凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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いやー・・・百話ですか。


第百話 約束、そして・・・

~遥side~

 

 さて、休暇を堪能しつつある俺だが、その休暇の終わりは着々と近づいてきている。そうしたらまた街に帰って大学での学問に集中しなければならないわけだが、事態が急転を繰り返す現状をそのままにして投げ出すわけにはいかない。

 

 背に腹は代えられないと、俺は親身に接してくれている教授へ電話をかけることにした。

 数度のコールの後、電話は繋がる。

 

「もしもし、島波です」

 

「ああ、島波か。今、鷲大師の方へ帰っているんだったよな? こっちに戻るタイミングの目処でも立ったのか?」

 

「えっと・・・それが・・・」

 

 何と言えばいいか悩む。

 事態が急転しているのは事実だが、全てがひっくり返ることがこの先起こり得るかどうか不透明過ぎるのだ。信じようにも、信じきれない。

 それでも、この場所に留まるには嘘を吐くしかなかった。

 

「今、海がだいぶ変化の時期を迎えてて・・・。冬眠していた人たちが目覚めているのもあって、何かが変わりそうなんです。それを見届けるまでは、帰れないというか・・・」

 

「うーん、難しい話だな。確証はないんだろう?」

 

「今、海洋学の三橋教授がこっちに来て調査している過程を手伝わせて貰っているんですけど、変化があることには間違いはないんです」

 

「そうか・・・。まあ、前期の成績をほぼトップで折り返したお前が言うんだ。単にサボりとかじゃないのは分かる。・・・仕方がない、俺が多少融通を効かせてやる」

 

「本当ですか!?」

 

 俺と紡のいる大学は少々特殊で、自分が付き従うことを決めた教授の影響力が尋常になく高い。単位や裁量もそこで随分と変わる、まあなんともおかしな大学だ。

 それがここに来て大きく影響するなんて、思ってもみなかったが。

 

「ただし、だからといってただでお前を放つわけにはいかねえな」

 

「何をすればいいんですか?」

 

「・・・一つ、お前は自分の心の弱さについて何度か俺に相談したよな? 折角お前のマイホームにいるんだ。ある程度の区切りをつけて、俺に答えを見せろ。もちろんちゃんと書類にして、な」

 

 結構な難題である。

 俺の心の弱さは簡単に言えば恋愛感情に起因している部分が強い。それに応えを出せという事だ。・・・水瀬の記憶が消えた、この状態で。

 それでも、ある程度の答えは出せるだろう。俺があと数歩踏み出せば。

 

「頑張ります」

 

「あとの一つは大したことじゃない。その海洋学の三橋の研究手伝ってやれ。せっかく海出身の人間がそこにいるんだ。大きな材料になるだろう」

 

「そこについてはこれまでもずっと手伝っていたので、継続しようと思います」

 

「ならよし。とはいっても、本来はここまで権利を行使することはレッドゾーンに近い。これ以上はどうにもならないぞ」

 

「分かってます。ここまでしていただけたら大丈夫です」

 

 あとは俺の力量の問題だ。事態が大きく動きつつある今、ちゃんと真実や未来がつかめるはずなんだ。

 

「それじゃあ、また何かあったら連絡しろ」

 

 電話は一方的に切られる。そして俺は改めてこれからやるべきことを整理する。

 ・・・まずは、やっぱり海を見に行かないとな。

 

 各々が仕事や学校に出払った水瀬家を、俺は最後に後にした。

 

---

 

 今日はいつもと大きく風向きが違っていた。これまでこの風向きになったことはめったになく、だからこそ今日は何かが起こると、霊感的にそんな予感がしていた。

 

 海に張った氷の上に立ち止まり、俺は改めて風を感じる。それから教授の機材が常設されている場所まで歩いた。

 今日は教授も紡も来ていないようで、あたりはやはりシンとしていた。それから俺はある程度慣れた手つきで機械を動かし、海中の様子を探査する。勝手にやっているのは悪い反面、こういう時は動かせる人材が時間がある時にやった方がいい。許可も貰っているし。

 

 すると画面には、一定の地域に「?」という記号がまとまって表示されていた。海中に入ってチェックすることも出来るだろうけど、今日の水温はここ最近の中でも低いほうだろう。体調に影響が出てしまうのではと思うと少し考えざるを得ない。

 

 

「ねえ、何してるの? 不法侵入は犯罪だよ?」

 

 ふと、懐かしい声が聞こえた。そしてそいつがようやく目覚めたことを知る。

 嬉しいような、どこかもどかしいような。

 けど俺は確かに、反射的にその名前を呼んだ。

 

