マスカレイド・サーガ 仮面ライダーカルナ   作:大ちゃんネオ

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過去編になります


覆る日常

 あの日、世界を照らした光は僕の身体を変えた。

 紅い身体に。

 僕と同じような人達も現れ、未確認などの脅威と闘ったが、多くの覚醒人達は僕のようにかつてと変わらない暮らしを送っていた。

 いや、送ろうとしていた……。

 

 

 

 

 

 レストランShiki〈四季〉は創作料理レストランである。

 高校の時からバイトで働いていて、オーナーの四季子さんに気に入られて専門学校を卒業したらうちにそのまま就職しろという言葉に甘え、今では社員として働いている。

 創作料理専門店ということもあり、季節のものを使ったオリジナル料理を考えるというのが楽しく、飽きのない仕事である。

 

「三番テーブル注文入りました~」

 

 ホールスタッフの涼菜さんがキッチンに注文を伝える。

 聞きながら自分の作業もして……完成。

 今が旬のアジを使ったアジと梅のパスタである。

 

「これ出来たのでお願いします」

「りょーかい。今月も人気だね、誠一君メニュー」

「まあね」

 

 ここのところ、かなり調子がいい。

 俺が考案したメニューは人気が出て注文も多く、四季子さんから聞いた話だと俺の固定ファンがついたとかなんとか。

 この調子でお店に貢献していきたい。

 ゆくゆくは独立とか……。

 

「こーら、そこの若者二人。勤務中はイチャつかないように」

 

 軽い会話を交わしていると、同じくキッチンで調理中の四季子さんから釘を刺された。

 別に怒っているわけではなく、どちらかというと()()()()の意味合いが強い。

 

「別にイチャついてないですよ」

「当人がそう思っていなくとも端から見たらイチャついているように見えるというわけ。涼菜も分かった?」

「はーい。バイト終わったらイチャつきまーす」

「涼菜さん!?」

 

 驚く自分にイタズラが成功して得意気な顔を向ける涼菜さんは僕のパスタを持って行った。

 四季子さんはくすくす笑っていた。

 ここの女性陣は俺のことをおもちゃか何かと思っているのだ。

 

 

 

 

 

 

 閉店しても片付けやら明日の仕込みやらとまだ仕事は残っているのですぐに帰れるというわけではない。

 この辺りの仕事はもうささっとやって早く帰るものだ。誰だってそうしたいに決まっている。

 だけど、自分にはそれ以外の理由があって……。

 

「お待たせしました」

「お疲れ。さ、帰ろ」

 

 バイトの人はとっくにみんな帰っている時間であるが、涼菜さんだけは残って、待ってくれているのだ。

 未確認による事件はほぼなくなったとはいえ、やはり女性の一人歩きは危ないと思い一緒に帰るようにしている。というのもこれは、僕が高校生の時から続けていることだが。

 

「あ、雨降ってる」

「ほんとだ。折り畳み……忘れた」

 

 いつもはバッグの中に入れている折り畳み傘がなかった。

 どうしようかと一瞬だけ考えたが、なんてことはない。店の傘を借りよう。

 そう思ったのだが……。

 

「相合い傘、しよ?」

「……はい」

 

 まあ、たまにはいいか。

 涼菜さんから傘を受け取って二人の上に差す。

 折り畳みなのもあって二人で入るには少し小さいので涼菜さんよりに。

 右肩が少し濡れるが仕方ない。

 そう思っていたら涼菜さんが目敏くそれを見つけた。

 

「あ、右肩濡れちゃってる。ほら、誠一君もっと寄って」

「いや、それだと涼菜さんが濡れちゃうし」 

「私はいいから」

「俺もいいから」

 

 何故か、こんなことで言い合いになってしまった。

 そこから何故か無口になって……。

 自分から、話し掛けようとした瞬間であった。

 

『────!!!』

 

「ッ!? あ、あぁぁ!!!」

 

 突然、脳内に何かが走った。

 どこかの、景色のような……。

 だが、それよりもとにかく強い頭痛に襲われて立っていることも出来ず濡れたアスファルトの上に膝をついた。

 

「誠一君!? 誠一君どうしたの! 大丈夫!? 誠一君!」

 

