縁を伝って、よじ登る   作:並木

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ジェミニストームのキャラがオリ主の踏み台になるので、好きな方は自衛の方をお願いします。特にレーゼが作者の都合で馬鹿です。


51話 vsジェミニストーム①

 

 レーゼはここ数週間のことを思い返す。

 

 確か、研究が順調だとかで珍しくお父様が上機嫌で。レーゼたちエイリア学園の──お日さま園の子供たちに、新たな力を授けてくれた。

 ある元プロサッカー選手の能力を受け継いだ、彼の娘の力を分析したものだと、お父様は言っていた。その力が日本を、世界を脅かすことが心底楽しいようだった。

 新たな力。それこそがその少女を──(かなえ)の力を模した人工化身。模造化身レプリカ。

 

 レプリカは第二のエイリア石とも呼べる存在だ。個人との相性があるらしく、レプリカを移植されても苦しむだけの者もいたが、適合した者はこれまでとは別次元の力を手に入れることが出来た。

 

 最も、それは既に決まりきったチーム間の格差を埋めてはくれなかったが。

 レプリカと適合した者が最も多いのは、デザームが率いるファーストランクのイプシロン。少ないのはガゼル率いるマスターランクのダイヤモンドダストで、グランのガイアに至ってはどういうわけか移植すらされていない。

 にも関わらず、イプシロンはマスターランクに昇格されず、ダイヤモンドダストとガイアが降格されることもない。

 

 レーゼは腑に落ちない思いを抱えながら、お父様から命じられた、ジェミニストームにしか出来ない仕事に精を出した。

 木戸川、雷門と先のFFで活躍した学校にすら圧勝し、多数の学校を破壊した。

 そうして今日、FFで準優勝した世宇子中にも、他の学校と同様に破壊しに来たのだ。

 世宇子中のサッカー部は今、神のアクアの件の検査入院で学校にはいない。レーゼの予想では棄権か、有志を(つの)りその場しのぎのサッカーチームを作るか。どちらにせよ、レーゼの仕事は妨害されないと思っていた。

 

 「へぇ……お前らも化身使いかぁ?」

 

 ──凶悪に笑う少女を見る前は。

 

 叶は威嚇するように唇の両端を吊り上げて笑っている。何が楽しいのだろう。レーゼにはわからない。

 

 「レーゼ様」

 

 ディアムの呼び掛けに、レーゼは視線だけで答えた。二人揃って地面を強く蹴り、駆ける。ゴールまで一直線に。障害物となる同じ顔の少女たちはタックルして越えた。

 

 「「レプリカストライク!!」」

 

 化身シュート。ディアムと共に心と力を重ねると、シュートの力は乗算方式に強くなる。

 それに叶が驚いた顔をするのを見て、レーゼは得意気に笑った。

 

 「……。グラビティション」

 

 「……。アステロイド──」

 

 一拍遅れて、叶の分身の二体のディフェンダーが動く。

 グラビティションは(ほの)かにシュートの威力を削いだ。アステロイドベルトが生み出す隕石は、シュートの速度に間に合わず無に帰した。

 

 「ダーク──きゃあぁぁぁ!!」

 

 キーパーの分身の悲鳴が耳に心地よい。レーゼは得点板を見る。

 4-1。十分に逆転出来る。

 

 「……っ、ジェミニストームのレーゼとディアムの合体シュート炸裂ぅ!! 叶一(かないち)、手も足も出ないか!!?」

 

 「……かないち?」

 

 「カナエーズの阿里久(ありく)さんの分身の背番号一番の子だと長いので……」

 

 「カナエーズ?」

 

 外野の会話も、レーゼは先程までより余裕をもって聞ける。

 後はこのまま逆転し、いつも通りに潰すだけ。

 

 全てはお父様のために。レーゼの肉体も、精神も、ただ一人彼のためだけにある。

 

 

 

 

 

 

 何だか楽しくなってきた。アイツらをそこそこ気に入った。

 叶は笑って、学校がかかっているのに不謹慎だったなと、口角を意識して下げた。

 宇宙人って化身使えるんだ。オレの分身の化身と同じなんだ。レプリカって化身必殺技あったんだ。

 思考がグルグル回転して、最後には興奮が残った。

 今まで試合したヤツらの中で二番目に強い。一番はプロトコル・オメガだ。

 

 失点するなんて油断しすぎた。ここから先は通さない。叶は両頬を叩いて気合いを入れる。

 

 ボールはカナエーズから。叶は分身に小さくバックパスをする。

 

 「……ふぅ」

 

