凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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しかしまあ、差が激しい・・・。


第百五話 仮面は色を変えて

~遥side~

 

 千夏を連れて、過去のおじょしさまが眠っているはずの洞穴まで向かう。

 近づくにつれて、何かしらの波動を感じた。ここが、何かの起点になってるのには間違いないのだろう。

 

「ここ、ですか?」

 

「ああ。これまでのおじょしさまは全部ここに流れ着いてたんだ。この洞穴の中に入ればその答えは分かるはずだ」

 

 千夏の問いかけに淡々と答える。

 その時、遠くから人の気配を感じた。けれど、こちらに来る気配は一向にない。俺はその挙動で、そこにいるのが誰なのか分かった。

 だからこそ、俺は千夏に指示を出す。

 

「千夏、悪いんだけどさ、光たちをここに呼んできてくれないかな。学校集合って言ってたけど、多分こっちの方が話が早いんだ」

 

「と、言うと?」

 

「たぶん、まなかがいる」

 

 俺ははっきりと断言する。

 五年前紡に聞いところ、あかりさんを助けに向かったのは光とまなかだったらしい。

 もし、まなかがおじょしさまとして眠っているなら、ここにいるはずだ。

 

 俺と千夏が先に会いに行っても、何の意味もない。それに、まなかに一番会いたがってるのは光のはずだから。

 

「・・・分かりました」

 

 千夏はその言葉以外の何も言わずに踵を返した。少々強引な態度を取ったかもしれないと自省をするが、こればかりは譲れない。

 千夏がその場からいなくなったのを確認して、俺は気配の方するほうへ声を掛けた。

 

「いつまでも見てないでこっちに来たらどうです? ウロコ様」

 

「・・・よく儂がいることが分かったの。遥」

 

「もう何年の付き合いだと思ってるんですか」

 

 この人との話は軽口から始まる。身構えてるときにこそこの人の言葉の全てが刺さるから。

 

「お主は、学校に行かなくてよかったのか? 先島のとこの坊主や陸の雌が待っておったが?」

 

「まあ、思い出を振り返るのは後でいいです。むしろ、一対一で話せる今の方が好機じゃないですか」

 

「よく言う。お前は五年前から何も変わっとらんの」

 

「・・・変わってないと、いけないんですか?」

 

 珍しく感情的になる。けれど、今のこの人の言葉にはカチンときた。

 ちさきみたいにああだこうだ言うつもりはない。けれど、変わってはいけない部分だって、人間にはある。

 

「その良し悪しは全てが終わってから分かるものじゃ。儂が判断することではない」

 

「じゃあそんなくだらないこと言わないでください」

 

「えらく感情的じゃの」

 

「誰のせいだと思ってんだか」

 

 熱くなる心。それでも、冷静さは忘れずに。

 

「・・・演じるのも、疲れたじゃろ」

 

 ふと、ウロコ様から零れる言葉。けどその言葉が今の俺に刺さった。

 

「演じてる? 俺がですか?」

 

「この場に儂とお主以外の誰がおる?」

 

「・・・少なくとも、今俺はありのままでいるつもりですよ。それこそ、五年前のほうがもっと演じてたんじゃないですか?」

 

「少々違うの。お主の演じ方は、なりたい自分の性格像に無理やり矯正しようとしておるタイプじゃ。冷静なら冷静に。感情的なら感情的に。今映し出してるそれは、お主の本心からの感情か?」

 

「・・・分かんないですよ」

 

 ただ、あの頃より笑って、泣いて、怒れる人間になったと思っている。

 ・・・それすらも、演じてるって言うのか? この人は。

 

「まあ、それもまた生き方、か」

 

 ウロコ様は自己完結するように独り言を呟く。俺は何をすることも出来なかった。

 

「それより、どうじゃ。お主にとってこの五年間は。海が閉ざされたままの、五年間は」

 

「・・・長かったですよ。冬眠の道を選ばなかったのは俺。そこに悔いはないんです。ただ・・・」

 

「さっきの雌のことか?」

 

「おかしいじゃないですか。エナを持ってるとはいえ、紛れもない陸の人間だっていうのに。海神があいつから五年の時間を奪ったことを、俺は許せないかもしれません」

 

「・・・それは、あやつが望んだ未来であってもか?」

 

「え?」

 

 選んだ? 一緒に冬眠する未来を? あいつが?