 ……遠く、涼菜さんの声が聞こえる。

 そんなものよりもこれを見るのだと命令されているのか、涼菜さんの声を押し退けて脳内には映像が流れ続ける。

 これ、は……。

 

『今歩いている場所』 

 

『黒い人影』

 

『人影の正体は異形の存在』

 

『倒れている、女の人』

 

『涼菜さん……』

 

「──────あっ……」

 

 唐突に、痛みは治まった。

 まるで嘘だったかのように。

 

「誠一君大丈夫? どうしちゃったの?」

「涼菜さん……。あ……それよりも、ここにいたらまずいんだ!」

「まずい? どういうこと?」

「いいから早く逃げないと……」 

 

 痛みが治まったことで、あの脳内に流れていた映像の意味を察した。

 あれは、危険信号なのだ。

 だから、ここにいたら……。

 

『アァ────』

 

「!?」

 

 闇の中から現れた、異形。

 まるで豹のような人型は……未確認。

 グロンギ?

 だけど、奴等はもう根絶されたとされて……。

 いや、今はそんなことより逃げなければ。

 

「涼菜さん! 走って!」

「……う、うん……」

 

 現れた異形に対する恐怖で支配された涼菜さんを正気に戻し走り出させる。

 雨に濡れることなどお構い無しに。

 命に比べたらびしょ濡れになることなど些末な事。

 しかし相手は未確認。人の走る速さで簡単に逃げ切れるような相手ではなかった。

 

「うわっ!?」

 

 背後から飛び掛かってきた異形によって押し倒された。

 勢いよく地面を転げる。

 全身に痛みを感じるが、すぐにそんな痛みを忘れるほどの恐怖に襲われた。

 異形が首を掴み、俺を立ち上がらせる。

 真正面から間近で見る異形の瞳は人のことを下等なものと見下しているかのよう。

 そして、異形の手に籠められる力が強くなっていく……。

 

「誠一君!」

「来ちゃ、ダメだ……!」

 

 涼菜さんが駆け寄ろうとする涼菜さんを止める。

 だけど、このままでは涼菜さんまで……。

 俺が、死んだら……。

 

 先程見せられた光景が蘇る。

 もし、このまま俺が死んだら……涼菜さんまで……。

 そんなのは……。

 そんなのは……!

 

「そんなのは……嫌だッ!!!」

『!?』

 

 目の前が真っ白になる。 

 強い光の中にいる。

 いや、光を発しているのは自分だ。

 あの姿を涼菜さんに見せることになる。

 だが、涼菜さんを守るためには……!

 

 

 光が収まり、夜の闇が取り戻される。

 光の中心にいた青年は変身を遂げていた。

 

『AGITΩ────』

 

 世界中に光が放たれたあの日から、人類の中に覚醒人と呼ばれるもの達が現れた。

 彼等はその肉体を変異させ、未確認達に対抗する力を得る。

 それは、誠一も同じであった。

 彼もまた……アギトである。

 レッドダイヤモンドのような硬化した身体。頭部の双角クロスホーンも紅く染まり、黄昏色の複眼をしている。

 それが、誠一のアギトとしての姿であった。

 

「誠一君……」

 

 突然の出来事に涼菜は理解が出来なかった。

 自分の恋人が、変身した。

 その状況が受け入れられなかった。

 

「……」

 

 誠一……アギトは、涼菜に目線を向けるがすぐにその視線を異形へと戻した。

 

『────!!!』

 

 アギトの登場に怒り、震える異形が駆け出した。

 迫る腕を受け止めて、とにかく異形の顔を殴りつけるアギト。

 誠一にとって、戦闘というものは初めてのものでとにかく我武者羅な戦い方になっていた。

 かつて、自身の身体に変化が訪れたあの時からこの姿になるということをしていなかったので、自分にどんな能力があるかもまだ分かっていないのだ。

 そして、それは異形に悟られてしまった。

 異形とて知性はある。

 このアギトはまだ産まれたばかりの赤子同然だと気付くのは容易かった。

 

『────!』

「うっ!?」

 

 足を崩され、アギトは無様に倒れ伏した。

 アギトにマウントをとり、今度は逆に異形がその拳を打ち付けていく。

 アギトはただ、腕を構えて防御の姿勢を取ることしか出来なかった。

 

(このままじゃ……やられる!)

