凪のあすから~ heart is like a sea~【新装版】   作:白羽凪

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何回か自分で読み直していて、書かないと思いながらはや半年と少し。
書きます。


第百十九話 求められる選択

~遥side~

 

 まなかになんらかの以上があることは、瞬時に分かった。

 しかしそれを口外しようものなら光をはじめ周囲に底知れない動揺が広がるのは目に見えている。

 ・・・いや、結局光と同じ空の下に住むことになるんだ。その異変はあの鈍感でもすぐに気が付くだろう。

 なら俺は、光が取り乱そうとしたときに冷静でいられるいつもの俺でいよう。それがきっと、みんなのためになるに違いない。

 

 そのために・・・ちゃんと確認しておきたいことがある。

 

---

 

 昼下がり、俺は一人適当な理由をつけて潮留家から抜け出した。

 まなかの異変を尋ねるべき相手は、いつもそこにいる。通いなれた細道を抜けて、俺は祠を目指した。そこにウロコ様がいると確信して。

 

 祠を前にして、俺はその名前を呼ぶ。

 

「ちょっといいか、ウロコ様」

 

「なんじゃ? これから昼寝でもしようかと思うてたんじゃがの」

 

「あの状態を見ておいて、呑気に昼寝なんて」

 

 ウロコ様がまなかに起きている異変を知っているかどうかの確証はない。単純にそれを尋ねてもこの人に煽られるだけだし、それはなんだか癪だ。

 という訳でカマをかけてみたが、結果ウロコ様はピクリと眉を動かした。その反応だけで満足だ。

 

「はて、なんのことかの?」

 

「眉が動きましたよ」

 

「・・・相変わらず可愛げのない奴よの、お主は」

 

 それから大きなため息をついて、ウロコ様は頭を掻きながら気だるそうに語りだした。

 

「まなかのあれは、さっき私も見たとこじゃ。詳しくは分からん」

 

「それでも、ある程度の目星はついているんでしょ?」

 

「それはお主と同じくらいのもんじゃ。・・・遥よ、お主はあれをなんと見る?」

 

 あえてウロコ様の方から俺に尋ねてくる。何を試されているのかは分からないが、俺は俺で、さっきの一瞬で気づいたことを口にする。

 

「不自然な点が一つ。晃の説明をしたときに、まなかが言葉の意味を分からないと言わんばかりのリアクションをしてたこと。・・・『子供』であることを説明したのにそれが分からないほど、まなかも馬鹿じゃないでしょう」

 

「そうじゃな」

 

「そこから考えられる事象として、なんらかの機能か感情が欠如してる可能性があるということ。根本的に知能がやられたのか、はたまた感情の欠如の副作用か。おそらくそれは、お舟引きのおじょしさまの代わりになったことで・・・」

 

「・・・80点じゃな」

 

 及第点ではあるものの、どこか物足りない数字。それはおそらく、欠落した何かを俺が理解していないからだろう。

 それを決定づけるように、ウロコ様は俺の考察の足りない部分を語り始める。

 

「端的に言えば愛情じゃよ。子とは人間の愛が織りなす産物。愛情の感情を失っているのであれば、その存在も理解が出来ないじゃろ」

 

「・・・そう来ましたか」

 

「さて、なぜこうなったか、それは分かっておるの?」

 

「おじょしさまの引継ぎ、受け継ぎ、であってますよね?」

 

「正解じゃ。・・・さて、そこから先の話はお主にはまだしておらんかったの。せっかくここまでたどり着いた褒美じゃ。言い伝えをくれてやろう」

 

 ウロコ様は横になっていた体を立て直し、その場に胡坐をかいて真っすぐな眼差しをこちらに向けた。

 その表情はわずかに憂いと寂しさを帯びていて、こちらの心まで苦しくなる。

 

「おじょしさまは、かつて陸の人間じゃった。それが海神様の嫁となるために汐鹿生に来ることになった。それくらいの知識はあるじゃろ?」

 

