凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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本編どうぞ


第十一話 それはいつも突然に

~遥side~

 

 それは、突然の事だった。

 

 いつものように集合して学校に行く。その予定だったのだが、いつまでたってもまなかが来る気配がない。いち早くおかしさを覚えた光は一人でまなかの家に向かう。俺や要、ちさきもそれについていくことにした。

 

 

「おーい、まなかー! 早く出て来いよー!」

 

 とりあえず光が叫ぶ。あのさぁ・・・。

 

「出てこないからこうなってるんでしょうが・・・」

 

 俺ははぁ、と少しため息を吐く。

 

「ったく・・・早くしろよな」

 

 光があたりをうろうろしだす。どうやらイライラのボルテージが高まってきているようだ。下手に言葉を発すると爆発しかねない、短い導火線だ。

 

 ならばどうするか。

 簡単だ。ためらわずに行動してしまえばいい。言い方は悪いが、俺は光ほどまなかへの執着心はない。だったらただの友達として行動すればいい。変に意識することは何もないのだ。

 

 ためらわず、俺はとんっと真上へジャンプした。

 

「おーい、まなか、失礼かもしれんがそっち行くぞー!」

 

 たちまち俺はまなか宅の二階へ上がり、窓から入っていく。後の三人も付いてきた。

 

「おい、何やってんだよまなか、おせぇぞ」

 

「あっ、おはようひーくん、とみんなも。・・・えーっとね・・・その」

 

 まなかは俺たちに背を向けたまま動かない。片膝を隠すように抱えているその仕草にすぐに違和感を覚えたのは俺だった。

 チラッとだけ、魚のようなものが見える。

 

 

 あぁ、なるほど、そういうことか。

 

「ウロコ様に呪われたんだな、まなか」

 

「なんでわかったの!?」

 

 完全にばれないと思っていたのか、まなかは驚きの声を上げる。

 うん、まあ・・・。知ってるも何も、よくやられていたし。

 

 そのまなかがこちらを振り向くことで、呪いの実態が明らかになった。

 

 膝から、魚が生えていた。

 

「なるほどね・・・。この手のタイプは結構久しぶりに見たかもしれん」

 

「いや、なんだよ・・・。お前呪われたことでもあるのか?」

 

 光も呆れたようにため息を吐く。

 まあ、ここにいる人間が知らないって言えばそうか。言えば、こいつらは海村の模範生みたいなものだからな。

 

 それに引き換え俺は・・・。

 

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 

「かれこれ、十数回はやられたことあるぞ。まあ、今回のまなかのようなものだけじゃないけど」

 

「ねぇ、遥ってウロコ様に嫌われてるの・・・?」

 

 呆れか驚きか、ちさきの控えめな声。というかお前ら呆れすぎだろ。

 嫌われてる・・・か。どうだろうな。あまりあの人の元へ行くことがないので一概にどうとは言えない。

 

「ま、小さいころから無駄に陸に上がってたしな。そう言われたらそうかもしれない」

 

 とりあえず、体裁的なことを考えて、それなりのことを口にしておく。

 言葉にした後で、俺はふと振り返った。

 

 無駄、なんだろうか。みをりさんや美海、至さんらと過ごした陸での日々は。

 

 

 ・・・失ってしまった物の価値は、よくわからない。

 

 

「まあ、それはこの際置いておこう。それより遥、今回まなかが呪われた理由とか分かるかな?」

 

 脱線しかけた話は、要が本題に入ることで元に戻った。

 

「んー? まあ、暇つぶしとかだろうな。というかあの人、大して仕事してるわけじゃないでしょ」

 

 なんて言ってたら俺が呪われるんだろうな。ははっ。

 いや、なにわろてんねん。

 

 

「暇つぶし感覚でそんなことするんだ、ウロコ様って・・・」

 

 ちさきが落胆とも呆然ともつかない声を上げる。まあ、あの人の実態を知らない人間は大概こうなるだろうな。

 

「それより遥、この魚はどうやったら出ていくんだ? 引っこ抜くってわけにもいかねえだろ」

 

「時間が経てば勝手に出ていくさ。それしか方法はない。というか知らん。あくまで経験則だけど、そうしたほうがいいと思う。ま、そんなわけだ。まなか、今日は何かハンカチのようなもの巻いて我慢しとけ。多分鳴いたりはしないだろうさ」

 

 そうしてまなかは渋々膝にタオルを巻き、そのまま俺たちはそろって学校へ向かった。

 

 

---

 

 

