モテる主人公に憧れた私は異世界で公務員になります。 作:いとしごら
死を実感したのはいつだったのか。
たぶん、神様という存在と会話した時だろうか。
違和感はあったのだ。
感覚的に、夢の中にいるような。
そんな現実ではないような感覚である。
その神様というのはヨボヨボの爺ではなく、
絶世の美女でもなく、
モヤっとした、概念的なものだった。
ただ、神秘的ではあった。
後光が差してるようで神々しい。
すまない、回りくどかったか。
僕の名前は『神崎 英雄』という。
大層な名前ではあるが、ただの一般人をしていた。
前世では普通の中小企業に就職し……。
……社畜をしていた。
朝早くから終電ギリギリまで仕事をし、
帰って寝て、また仕事。
たまにある休みの日は何もやる気が起きず食べて寝るだけ。
そんな色彩乏しい生活を送ってきた。
目標もなければ夢もない。
日頃のストレスから暴飲暴食していたためデブである。
彼女もできるわけがない。
だからこそ活力も湧かず、常に思うことは『死にたい』である。
だが、安楽死であれなんであれ、
自殺などという勇気はこれっぽっちも持ち合わせてはいない。
だから何も考えず、ただ働いていた。
それが功を奏したというか、不慮の事態というか。
過労死してしまったようだ。
24年の人生にピリオドを打ち、結果この夢のような空間に来たということらしい。
実際まだ寝てる途中なのではと思ってしまう。
「そろそろ話を進めてよいだろうか」
「すみません、今までの事を思い返していました」
神様から声をかけられ意識をそちらに向ける。
「君の生は終わった。それは理解出来ているだろうか」
「いや、まだ実感は湧かないなと」
なんとも不思議である。
その声は爺とも、婆とも、男性とも、女性とも聴き取れる。
そんな神様に僕は正直に答えた。
「ますば君がその事実を受け止めなければならない。
生の終わりは先に説明した通りだが、実際に見てみるか」
そう言われると同時に、今居た不思議な空間から見覚えのある場所へと移動した。
自室か。もう日が出ているな。
「そこで気持ちよさそうに寝ている君がいるだろう」
「自分の寝顔って、なんだか恥ずかしいですね」
「死んでいるぞ」
「は?」
「だから死んでいると言っている」
突然の告白。目の前に突きつけられた死。
頭では既に死んでいると分かっているが、
認めることは、納得はできなかった。
あれだけ死にたがっていたのに。
「これで、死んでいると。信じられません」
「であれば君が君自身を見ている今の状況をどう説明するのだ」
「それは……ただの夢……とか」
そうだ、この夢に似た感覚。それは夢であるからで……
「であれば、君はもう目覚めていなければならんな」
神様が指を指した。ような気がした。
そちらに視線を向けると自分のスマホに着信。
『カス』と表示されている。
「部長から?今は何時だ!?」
スマホに表示されている時刻を確認する。
『10 : 35』
ありえない、遅刻である。
どれだけ疲れていても、どれだけ遅くに就寝しても、
遅刻などすることはなかった。
いや、これは夢であるのだから、これは悪夢の一部。
焦る必要は無いというものだ。
しかし、その夢は続く。
鳴り続ける電話、過ぎていく時間。
この空間で何日過ごしたのか。
本当に自分は生きているのか。
……分からなくなってきた。
「理解したか。君が目覚めることはもう無い」
「タチの悪い夢、ではないのですか」
「そうだと言っている」
それに、と神様は続ける。
「あまり時間も残ってはいないのだ。
君には決断してもらわねばならぬことがあるのでね」
あまり働かない頭で続きの言葉を聞く。
「君には選択肢がある」
すると空間が元の不思議空間に戻る。
先程とは違い赤黒いと白銀の扉あるが。
「君は同じ世界で来世を謳歌することを選ぶか。
それとも……前とは異なる世界での来世を望むか」
働かない頭が働き始めた。
「つまり異世界転生ができるということですか!?」
「なんだ、今までとは違い妙に食いつくな」
当たり前である。
つまらない日々の中で、通勤中に転生物の小説を読む。
それだけが唯一の楽しみだった。
出来ることなら転生したいとも。
故にただ死んでしまっただけならば納得は出来ないが、
転生できると言うのであれば話が別である。
「なにか勘違いしているようだが、
君が生前に見ていたような二次小説とは違う。
全く違う文明、文化が根付く世界だ」
「と、言うと?」
「有り体に言えば『剣と魔法の世界』と言えるだろう」
「異世界転生を望みます!!」
即断即決である。
前世に未練など微塵もない。
早く転生したいと気持ちが逸る。
「本当にいいのだな」
「当たり前です!」
「私が思うに、君は転生しても前世と変わらぬ生活を送ることになるぞ」
「……え?」
「君は元の世界の、そうだな、戦国時代を生きられるかな」
「突然どうしたんですか?」
「つまり、剣と魔法の世界とは、君の世界の戦国時代と変わらないのだよ。
力と知恵と、そして権力が全てだ。
君の想像しているような『特典』などある訳では無い。
来世の君がどれほど優秀かも分からない。
平民で生まれればチャンスなどほぼないだろう。
今までと変わらない、活力のない人生を歩むことになるやもしれん。
領土を奪い合い、派遣を争う死と隣り合わせの世界。
