凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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例のウイルスが・・・。


第百十八話 終わらない物語

~遥side~

 

 千夏にまつわる、五年前からのごたごたは全て終わったと言ってもいいだろう。そう思うと、一気に俺の身体から力が抜けていくような気がした。

 

 夕食を終えて、自室にこもり寝転がるとその倦怠感は次第に強さをましていった。まあ、冷静に考えれば五年分の凝りだ。そう簡単に取れるものではないだろう。

 

「・・・達成感、って言ったら違うよなぁ。別に俺は・・・」

 

 ただ、五年前の暮らしに戻りたかっただけ。もちろん、戻ることはないんだけど。

 けど、あの何も心配せずに、ただ楽しくと思いながら過ごせる日々を取り戻したかっただけ。マイナスから0に戻すことに達成感なんて感じていては、これから先が思いやられる。

 

 とりあえず、今はこの疲れをどうにかしたい。普段通りに風呂入って早めに寝れば解決できるのだろうか。

 ・・・っと、そんな悠長なことも言ってられないか。少なくとも教授から出された課題を進めないと。

 

 結局、頭を空っぽに、なんてできはしない。考えることなんて永遠に尽きはしないのだから。

 

---

 

 次の日の朝10時頃。水瀬家に電話がかかって来る。

 受話器を取ったのは俺だった。

 

「もしもし・・・」

 

「ああ! 遥! ちょうどいい! お前に用があったんだ!」

 

 やかましい声・・・。今日の依頼人は光みたいだった。

 

「ああ、待て。言わんでいい。行った方が早いだろ?」

 

 まなかのことだろう。光がこの調子ということは、目覚めたはずだ。

 でも・・・少なくとも、まなかは万全の状態で陸に上がってきたわけじゃない。千夏のようにどこか問題があっても不思議じゃない。

 だから、行ったほうが早い。それまでの話だ。

 

「ああ、出来るだけ早くな!」

 

 それから一方的に電話は切られる。おいおい・・・30秒も話してないぞ。

 

 やれやれと思いつつ、俺は簡単に身支度を整えて玄関に向かった。いざ出ようとせんその時に、後ろから声がかかる。

 

「どこ行くの?」

 

 千夏だ。

 

「潮留家。まなかが目覚めたんだと。俺としても気になること結構あるから、行こうかなと思って」

 

「私も行っていい? まなかのこと気になるし、美海ちゃんと話したいこと色々あるし」

 

「分かった。待ってるから準備早めにな」

 

 それから千夏はものの数十秒で支度を整えた。昔映画で聞いたようなセリフを思い出す。あれは確か40秒・・・。

 

「行こ」

 

 あとから来た千夏は先に玄関を開けて外に出た。追いかけるように俺も外へ向かう。

 千夏の様子は、いたって普通だった。昨日の今日なのにも関わらず、昨日のことを全然意識してないように思える。

 そういう風に演じているのかどうかは知らないけど。

 

 だから、俺もこれまで通り。・・・五年前のあの頃のように、同じ通学路を歩いていたあの頃のようにいよう。

 

 

 ある程度進んだ辺りで、千夏が口を開く。

 

「汐鹿生からまなかを連れて帰った時の記憶さ、ちょっとあやふやなんだけど・・・。まなかって、どんな状態だったんだっけ」

 

「んー・・・まあ、目ぼしい変化で言うと、エナの消失が一番だな」

 

「え、じゃあまなかエナないの? だったらどうやって海のなかで寝てたの?」

 

「冷静になって考えるとそうだよな・・・。一応、俺たちが向かった時ちょうどはがれている最中だったわけだから、あれが遅かったら・・・まずかったかもしれないな」

 

 でも、やっぱり気になっているのはまなかが眠っていた場所。

 あそこにいたということは、まなかが代わりにおじょしさまになったということで間違いなさそうだけど。

 

「てか、そうだ」

 

「?」

 

「千夏、海に引っ張られた時の記憶って思い出せるか?」

 

「うん、はっきり言ってあまり思い出したくはないけどね・・・。私は他の皆から離れたところで海に投げ出された人がいないか探してた。途中で先島君とすれ違ったけど、その時は先島君にあかりさんを追うように伝えて別れたよ」

 

「その後、か」

 