 そして学校。幸い、授業中に膝に巣食う魔物が暴れることはなく、問題が起こることもなかった。・・・なかったんだがなぁ。

 

 問題はそれから、つまり、放課後に起こった。

 

 ちなみに今日は水瀬も学校に来ていたのだが、男女間である以上、クラスではそうやすやすと話せるものではない。変な目で見られるの嫌だし。

 

 最後の授業を終え、移動教室から紡と話しながら帰っていた俺は、教室で何やらもめごとが起こっているのに気づいた。

 

「やめてよ、嫌がってるでしょ!」

 

 ちさきの怒声が聞こえる。

 ちらっと紡に目配せすると、紡もうんと一度頷いて、歩調を速めた。

 

「えぇー? 私たち、エナを見せてもらってるだけだよ」

 

「そうだよ」

 

 入ってみると、まなかが数人の女子のクラスメートに腕を掴まれていた。それを止めに入っている形でちさきがいる。

 開口一番、出てきたのはやはりため息だった。

 

 ・・・エナが見たい。確かにその言葉に嘘はないかもしれない。これがいじめの現場になるのかと言われれば、微妙だ。

 でも、だったら、礼儀くらいはきちんとすべきだ。少なくとも、まなかもあまり良い表情はしていない。

 

 ・・・美海なら、こんなことはしないだろうな。

 

 そんなことを一人で考えていると、先に紡が口を開いた。

 

「やめろよ。嫌がってるだろ」

 

「あ・・・紡くん」

 

 男子が割って入ったことによってか、取り巻いていた女子たちはいっせいに手を離した。

 いや・・・勇者か?

 

 手が解放されたまなかは、ちさきの方に近づく。

 

 不幸ってのは存在する。この時、それがよく分かった。

 ちさきに近づいていったまなかはふらふらとしたあまり机にぶつかる。その時に、はらりと膝に巻いていたタオルがほどけてしまった。

 

 ピギャッ!! プゥゥゥーー!!

 

 魚が大きな声を出す。・・・あれ? 俺が呪われた時、こんな声出てたっけ?

 ともかく、それが災難以外の何者でもないことだけは分かっていた。

 

 すっと視界をまなかのほうへ動かしてみる。まなかは、顔を真っ赤にして下を向いていた。

 

 ・・・あ、逃げ出すなこれ。

 

 ご明察。まなかはそれはもうすごい勢いで教室を逃げ出した。

 ちさきが真っ先に追おうとするが、女子たちの立っている場所が運悪く道を阻んで動けないでいる。

 

「すまん紡、ちょっと行ってくる」

 

「待て、俺も手伝う」

 

「OK。んじゃ、よろしく頼む」

 

 そして、俺と紡はまなかを追うように教室を飛び出た。

 

 

 

---

 

 

 あれから結構な時間が経った。が、一向にまなかが見つかる気配がしない。

 時刻はもう五時に差し掛かっている。朝からずっと陸にいることを考えると、エナがそろそろ乾いてくる時間だ。

 

 俺はそういった経験があるから言えるのだが、エナが乾くことは、かなり危険なのである。

 腹の底から果てしない乾きを覚える。干からびる、とはよく言ったものだが、それに近い感覚だ。

 ・・・あの日、そんな俺をみをりさんが助けたわけだが。

 

 俺はというと、昨日何も持ってこなかった反省を生かし、海水を詰め込んだボトルを帯同することにした。それでごまかしがきくのは短い時間ではあるが、ないよりはましと言える。

 

 それからまた数分。ようやく俺と紡は草むらで眠っているまなかを見つけた。

 

「・・・やっと見つかった。・・・が、これからどうしたものか」

 

 海へ返したいのはやまやまだが、いかんせん今のまなかは眠っている。そのままの状態で海に戻すなんて結構酷なことだ。とはいえ、このまま放置するわけにもいかない。

 

 そこで、紡の提案だった。

 

「俺の家、行くか。ここからならそう遠くない」

 

「ああ、そうさせてくれ。とりあえず、ここよりは全然いい」

 

 俺はまなかをおぶる。光に見られたら、なんて言われるだろうか。

 少なくとも紡がおぶってたら激怒どころじゃすまないだろうな。

 

 

 

 そして俺たちは、紡の家を目指して歩き出した。

 

 




数日明けてしまいました。すいません。
ここ一か月は忙しい日々が続くので、こんなことが多くなるかもしれません。
ご了承ください。

では、今回はここらへんで。

また会おうね(定期)
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