 小さく息を吐く。テレパシーで分身に指示を出した。

 

 「「「「「模造化身レプリカ」」」」」

 

 十体の分身が化身を発動する。続けて、

 

 「「「「「アームド」」」」」

 

 と、化身をその身に(まと)った。

 

 「慈悲の女神エリニュス、アームド」

 

 叶も同様にする。アームドをすると体力の消耗が早い。出来れば前半で片付けたいところだ。

 

 カナエーズ全員が化身使いだという事実に、ジェミニストームは体をビクつかせて、粘つく底無し沼に足を奪われたように動けない。

 当然、その隙を叶が見逃すはずもなかった。

 

 「えっと……」

 

 呟き、さっきはどこまで力抜いてシュート入ったっけと、叶は考える。

 一番強い流星光底(りゅうせいこうてい)は入った。二番目の星影散花(せいえいさんげ)も。それなりに力を入れたノーマルシュートもだ。

 世宇子イレブンにやったような十一シュートチェインでは、あのときのポセイドン同様キーパーを潰しかねない。

 そう考え、キーパーを気絶させて勝てるのなら好都合では? と叶は考え直す。

 

 (またサッカーを人を傷付けるために使うの?)

 

 「うるさぁい!!!」

 

 自分にしか聞こえない季子(きこ)の声に大きく反論。

 ジェミニストームと、野次馬が狂人を見る目で叶を見た。

 

 誰が何と言おうと潰す。

 ここは叶は出ようとしているけれど、照美たちの帰るところだ。それに、色んな部活の生徒が、かつてのサッカー部のように様々な思い出を紡ぎ上げている場所だ。

 だから、世宇子中を壊そうとする宇宙人に容赦はしない。叶は決めた。

 

 フォワードの分身からボールは叶本体へ。

 さらに別のフォワードの分身、ミッドフィルダー、ディフェンダー、キーパーと小刻みにパス。

 一気にキーパーへとロングパスしてしまうと、レーゼとディアムのシュートで消耗したキーパーの分身が受け止められず、オウンゴールになる可能性が叶の予想では三割程度あるからだ。

 

 「……流星光底っ!!」

 

 キーパーの分身が叫ぶ。

 ディフェンダーが二体、ミッドフィルダーが二体、フォワードが三体に、ミッドフィルダー、フォワード、本体の順で同じシュートをチェインする。

 

 宇宙のような亜空間と現実世界を、必殺技の(たび)に繰り返して移動し、ボールは世界ごと瞬きしたようにチカチカと明滅。

 亜空間からのポータルが開いた後のビーム状のシュートは、チェインを重ねるごとに(まばゆ)く、太くなっていった。

 

 世宇子を相手にしたときには、威力の低い彗星シュートや星影散花も混ざっていた。故に、まだ照美たちは意識を保つことが出来たのだ。

 

 十一連の究極奥義。

 黒の閃光と轟音。

 ジェミニストーム側のコートを()ぜるように黒い衝撃波が包み、彼らの戦意ごと焼き付くさんとする。

 

 「こんなところで終われるかァ──!! うぉおぉぉぉぉ!!!」

 

 レーゼが雄叫びを上げて、勢い余って右手を突き出してボールを追いかける。

 それは空に浮かぶ星々を掴もうとする子供のごとく無意味な動きだった。

 ボールはレーゼが全速力で走っても追い付けない。

 

 ジェミニストームのミッドフィルダーやディフェンダーの多くは呆然としている。

 冷静な者も、距離的にシュートブロックに間に合わなかった。

 

 「ぅ、ぶ、ぶらっ、ブラック、ホール……!」

 

 ジェミニストームのキーパー・ゴルレオは声を震わせ、やっとのことで己の必殺技の名を発音した。

 足が震え、全身に力が入らない。手も震え、生み出したブラックホールの吸引力は、いつもよりも弱い。

 

 「ぁ……、あっ……!!」

 

 目の前に“それ”が迫っていた。

 所詮は黒いオーラを纏っただけの、ただのサッカーボール。けれどゴルレオには、まるで彼の命を奪うものに思えた。

 ゴルレオは悲鳴を上げて、半狂乱でフィールドの外へ走ろうとする。

 だが、震える足の動かし方がわからなくなって、ゴルレオは金縛りにあったように立ち続けるしかない。

 

 「ぁぁぁ……!! クソっ……!」

 

 悲痛な声を漏らすと、ゴルレオは小さなブラックホールを構える。

 黒の光条(こうじょう)が超重力を破壊して、ゴルレオごとゴールに突き刺さった。

 

