉ちゃんが怖いんだぞ! どんなやつだって、あちきのお姉ちゃんには勝てないんだからな! お前たちなんて、生きて甲斐に帰れるもんか! 悔しかったら、お姉ちゃんと勝負してみろってんだ! ちくしょー、ちくしょぉー!!」

 

 あからさまな誘いである。ほっぺたから口に貫通した激痛を味わいながらの演技なので、必死さはそれなりに伝わってくる。生き残った数人の部下達とアジトらしき方角へ逃げながら、チラッチラッとこちらを伺ってくるあたり、姉にもいじめられているのかもしれない。

 

「……どうすっかな。あんなんでも、放置したら隠れ里まで襲ってくるかもしれねぇ。ここで丸ごとぶっ潰しといたほうが、後腐れなく済みそうだが」

「どうか、お力添えをお願いしたく!」

 

 元気な声で藤丸に頭を下げるのはついさっき、見事な投擲でかなめのピンチを救った女武芸者である。これも何かの縁ということで、彼女の事情を聞くことになった。

 

 名前はかがり。近江出身で、小太刀を修めた十六歳。忍者相手に不意打ちで重傷を負わせるだけあって、一般人でありながら相当な強者である。投擲以外にも接近戦、組み打ち、柔術まで得意だという。望月のババァが存命中に見つけていたら、はぐれ透波にスカウトしたかもしれない。ダイヤの原石みたいな女の子である。

 

 なんで近江から越後まで来ていたのかと聞けば、仲睦まじく暮らしていた姉が行方不明になってしまったからだった。こんな時代だからと早々に捜索を諦めてしまった親類に反発して、単身で出奔。近江から山城、若狭、敦賀から越前と、若い身で放浪の旅を続けてきた。

 

 たったひとりで姉の手がかりを探し続ける内に、軒猿衆が若い娘をさらっている現場に遭遇。こいつらが犯人だと確信して、忍軍の雇い主である上杉の領地に足を踏み入れたところ、自身も襲撃を受ける。

 

 いよいよクロだと撃退し続ける事、七回目。襲ってきた軒猿衆の中で、まったく抵抗することなく斬撃を受けたくの一から、息も絶え絶えに軒猿衆の真相を告白されたのだという。

 

 

 

 

 軒猿衆がここまで異質な忍軍に変貌した原因は、現頭領の志摩姉妹にあった。

 

 志摩葵。生まれながらに猿のような異形であった妹は、この世のすべての女が自分と同じように醜くなってしまえばいいのにと、物心ついた時から歪んだ野望を抱いていた。やがて忍者として成長した彼女は、その願いを実行に移す。

 

 人体改造である。

 

 葵の標的は見境が無かった。越後だけなら上杉の口止めが利いたものを、周辺の他国にまで直接出向いて、見目麗しい美少女を片っ端から誘拐したのだ。何人、何十人とさらっては素人知識でいじくりまわし、ついには本人の精神を壊した上で、自身の部下として活用するまでになったのである。

 

 葵の姉、志摩紅(しまくれない)。醜い妹とは対照的に、恐ろしいほどの美貌の持ち主である彼女は、妹の凶行を止めようとはしなかった。それどころか、自分以外の美女がひとりでも減るなら願ってもないと喜び、必要な道具や資金を調達する始末。

 

 主である上杉家にしてみれば、自分がパトロンを務める忍軍の戦力が増えるなら文句はない。おまけに頼んでもいないのに集めてきた美少女を、どうせ壊すのならと有力者達の歪んだ欲望のはけ口にし、徹底的に利用し尽くしたというのだ。

 

 ここに大名と忍軍の結託した犯罪が成立し、越後の地に地獄が形成されたのであった。

 

「かがり……私はもう、駄目なの。生きるのが苦しいの。こんな身体にされてまで、これ以上生きていたくない。どうか、あなただけは幸せになってちょうだい。それだけが、私の願い」

 

 死ぬなら、せめて妹の手で。変わり果てた姉は、軒猿衆の真実とともにかがりへ遺言を告げると、眠るように安らかな顔で逝ったという。

 

 姉を埋葬した彼女は単身、軒猿衆の殲滅を決意。アジトを探している内にはぐれ透波との戦闘に巻き込まれ、放浪中に達人の領域にまで至った飛刀術を葵へとお見舞いした―――。

 

 

 

 

 これが先の戦闘までの経緯である。

 

 話を聞いた時、あまりの凄絶さ、非情さに、全員が黙りこんでしまった。かなめは悲しみに暮れて泣きだし、楽天丸らの年少組は呆然と立ち尽くしている。藤丸と才蔵は無意識に刀の柄へ手をやっていた。

 

「……楽に死なせたのが間違いだったぜ、あのクソ坊主」

「珍しく意見が合うな、藤丸」

「私もだよ。もいでやればよかった、あんな奴」

 

 全身に力がみなぎってくるのがわかる。吐き気を催すような邪悪を前にして、木っ端微塵にしてやれと、私の中で何かが叫んでいる。

 

 怒りだ。

 

 このニセモノだらけの世界は、とことんまで私を怒らせなければ気が済まないらしい。

 

「やろう。軒猿も、志摩のふたりも、全部ぶっ潰してやる」

 

 私の呟きに、全員が頷きをもって返した。

 

 






人物紹介


◇かがり
 年齢  16歳
 身体  5尺3寸(160.6cm)
 体重  不明
 胸囲  2尺7寸(81.8cm)
 腹囲  1尺9寸(57.6cm)
 尻囲  2尺7寸(81.8cm)


 はぐれ透波と軒猿衆との戦闘中に加わる少女。行方不明になった姉が軒猿衆にさらわれた事を突き止め、助けるためにはぐれ透波の力を借りる。目的を果たしてからは恩返しのためにはぐれ透波の一員となる。

 一般人とは思えない強さの美少女。『飛鉢法』と呼ばれる武芸を身に着けており、わかりやすくいうと投げナイフ。仲間加入後は忍剣術まで習得し、黒兵衛とかがりのどっちを使うかで毎回悩みがち。

 エンディングにて、わりとビックリする事実が発覚。



◇志摩葵


 軒猿衆を率いる志摩姉妹の妹。自身の醜い容姿をコンプレックスとしてこじらせ、日本中の女を改造してしまえという、あまりにも短絡的な思い付きを実行に移した。忍者としての強さはやや強い程度。

 裏ステージにて、どこまでいってもいじめられっ子であることが察せられる。



◇上杉家当主


 ゲーム中では謙信ですが、役どころ的にどうかと思い、あえて伏せました。作者は某歴史ゲームの初プレイ時はだいたい上杉家で軍神無双プレーから始めます。

 藤丸地獄変での上杉家は、軒猿衆を失ったことで衰退。その後については触れられていない。

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