凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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浮気性なので今後別の作品に力入っちゃうかも。


第百十四話 変わらないもの

~遥side~

 

 保さんとの話で気持ちに整理をつけた俺は、千夏のもとへ向かった。

 ノックが二回。千夏はいつも通り部屋から出てきてくれた。けれどその顔は、どうも不安と寂寥に満ちている。

 ・・・そりゃそうだ。明日からどうなるか分からないっていうのに。

 

 だから、俺に出来ることは限られていた。けれどそれは、いたって普段通りに。

 

「なあ、千夏。散歩でも行かないか?」

 

 行先は、千夏が一番知ってるはずだ。

 

「うん。私も、そうしようかなって思ってたところだから」

 

 千夏はそれ以上の言葉を言うことなく、手っ取り早く支度を済ませて外に出た。その後をついて行くように、俺も家を後にする。

 

---

 

 海は今日もいつも通り、寂しげに凪いでいた。

 ほんの少しばかり吹く風に乗せるように、千夏はそっと呟いた。

 

「いつかさ、島波君は言ったよね。この場所にいたときに、待ってる人がいるって」

 

「・・・ああ、言ったけな。そんなこと」

 

「それって・・・私だった?」

 

 千夏から尋ねられる、どこまでも素直な質問。嘘をついて逃げるなんてのは、みっともない行為に他ならなかった。

 いい加減、俺もちゃんと向き合わなければならない。だから、中途半端な回答も、冗談もいらない。

 そこに好きという感情が隠れているかどうかは知らないとしても、この言葉を伝えるのにどれだけの意味があるか。

 

「ああ、そうだよ。俺はこの五年間、ずっとお前を待ってた」

 

「・・・そう思うだけの理由が、島波君にはあるんだよね」

 

 そうだ。でも、その理由を千夏は覚えていない。

 だから躊躇った。このままでいいと思った。俺と面識があったことを思い出してくれるだけでいいと思えた。あの過去を失くしたままに出来た方が、多分お互いに幸せだと思ったから。

 けど・・・それじゃ結局、逃げたままだ。あの時の千夏の思いからも、今の美海の思いからも。

 

 だから、歯を食いしばって、俺は現実と向き合う覚悟を決めた。その選択に・・・悔いはない。

 

「でも、その理由のことは絶対にお前には言わない。・・・意地とかじゃないんだ。ただ、俺がこの言葉を伝えても、千夏には響かない。思いというのは結局、その本人しか持ちえないし知りえない。他人が語るものは全て妄言だ」

 

「私自身が自分で取り戻さないと意味がないってことだよね」

 

「そういうこと」

 

 だから、俺は戦うと決めた千夏を最後まで応援する。それだけだ。

 

「・・・あれ」

 

 ふと、千夏は声を上げた。それからほどなくして、その頬に雫が伝っていることを俺は知る。

 雫は伝って、地面に落ちてはじける。それはとめどなく。

 

「・・・なんだろ、寂しくなっちゃったのかな」

 

 千夏はいたって普通のように見えた。ただ装っていただけかもしれない。 

 でも、心だけは違うのだろう。俺自身が千夏の心を覗くなんてことは出来ない。けれどその涙が、きっと荒れ狂っている千夏の心そのものを反映してるのだろう。

 

「たぶん、心がいっぱいいっぱいなんだと思う。寂しさ、悲しさ、不安、そういった感情って、なかなか処理が難しいんだ。それを一度に抱えちゃ、心だって持たない」

 

「そっか、そうなんだ・・・」

 

 普段と同じトーンで会話を続け、千夏は涙を流し続ける。

 苦しいだろう。そのままでいるのは。

 

 でも今の俺には目の前の千夏を抱きしめる資格なんてない。愛を語る資格も無い。

 

 俺に出来ることは、涙を流してしまうその感情に真正面から向き合う事だけだ。

 

「ねえ、私、大丈夫かな? ちゃんと記憶を取り戻して、また笑えるのかな?」

 

「大丈夫だ。あの人たちならやってくれる」

 

「まだ私、ちゃんとお父さんとお母さんにありがとう言えてないよ。ちゃんと伝えなきゃいけないの」

 

「分かってる。二人だってお前のこと信じてるさ」

 

 あの二人は自分たちが傷つくことを分かっていながらその道を選んだ。最後まで千夏を信じ続けるに決まってる。

 