……勘違いといったのは、君のその楽観的な考えだよ」
「……」
そうだ、気持ちが舞い上がって考えなかった。
僕が見た小説では都合よく前世での経験が活きたり、
転生特典を活用して無双したり。
そればかりを考えていた。
魔法も使えない、剣術の心得などありもしない。
普通の平民。
そうして人生を過ごす中で、何かが変わるだろうか。
同じことの繰り返しになるのではないだろうか。
「でも……転生します」
「文明も文化も違う。
つまり、君の前世から唯一の楽しみを消したも同義だとしても?」
そう、前世での楽しみは二次小説だけだった。
オリ主が無双し何人ものヒロインから求愛を受ける、そんな小説だけだった。
そんなものはない、楽しみもなくただ働くだけの人生が待っているかもしれない。
「それでも、僕は挑戦してみたい。
その世界で、憧れた人生を歩むために!!」
たぶん、僕が憧れていたのは『刺激』なのだ。
体験したことの無い『未知』なのだ。
そして自分が慕われる、頼られるような『存在』へと変わる。
目の前に希望の糸が垂らされれば、
一度溢れてしまった渇望は濁流の様に止まらなくなってしまった。
「俺は変わりたい!!」
「『俺』…か」
「あ、いや、勢いで、すみません!」
「構わん。それで、本当に良いのだな?」
「はい!」
もう迷わない。たどり着く先が絶望でも構わない。
なにか変化するための切っ掛けが欲しかったのだ。
「よろしい。では後ろの扉を開けなさい」
「え、どちらを開ければよろしいので?」
扉は2つある。どちらが何処に繋がっているのかは分からない。
「さて、好きな方を選べばよかろう?」
「えっと、どちらも異世界には繋がっているのですか?」
「それは間違いない。そこを潜れば君の来世の母の子宮に行き着く」
それを聞いてちょっと恥ずかしくなる。
赤ちゃんからか。いや、そうだよな。
「まあ、運試みたいなものだと思えばいい。
なに恥ずかしがるな。どうせ記憶など無くなる」
「はあ、分かりました」
そうか、前世の記憶は無くなる。
小説の見すぎで常識的なことを忘れていた。
それはさておき、どちらか選べと言われれば、それも人生を掛けた物となれば当然迷うものだ。
だがなぜか『赤黒い扉』だと思った。
思ったと言うより、既に手が掛かっていた。
「なるほど、やはりそちらを選ぶかね」
「なんとなく、こっちかなと」
「いや、なんとも君らしいな」
どういうことだろう。なにか裏付けるなにかがあるのだろうか?
「では、来世を謳歌したまえよ、青年」
抱いた疑問に答えては貰えないなと思い扉を開け、その先に進もうとしたその時だった。
ふと思い、神様に問いかける。
「そういえば、なぜ僕は異世界へ転生できるのでしょうか。
普通は同じ世界で転生を繰り返すのでは?」
「そうだな、なんと言えば納得するだろうか。
君が特別だからだ。これで納得したまえ」
どこか腑に落ちないが、まあ気分の悪いことでは無いのだろう。
「さて、そろそろ時間だ
もうここには来るなよ青年」
そんな神様の言葉を背に扉の先に進む。
暗い。何も無い。けど、暖かい。
子宮と言っていた。これがそうなのか。
まるで優しく包まれているかのようで、居心地が良い。
しばらく進むと、先に光が見え始めた。
出口のようである。
ぶつかった。…ぶつかった?
「え、狭!?普通スーっと抜けるものじゃ?
ぐぬぬぬ……なんだこれ……」
必死にもがき、出口を通過した。
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「行ったか」
神は安堵した。
「そこで無ければ、お前は生きられないだろう」
英雄が不遇な人生を送ったのは、ある種の必然だったのか。
それとも。
「それにしても『英雄』か。似合わない名前を授かったな」
英雄はがここに来た理由とはなんだったのか。
「ひと仕事終えたのだし、向こう数百年は暇になるか。
お前の来世、楽しませてもらおうか」
神は微笑んだ。そして……
「さて、どういった結末を辿るのか」
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「奥様!もう少しですよ!頑張ってください!!」
「クララ!」
「うぅぅぅぅううう!!!」
新たな生命が、今まさに誕生しようとしている。
「おぎゃー!!おぎゃー!!!」
ここに、英雄は新たな生を授かった。
元気な産声を上げて。
「奥様!元気な男の子ですよ!」
「よく……よく頑張ったなクララ!」
助産師は女性に報告し、
男性は涙を浮かべながら我が子の誕生を喜び女性を称える。
「顔を見せてください。愛しい赤ちゃんの顔を……」
女性は疲弊しきっていたが、自らの子供の顔を見ると笑顔を浮かべた。
「元気に生まれてくれてありがとう……あなたの名前は……」
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女性が笑みを浮かべてこちらを見ている。
周りには他の女の人と男の人。
え?男の人泣きすぎて顔がぐしゃぐしゃですよ?
なにか言おうにも上手く言葉が話せない。
先程から「おぎゃー」とだけ発音する。
これは転生が成功したということか?
ちょっと待て……。
…………記憶消えてないんですけど!?!?
To Be Continued