「要・・・」

 

「や。・・・久しぶり、になるのかな? 遥からしたらさ」

 

 その一言で、要の中である程度状況の整理がついていることを俺は把握した。光や千夏が時間軸の理解に戸惑っていたのに対し、こいつは一瞬で、何年か時間が経ったということを理解したみたいだ。やはり賢い。恐ろしいほどに。

 

「・・・話したいこといっぱいあるけどさ、とりあえず」

 

「服だろ。流石に素っ裸の相手と話してるの不味すぎるだろ」

 

 俺は急いで水瀬家までダッシュで戻り、要のもとに戻ってきた。俺が昔来ていた服がまだ処理されずに家に残っていたのは本当に幸運だろう。

 

 10分の往復で、俺は要のもとに戻る。要は服を身に纏うと、近くの陸地を指さした。

 

「立ち話も辛いしさ、座らない? 話したいこといっぱいあるんだ」

 

「・・・ああ」

 

 俺は急に現実に突き戻された気がして仕方がなかった。自然と声色も低くなる。

 しかしそんな俺をよそに、要は一人でに続けた。

 

「遥、怪我はなんとかなったんだね」

 

「ああ。・・・でも、俺が目覚めた時にはもうお舟引きも、何もかも終わった後だった」

 

「だから、その眼鏡と左足ってこと?」

 

「そうなる。・・・もちろん、そんな状態で海に帰ることは出来なかった。俺も、ちさきも。悪い」

 

「別に怒ってなんかないよ。・・・それに遥の場合生死を彷徨ってたんだ。今ちゃんとここにいてくれることが、嬉しい」

 

 要はいつものように大人びた言葉を口にする。成長しているのかと錯覚しているように思うが、これがこいつのマイペースだ。

 

「それにしても、海、変わったね」

 

「ああ。こっちから汐鹿生に行こうにも閉ざされてしまってはいることが出来なくなってるんだ。それが帰れなくなった一つの理由でもある」

 

「だから今、こうなってるんだ」

 

「ああ」

 

「他の皆は? みんなもう起きてる?」

 

「光が真っ先に来たよ。まあ、一番最初に目覚めるとしたらあいつだと思ってはいたけど」

 

「それが光の持ち味だからね」

 

 要はクスッと分かる。俺は愛想笑いを浮かべることしか出来なかった。

 

「・・・ねえ」

 

 そして、要は続ける。さっきまであった笑みはとうに消えていた。

 

「遥、約束覚えてるよね? 遥が事故に巻き込まれることになった、あの雨の日の」

 

「・・・ああ」

 

「ちゃんとちさきには、答えを出した?」

 

 真っすぐに、そう聞かれる。

 当然だ。要にとってその話は数日前のことに過ぎないのだから。まだ熱は冷めていないのだろう。

 そんな要に、俺は一つ深呼吸をしてゆっくりと答えた。

 

「・・・ああ、出したよ。俺がここに一人でいることが答えだ」

 

「・・・断ったんだね」

 

「ああ。・・・結局答えを出したのは高校生のころになっちまったけどな。・・・もちろん、あいつのことが嫌いとかそんなもんじゃない。切るにも切れない関係で、これからもずっとそうありたいと思った。だから、これまでの関係のままで俺はいたいとそう思ったんだよ」

 

「そっか。それが遥の答えなんだね」

 

「気に食わないか?」

 

「いいや。ちゃんと約束守ってくれたんだ。何も文句はないよ」

 

 そういう要の顔には、どこか安堵と嬉しさが滲んでいた。自分にチャンスがあると思ったのだろう。

 けど、それが要にとっていいニュースとは言い切れないだろう。

 

 今のちさきの隣には紡がいる。五年前からずっと。

 俺たちが過ごした幼き頃の時間に匹敵するほど濃密な時間を二人は過ごしている。二人の色恋沙汰がどこまで進んでいるか俺は知る由もないが、関係が深まっていることに違いはない。

 

 そこに要がどう付け入る隙があるのだろう・・・と俺は勝手にそんなことを思ってしまう。

 けど、それを口にすることは出来なかった。

 

 結局、俺は自分の気持ちや未来を考えたり整理することで精いっぱいの人間にすぎないのだから。

 

 




『今日の座談会コーナー』

今作では遥が明確にちさきを振る描写を書いているので、ここの展開は結構楽に書けましたね。それこそ、自然の会話の一部という風に。
といっても、変えようがない展開のなのも事実で、新しい風を吹き込みたい立場としてはうーんとなるのも事実。
というか私自身、あまり要のことが・・・。

といったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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