「うん。急に体が重たくなった。エナはあるのに呼吸が苦しくなって、泳げなくなった。それでね、意識を失う前に声が聞こえたの。『・・・これで、みんな一緒』って」

 

 声。

 地上にいるときにだけど、俺もなんどか姿が見えない人間の声を聞いた気がする。あれは、誰の声だったんだろうか。

 でも、可能性があるとすれば・・・。

 

「おじょしさまの声、なのか?」

 

「それは分からないよ。それに、おじょしさまって遠い昔の伝説の話でしょ?」

 

「いまだに海には生ける伝説のような存在がいるんですが・・・」

 

「あ、そっか。ウロコ様か。・・・でもそしたらさ、おじょしさまは私たちに何を伝えようとしてるんだろうね」

 

 その質問への返答には困った。

 おじょしさまの伝説については、海の人間としていくらか知っている部分はある。けど、それでも補完しきれない。あの人が生きている時に何を思っていたのか。それに対する海神様の気持ちとか。

 

 ますます、謎は深まるばかりだ。少なくともその現場に俺もいれば変わったのかもしれないけど・・・。

 ・・・いや、それ以外のもの全ても変わってるか。たらればを考えるのはよそう。

 

「さあな、さっぱり分からん。・・・だから、まなかに会いに行く。といっても、望んだ回答が帰って来るかどうかは分からないけどな」

 

「私のように、記憶が無くなっているかもしれないって?」

 

「記憶に限定されるかどうかは分からないけどな。けど、少なくともおじょしさまの代わりだ。なにかありそうな気がして、正直いい気はしない」

 

「うん・・・そうだね」

 

 千夏も少し曇った声で答える。二人の間にはこの先の不安という共通認識があるみたいだ。

 

---

 

 潮留家に着いた時、まなかはすでに家の中をぱたぱたとうろついていた。あれだけ長い時間眠っていたというのに、もう随分元気になっているみたいだ。

 

 美海と合流して千夏は先に家の中に入っていく。

 その後で、俺の視線はまなかの視線とぶつかった。

 

「・・・よっ」

 

 とりあえず声を掛けてみる。するとまなかはてとてととこちらへ駆け寄ってきた。

 

「はーくん、久しぶり! 元気になったんだね!」

 

 まなかは、ちゃんと俺のことを覚えていた。千夏の一件もあって少し不安になっていたが、問題はないようだった。

 ・・・まあ、覚えているって言っても、五年前以前の記憶だけど。そこに関しては仕方がない。

 

「まあ、いろいろあってな。それより、お前が一番最後だぞ? みんなの中で目覚めたスピード」

 

「えへへ・・・また寝坊しちゃった?」

 

「いやまあ、セーフだろう。まだままだ目覚めてない人結構いるしな」

 

 しかし冷静になって考えてみると、冬眠から目覚めた人間が俺と動機だった人間ばかりというのも少々気になる。若さが島民の速さに繋がるなら、俺たちの近辺の年齢の人間も目覚めてもおかしくはない。

 

 ・・・なにか、因果関係があるのか??」

 

「はーくん、また難しい事考えてる」

 

「・・・ん、ああ、悪い。ちょっとな」

 

 あえて否定はしない。

 

「それより、あの子はひーくんの弟?」

 

「いやいや、あかりさんの息子。光の甥だよ」

 

「?」

 

 まなかは理解できないとアピールするように、首を傾げる。

 悪ふざけにしては質が悪いし、まなかがそういうことをする人間ではないということを、俺は知っている。

 

 急に、背中に冷や汗が伝った。

 

「まあ、光の親戚みたいなもんだな」

 

「そうなんだ!」

 

 言い換えをして、ようやくまなかに伝わる。

 それによって確信に変わる。まなかの中に、異常事態が起きていることを。

 それはまた、新しい問題の始まり。

 

 また、そのはじまりの場所にいる。

 俺だけが、それを知って、そこにいる。

 

 凪いだ世界に、また大きな渦が生まれた。

 

 

 

 

 

 




『今日の座談会コーナー』

千夏編が終わって、ようやく本編本筋に合流、といったところですが、それじゃ二次創作の意味がない。無論、オリジナル展開に書き換えますとも。
とにかく言えることは、前作よりももっと時間かかると思います。まだまだ終わる気がないというか、描くのが楽しいので。
どうかさいごまでお付き合い宜しくお願いします。

といったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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