 

「いや、この話はやめじゃ。儂も流れてきた感情を拾ってきただけじゃからの。確証はもてん」

 

 ここで逃げるのは・・・ずる過ぎる。

 でも、それ以上の話を俺は聞きたくなかった。

 

「それより、そろそろ先島の坊主どもがここに来そうじゃが・・・何か最後に聞いておきたいことはあるか? 特別に耳を貸そう」

 

 聞きたいこと・・・そんなこと、いくらでもある。

 けれど、一つだけ選ぶとしたら・・・俺はちゃんと、この人の口から未来が聞きたい。この結末を迎えることを知っていたウロコなら、未来を知っていたとしてもおかしくはないだろう。

 

「・・・これから海はどうなるんですか?」

 

「えらく抽象的じゃの。お前らしくない」

 

「理論に基づいてますよ。・・・あなたは、こうなる未来を五年前から見ていた、違いますか?」

 

「・・・そうじゃ、と言ったら、お主は儂を憎むか?」

 

「憎むという感情に価値なんてないですよ」

 

 そんな感情を抱く暇があるなら、もっと時間は有効活用できる。

 

「それより、未来が見えるなら、これからの海だって分かるんじゃないですか? 一部とはいえ、海神様である、あなたなら」

 

「・・・」

 

 ウロコはここから遠い方向を向いて、しばし沈黙を貫いた。

 それからして、ようやく口を開く。

 

「儂にも分からん。儂はしょせんウロコの一枚じゃ。海の総意である海神様のことを全て理解できるわけではない。海がしおれていく未来を見ることと、海神様の記憶を微かに覚えておること以外は、儂に出来ることはない」

 

「やっぱり、海は枯れていくんですか?」

 

「このままではそうなるじゃろうな。じゃが、それは儂に聞かずともお主ほどの人間なら簡単に分かることじゃろう」

 

 そうだ。だからもっと、確たる未来が知りたくて。

 ・・・でも、この人の言ってることはきっと嘘ではないのだろう。腹の探り合いがうまくなった今なら分かる。

 

「じゃが・・・未来は本当に分からん。それが儂の答えじゃ」

 

「そうですか」

 

「じゃあ、儂は消えるぞ。お主以外に姿を見られたくないからの、今は」

 

 それから有無を言わさず、ウロコ様は海の中に消えていった。俺はただ一人立ち尽くして、感情を整理した。

 とても、短い時間じゃ整理できるものじゃないけど。

 

「遥ー」

 

 遠くから光の声が近づいてくる。頃合いだろう。

 しかし、焦った様子はない。まなかのことを千夏は言わなかったのだろう。確証がないことを口にしないのは記憶をなくす前から変わっていないようだ。

 

「悪いな、こんなところに呼び出して」

 

「ここって・・・昔、閉じられた洞穴だよね?」

 

 要は遠い昔の話を思い出したようで、それを口にした。

 

「よく覚えてたな。その通り。・・・んで、手っ取り早く話すけど、光、落ち着いて聞いてくれ」

 

 しっかり視線で釘を刺す。それを感じてか、光は小さく頷いた。

 それから、俺はちゃんと続きを口にする。

 

 

「おそらくここに、まなかがいる」




『今日の座談会コーナー』

今作の遥はえらく感情的に行動しますね。そっちのほうが人間らしいや、と作者もそれなりに満足してます。
しかしそうしたらそれはそれで、前作のような一貫してクールでポーカーフェイスを貫こうとしていた遥も愛おしく思う・・・ジレンマですね。
着実に、一歩ずつ。

といったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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