凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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今作初めての英語サブタイトルでは・・・?


第百六話 memorize

~遥side~

 

 俺の話を聞いて、かかとを浮かしかけた光だったが、落ち着いて聞けという俺の忠告を思い出し、そのまま踏みとどまった。

 しかし、うずうずと身体を揺らしている。そりゃそうだ。そこにまなかがいるのかもしれないと思うと、落ち着いてなどいられないのだろう。

 その気持ちを阻害しないように、俺は続ける。

 

「確証はない・・・けど、多分いるんだ。どんな状態かは分からないけど・・・覚悟は出来てるか?」

 

「どんな状態だろうとまなかはまなかだろうが! 覚悟なんてする必要ねえよ!」

 

「分かった。なら早く行くぞ」

 

「ああ!」

 

 光はGOサインを受けて、一足早く洞穴へと向かった。それに美海と千夏が付いて行く。最後まで残ったのは俺と要だった。

 

「・・・やっぱり光の扱い方、うまいね」

 

「素直に接してるだけだ」

 

「・・・素直、か。ね、素直に接するって、どうやったら出来るかな」

 

 ひどく後ろ向きな要の言葉が、少しずつではあるが上からのしかかってくる。けどそんなこと、誰かに説教垂れるほど俺がえらくなったわけじゃない。

 

「そのうち出来るようになるだろ。ただ、あれだ。自分の汚い部分を隠そう、だなんて思ってたら、一生出来ないかもしれないな」

 

「でも、大切な人には自分のいいところだけ見てほしいよね」

 

「確かにな」

 

 だからこそ、コミュニケーションは難しい。

 

「それより、俺たちも行くぞ」

 

 それ以上は要に何かを言わせることなく、俺も洞穴の中へと向かった。

 

---

 

 洞穴の中に、一つきらきらと光る物があった。

 それは、薄いカーテンのようなもの。沢山転がっているおじょしさまの残骸の中でひときわ輝いているそれに目がいかないはずなどなかった。

 

 そこにいたのは、まなかだった。

 

「まなか!」

 

 光は叫ぶなり、がむしゃらに突っ込んでその膜に手を付けた。あしかしその直前で俺は光を呼び止める。

 

 その膜が何でできているか分からないうえでがむしゃらに突っ込んでも、ただまなかを傷つけるだけかもしれない。今の光に、そう思うだけの冷静な判断は出来ていなかった。

 

 ・・・俺が行くしかないか。

 

 

「光、ストップ!」

 

「あん!? 落ち着いてられるかよ!!」

 

「いいから話を聞け」

 

 荒れ狂う光に近づいて、こつんと後頭部をチョップする。それがどこか拍子抜けだったようで、光はさっきより少しだけ落ち着いた声音で俺の方を睨んできた。

 

「・・・何かあるなら、さっさと言えよ」

 

「じゃあさっさと言わせてもらうぞ。・・・音、聞こえるか?」

 

 先ほどから何度もピキピキと音が聞こえる。その音が何なのかある程度予想はついていたが・・・そうあってほしくないのも事実だった。

 

「聞こえる。この音がなんなんだ?」

 

「たぶん、これはエナがはがれてる音なんだよ。それでもって、多分、この膜も・・・」

 

「エナだって言いてえのかよ・・・? でも、そんならまなかは」

 

「ああ。・・・下手をしたら、エナが無くなるかもしれない」

 

 残酷な取捨選択だ。どっちも、という選択肢はきっとここにはないだろう。

 エナを失う代わりに、まなかを眠りから引っ張り出すか、それとも、ここで「おじょしさま」としてエナを持ったまま眠ってもらうか。

 

「くそ・・・なんだってんだよ!」

 

 地団駄を踏む光に対して、俺は冷徹に問いかける。

 

「なあ光。ちゃんと聞かせてくれ。・・・もし、まなかがエナを失うと分かってていても、お前はこの膜を破るのか?」

 

「・・・それでも、破る。ずっとこんなところで一人眠らせたくなんてねえよ。でも、エナだって奪わせたくねえ!」

 

「・・・分かってる」

 

 これを可能な限り最小限の力で破ったとしても、エナを失わずに済むかどうか分からない。

 でも、やるかやらないかは別だ。

 俺は光の隣に立ち、そのエナのカーテンに触れた。痛みや拒絶は感じないが、この膜を破ることで、どこか引けない一線を越えてしまうそんな気がしていた。

 