 「ご……ゴール!! カナエーズ一丸(いちがん)のシュートでジェミニストームのキーパー、再起不能かァ──!?」

 

 一拍開けて、実況の少年が声を張り上げて言う。

 ジェミニストームの選手がゴルレオに肩を貸して、ベンチまで彼を運び込んだ。

 

 「得点は5-1でカナエーズのリードですっ! ですがまだ前半はようやく半分を過ぎたところ。どうなるか予断を許さない状況です!!」

 

 「勝って貰わないと困るんだけど……」

 

 実況の少年に、野次馬の一人が冷たい声で言った。

 

 「おおっと!! ジェミニストーム、控えの選手がいません! 十人で戦うことを余儀なくされます!!」

 

 叶は試合が再開するまでに荒い息を整える。何だか疲れた。肌の上を流れる汗が気持ち悪い。

 

 「阿里久さん、大丈夫? 疲れたでしょう? これを飲んで」

 

 メイがスポーツドリンクを叶に差し出した。

 一口飲む。甘味も塩気もわからない。

 

 「やっぱり、私も試合に──」

 

 「いいって。大丈夫大丈夫」

 

 「でも……」

 

 叶は渋るメイを説得しながら、いつ終わるかわからない休憩時間の中、出来るだけ体力を回復させようとした。

 

 

 

 

 

 

 「ゴルレオ! ……怜於(れお)! 大丈夫!? あーもうっ、どうすればいいのよ!」

 

 ボディラインがよくわかるユニフォームも相まって妖艶な雰囲気の、紫の髪の少女・パンドラが、目覚めないゴルレオに頭を抱えて言った。

 

 「リュウジ! お父様のご指示は!?」

 

 「今はレーゼと呼べ。……それが、もうしばらく試合を続けろって……」

 

 “レーゼ”と、“緑川(みどりかわ)リュウジ”の混ざった口調で、レーゼは答える。

 

 「……。キーパーはオレがやるよ」

 

 ディアムが言った。

 

 「レプリカの力もあるから、他のみんながやるよりはアイツに対抗出来ると思うんだ」

 

 「でも、アンタも怜於みたいに……」

 

 「大丈夫さ」

 

 ディアムは空元気で言った。何の根拠もない言葉だった。

 

 「このままではお父様に見限られてしまう……! ……とりあえず、点差をこれ以上広げないことを目標にするぞ」

 

 レーゼは声を震わせた。

 

 「わかったわ。でもどうするの?」

 

 「それは──」

 

 レーゼは作戦とも呼べない稚拙な案を話す。それは、(つね)の彼なら決して選びもしないものだった。

 

 

 

 

 

 

 試合再開。ボールはジェミニストームからだ。

 ジェミニストームはひっきりなしにパスを続け、時間稼ぎを試みた。

 

 「お──ーっと!! ジェミニストームっ、このままタイムアップを狙うのかー!!? しかし5-1。カナエーズとの点差は四点、これをどう縮めるつもりなのでしょうか!!?」

 

 嫌でも聞こえてくる実況の言葉が屈辱的で、レーゼは冷や汗を垂らした。

 

 このままタイムアップを狙う。これがレーゼの案だ。点差がこれ以上開くのを防止して、消耗を避ける。

 無論、このまま負けてやるつもりなどない。

 レーゼの狙いは前半終了間際。叶がボールを奪っても、点を取るには時間が足りないギリギリで攻めて、そこで必ずやゴールを奪う。

 

 そして、後半こそがレーゼの本命だ。

 レーゼは知っている。化身と言うものは途轍もないパワーを得られる代わりに、エイリア石のパックアップがあっても体力の消耗が激しいことを。

 分身や、アームドという力も化身から派生するものだろう。レーゼは推測する。

 そして叶はエイリア石を使っていないはずだ。このまま試合が進めば、先にバテるのは化身の力をフルに使う叶の方。

 

 ジェミニストームに参謀の役割を果たせる人間はおらず、キャプテンのレーゼも特別ゲームメイクに明るいわけではない。

 レーゼは早く時間が経ってくれることを願った。

 試合中はいつも、やけに時間が経つのが遅く思える。

 イプシロンやマスターランクとの試合は苦痛に塗れたもので、早く終わってくれと祈るばかりだった。木戸川清修や雷門との試合は、単純作業故に時間の進みが遅く思えた。退屈だったが、それだけだ。

 叶との試合は前者に近い。

 

 早く終われ、早く終われ。レーゼはそう念じながら、時間が一刻でも早く進むことを願った。

 

 

 

 

 

 

