「太郎丸ぅー、どこ行ったんだぁー」
山の中へ足を踏み入れてからおよそ十分後。
流石に考えが甘かったと後悔せざるを得ない幸人であった。
まあ冷静に考えてみればこんな薄暗い時に木々立ち並ぶ、茂みだらけの山中であんな小さい動き回る犬を見つける方が無理ってもんだ。
一回見失ってしまったのも痛い。
まだ近くにいるような気はするのだが……。
「どうしたもんか……」
現状、どう考えても手詰まりだ。
太郎丸がどんどん吠えてくれればそれを頼りに探せるが、さっきから一向にその気配は無いので鳴き声には期待出来ない。
それか一回戻って灯りや太郎丸を誘き寄せるエサでも調達してくるべきだろうか?
「いや、駄目だ……」
そう、それは流石に時間がかかり過ぎる。
それで完全に太郎丸を見失って位置が分からなくなってしまっては元も子もない。
とはいえこのままでは埒があかないのも事実。
「こうなったら勘で探すしかないか……?」
一か八かではあるが、どこかに当たりを付けて探すのも手かと幸人は考える。
昔っから勘は冴えていると自他共に認めるほどの直観力を幸人はもっていた。
まああくまで勘なので確実とは言えないが。
「っ!」
幸人が色々考え込んでると茂みをガサガサと動く音が聞こえ、バッとそっちを振り向く。
やったぜ、と幸人はニヤリと笑みが溢れた。
まだ近くにいるかもという予感的中に加え運も味方してくれているようだ。
そんな訳で音のした茂みの辺りで音を立てないよう気配を殺し待ち伏せする幸人。
上手いことに、ガサガサと動く気配はこちらに向かってきてる様子だ。
飛び出たところを今度こそ捕らえる……!
幸人はそう意気込み、いつでも捕獲出来るように構えを取った。
しかしここで幸人、違和感に気付く。
なんか犬よりも大きいものが動いているような……。
そんな感じが……。
そして直後、考える間もなく茂みから影が飛び出してきた!
「「痛っ!?」」
結構な勢いでゴンっと頭にぶつかり、尻もちをつかされる。
「うぐぅ……」
痛む頭をさすりながら幸人がなんだと思い見てみれば、茂みから出て来たのは太郎丸ではなかった。
出て来たのは驚いたことに、自分と同じくらいの年であろう可憐な少女であった。
燃える火を連想させるような赤い髪をしていて、かなりの別嬪ときたもんだ。
まあそれは別にどうでもいいとして。
「あー、ごめんごめん。大丈夫……?」
とりあえず幸人は立ち上がり、同じ尻もちをついてる少女に手を差し伸べる。
すると少女は慌てたように捲し立ててきた。
「わー! 待って待って! 鬼殺隊の目的は悪鬼滅殺でしょ!? 私は違うの! 私は悪い鬼じゃないの! 人を食べたことなんて一度も無いし! そりゃあ少し血を分けてもらったことぐらいはあるけど……でもそれはちゃんと同意の上だったの! 本当に私は悪いことはしてないんだってば! だからお願い見逃して!」
「う、うん?」
なにか急にペコペコしてきたが、正直なところ幸人は少女が何言ってるか全然理解出来ていなかった。
鬼とか、人を食うとか、血とか、物騒なこと言ってたのは分かったが、あんまり関わりたくないので聞かなかったことにする。
「……あれ? ちょっと待って、あなたもしかして鬼殺隊の人じゃないの?」
少女がジロジロと幸人の格好を見て尋ねた。
「そうだよ。
幸人がそう答えると、少女はキョトンとしたと思ったら大きく溜め息をついていた。
「何よもー、びっくりさせないでよね。え、じゃあこんな時間にこんな所であんた何やってるの?」
それはこっちの台詞だと言ってやりたかったが、面倒くさいのでとっとと答えて立ち去ろうと思った幸人。
「僕の雇い主の犬を探してたんだよ。そんな訳で忙しいからこれで、君も気をつけて帰りなよ」
そう言って半ば無理矢理この場を後にしようとすると、少女が幸人の服の裾をがしっとつまんで止めた。
「……なんだよ、まだ何か……」
「ねぇ嘘でしょ? あんたも男ならこんな可憐な美少女が暗い山中に一人でいるってのに、ほっぽってったりしないわよね?」
どうやら想像以上に面倒なのに捕まったようだと幸人は心の中で落胆せざるを得なかった。
「大丈夫だよ。この山には熊とか猪とか狼とかの危険な奴はいないし、野盗も最近は出てないし。それにその腰のそれ、飾りじゃないんだろ?」
一目少女を見た時から気になっていたのが彼女が腰に下げている刀だった。
廃刀令があったのに刀を持って外出なんて一体何事かと幸人は思う。
「こ、これは護身用というか大事なものだから持ち歩いてるのだけど……でもそれはそれ、これはこれって言うか……」
「じゃあ」
幸人がそう手をひらひらと振って立ち去ろうとすると、今度は少女は両手でがっちりと逃がさないように掴んで来た。
「ねえ待ってよぉ! お願いよぉ! 今一人でいるのは怖いのよぉ! お願いだから朝まで一緒にいてよぉ!」
「ちょ! 分かった分かった! 分かったから泣くな引っ張るな!」
とうとう泣き出してしまった少女に、幸人はここは自分が折れることにした。
流石に女の子に泣かれるとバツが悪い。
まあ考えようによっては犬を探す人手が増えたと思えば大して問題でもない。
太郎丸を見つけた暁には、こいつは警察にでも引き渡してしまおう。
それで万事解決だ。
「うぐ……ぐすん、ありがと、ありがとね。私は
「僕は
ちなみにこの少女ーー火蓮との出会いが、幸人のこれからの運命を大きく変えることになるのだが、今それを知る由はないのだった。