「だから、安心していってこい。ちゃんと帰ってこい」

 

 それ以上もそれ以下もなく、俺はそう願った。

 

---

 

 翌日、千夏と二人を病院に送り届けてから、俺は一人先に皆の元を去った。

 入院が始まるまでの残りの時間、せめてその時間は家族三人でいてほしいという俺の願いだ。

 

 バスで帰るのも手だったが、俺は一人ふらふらと歩いて鷲大師を目指した。

 気が立っているのは俺もだった。歩いて帰れば、その気も少しは紛れるんじゃないか、そんなことを思って。

 

「・・・あん?」

 

 聞きなれた声が聞こえる。

 

「どうした、光?」

 

「いや、こんな時間にお前と会うのも珍しいなって。病院か?」

 

「ああ。千夏の見送り」

 

「そっか」

 

 興味あるのかないのか、光は空返事のような声で反応する。

 

「お前は・・・、あれだな。多分まなかのことで悩んでここに来た」

 

「・・・いやなんで当てんだよ、気色悪い」

 

「合ってるんだな」

 

「まあな。・・・まなか、まだ目覚めねえんだ」

 

 光はほんの少し悔しそうにそう答える。・・・光や要、千夏の時とは違いまなかが目覚めるのには少し難航してるらしい。

 こういう時、気の利いた冗談を一つでも言えたらと思えた。けど、あの時まなかにイレギュラーが起きたことを俺たちは知っている。そんな冗談で紛れる問題ではないだろう。

 

「あの時、ああするしかなかったからな。・・・俺がそれしか思いつかなかったのもあるけど」

 

「いや、お前を責めるつもりはねえよ。んなもん時間の無駄だ」

 

 光は声を荒げることもなく、ただ現実を見据えてそう答える。

 

「それよりは、他に出来ることを探した方がいい。お前なら、そういうだろ?」

 

「・・・んにゃろ」

 

「当たったか?」

 

 光は少しウキウキしながら尋ねる。無邪気なところは昔のままだ。

 

「まあ、同じ問題でうじうじ悩んでも仕方がないからな。同じようなことは言おうと・・・してた」

 

「んじゃ、俺の勝ちだな」

 

「勝ち負けの問題じゃあるまいて」

 

「んにゃ、ずっとお前には負けっぱなしだったからな。男ってのは意地を張りたい生き物なんだよ」

 

 なるほど。意地を張りたい生き物ってところには共感できるな。

 

「・・・な、遥。お前から見て俺って変わったのか? この五年で」

 

「何を藪から棒に」

 

「いや、思うんだよ。周りから見た俺ってどうなんだろうなーって。要に聞いたらはぐらかされるし、ちさきは捕まえにくいし、美海は素っ気ないし」

 

「んで俺って訳か」

 

 この五年間で光が変わったか。

 実際の所、そのほとんどを寝て過ごした訳だから、光に大きな変わりがあるわけではないだろう。変わったとするならば、光を見る俺のほうだ。

 俺は少し変わったのかもしれない。けれど、俺の瞳に映る光は五年前も今も変わってない。しいて言えば、五年前のあの日々で、少し成長したくらいだろう。

 

 何も不自然なことなんてない。

 

「お前はお前のままだよ。ま、少しおとなしくなったかもしれないけど馬鹿正直で真っすぐで、素直でおっちょこちょいで。それは何も変わってない」

 

「あのなぁ・・・褒めるか貶すかどっちかにしろよ!」

 

「それをひっくるめて、俺はお前のそういうところ好きだぞ」

 

「・・・お、おう」

 

 別に愛の告白じゃない。何をそんなに驚かれていらっしゃるのか。

 

「・・・なんか、あんがと。元気出た」

 

「そうか。それなら何よりだ」

 

 何を思って光がこんなことを聞いたのかは知らない。けれど尋ねないことにする。

 五年間か。

 

 意外とその時間の影響なんてものは、少ないのかもしれない。今なら少しそう思える気がした。

 

 




『今日の座談会コーナー』

主の自己満オブ自己満展開ですね。こういうシーンが結構好きだったりします。ただ、千夏との会話については前作と少し展開が違うので結構変わっていますね。
最近やったゲームが幾分哲学的だったので、また影響されそうですね。そういう作品好みっちゃ好みなんですが、インパクトがでかい分ロスがでかいのでうーん、って感じです。

といったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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