 パス回しを高速で続けるのが何かの必殺タクティクスかと期待して、ただの時間稼ぎと知って、叶は不快になった。

 普通なら御影専農と雷門のときのように、勝っている側が勝ち越すためにするものなのではないか。

 間断なく動くボールを目で追いかけながら、負けているジェミニストームがこれをする理由を考えて、叶の結論は宇宙人の考えはよくわからない、といったものに落ち着いた。

 

 早くボールを奪い、再起不能にしてやる。叶は強く決心する。

 ベンチでビデオカメラを構えている野次馬がいる。ビデオに残ってしまう。叶は思った。だが、止めようと考え直したりはしなかった。

 自分のした暴力が映像に残るくらいなんだって言うんだ。それを言うなら照美たちがドーピングして相手をボコボコにした試合だって──それも何試合も──残っているし、そもそも相手は宇宙人だ。地球人の法で裁ける相手でもなければ、法で守る義理がある相手でもない。

 

 叶は思い、パンドラからイオへのパスを奪う。

 

 「……!? まさか……!?」

 

 パンドラはパスをする際に舌舐めずりしていた舌を驚きの余り出しっぱなしにして、器用に発音した。

 パンドラの視線の先には叶がいる。

 

 化身を鎧のように纏い、ポニーテールにした長い茶色の髪を逆立たせる叶。犬や猫の垂れ耳のような大きなアホ毛も逆立ち、鬼の角のようだ。

 彼女はジェミニストームの妨害も、慌ててパンドラが発動したグラビティションも、まるで蚊に刺された程度の脅威にしか思っていない。容易(たやす)く突破し、ただひたすらにゴールへ向かう。

 

 「待て……!!!」

 

 一人の少年が言って、叶を追いかける。

 パンドラは希望を持って、彼を──化身の力をフルに引き出し、叶に匹敵するスピードを得たレーゼを見た。

 

 レーゼは両腕を後方に伸ばして上体を低くして走る、指導された宇宙人らしい走り方ではなく、人間の部分を剥き出しにし、腕を必死に振って歯を食い縛り鬼気(きき)迫る表情で走る。

 

 そして、レーゼが叶に追い付き、二人が交差すると土埃が舞った。周りからは二人の影しか見えない。

 

 剣客(けんかく)同士の打ち合いのような音が響くと、小さな影が動いて、中くらいの影が崩れ落ちた。

 中くらいの影──レーゼは膝から崩れ落ち、それでも消えそうなレプリカを何とか必死に持ちこたえる。

 小さな影──叶は、一瞬の攻防の間にレーゼの化身(レプリカ)の核となるところに直接アタックすると、地面を大きく蹴って飛び上がった。

 

 「させるか!」

 

 ジェミニストームのディフェンダー・カロンが跳躍。

 しかし何も出来なかった。

 大きく飛び上がった叶。対して、カロンの頭は叶の爪先に届くかどうかのところにある。

 ベンチで気絶したゴルレオ。膝をつき息を整えるレーゼ。毅然(きぜん)と振る舞おうとしていたが、叶がゴールに近づくにつれて顔が強張(こわば)るディアム。

 アイツ()への嫌がらせになるなら何だってしてやる。

 チームメイトを横目で見るとカロンは頭を後ろに動かし、反動をつけると、(かろ)うじて届く叶の足先に頭突きを決めようとして──

 

 「もぎぇっ!?」

 

 ──いやがおうでも、頭が下に向けられた。

 頭蓋骨が(へこ)んでいるのではないか。強烈な痛みに襲われ、慌てて蹴られたところを触り、凹むどころか逆に大きく腫れているとカロンは気付く。

 叶が彼の頭を蹴り、さらに高く跳躍したのだ。

 

 体は綿で靴はバネか。それほどの勢いで跳び、地上から見て豆粒ほどの大きさになった叶は、大きく足を振り上げ叫んだ。

 

 「星影散花ェ!!!」

 

 高さ分の位置エネルギーをパワーとスピードに変えて、ただでさえ強大なシュートがさらに強化されてゴールを襲う。

 

 「っ……! ウォオォォォォォォ!!!」

 

 ディアムは慣れた動きから手ではなく足を出す。

 「このシュートを蹴り返したら足が壊される」と脳が警鐘を鳴らした。慌てて、本職のキーパーから見るとなっていない構えで腕をつき出す。

 全身と化身の全てに力を込めてディアムは叫ぶ。

 シュートに手を触れると、まるでミキサーの中に手を突っ込んだような衝撃で、反射的に離したくなった。それを必死に耐えて、ディアムは暴れるボールを全力で掴もうとする。

 