 

 焦る誠一はなんとかこの状況を打破出来ないか必死に頭を回す。

 だが、頭が上手く働いてくれない。

 そうして焦りが積もるばかりで……。

 急に、異形が自身への攻撃を止めた。

 疑問符を浮かべる誠一。その顔のすぐ横に、石が落ちてきた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 半分、泣き顔の涼菜が異形に向かって石を投げつけていた。

 微力も微力な援護。

 ひとえに、恋人である誠一を救いたかったのだ。

 人間風情が、この自分に石を投げつけるのか。

 異形から、そのような怒りを感じた誠一は慌てて立ち上がるが既に異形は標的をアギトから涼菜へと変えていた。

 

「涼菜さん!」

 

 やらせない。

 絶対にやらせないとアギトは跳躍し、涼菜の目の前に彼女を護るべく降り立ち、異形の前に立ちはだかった。

 

『AGITΩ!!!』

 

 異形の鋭い爪を有した手が迫る。

 絶対に涼菜を護ると誓った拳が握りしめられる。

 クロスホーンが展開し、力が高まり……。

 アギトはその強拳を異形の顔面へと繰り出し、異形は禍々しい爪をアギトの腹部へと突き立てた。

 

『────────!?』

 

 異形の頭上に、妖しげな光の輪が現れる。

 苦しみ、もがく異形はその肉体を炎に散らした。

 

「……勝った、の?」

 

 涼菜は異形が倒されたことを理解し、安堵すると同時に誠一へと駆け寄った。

 自分なんかよりも怖く、痛い目にあった誠一のもとへ。

 戦いが終わっても、未だいつもの誠一の姿に戻らない彼のもとへ。

 

「誠一君大丈夫? ねえ、誠一君?」

 

 呼び掛けても返事はない。

 やがて、人の姿に戻った誠一であったが涼菜の呼び掛けに応じることはなく、静かに、死という谷底へ堕ちていったのだ。

 雨は勢いを増し、涼菜の声をかき消す。

 誠一の腹部から溢れる血が、雨と共に冷たいアスファルトの上を流れていった。

 

 

 

 

 

 

 一ヶ月後。

 市内のとある病院に涼菜の姿があった。

 

「ねえ、あの娘」

「毎日来てるわね……」

 

 看護師達が涼菜の姿を見て会話の話題に上げる。

 あの日から、欠かすことなく病院に訪れる彼女は誠一の目覚めを待っていた。

 自分を守るために戦い、死の淵を彷徨い、危機は脱したというのに目覚めない誠一を。

 誠一の眠る傍らに座り、許されるまでそこにいる。

 それが、涼菜の日常となってしまっていた。

 

「涼菜」

「四季子さん……」

 

 二人きりの静かな病室に四季子が訪れた。

 そういえば、今日は店が定休日だったかと四季子の姿を見て気付いた。

 

「涼菜。そうしていたって誠一が目覚めるわけじゃない。大学だって行ってないんでしょう」

「そんなこと分かってます……。だけど……」

「自分を責めるな。誠一がこうなったのは涼菜のせいじゃない」

 

 あれから、涼菜は自責の念に駆られるばかりでいた。

 自分を守るために誠一は傷つき、未だ目覚めないと。

 

「……少し、外の空気吸ってきます」

 

 そう言って、病室を出た涼菜。

 四季子はその背中を見送り、眠り続けた誠一に向けて呟いた。

 

「早く目覚めないと涼菜に辛い思いをさせるばかりだぞ。だから、早く目を覚ませ誠一」

 

 病室から去ろうとする四季子だったが、扉がノックされたのでひとまず留まった。

 病院の先生かとも思ったが、入室してきた人物の格好からすぐに違うということに気付いた。

 

「失礼します」

 

 女性にしては長身。

 長い亜麻色の髪をポニーテールにしてまとめていて、警察組織の制服を乱れなく着こなす女性は誠一達よりも少しばかり大人の雰囲気を感じた。

 

「あなたは鹿島誠一さんのご家族の方ですか?」

「いえ、職場の上司ですが……。貴女は?」

「申し遅れました。私は警視庁未確認生命体対策班の沢澄小夜と申します」

 

 彼女の登場が誠一の道を変えることになる。

 一人の覚醒人、アギトから仮面ライダーカルナへと至る道を歩み始めるまであと僅かであった。

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