「・・・光、可能な限り小さな力でこいつを破れるか」

 

「そんなことでどうにかなる問題なのか?」

 

「分からない。けど、今はそれしか方法がないんだ」

 

 真っすぐな俺の瞳に応えるように、光は膜に手をかけ直した。

 

 それからほどなくして、まなかを包んでいたカーテンは破れた。それと同時に、まなかは苦しそうに息を吐く。

 

「・・・ひょっとして、まなかさんは目覚めようとしてるの?」

 

 美海が呟く。けど、それならあそれでこの反応には納得がいく。

 というか、まなかはさっきから正しい呼吸が出来てない。なら、早く陸に戻った方が良さそうだ。

 

「おい遥! どうなってるんだ!」

 

「詳しい話は後でする! ただ、今はまなかの状態が良くない! 早く陸に戻った方がいい!」

 

「光! まなかさんをこっちへ!」

 

 美海がこっちと誘導して、光はそれに従う。見ないでと男子陣に告げた後、美海は自分の着ていたパーカーをまなかに着させた。それからまた光はまなかを抱き上げる。

 それと同時に、空洞全体が揺れを始めた。海神様が怒ってるとでも言わんばかりに。

 

 だからこそ、さっきまでそこにいたあの存在が気になる。きっと今この現場もどこかから見ているのだろう。

 でも、その名前を呼ぶことは出来ない。ここに他の皆が来るから、とこの場所を離れたのに、俺が呼び戻してしまうと質が悪いだろう。

 

「とにかく、今は陸に上がること最優先に!」

 

「分かった! 詳しい話絶対後で聞かせろよ! 行くぞ、要!」

 

 まなかを抱いた光は要と先にすいすいと海から撤退していった。要のもの言いたげな表情など見ることも無く。

 それから場には俺と美海と千夏だけが残る。とはいっても、長居は出来ない。

 

「美海、千夏、俺たちも上がろう。特に美海は一枚肌着が少なくなってるんだ。体調に影響が出る前に上がった方がいい」

 

「うん、そうだね」

 

「はい」

 

 二人を率いて、俺も陸を目指す。

 ・・・しかしその途中で、千夏の足がふと止まった。

 

「千夏?」

 

「・・・」

 

「千夏ちゃん?」

 

 千夏からの返事はない。けど、どこか苦しそうなのだけは確かだ。

 夏帆さんとの約束を思い出す。そのためになんでもないことかもしれないはずなのに、千夏のそれがSOSに見えた。

 

「美海、先上がっててくれ! 千夏の様子がおかしい」

 

「え、でも」

 

「今の状態で美海が長居するのはまずいんだよ。水温もだいぶ下がってきてる。長居するメリットが何一つない」

 

「・・・分かった」

 

 美海は渋々陸へと上がっていく。無理やりにでも引きはがしたことに少し後悔を覚えるが、それよりも今は千夏だ。

 いったい、どうしたんだ・・・?

 

---

 

~千夏side~

 

 まなかが眠っているカーテンを破ったところで、空洞が振動を始めた。それが何を意味するのかは分からない。けど、撤収した方がいいという遥さんの言葉には納得できた。

 

 その言葉に従って、私も陸を目指す。

 ・・・その時、私の足先に何かが触れた。そしてそれが、破られたカーテンから零れ出たカケラだと気が付く。

 

「・・・!!?」

 

 そしてそのカケラが触れた時、私の身体に電流が走ったような気がした。

 さっきペンダントを拾った時私の身体に入った何かが、私の中で暴れている。

 その気持ち悪さと痛みで、私はうずくまる。動くことも、口を動かすことも出来なかった。

 

 頭が・・・痛い・・・。

 

 そんな私を誰かがおぶる。・・・これは、知ってる感覚。

 

 これは・・・島波君の、温もりだ。

 ・・・あれ、今、島波君って・・・?

 

 けれど、襲い掛かったまどろみに負け、私の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 




『今日の座談会コーナー』

毎度毎度前作の話をするようでなんですが、前作って原作と展開が少々違ったんですよね。まあ、今作に関してもオリジナルキャラがいるわけですしオリジナル展開でもいいわけですけど。
しかし、それだったらリメイクの意味なんて何一つないので今回原作準拠の展開にしました。
これで今後の展開が大きく動くといいですけどね。

といったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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