 「大夢(ひろむ)ゥー!!」

 

 レーゼがディアムの本当の名前を叫ぶ。

 それはボールに頼むから止まってくれと懇願するような、ゴルレオのようになるくらいなら逃げてくれと頼むような響きだった。

 だが、ディアムに逃走という選択肢はない。レーゼの叫びを己の気力に変えて、膝を軽く曲げて丹田(たんでん)に力を入れて踏ん張る。

 

 化身により強化された体は、ボールが手の中にあることを許し──

 

 「ぐがぁっ!!!」

 

 ──少しの時間の後、ボールはディアムの手からすり抜け、勢いよくゴールネットに突っ込んだ。

 

 「ゴォォォォール!!! またもやカナエーズの得点!! これで6-1、カナエーズは五点のリード!!」

 

 実況が活気ある声で嬉しそうに言う。

 

 ディアムは震える足に力を入れられず、尻餅をつき、動けなくなった。気力の限界に達したのか、消そうとしたわけではないのに化身が消えた。

 ジェミニストームの仲間たちがディアムの元に集まり、彼を心配したり、元気づけようとしてくれている。

 

 「……。前半は残り三分か。作戦通り、ここで確実にまずは一点取り返す」

 

 「……っ、それで……後半になるころにはオレみたいにバテて化身が出せなくなるだろうから、そこで今までみたく点を取りまくって逆転って作戦だったよね」

 

 「化身が出せなくなったらあの分身も消えるんじゃないかって話だったよね? アイツ一人なら楽勝よ!」

 

 「屈辱的な目に遭わされたからなぁ……木戸川んときより点差つけて勝ってやるぞ」

 

 レーゼ、ディアム、パンドラの順で言い、頭のたんこぶを擦りながらカロンが続けた。

 

 「いやカロン。アンタは頭怪我したんだから休みなさいよ。頭のシルエットが雪だるまみたいでヤバいわよアンタ。木戸川のときは……点差、確か九十くらいだったっけ? それにあのときは相手は0点だったし」

 

 「五足す九十か。せっかくだし、ならオレたちは後半で百点だな」

 

 「そうしてやりたいけど、さすがに無理よぅ」

 

 「一対十なら、無理でもなくないか?」

 

 こうしていると、まるで今の状況を忘れられるような気がした。

 そう長い時間を待たず、ディアムの下半身に力が入るようになったことに、レーゼは安堵する。

 して、この試合はもはや少しも油断して良いものではないのだと、レーゼは緩みかけていた気を引き締めた。

 

 ホイッスルが鳴ると、レーゼは、

 

 「ワープドライブ!!」

 

 と異空間越しに移動して、ゴールまで走る。

 本来の策ではディアムにも上がってきてもらい、連携シュートで点を取るつもりだった。だが彼の消耗が思ったより激しいため、それは出来なくなってしまった。

 

 餌を求める魚のように、化身をその身に(まと)う叶の分身が十体揃ってレーゼを追いかける。同じ容姿と無表情も相まってかなり不気味だ。

 スライディングしてきた分身の足を辛うじて飛び越え、タックルやスライディングをしてきた分身同士がぶつかるようにした。

 化身アームドで強化されていたことが仇になり、分身は結構なダメージを受けている。

 そこそこの数を潰せたことに達成感を感じて、レーゼはシュートを放つ。

 

 「レプリカストライク!!!」

 

 紫の(あや)しい光を纏う化身シュート。

 シュートブロックが出来る位置にいる分身はいない。ゴールキーパーの分身は無表情ながら、どこか慌てたような顔をしている。レーゼは勝利を確信してほくそ笑んだ。

 

 「……っ!!」

 

 キーパーの分身は下手くそなタップダンスのような、グズな動きで数歩前に出て、必殺技すら使えずに両手を出した。

 ボールを受け止めきれずに弾き飛ばされ、一足先にゴールネットに入る。

 

 後はボールが入るだけだ。レーゼは自然と口元に力を入れ、口角を吊り上げる。

 

 「強制ミキシマックス!!」

 

 本体の叶がキーパーの分身に力を(そそ)ぐ。すると、分身は全身に黄金のオーラを纏った。 

 ゴールラインの白線を越えようとしていたボールを、キーパーがパンチングで軽く弾き、空に浮かび上がらせるとジャンプ。

 

 「スパークルウェイブ!!」

 

 浮かび上がるは星の(きら)めく天の川。シュートは弧を描きながら星の力を纏い威力を増して、ジェミニストーム側のコートへと向かった。

 


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