「ええ。でも、最終的に二人は離れることとなった」

 

「おじょしさまに、陸に残した奴への未練があったからの。海神様はさぞ苦しかったことじゃろ。・・・儂も海神様のウロコじゃ。そこらへんの感情は、どこか心の奥の方に染みついておる」

 

 だからこその、この苦しそうな表情なのだろう。俺は茶々を入れることなくその話を静聴する。

 

「じゃから、全てをなかったことにしたかった。そのためにおじょしさまの愛情の感情を奪って陸へと戻したんじゃ。陸の男への想いを断つためにの」

 

「まなかに残っているのはその片鱗、そういうことであってますか?」

 

 ふざけた文句の一つもなく、ウロコ様は小さく頷いた。

 

 だからこそ、質が悪かった。

 ウロコ様がまだ笑って返事を返してくれるなら、きっとなんとかなるだろうと楽観視することもできただろう。

 しかし、このありさまだ。これ以上この人にどうしたらいいかなんて聞くのも野暮としか思えない。

 

 それに、現実は最悪だ。愛情を失おうものなら、人間は生きる意味の半分を失ったも同義に近い。それを、俺は間近で見せられようとしているわけだ。

 同じ感情に対して恐れを抱き、距離を取ってきた俺だが、それと向き合わなければいけない時が近づいてきている。毎日心を痛めながら、現実を向いている。

 

 きっとそうしないと生きていけないし、まなかにもそうしてもらいたい。あいつにも、光にも思い人がいるのだから。

 

 さて、どうしたものか・・・。

 

「お主が心悩ます必要もなかろう?」

 

「何を。あいつとは14年同じ時を過ごしてきたんですよ? 例え俺の感情と直接関係ないところにいたとしても、力になりたいと思うのは当然です」

 

「・・・それでお主の身体に限界が来たとしても、か?」

 

 少し低い声色でウロコ様が尋ねてくる。普段聞きなれないその声色に俺は少しの動揺を覚えながらも、確固たる意志で跳ね返した。

 

「これまでも、そうして生きてきましたから」

 

「・・・そうか」

 

 そう言って下を向く悲しそうな表情が、なぜか脳裏に焼き付く。

 

「賢いというのも、真面目というのも、なかなかに罪なものじゃの?」

 

「なんですか、人格否定ですか?」

 

「そうは言っておらん。お主を褒めておるし、憂いてもおるだけじゃ」

 

「危なっかしいと?」

 

「まあ、好きに捉えてくれてもよい。それよりなんじゃ、せっかく頭のキレる奴なら、儂に変わって神様になってあがめられてみんか?」

 

「なんですかその謎のお誘いは。・・・俺は人間ですよ。人間で沢山です」

 

 誰かにあがめられたくて生きているわけではないし、それに何より、陸に愛をもった俺が海をつかさどることなどおこがましいことこの上ない。

 何より、海に因縁をつけた人間だ。そう簡単に受け入れてくれるはずなどない。

 

「冗談じゃよ。・・・して遥よ、儂からも質問をしていいかの?」

 

 珍しく、今日はウロコ様がグイグイと絡んでくる。

 自分勝手な質問ばかり押し付けた俺だ。この人の言うことも時には聞かないわけにはいかないだろう。

 

「いいですよ。なんでしょうか?」

 

 

 

「陸の小娘と先島の娘。お主はどちらを選ぶつもりじゃ?」

 

 

 




『今日の座談会コーナー』

この響きも懐かしいですね。
今回は前作と似たようなシーンをつらつらと書き続けています。タイトルにもあるように、そろそろ『選択』の時期が来ているので。凪あすのSSとして書かせてもらっていますが、これはあくまで二次創作で、オリ主。島波遥の物語として書いているので、原作展開よりはそちらを優先しようと思う所存です。

といったところで、今回はこの辺で。
感想、評価等お待ちしております。

また会おうね(定期)
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